エロですよー
キョンデレですよー















































カレの背中



一応、俺の恋人であるところの古泉という奴は、自ら主張してはばからないほどの背中フェチである。
しかも、何がどう違うのか全く分からんが、俺の背中が特別に気に入っているらしい。
何かと言っちゃ、手触りだの、肩甲骨の出っ張り具合だの、肌の色だのを飽きもせずに語っている。
今日も今日とて、疲れ果ててぐったりしている俺の背中に横から手を伸ばし、そろそろと撫で回しながら、
「やっぱりあんたの背中っていいなぁ…」
などと呟いている。
俺はうとうとしかかっていたのだが、そんな風にされているとどうにも落ち着かず、そのくせ、疲れのせいでどこか鈍った頭でぼんやりと、
「…そう言うお前の背中はどうなってんだ?」
と呟いた。
古泉にとってはどうやら予想外の一言であったらしく、
「へ? 俺の?」
と間の抜けた顔をされた。
それに対して、
「…見せろ」
等と言ったのはやはり、思考能力が著しく低下していたせいだろう。
「えええ?」
と戸惑う古泉をよそに体を起こした俺は、寝転がったままでいた古泉の腰にまたがるような形で古泉を押さえつけ、包まっていた薄手の綿毛布を剥ぎ取った。
というか、なんだ、このTシャツは。
「臭皮嚢」?
どう読むんだ?
「つうか、いかがわしい単語にしか見えんぞ?」
「違うっての。ていうか、博識なあんたでもやっぱりこれは知らないのか。…これは、この三文字で体、身体って意味なんだってさ。つまり、人は所詮ただ皮を被っているものに過ぎないってこと」
「えらく哲学的だな」
「そーかもね。ま、たまにはこういうのもいいっしょ」
「お前は正しく皮被ってるしな」
「や、誤解されるようなこと言わないでよ! それじゃまるで俺がホーケーみたいじゃん!!」
「そういう意味じゃない!! お前が普段被ってる優等生面のことだ!!」
アホなこと言わすな!
「あはは」
……まあいい。
こいつのTシャツが変なのは今に始まったことじゃない。
それよりも今見たいのは背中だ。
俺はTシャツのすそに手を掛けると、一息に肩まで捲り上げた。
「…なんだこりゃ……」
思わず唖然としたのは、そこには真っ赤なラインが無残なまでに刻み付けられていたからだ。
長く、短く、時に重なり合いながら、肩を中心に、全面に広がっている。
傷にはまだ血が滲んでいるような真新しいものもあったし、治りかけているものもある。
かさぶたをあえてえぐったかのような痕まであった。
あまりの凄惨さに、見ていてもいっそ居た堪れないほどだ。
「凄いだろ?」
と古泉は自慢げに笑っているが、
「痛くねぇのか?」
見るからに痛そうなんだが。
「別に?」
へらりとして古泉は答えた。
「こんくらい平気だし、何より、あんたの愛の証っしょ? 痛くねーよん」
「見られて困るとか」
「着替え中はスリルを感じるね」
と古泉は楽しそうだ。
「ま、俺としては見られたっていいんだけどな。けど、優等生の古泉一樹としてはまずいっしょ? だから一応、見られないように気をつけてるわけよ」
それはまあ、俺だって似たようなもんだ。
何せ俺の背中はこいつのつけたキスマークで全体的にうっ血し、赤いんだか紫なんだか黄色なんだかよく分からないムラが出来てる始末だ。
引っかき傷以上に、見られたら言い訳に困る。
それにしても、
「痛く、ないのか?」
「その質問、二度目だよ?」
「…そう、だったか?」
いかん、頭が鈍ってるな。
「うん。…なあ、疲れて眠いんだろ? 寝たら?」
「んん……」
実際、俺は眠くて、疲れていたんだ。
そうでなければあんなことをしたはずがない。
俺は、古泉の背中に寝そべるような格好になった上で、古泉の背中の傷を、舐めた。
舌に伝わる、ざらついた感触。
少しだけ、かすかにだが、鉄の味がした。
舐められたせいで唾液が随分としみただろうに、古泉は笑って、
「だから誘うなって」
と言いながら俺の手を掴むと、改めて俺を押し倒した。
「んっ…!」
「誘ったのは、あんただからな?」
古泉は俺をうつ伏せにし、背中にキスを落とす。
「ひぁっ…!」
くすぐったさに似てはいるが違うものに体を震わせたのは、古泉に慣らされたせいだ。
最初はどうってこともなかったはずだってのに、いつの間にかそんな場所まで感じてしまう場所に変えられて、情けなさに泣けばいいのか嘆けばいいのかさえ分からん。
「んっ、や、だって……」
甘ったれた声ながらも一応の抗議を試みたが、
「嘘ばっかり」
意地の悪い笑い声を立てて、古泉は俺の背中をきつく吸い上げ、またひとつ赤い痕を増やし、
「本当に嫌だったら、そんな可愛い声も聞かせてくれねぇくせに」
「う、るさい…っ!」
だが、実際その通りだ。
どうしてそう反応してしまうかと言えば、やっぱり、あの背中を見ちまったのがいけなかったのだろう。
囁かれる甘ったるい台詞よりもよっぽど確かに思える、古泉の気持ちを見た気がした。
古泉は一度は確かに整えてくれていたはずの俺の服を綺麗に剥いてしまうと、飽きもせずに背中に口付けながら、ローションを垂らした。
その濡れた感触が体の中に入り込むのを感じても、痛みはなかった。
「やっぱ、一度した後だといいね」
と笑われても、反論する余裕などない。
「はっ、ぁ、……っふ…、こい、ずみ……」
「気持ちよさそうな顔して…」
嬉しそうに囁きながら、古泉は遠慮なく俺の中をぐちゃぐちゃになるまでかき乱す。
「ひっ、あん…っ、も……」
「だめ? それとも、欲しい?」
「ほし、い、から……」
言いながら俺は、シーツにしがみつくように爪を立てた。
そうして、羞恥を堪えながら腰を上げると、
「ん? 仰向けになんねぇの? いつもそうなのに…」
と聞かれた。
「だ、って……」
「だって?」
「…痛いのは、嫌だろ…?」
と言うより、俺が古泉の背中に爪を立てたくなかったんだろう。
今でさえ酷い状態なのに、更に傷を残したり、治りかけている傷をえぐるような真似をしたくない。
痛い思いをさせたくないのに、
「いいって」
と古泉は強引に俺を仰向けにして、脚を割り開いた。
「やっ…! 俺の背中が好きなんだったら、そっち見てすればいいだろうが!」
脚をばたつかせて抵抗しながらそう怒鳴ると、古泉は明るく笑った。
「ばっかだなぁ。背中だけが好きだなんて、本気で思ってるわけじゃねぇだろ?」
「そ、りゃ……そう、だが…」
そんなことを思うには愛され過ぎてるからな。
むしろ、俺が飼い馴らされてるというような気もするが。
「俺は、あんたが好きなの。だから、するならあんたの顔見てしたいし、その方が、あんたの感じるところとか狙いやすいんだから、そうしたいんだって。それに、あんたに爪を立てられるのも好きだよ。なんつうか、…すっげぇ、愛情を感じる」
そう、本当に嬉しそうに言うから、俺は抵抗をやめて古泉の背中に手を伸ばした。
「…だったら、もっとしてやろうか?」
「ん、いくらだってつけてよ」
そう言いながら、古泉は高ぶったものを押し当ててきた。
覚悟を決めながらも、体を硬くしていてはお互い苦しいだけだと言うことも経験的に分かっているので、俺は出来るだけ体の力を抜く。
いつ来てもいいように、古泉の背にすがりつく体勢を整えたところで、滅多にないほど強引に、いきなり最奥を突かれ、
「んぁあああ……っ!」
と喉が痛みそうなほどの声が上がった。
反射的に立てた爪が、古泉の肉に食い込む。
それなのに、古泉は痛そうな顔もせず、
「かわい…」
なんて呟くのだ。
俺の体を貫いたまま、古泉は俺の腰を高く持ち上げ、上から貫くように俺の体を揺さぶった。
「ひあっ、ぁっ、ふか、いって…!」
「ん、深いのがいいっしょ?」
へらりと笑いながらも、その額には汗が滲んでいる。
その雫が俺の体に時折滴り落ちてきた。
「やっ、あ、……ひぃっ…!」
一際強く奥を突かれ、体が痙攣する。
頭の中さえ焼き切られそうな快感を少しでも逃がしたくて、正気を保ちたくて、古泉の背中を無茶苦茶にかきむしった。
今まで意識していなかったが、いつもこうだったんだろうか。
こんな風に、夢中になってしがみついて、爪を立てて……。
「…痛、そ……っ…」
「へーきだってば。あんたこそ、大丈夫? 痛くねぇ?」
「へ、いき、だ…っ、気持ち、い…から……っあぁ!」
「ごめん、可愛すぎた」
ニヤニヤしながら古泉は乱暴なほどに俺の体を穿つ。
それさえ、痛みはもたらさない。
ただ、おかしくなりそうなほど気持ちよくて、愛しくて、目眩がした。
「古泉…っ、好き、だ、から……」
「俺も、好きだよ。…愛してる」
求めた唇が俺のそれに重なり、そして俺は意識を手放した。
一際強く、その背を抱きしめて。

翌朝、ズタボロの背中を抱えてシャワーを浴びに行った古泉は、家中に響き渡るような悲鳴を上げる破目になった。
……ここは謝るところなんだろうか、それとも自業自得だと言ってやるところなんだろうか…。
途方に暮れながら見つめた自分の指先は、乾いた血で赤茶色に染まっていた。
………古泉が出てきたら、謝ろう。