エロです
甘いです

















































甘いカレ



古泉が森さんを園ねぇと呼び、実の姉のように慕っていることを知り、また機関の慰安旅行に同行させてもらったのがきっかけで、俺もすっかり森さんと打ち解けることが出来た。
森さんは、
「キョンくんも、園ねぇって呼んでいいですよ?」
と言ってくれてはいるのだが、それは流石に恥ずかしいものがあるので、これまで通り森さんと呼ばせてもらっている。
そればかりか、しばしばメールなんかもしているくらいの親しさだ。
年上の女性とメール、と言うと何やら艶聞めいた響きがあるが、俺と森さんの場合、艶めいたことは少しもない。
何しろ話題と言えば、『今日の古泉は機嫌が悪そうなので気をつけた方がいいですよ』なんていう、古泉の取扱注意だの、そうでなければ近頃評判の店を勧めてもらうだのといったものでしかないからだ。
ちなみに、店に関する情報が案外ローカルな内容なので、森さんは案外この近くに住んでるようだという風に推察していることから分かるように、俺は森さんの家も知らない。
知る必要も多分ないだろ。
何かあったら俺じゃなくて古泉が飛んで行くさ。
そんな具合でメールをしていたある日、森さんがこうぼやいた。
『元々そういう傾向はありましたけど、ここしばらく、どんどん食費が嵩んでるんですよね。古泉の。あの子はルーズなところがあるから家計簿を付けさせてるんですけど、ちょっと気になって調べてみたら、本当に凄いんです。どうにかなりませんか?』
「それってまさか、俺と付き合い初めてからってことですか?」
『そうなんです。だから、キョンくんから言ってもらうのが一番効くと思うんですが』
……効くだろうか。
あの古泉のことだ。
俺にうまいものを食べさせたいから、と押し切りそうな気がする。
『それは私も思います』
と同意した森さんは、
『ですから、ただ止めるだけでなく、なにかきちんと貯蓄する理由を与えたいんです』
と言って、俺にひとつの策を授けた。
そんなある日のことだ。
俺はいつものように古泉の部屋を訪ね、腹立たしいがいつものように部屋を掃除してやり、人並みの環境が整ったところでリビングに戻った。
掃除にはなんの役にも立たん古泉はその間ずっとリビングのソファに座って、もらいものだというばかにでかいブラウン管テレビでお笑いなんかを見てたのだが、俺が戻ったのを見るなり、
「お疲れ様ー」
なんて甘えた声を出し、手招きなんかして俺を呼ぶ。
「全く…」
ため息を吐きながらも、それでもやっぱりついつい古泉の隣に座ろうとしたところを、
「そっちじゃなくて、」
と強引に引き寄せられ、古泉の膝に座らされ、背後から抱きしめられた。
「こっち」
「お前なぁ……」
呆れる俺に、古泉はくすくす笑って、
「いーじゃん。せっかく来てくれたってのに、ずっと掃除ばっかで俺の話も聞いてくれなかったから、寂しかったんだよ?」
「誰のせいだよ」
ぴしゃりと頭を叩いてやっても古泉には堪えないらしい。
にへにへと笑いながら人の肩口に顔を押し付けてくる。
それでも、わざわざ疲れた体に力を込めて振り払うほど嫌ではないので大人しくしていると、古泉も安心したようにテレビに視線を戻した。
そうしてしばらく二人して寛いでいたのだが、テレビで丁度保険のCMなんかが始まったのを見て、俺は話を切り出した。
「そういや、お前って、将来のこととか考えてたりするのか?」
「…ふへ?」
なんて返事が返ってくる辺り、甚だ頼りないのだが、まあそんなもんだろうと予想はしていたので構わない。
大体、まだ高校生だってのに、そんなもんを真剣に考えてたりする方がおかしいだろう。
「将来、どうしたいとかあるのか?」
「えぇと……ライフプランを聞かれてんの? それとも将来の夢とか?」
「どちらかと言うとライフプランの方だな」
将来の夢とやらも気にはなるが。
「んー……まあ、おぼろげには?」
とこいつが言うってことは、
「ほぼノープランてことか」
やれやれ、ため息が出るね。
「つうか、将来ってどんくらい先のこと?」
「は?」
「何十年も先?」
「それもそうだし、卒業後とか…社会に出てからとか、色々あるだろ」
「それをあんたが聞きたがるってことは、俺の計画があんたに影響するってことでいいんだよね?」
「は?」
驚いて目を見開いた俺の頭を引き寄せて、古泉はいたって真剣な顔で、
「違うの?」
「まさか、そうじゃないと、ちらとでも思ったんじゃないだろうな!?」
「…へ?」
いいか、と俺は古泉の間抜け面に指先を突き付けて、
「俺は生憎と遊びや酔狂で男と付き合えるような精神構造はしていないし、いつ頃まで付き合うかなんておかしな考え方もしない以上、付き合ってるならそれこそ死が二人を分かつ時までなんて結婚式の決まり文句でもないが、とにかくそれくらいの気持ちで不純同性交遊なんぞをやらかしてるんだぞ? ましてや、お前の料理がめたらやたらとうまくて舌が驕ってるのに加えて、お前の常日頃の生活態度を見るにつけ、お前のようなやつの面倒を見れるのは俺くらいしかいないだろうと自負しているってのに、放り出せるとでも思うのか?」
立て板に水とばかりにまくし立てたからか、古泉はぽかんとした顔で俺を見つめ、それからきつく俺を抱きしめ直した。
「古泉?」
どうかしたか?
「…なぁ、」
と古泉はとっておきの低い声で囁いた。
「今のって要するにプロポーズだよね?」
「え」
「違う?」
「……」
さてどうだろう。
プロポーズなんてたいしたものじゃないと思うのだが、内容的には遜色ないものかもしれん。
「すっげ、嬉しい」
幸せそうに呟いて、古泉はリモコンでテレビを消した。
そうしておいて、すっかり静かになった室内で俺を熱っぽく見つめ、
「俺だって、あんたといたいよ。いや、そうする。そうしてみせる。……大好きだよ」
その囁きにぞくんと背筋を震わせながら、それでも俺は森さんから受けた指示を思い出し、なんとか軌道修正を図る。
「じゃ、あ、…貯金とか、ちゃんとやってるか?」
「……えーと…」
「してないんだな」
大仰にため息を吐くと、
「森さんも心配してたぞ」
「園ねぇが?」
「ああ。……あんまりにも食費が高いから、お前がまた太ったり、あるいは破産しそうな目に遭って、俺に愛想尽かされるんじゃないかなんて言ってた」
「……愛想尽かしちゃう?」
子供みたいに不安がり、上目づかいに俺を見る古泉に、俺は思わず噴き出した。
「んなことはないだろうが、将来苦労するのは嫌かもな」
「そっか…」
うーん、と考え込む古泉に、俺は出来る限り優しく笑って、
「うまいもん食わせてくれるのは嬉しいが、そればっかりに金を使って、浪費しててもだめだろ」
「うん…」
しゅんと目に見えて落ち込む古泉に、俺はつい口を滑らせた。
「俺はただの玉子焼きでも、お前が作ってくれるんならご馳走に思えるんだから。…これ以上甘やかすなよ」
「……あんたこそ、甘やかし過ぎだよ」
嬉しそうにいった古泉の手が、不振な動きを開始する。
俺の腹に回っていたはずのそれが下肢の方に伸び、ベルトにかかる。
「ちょっ…!?」
「愛してるよ」
囁いた唇が俺の耳をはみ、
「ひぁっ……!?」
と勝手に喉が震える。
「こ、古泉…?」
「ごめん、我慢出来ねぇからここでさせて」
そう言った舌が首筋を這い、その手は俺のシャツをまくり上げ、素肌をあらわにさせる。
背中フェチの古泉が執拗に愛撫するせいで、すっかり性感帯のひとつに変えられちまった背中を、馴染んだ指が触れ、キスを落とすと、それだけで痺れに似た甘さが走った。
「ぁっ、あ、っ…古泉ぃ……」
「嫌じゃないよね?」
嫌ではない、嫌ではないが、
「なんで、座ったまま……?」
しかも後ろからなんて、顔も見えないってのに。
「顔なら見えてるよ。ほら、前を見てみなって」
「ふぁ……?」
言われるまま視線を前に向けた俺は、ぎょっとする羽目になった。
電源を落とされ、真っ暗になったブラウン管テレビのツルツルした表面は鏡のようになり、そこには自ら背中を突き出すように前のめりになった俺の姿があられもなく写っていた。
「…ぃ、やぁ……!」
思わず抵抗しようとした俺の中心をきつく握り締めて動きを止めた古泉は、
「可愛いよ」
などと囁きながら、俺のズボンも下着も脱がせ、強引に脚を開かせる。
その全てが、くっきりと写っている光景はまさに憤死ものだ。
「この…っ、変態……!」
と罵ったところで効きやしない。
「なんでもいーよ」
と笑いながら、どこから取り出したのか、潤滑剤のチューブを開け、中からどろりとした半透明のジェルを捻り出す。
それがぐちゅぐちゅと塗りたくられる様さえ見えた。
くそ、ご丁寧に画面を拭いてやったりするんじゃなかった。
せめて埃で汚れてれば、こんなにはっきりとは写らなかっただろうに。
「ひっ…ぁ、んん……」
びくんと跳ねる脚も。
いやらしく古泉の指を飲み込むのも。
「く、そ…っ。後で、覚えてろ……」
「しっかりこの目に焼き付けとくよ」
んなこと言ってねぇ!
苦し紛れに古泉の太股に爪を食い込ませると、流石に多少顔をしかめたものの、動きが余計に性急さを増しただけだった。
腰に当たる古泉の熱に体を震わせながら、膝から落とされないようにしがみつく。
そうして気をそらそうとしても、身の内を探るような動きに呑まれる。
「入れるから、腰、浮かせて……」
熱く吹き込まれた言葉に震えながら、どうして俺は大人しく従ってんだろうね。
古泉のせいでおかしくなったとしか思えん。
古泉は手品みたいに取り出したゴムの袋を口で切って開け、慣れた仕草で付けると、そのままそれを押し付けてきた。
「あっ…あ……!」
宛がわれた熱に、勝手に腰が揺れる。
くらくらしそうなほど熱いそれを飲み込む様までしっかりと見せ付けられて、俺はあまりの恥ずかしさに、火もないのに焼け死にそうだ。
なのに古泉は、
「見えるだろ? 苦しそうな顔して、でもちゃんと俺のこと受け入れてくれてんのが。……それが、すっげぇ嬉しいんだ」
などと余計なことを、言葉責めって訳でもなく言ってくる。
恥ずかしいから止めてくれ、なんてことも言えずに、俺は嫌というほど喘がされた。

森さんにどう報告したものか悩んだあげく、
「計画は概ね成功」
という微妙なことを言ったのだが、何がどう失敗だったかなんてことは口が裂けても言いたくない。