お待たせしました←
エロです
古泉がかっこいいかは謎です(ちょ
昼食を遠慮の欠片もなく食べた後も掃除は続いた。 ここに引っ越してきて以来一度も片付けていなかったとしたら、一年以上も積み重ねられた汚れだ。 そう簡単に終るはずもない。 俺は結局、夕食も古泉にご馳走になり、しかもその後も清掃作業を続けていたわけだが、 「やっと片付いたな」 へとへとになって床に座り込むと、 「お疲れ様でした」 という言葉と共に冷たく冷えたコーヒーのグラスを頬に押し当てられた。 「にしても、よくこれだけ綺麗にしたもんだな」 古泉は、感動、というよりむしろ呆れたような声を出したが、 「俺としては、よくこれだけ汚してたもんだと言いたい」 「あはは、…ごめんなさい」 謝罪と共に深々と頭を下げる辺りが素直でよろしい。 不快でない程度にシロップの溶かし込まれたコーヒーを一息に飲み干したところで、古泉が言った。 「掃除して汗もかいただろうし、埃で汚れもしただろ? シャワー浴びてったら?」 「…そうだな」 実際手も脚も、薄っすらとだが黒くなっちまっている。 汗をかいたせいで、背中ではシャツがべったり引っ付いているくらいだし、このまま帰るのは流石に具合が悪そうだ。 「難なら着替えも貸すけど」 「それは謹んで辞退させてもらう」 片付けてる間に、お前の服装のセンスはよく分かったからな。 「いいと思うんだけどなー…。漢字Tシャツってかっこよくて」 電波な発言を聞き捨てて、俺はバスタオルだけ借りることにして、風呂に向かった。 シャワーを浴びながら、タイルの目地を黒く染めるカビに眉を寄せ、 「……ここもそのうち磨いた方がいいな」 と呟くのは、頭が完全に掃除モードに入ったままだからだろう。 全く、何でここまでしてやってるんだ? 自分の家でだってここまでした覚えはないぞ。 …おそらく、この部屋が古泉の住む環境として酷すぎたせいだ。 なんであそこまでだらしないんだ? 優等生ぶりっこなんて出来るんだから、きちんとするということも不可能ではないだろうに。 それとも、優等生であることを強制される反動なんだろうか? だったら多少同情してやらんでもないのだが、あいつを見ていると、むしろこっちが素の状態で、優等生のふりをする時だけ意識を集中してやり過ごしているという気もしてくる。 ……せめて、あの何分の一かでも、自分の住環境を整えることに使ってくれないものかね。 嘆息しながらざっとシャワーを浴び、風呂から上がる。 汗を吸った服をもう一度着るのはいい気分じゃないが、あのどうしようもないセンスの服を着るのは死んでもごめんだ。 対外仕様のきちっとした服もあるが、それはそれで性に合わんしな。 やれやれ、と呟きながら居間に戻ると、そこに古泉の姿はなかった。 「古泉?」 呼ぶと、 「あー、こっちこっち」 と声がする。 聞こえてくる方に進むと、古泉が寝室のベッドに腰を下ろしていた。 その手には携帯がある。 「電話でもしてたのか?」 「そんなとこ」 言いながらサイドボードに携帯を置き、古泉が立ち上がる。 そうしていきなり、俺は古泉に抱きしめられていた。 「っ…!?」 「やっと抱きしめれた」 嬉しそうな声が鼓膜を震わす。 「なあ、キスしていい?」 真っ直ぐに見つめながらそう言われ、俺は返事の代わりに目を閉じる。 柔らかいものが唇に触れるのを感じながら、まだたったの二回目なんだなと思った。 結構な時間を一緒に過ごした気がするのは、SOS団での積み重ねによるものなのか、それとも今日一日のせいなんだろうか。 背中に回された腕に、少し力が加えられたかと思うと、唇に別の感触が触れる。 「んっ…」 驚きの声を上げ、反射的にもがこうとした体を、逃さないとばかりに更に強く抱きしめられる。 その痛いくらいの強さに、古泉の必死さが見えるようで、抵抗も出来なくなる。 体そのものがそうなんだから、唇なんて薄い壁なんてとっくに突破されて、口の中をいいようにされる。 くすぐったくて、息苦しいというのが第一で、気持ちいいのかどうかなんてよく分からん。 ただ、むずむずした感覚に制御を失った体が、いとも簡単にベッドに押し倒されたのは分かった。 「は……ふ…」 やっと解放された口で息をすれば、古泉が囁き声で、 「…可愛い」 と呟くのが聞こえた。 「お前な……」 「いきなりでごめんな。でも、あんたのことだから、押し倒していいかなんて聞いても返事してくれねえだろ。下手すりゃそのまま逃げられちまいそうだと思ったから、強硬手段に出ちまったんだ。……やっぱり、嫌?」 「嫌というか……その、俺にも心積もりというのが…」 「してきてくれたはずだろ? 賢いあんただ。俺の部屋に来るってことの意味が全然分かってないなんてことはないに決まってる」 それはそうなんだが、それにしてもというのは分かってもらえないもんか? 「あんただって、全く期待してなかったって訳じゃないだろ?」 「なっ……!?」 期待ってのはなんだこら! そう罵ってやろうと思うのに出来なかったのは、古泉の表情が言葉とは裏腹に見えたからだ。 すがるような、そのくせ、突き放されることを覚悟しているような、嫌な目だ。 どうせ悪役ぶったことを言うなら顔まで徹底してくれ。 演技は得意なんだろ。 俺は抵抗も忘れて呆れ、それから苦笑混じりの言葉を口にした。 「正直に、ストレートに言ったらどうだ?」 「…言ったら、いいのかよ」 「さて、それはお前の言い方次第だろうな」 古泉は迷うようにしばらく視線をさ迷わせていたが、俺の耳に口を寄せて囁いた。 「したい、んだ。……だめか?」 「……しょうがない」 言いながら、拘束の緩んだ腕の間から手を抜け出させ、古泉の背中を擦ってやる。 「その前に、家に電話させろよ。遅くなったら心配するだろ」 「家にはもうちゃんと、泊まるって連絡しといた」 何? お前、手回しがよすぎないか? さっき俺を押し倒した時の手際のよさといい、まさか手慣れてんじゃないだろうな。 「慣れてたら、ここまでしないだろ、多分」 というのが古泉の答えだった。 おまけに、恥かしそうに顔を赤らめ、目をそらしながら言い添える。 「……慣れてねえから、色々考えに考えたんだよ。どうしたらいいかとか、色々…」 ……チクショー、かわいい。 俺よりもこいつの方がよっぽど可愛いと思うんだが。 赤くなった目元とか、目のそらし方とか、狙ってんのかと思うくらい可愛い。 だから俺は、 「ああ、もう……好きにしろよ」 と言っちまったのだ。 最大限の譲歩、あるいは、自分に出来る最大の表現として。 しかし、古泉としてはあまりいい返事に聞こえなかったらしい。 「好きにしろ、じゃないだろ。…あんたも欲しいとは、思ってくれねえの?」 「…そりゃ、少しは思ったがな」 掃除なんかしてたら忘れたんだ。 「んじゃ、今度からあんたが来たらすぐに押し倒そうか」 「ばか」 小さく毒づいた唇を塞がれる。 ぬるりと入り込んできた舌を気持ち悪いと欠片も思わない自分が気持ち悪い。 感じるくすぐったさは、どういうわけかもっと欲しいと思わせるような甘さを孕んでいて、危険信号ばかりがちらつくが、如何ともし難い。 「…ぁ……っん、は…」 堪りかねて声を上げれば、俺の息苦しさにやっと気がついたらしい古泉が唇を離した。 糸を引いて垂れ落ちた唾液を舌で受け止めれば、 「…っ、どこでそんなの覚えたんだよ…!?」 と赤い顔で言われたが、覚えるも何も、ただの偶然だ、ばか。 「あんたって、ほんっとに心配だな」 はぁ? 「ちょっと強引に迫っただけで許してくれるじゃん。おまけに、無自覚に誘惑してくれるしさー…。頼むから、他の奴の前ではやめてくれよ?」 馬鹿みたいな心配をするな。 お前の気の迷いだ。 「気の迷いじゃねえって。危機感持てよ、ほんとに」 焦れたように言った古泉が、俺の首筋に噛みつくように唇を触れさせる。 「んっ…!」 「こことか、何かの拍子に見えるたびに、どれだけ俺が苦労したと思ってんの?」 「だ、から…っ、そんなのに反応するのはお前くらいだろ…が…」 ぞくりとしたものが湧き上がり、体が震える。 「だったら俺も安心なんだけどな。…心配だから、保険かけとこ」 「はぁ?……っ、ん、ちょ…」 少し痛むくらいにそこを吸い上げられる。 見なくても、痕がついたのは分かった。 「て、め…」 「キスマーク付けたから、見られないように気をつけてな」 なんて笑ってるが、殴るぞ。 拳を固めている間に古泉の手はシャツの中に入り込んでくる。 素肌を直接触られるのはともかくとして、その触り方が妙にエロい。 お前は一体何者だと聞いてやりたくなる。 「…っ…あ、ぅ……ん…」 口からは文句も出せず、殺しきれなかった声が漏れる。 「キョン、可愛い」 言いながら、古泉がシャツを脱がせた。 ばんざーいなんて脱がされてるあたり、完璧に子ども扱いだ。 「子ども扱いなんてしてねえって。大体、俺、子供ってちょっと苦手だし」 「ぁ…? そうなのか?」 「周りにいなかったからさ」 なるほど、つまり周りは年長者ばかりで、かなり甘やかされて育ったんだな。 そういう感じだ。 「というか…古泉…」 「んー…?」 人が話しかけてんだから脇腹をなめ上げるのはやめろ、くすぐったい。 「何?」 大人しく言うことを聞いた古泉にほっとしながら問う。 「…お前…本気で、俺でいいのか…?」 「今更聞く?」 呆れたように言われた。 古泉の言う通りかもしれないが、もう一度だけ確認しておきたかったのだ。 俺は男だし、女の子と違って柔らかくもなければ胸もないし、同じものは付いてるってのに、本気でやる気なのかと。 「そりゃ、俺だって女の子のやーらかいのとか気にならないでもないけど。…多分、あんたと同じくらいには女の子のこととか、ちらちら見てると思うんだよねー、俺も」 そう言いながらも、古泉は俺の体に触れてくる。 酷く愛おしげに、壊れ物でも触るみたいに。 「でも、俺が好きになったのはあんたなんだ。女の子じゃなくってさ」 「…そっか」 なら、いい。 そう俺が納得しかかったところで、古泉はへらりと笑って余計な言葉を口にした。 「それに俺、朝比奈さんの胸よりあんたの背中の方が好きだし」 「……は?」 今お前はなんと言った? …と俺が聞き返すより早く、古泉は俺の体を転がした。 露わになった無防備な背中に濡れた感触が触れる。 「ひ、ぁ…!」 「白くて、つるつるしてて、綺麗じゃん? ずっと触りたいって思ってたんだよな」 楽しげな声と共に、濡れた場所に吐息の感触が触れる。 てめえ、舐めやがったな!? 「舐めるくらいいいじゃん。もっと凄いことするんだし」 そう言い終わったかと思うと、くすぐったい感触がまた触れる。 吸い上げられるような気配も。 「ぅ…ぁ、……っ、く…」 「思ってたより、感度もいいみたいで嬉しいね」 「あ、ほか…っ! この、変態…」 「背中フェチって変態って言われるほどか?」 不満そうに考えながらも、手を止めるつもりはないらしい。 背中を好きに舐められて、横腹や胸や、とにかく少しでも俺が反応を示すような場所は余さず触れられ、弄ばれる。 俺に出来ることは枕に顔を埋めて声を堪えることくらいだ。 ぐったりしてきた俺に、古泉が言う。 「しんどいなら、声、我慢しない方がいいんじゃねえの?」 「る、さい…」 「聞かせてくれた方が俺も嬉しいのに」 そう言って、あらぬ場所に指で触れる。 「や…っ、ちょ…」 「待てねえって。…ちゃんとローションも使って、解せるまで我慢するから、お願い」 懇願する古泉に、俺は諦めてもう一度顔を枕に押し付ける。 長門にせよ古泉にせよ妹にせよ、俺はこのお願いってのに弱いんだよ、くそ。 冷たくてとろりとしたものが垂らされる感覚さえ、恥かしいほどに性感を煽る。 本当ならどうともないような場所さえ、古泉に触れられるだけで気持ちよく思えるのは、何かの呪いか。 「変なところで意地張らずに、好きだからだって言っちゃえば?」 言えば楽になるってもんでもないだろうが。 というか、うわ言みたいな独り言に一々突っ込むな。 「はいはい」 笑いながら、もう一度肩甲骨の上にキスマークを付けられる。 後で背中を見るのが恐ろしい。 「綺麗だよ。白い肌にピンク色の痕が点々と散ってて、凄ぇ色っぽい」 うっとりした声で言いながら、古泉が指を押し入れる。 「っく…ぅ……」 「痛かったら、言って。…どうしても無理なら、諦めるから」 優しく言って、古泉は少しずつ指を動かす。 じわじわと揺すってみたり、ゆっくり抜き差ししてみたりと、探るようなそれに、異物感は段々と慣れに変えられていく。 一番奥まで入れられたそれが、どこかに触れたと思うと体が竦んだ。 それしか俺には分からん。 何が起こったのかなんて、全く見当もつかなかった。 だが、古泉には分かったらしい。 「ああ、この辺りか」 と言いながらそこをじわりと押し上げる。 ぐっと込み上げてくるのは、戸惑うほどの快感で、しかもそれは古泉が押し上げるたびに強くなっていく。 少しずつ、しかし確実に。 「あ…っ、や、何…っ!?」 びくびくと体を震わせながら問うと、 「前立腺ってえの。誰でも気持ちいいもんなんだってさ。だから、恥ずかしがんないでよ」 もう一本指が押し入れられるが、今度はさっきよりずっとスムーズに入り込んできた。 余計に深く食い込んだそれが、更に刺激を高める。 「やっ……あ、ぁ、…んん…」 声を殺すことさえ出来なくなっていく。 それでも、怖いとまでは思わなかった。 おかしなほど、古泉を信じていた。 古泉が俺のことを大切に思ってくれているのが分かるから、だろうか。 酷いことにはならないと、滑稽なほど信じきっている自分を笑うしかない。 「もう、いいかな」 ぺろりと舌なめずりした古泉が、俺の体を仰向けにさせる。 「ぁ…?」 てっきりあのままかと思っていた俺に、古泉は笑って、 「背中も好きだけど、あんたの可愛い反応も見たいし、やっぱり初めてなんだから、正常位だろ」 わけの分からんこだわりにはもはや突っ込みの入れようもない。 「いい、から、…さっさと、しろ…っ」 「…りょーかい」 嬉しそうな弧を描いた唇が俺の引き結んだそれに重なる。 遅れて押し当てられたものは、思っていたよりもずっと熱く感じられた。 竦みそうになる体を優しく抱きしめられ、 「力、抜いて…」 と囁かれる。 熱のこもった、余裕のない声で。 「ん…」 息を吐き、出来るだけ力を抜くと、それが食い込むように入り込んできた。 痛いなんてもんじゃない。 裂けるかと思ったくらいだ。 「だい、じょうぶ…?」 古泉も苦しいんだろう。 そう心配そうに聞いてくるのへ、なんで俺は平気だと頷き返すんだろうね。 …ばかだ。 あるいは俺も、古泉が言っていた通り、欲しいと思っていたのかもしれない。 本当に、古泉と付き合っているんだと言う証拠が。 指を進めた時と同じようにじわじわと少しずつそれが入り込んでくる。 前立腺とかいう場所を掠められれば、少しは快感を感じたものの、痛みにかき消される。 それでもなんとか納めきると、二人揃ってため息に似た息を吐き出した。 部屋の中に間抜けに響いたそれに、一瞬の間が空き、また揃って笑い出す。 俺は傷みに顔をしかめながらも笑って、 「ああもう…何やってんだろうな、俺たち」 「ごめんな? 俺の要領が悪くて」 「それはお互い様だからな…。まあ、お前が本当に手慣れてるわけじゃないと分かって、何よりだ」 痛くて苦しいなりに話は出来るもんで、俺は間近にある古泉の頭を引き寄せて囁いた。 「もう少し、待ってくれるか? …もう少しして、多少、落ち着きゃ…その、動かれても、平気だと、思う、から…」 「…う」 う? 「うー……」 しばらく唸っていた古泉は、やがてこっくりと頷いた。 「わ、かっ、た。……理性、総動員してでも、我慢する…!」 「…頼むな」 笑いながら言えば、キスされた。 そうして体を触れ合わせるのは気持ちがいいんだと分かっていたから、むしろ俺からもそれを求めるように手を伸ばし、引き寄せる。 重ね合わせた体が、何かの拍子に少し動くだけで、体の中にも動きが伝わり、苦しさと痛みを思い出させる。 だが、段々とそれにも慣れていく。 それ以上に、古泉を感じたいと思い始めるのは、脳内のどこかから余計な分泌物が放出されているからに違いない。 「…もう、いいぞ…。でも、ゆっくり、な?」 俺が言うと、古泉は頷き、そろりと腰を動かした。 内臓を引きずり出されるような感覚なのに、快感が混ざるのがおかしくて、顔が泣き笑いの形に歪む。 少しずつ、比率が反転して行く。 痛みが少なくなり、残るのはどうしようもないくらいの快感と、愛しさだ。 「あ…っん、ぅ、…っ、やぁ…!」 枕に顔を押し付けるということも出来ず、歯を食いしばろうとすればキスをされて封じられるせいで、はしたない声が口から零れていく。 飲み込みきれなかった唾液を古泉が舐め取る行為にさえ感じる。 「愛してる。…大好きだよ」 そう囁く古泉に頷き返し、 「お、れも…好き……だ…」 と切れ切れに告げれば、古泉が嬉しそうに笑った。 「ほんとに?」 「あ、たり、まえ…だ、ぁ…っ! あぁ…!」 ぐんと強くグラインドされ、体が仰け反る。 視界が白く明滅する。 終りが近いと思ったのは確かだが、俺はそれに安堵を感じたのかそれとも違うのか。 「ぁ、あ、…っ、こい、ずみ…っ……! も、イく…!」 「ん、イって、俺も、もう…」 俺の勃ち上がりきり、弾ける時を待ち侘びているそれに、古泉の手がゆるりと絡みつく。 「…愛してるよ、」 そう囁いて最奥を突き上げ、古泉は卑怯にも俺の名前を呼んだ。 ずるい、と言おうとした口から出たのは、甲高い叫びで、真っ白に視界が染め抜かれる中、俺は力も意識も失った。 目を開けると、古泉の腕の中にいた。 「気がついた?」 心配そうにのぞきこんでくる古泉に、 「…ああ…」 と答えたら、喉が痛んだ。 くそ、どんだけ叫んだんだ。 「…金柑のシロップ作ってあるから、取ってくる」 俺の喉を案じてだろう。 そう言った古泉の手を、俺は反射的に掴んでいた。 何がしたかったのかなんて自分でもよく分からん、ああ、分からないとも。 だが、古泉は嬉しそうに目を細めると、 「じゃあ、後もう少しだけ、このままな」 と俺を抱きしめなおし、額に唇を触れさせた。 「眠れそうなら、このまま寝た方がいいんじゃねえ? 疲れただろ」 「…誰かさんの、おかげでな……」 「ん、だから、責任持って面倒見るからさ」 その言葉は嘘じゃないということなのか、俺の体はすっかり綺麗にされていた。 体の中にも違和感はない。 …お前、意識がない人間に何をした。 「ちょっ、それ、酷えよ! ちゃんとゴムしてしたに決まってんじゃん!」 「…そうだったのか?」 全然分からなかった。 「そーだよ」 不貞腐れた顔で言った古泉は、 「……色々考えたって、言っただろ。ついでに、調べ物も色々したの。そしたらやっぱり、お互いのためにゴムはするべきって言うし? あんだけ恥かしがるあんたに、後始末なんてさせても、俺がするって言っても憤死されそうだったからさ」 思いもかけなかった言葉に、こいつなりに考えてくれたのかと感心するとともに嬉しさで胸が温かくなった。 「……ありがとな。気にしてくれて」 「当たり前だろ。…あんたのこと、愛してるんだから」 蕩けそうな顔で言って古泉が俺の頬にキスをする。 唇にもそれは触れるが、触れるだけだ。 その理由は多分、最初のキスの時と同じなんだろう。 子供っぽさと大人染みた気遣いが混ざり合う古泉に、どうしようもなく愛しさを感じ、女の子でもないってのに胸をときめかせる俺は、ギャップ萌えと言われても仕方がないのかも知れん。 だとしても、その対象はおそらく古泉だけだ。 だから俺は、そっと古泉を抱きしめ返し、聞こえるか聞こえないかというほど小さな声で、 「…愛してるぞ」 と囁いて、古泉を困らせたのだった。 |