キョンがちょっとあんあん言ってるけど
R15以下のことしか別にやってない←




















オオカミと赤ずきん



彼の顔を直視出来ない。
出来るはずがない。
昨日、あんなことがあったばかりなのに、平気な顔なんてしてられない。
どうして、彼は平気なんだろう?
僕はこんなにも恥かしくて、死にそうなくらいなのに。
逃げられるものなら、バイトだと嘘を吐いてでも逃げたかった。
でも、涼宮さんは僕に怒りながらも、僕が正直に白状したからか、そこそこの上機嫌を保っているし、
「逃げたりしたら邪魔するわよ」
と脅された以上、逃げられるわけもない。
いっそ拷問にかけられるようだと思いながら、僕は重い足を引き摺って、部室に入った。
「よう」
と挨拶を寄越してくる彼は、本当にいつも通りだ。
感心を通り越して、呆れそうになった。
なんで平気なんですか。
恥かしくないんですか?
顔いっぱいに疑問符を浮かべているはずの僕を見て、彼は楽しげににやりと笑い、
「赤くなってるぞ」
と要らない指摘をくれた。
「……楽しそうですね」
「楽しいからな」
嘯くように言って笑う、その笑顔はとても魅力的なんだけれども、困る。
昨日の顔を思い出してしまう。
僕の指先から手首まで、艶かしい目で見つめ、呆気にとられた僕にも構わず丹念に舐め取った舌を思い出してしまう。
危険信号がちらつく頭を長机にぶつけると、ゴンという鈍い音がしたけれど、彼は小さく笑っただけだった。
お茶を淹れてくれていた朝比奈さんは、かすかに声を立てて笑い、
「キョンくんが不安じゃなくなったみたいで、よかったです」
と本当に安堵した様子で呟いてくれたけど、本当に話は一体どこからどこまで流れてるんですか。
プライバシーはないんですか。
……ないんだろうな…。
深いため息を吐きつつ、涼宮さんと彼が僕の頭越しに交わす会話に半分くらい耳を貸す。
「ほんと、古泉くんってば意気地なしなんだから。キョン、本当にいいの?」
「いいのってなんだよ」
「後悔しない?」
「しないだろ。…多分」
多分って何ですか。
物凄く不安になるんですけど。
「古泉がもう少しちゃんとしてくれたらなー…」
こちらを見ている気配がするけれど、顔は上げない。
むしろ、上げられない。
「……ヘタレ」
拗ねたような声が聞こえたけれど、僕は聞こえないふりをした。
というか、なんですかこれ。
僕は理性でも試されてるんですか!?
「でも、好きなんでしょ」
からかうような涼宮さんの言葉にも、彼はうろたえやしない。
「…ああ」
と呟くように答えた声が、ほんの少しだけ小さくなるくらいだ。
その響きは本当に優しくて、愛しげで、……すいません、一時退席していいですか。
「何だ古泉、トイレにでも行くのか?」
「違いますっ!」
聞いてられないから逃げたかっただけですよ!!
「まあそう赤くなるな」
くすくすと笑う彼は本当に意地が悪い。
悪いんだけど……だからって僕が彼を嫌いになるはずなんてない。
むしろ、そんな風に遠慮のない扱いをされるのが嬉しくて、ドキドキさせられた。
そんな感じで、この日の団活は、ずっとからかわれ、弄ばれっ放しだった時間だったと言っても過言ではない。
理性を試される試練のひと時だったようにも思う。
それでもなんとか耐え抜き、やり過ごした達成感と共に帰ることになったのだけれど、そこで終りにはならなかった。
何せ、彼は涼宮さんたちを先に立って歩かせておいて、僕の手を握り締めてきたんだから。
しかも、なんですか。
右手を握ってくるのは何か狙ってるんですか。
何も考えずに選んだわけじゃないですよね。
元々僕の左側にいたんですから。
「古泉、今日、お前のところに寄ってもいいか?」
と自然にそうなってしまうためなのだろう上目遣いで問われて、目眩がしそうになった。
それくらい、可愛い。
でも、流石に弄ばれっ放しは面白くなくて、少し恨みがましく、
「……どうなっても知りませんよ?」
と言ってみたのだけれど、彼はせせら笑うように、
「出来るもんならやってみろ」
と返した。
くっ……、この小悪魔が…!!
心の中で歯軋りしながら、ぐっと堪え、
「…出来ないと思ってます?」
「出来るのか?」
…なんというか、このきょとんとした顔が、何よりも如実に語ってくれている気がするんですが。
僕ってそんなにヘタレですか。
……ヘタレなんですね。
許されるなら反論したい。
僕はただ、焦りたくないだけであり、彼を傷つけたくなくて必死なんだと。
それをヘタレと言われてしまうと、DV男が真っ当のように思えはしないのだろうか。
自分に度胸がないのも意気地がないのも認めます。
でも、あまりにそんなことを言われると、反論どころか反撃だってしたくなるんですよ?
そんなことを考えて、ため息を吐きながら部屋に入ったところで、
「……嫌か?」
と聞かれた。
「え?」
慌てて彼を見れば、なにやらしょげ返っていて……。
自分が失敗をやらかしたことがよく分かった。
「来たら、迷惑だったか? それともやっぱり、昨日のあれはやり過ぎで、お前は俺の破廉恥ぶりに実は引いてんのか?」
不安を瞳に滲ませてそう問い詰めてくる彼に、僕は笑って答えた。
「迷惑だなんて、そんなことあるわけないでしょう? 来ていただけて嬉しいですよ。昨日の……その、あれも、驚きましたし恥かしかったですけど、嫌では、…なかった、です、し……」
恥かしさのせいでついつい視線をさ迷わせてしまったのだけれど、彼は僕の頬を挟むようにして強引に目をあわすと、
「こっち見て言え。…目をそらされると、嘘を吐かれてるみたいで嫌だ。……ただでさえ、お前は信用ならんってのに」
「それは酷くありません?」
「自業自得だろ」
ふんっと鼻を鳴らしながらも、彼は僕をじっと見つめる。
僕は観念しながら、
「…嫌じゃありませんでしたよ。嬉しかったです。それ以上に、恥かしくて恥かしくて堪りませんでしたけどね」
「ばか。俺の方がよっぽど恥かしいっつうの」
「そうは見えませんけど?」
正直に言えば、彼の眉間に皺が寄る。
「恥かしいものを恥かしいと顔に出す方が恥かしいと思わんか?」
「…つまり、その不機嫌な顔はポーカーフェイスだと?」
「…そんなところだ」
そう言って、拗ねたように顔を背ける彼が可愛くて、
「僕には、正直に見せてくださいよ」
「嫌だ」
「ねえ、恥かしがってるあなたも、見てみたいです」
「嫌だって言ってんだろ」
そう言いながらも、少しずつ彼の顔が赤くなっていく。
くすぐったそうに、顔が緩んでいく。
そんな変化して行く一瞬一瞬の表情すら愛らしくて、愛しくて、
「…好きです」
思わずそう囁いて、彼の頬にキスをしていた。
さらりとした頬にキスをするのは楽しいし、気持ちいい。
でも、唇にする方がもっといいに決まってる。
彼も、キスは好きなようで、
「…頬じゃなくて、」
とすっかり手慣れた様子で僕の頭を引き寄せ、唇を合わせる。
触れ合うだけのキスではすぐに足りなくなって、舌が絡まり、唾液が溢れる。
息が苦しくなるほど、夢中になってキスを繰り返した。
玄関に荷物を放り出して、居間に移動して、それでもまだキスを続けて。
顔を見合わせて小さく笑った。
「古泉」
「はい?」
何を言われるんだろうとドキドキしている僕の肩に、こてんと頭を預けて、彼は小さな声で囁いた。
「…さっきの話の続きだけどな、どうなっても知らないって言ったなら、その通りにしたけりゃ、しろよ」
「それ…は……」
心臓がバクバク言い始めるのを感じながら、彼を見ると、首の後ろまで真っ赤になっていた。
「…拒まないって、言ったろ?」
「言われました…けど……」
「ヘタレじゃないって言うなら、してみせろよ」
挑発するように言われて、思わず乗ってしまいそうになる。
でも、僕は思い止まった。
気がついてしまったからだ。
そんなことを言いながらも、彼の体が不安そうに震えていることに。
試しにと、少し体を離して、その瞳を覗き込めば、不安に揺らいで見えた。
…これで手出しなんて、出来ませんよ。
僕は小さくため息を吐き、
「そういう誘い文句は、覚悟が決まってからにしてくださいね?」
「っ…!?」
図星だったのだろう。
彼がびくりと身を竦ませて、驚いたように僕を見る。
「怯える仔山羊やいたいけな赤ずきんを捕食して嫌われ、狩人に退治される狼にはなりたくないですから」
とからかうように口にすれば、悔しそうに顔を歪めた彼が、そのくせ酷く嬉しそうな顔をして、
「――っ、ただのヘタレのくせに」
と言いながら抱きつき直してきた。
弾みでソファに倒れこむようにして座りながら、僕は笑う。
可愛くて、愛しくて、堪らなくなる。
これだけでも、とても幸せだと感じられる。
「さて、赤ずきんちゃんはどこまでなら許してくれますか?」
「だからっ、俺は別にしたけりゃいいって……」
「意地っ張り」
笑ってキスをする。
深く深く口付けて、たっぷり彼の口内を味わった後、解放すれば、彼はとろんとした顔で僕を見つめていた。
そんな、どこか退廃的で危うげな姿すら、愛しくてならない。
「これくらいなら、大丈夫ですか?」
問いながら、僕は彼の背中に触れる。
制服越しに触れられるのはもどかしくて、かえって敏感になるのだろう。
彼はくすぐったそうに体を震わせた。
「くすぐったいですか?」
「っ、何か、違…っ……」
赤い顔をして身を捩る彼に、僕はニヤリと笑う。
「…もしかして、感じてくれてます?」
驚いたように目を見開き、更に顔を赤く染める彼が可愛い。
ゆっくりと、触れるか触れないかと言う微妙な距離を保ちながら、彼の背中を撫でる。
腰骨のあたりから、静かに背筋をたどり、それからまた腰に戻ってみたり、脇腹ギリギリのところを掠めてみたりすると、それだけで彼の体が痙攣するように震えた。
「っ、…っん、ぅ……」
堪えきれない様子で零れた声は、半端でなく艶かしかった。
キスの時、彼がかすかに漏らす喘ぎよりもずっと。
「声、我慢する方が苦しいんじゃありませんか?」
「んなっ、こと、ひ、言っても…ぉ…!」
嬌声混じりの返事を聞いて、いけない欲求が込み上げてくる。
もっと喋らせてみたい。
もっと艶美な声を聞きたい、と。
「恥かしがらなくていいですよ。僕しかいませんから」
「け、ど…っ、んん…!」
「それとも、僕には聞かせたくないんでしょうか?」
「違…っ、あ、くぅ…っん」
返事をしようとしたところを見計らって、彼の弱いところ、腰や脇腹を撫で上げると、思った以上に効果があったらしい。
ふるふると身を震わせる彼の口から、普段ならとても聞けないような声が零れ、劣情を誘う。
このままどうにかしてしまいたいと、そう思ったくらいだ。
でもやっぱり、彼の方の覚悟は出来ていなかったらしい。
「っ、無理…! も、無理だから…ぁ…!!」
小さく叫ぶような声を上げた彼が、嫌々をする子供のように身を捩り、僕の上から逃れた。
そのままずるずると床にしゃがみこむ彼をソファに座らせるべく手を差し伸べながら、
「大丈夫ですか?」
「う……あぁ……」
本当に大丈夫なのかと聞きたくなるくらい、彼は危うい色香を漂わせていた。
上気した頬も、濡れた唇も、潤んだ瞳も、何もかもが興奮を誘う。
でも、彼がギブアップしたなら、ここまでだ。
ソファに座らせた彼の顔を覗き込むと、彼が怯えるように身を竦ませた。
大丈夫ですよ。
これ以上はしませんから。
というか、出来ません。
嫌われたくないですから。
僕はそっと彼の瞼にキスをして、
「だから言ったでしょう? 今度は是非、もう少し覚悟を決めてから誘ってくださいね」
と微笑と共に囁いた。
彼は真っ赤になって、
「っ、馬鹿っ! この、むっつりスケベ! お前の触り方がエロ過ぎるんだよ!!」
と僕を罵ったけど、そんな様子も可愛らしいことこの上なかった。

とりあえず、これでヘタレの称号は返上出来たんですよね?
……え?
だめ、ですか……?