迷いましたが微エロってことにしておきます
案外大胆なキョンをお楽しみください←
土下座なんて初めて見た。 …というのが、俺の感想である。 ついでに、つむじまで綺麗ってどうなんだーとかさらさらの髪の毛触りてーとか色々思った気もするが、とりあえずそこは黙殺しておく。 もう一度言うが、土下座なんて初めて見た。 それもまさか、古泉の土下座を見ることになるとは、いまだかつて思っても見なかっただけに衝撃だった。 「すみません、本当に…っ、ごめんなさい」 と泣きそうな顔と声で以って謝り続けている古泉は悪いが、謝られるほどの事をされた覚えはない。 「別に、謝るほどじゃないだろ」 「でも…」 「そりゃ、びっくりしたけどな。…でも、勝手に上がりこんで寝てた上、寝たフリしてた俺も悪いんだし…」 「ねっ…寝たフリ、だったんですか…!?」 どうやら余計な一言だったらしいそれで、古泉は更に顔を赤くし、頭を深く下げた。 耳どころか、頭皮まで真っ赤である。 「だから、謝らなくていいって」 「ですが、」 「と言うか、謝られたくない」 言い方を変えてみると、てきめんに効果があった。 古泉は黙り、こわごわと言った様子で俺を見上げる。 上目遣いが可愛い……って、そうじゃなくて。 「その、こう言うと語弊があるが、他に言いようがないから、言うけどな、」 と前置きして、俺は軽く目をそらした。 流石に、見詰め合って言える台詞じゃない。 「…その、…お前は謝ったけど、俺は、別に嫌じゃなかった、から……」 「嫌じゃなかった…って……」 唖然としている古泉に、今度は俺が顔の赤みを増しながら、 「嫌じゃなかったんだよ。むしろ、ほっとしたし、…う、嬉しくも、あった、から……」 「なっ……なんで、です…?」 本気で驚愕している古泉に、俺はため息を吐く。 言わねばならんのか。 「…そんなもん、決まってるだろ。お前が、……そんな風に、俺のことを、そういうことの対象として見てくれてるんだって分かったから、だ」 うああ、もうなんだこれ、どういう羞恥プレイだ。 さっきのだって、普通にするよりよっぽどマニアックなプレイみたいだと思いはしたが、こっちの方がよっぽど恥ずかしい。 うかうかと思い出してしまう。 古泉が部屋に入って来た時には、俺はまだ眠っていた。 気がつくと古泉の手が触れてくる感触がしたから、それは間違いない。 ただ、触れてくるそれが気持ちよくてまどろみ続けていた。 キスをされて、はっきりと頭が覚醒しても目を開けなかったのは、それが気持ちよかったからだ。 もう少し寝ていたらもう一度くらい、なんて打算的なことを思ったのが運のツキだった。 「……愛してますよ」 なんて囁かれた声がくすぐったくて、寝返りを打つフリをして背を向けた。 古泉がベッドにもたれかかったのは、ベッドの揺れで分かったが、その後のことはしばらく分からなかった。 ただ、 「すみません…。……お願いですから、起きないでくださいね…」 という言葉に従って、大人しくしていたのだ。 そのうち、古泉が何をしているのか分かって、流石に赤くなった。 荒くなってくる呼吸だとか、物音で、それと分かった。 驚きながら、困惑しながら、それでも金縛りに遭ったみたいに動けなかった。 それは、古泉がああ言ったからというより、古泉の漏らす吐息や、かすかな声が、妙に、艶かしくて、気がつくと俺は耳に意識を集中していた。 自分の名前が呼ばれると、言いようもなく嬉しくて、古泉が俺の寝顔なんかで抜いているということに気づかされると、それまで以上に恥ずかしくもなった。 だって、普通なら俺の寝顔なんて、どうってこともないだろう? そんなもので興奮するくらい、古泉が俺のことを好きなんだろうと思うと、嬉しくて、恥ずかしくて、愛しくて、堪らなくなった。 古泉に気づかれるまで動けなかったのも、そのせいだ。 奥手だの鈍過ぎるのと馬鹿にされることの多い俺でも、流石にこれはマニアックすぎることをやっちまったと分かったし、古泉としても聞かれてたと分かればどんなに恥ずかしいか予想がついたので、じっとしていた。 それで何とかなると思った。 …まあ、実際は何とかならなかったわけだが。 思い出したせいで余計に顔が熱くなったので、思わず顔を隠した俺に、古泉は信じられないと言いたげに呟いた。 「嫌じゃなかった、なんて…そんな……だって、嫌、でしょう? あなた、自分が何されたか分かってます?」 「されたってほどのこともされてないだろ。されたことといえば、ちょっと撫でられて、キスされただけ、それこそ、それだけじゃないか」 「…って、その段階からすでに起きてらしたんですか…!?」 いよいよ恥じ入りそうな古泉をとりあえずは無視して、 「…それ以上のことをされたって、俺は拒まないのに、一人でするのを選んだのはお前だろうが」 と恨みがましく言ってやれば、古泉が金魚みたいになった。 何がどう金魚みたいかと言うと、赤くなって口をパクパクさせている辺りが、そっくりだったわけだ。 出目金かってくらい、目も見開いてたしな。 そんな反応を可愛いと思いながら、それ以上に呆れてため息を吐き出し、俺は聞く。 「なあ、お前、俺のことを何だと思ってるんだ?」 「何って……」 「俺が、あれくらいのことを嫌がるほど、潔癖症だとでも思ってんのか?」 「違います、ただ、……」 またもや口が重くなったように沈黙する古泉に、 「なあ、もういいから、全部言っちまえよ」 と促すと、古泉は観念したように目を瞑り、 「……あなたのことは、純粋で、穢したくない人だと、思ってます」 と答えた。 その様子からすると、本当に本心からの言葉なんだろうが、正直、呆れるしかなかった。 怖気が走ったり、鳥肌が立ったりしなかっただけマシだと思え。 なんだその恥ずかしい発言は。 「本当にお前は俺を何だと思ってんだよ。大体、穢すってなんだ? セックスってのは汚いことか? お前、何か戒律の厳しい宗教に傾倒してたか?」 思わず、他人の家を土足で踏み荒らすような無神経さで以って、ためらいもなくそんなことを聞くと、古泉は俺の口から出たとある単語に呼応するように赤くなりつつ、 「違います、けど…」 「それなら、穢すとか思うのはおかしいだろ」 眉を寄せて言いながら、俺はベッドから下り、古泉のすぐ側に膝をついた。 それだけのことにいくらかびくつく古泉を、軽く抱きしめると、やっぱり安心するし、愛しいという思いが恥ずかしいほどにこみ上げてくる。 それは、少々の異臭を差っ引いても有り余るくらいで。 「……それともやっぱり、俺が男だから嫌か? 俺が男だから、手出しできないのか?」 俺で抜けるんだから、そんなことはないんだろうが、と思った俺は正しく、 「そんなことありませんよ! ただ、……その、申し訳なくて、何も出来なくなってしまう原因のひとつでは、あります…。あなたは男性なんだから、そんなことをしてはいけないのではないか、とか…そういう、ことを、思わないと言ったら、あなたに嘘を吐いてしまうことになってしまいます……」 縮こまりながら答えた古泉に、 「面倒な奴だな」 と呟けば、 「すみません」 とまたもや謝られる。 だから謝るなと言うに。 しかし古泉は、ある可能性に気づいたらしく、慌てふためきながら、 「あの、だからって、また女性になったりしないでくださいね!?」 と言った。 どうやら、俺が女になるのがよっぽど苦手らしい。 その必死さに、ついつい笑い出しながら、俺はうそぶくように、 「お前がその調子じゃ、保証は出来んな」 と言ってやる。 情けなく眉を下げた古泉が、 「えええ…」 と声を上げるが構わず、 「だって、そうだろ。お前がこのまま何もしてくれないなら、」 言いながら古泉の耳に唇を近づけ、小さく囁く。 こんな恥ずかしい発言を聞くのは古泉だけでも余りある。 「……俺が、我慢出来なくなるかも知れんぞ」 にやりと笑えば、古泉は耳まで赤くなりつつ、俺から逃れようとでもするかのようにもがいて、 「か、からかわないでくださいよ…」 と言うので、 「逃げるな」 と半ば伸し掛かるようにして抱きつき直せば、余計に慌てるのが可愛く思えた。 「放してくださいよ…っ!」 「なんでだよ」 「――せ、せめて、手を洗いに行かせてください…っ」 と言われて、俺は思い出した。 「…そういや、そのままだったか」 かああっと更に赤くなっていく古泉の、いくらか汚れているらしい右手に手を伸ばすと、古泉が慌ててそれを遠ざけた。 「逃げるな」 「逃げますよ! 何するつもりですか!?」 「何って……」 さて、俺は何をしようとしたんだろうね。 「……とりあえず、触ってみたくて?」 「…なんで疑問形なんですか……」 そんなもん、自分でも掴みかねているからに決まってるだろう。 俺は古泉を押さえ込むような形で、強引に古泉の手に触れた。 触れたところで、すでに拭き取られているのだから、別にべたついたりもしていない。 逃げられないようしっかり手首を握り締めてにじり寄ると、とうとう観念したらしい古泉は、それ以上抵抗しようとしなかった。 が、流石に俺が顔を近づけると、 「なっ、なに、しようとしてんですか…っ!?」 と再び挙動不審に陥り、慌てている。 「見てりゃ、分かるだろ」 俺にもよく分からん。 ただ、確かめたいのかもしれないと思った。 直感に突き動かされるまま俺は古泉の手に鼻を近づける。 拭き取っただけでは拭い取れない、青臭い匂いがした。 視界の端に映る古泉は、もはや声も出ない様子であんぐりと口を開いて硬直している。 一方、俺はと言うと、自分が優位に置かれているからだろうか、妙な余裕らしきものが生まれ、にやりと意地の悪い笑いが浮かんだ。 決してよろしくはない形に歪んだ唇から舌を出し、ぺろりと古泉の指を舐めると、古泉の目がこれ以上はないと言うほどに見開かれ、俺の舌にはいくらかの苦味が走った。 「…ちょっと苦いな、やっぱり」 「っ、あ、あ、当たり前でしょうっ!?」 落ち着け、古泉。 声が裏返ってるぞ。 「なんてことをしてくれるんですか、あなたは…」 「いや…案外平気だな、と」 「平気って……」 「…俺のせいで汚れたんだろ? だから、責任とって綺麗にしてやろうかと」 言いながら、もう一度舐めてやる。 わざとらしく、ぴしゃりと音を立てるようにして。 今度はさっきと違って、古泉がじっと俺のことを見詰めている。 口の中に生唾が溜まってるんじゃないかと思うような目つきで。 その目つきに、何かよく分からない感覚を煽られるような気がした。 シャミセンが極稀にするように指を舐め、手の平に舌を這わせる。 そうしながら、古泉の様子を伺うと、心拍数が上がったように思った。 興奮、して、いるんだろうか。 手首辺りまで綺麗に舐め回して、仕上げのように親指から小指まで順番に口に含み、最後に軽く吸い上げて解放してやった俺は、もはや何が起きているのかすら理解出来ないと言わんばかりに呆然としている古泉に向かって微笑みかけ、 「これで綺麗になったか?」 と言ってやったのだが、我に返った古泉には、今度こそ逃亡された。 ああ、それこそあっという間だったな。 転がされるようにして床に落とされた俺が体勢を立て直すより早く部屋から消えてたくらいだ。 だから、 「…この、ヘタレ!」 という俺の罵言が古泉に届いたかどうかは分からん。 しかし実際、このままだとどうするか分からないと思えてくる。 ……もし、俺の方が我慢出来なくなったら、その時俺は、一体どうするんだろうかね? |