ご注意ください!

この作品はバンダイナムコゲームスより発売された
PSP専用ソフト「涼宮ハルヒの約束」
をもとに妄想された作品からの派生作品です

必ず、「腐女子は死んでも治らない」、「腐女子たちの相談」を読み、
更に「エスパー少年と俺」シリーズを読んだ上で、読んでください
じゃないと訳分からんです

またこの作品には一部キャラクターの性格の捏造がありますので
そちらにもご注意ください












腐女子たちも知らない



ハルヒが突然何かを始めるということは珍しいことじゃない。
あいつが何かを始める時は大抵突然だからな。
それにしても今回はいきなりだった。
その日は朝から大人しくしていたかと思うと、二時間目に入る直前の休み時間になって、俺に向かって薄っぺらい冊子をよこしたのだ。
「これ読みなさい!」
目をきらきら輝かせながらハルヒが突き出してきた冊子の背には何も書かれていない。
きらびやかな星の模様の表紙には、特にイラストがあるわけでもなく、ただその冊子のタイトルらしい文字だけが躍っていた。
「何だこれは」
「いいから読みなさい。退屈な授業を受けるより、よっぽど身になるわ!」
無責任にそう言ってハルヒは自分の持っていた別の色の冊子へと戻っていった。
俺はため息を吐きながらその薄い紙の表紙を開いた。
……それを最後まで文句も言わずに読んだ理由については、授業中で文句が言えなかったということと、あまりの内容に少しでも相違点を探したかったためでもある。
結局、ハルヒから回ってくるまま7冊ばかりを読み終えた俺に、ハルヒは特に感想を求めはしなかった。
ただキラキラした目で俺を見ながら、
「面白かったでしょ?」
と言っただけだ。
俺はうんざりしていることを隠しもせず、
「吐き気がする」
「何言ってんのよ。ちゃんと最後まで読んだくせに」
だからそれは少しでも違うということを見つけたかったからだ。
……とは言いかねた。
諸々の事件を知らないハルヒにとっては、これは本当にただのフィクションであり、実在の人物、事件と関係があるようには思えないだろうからな。
だが、その渦中に置かれた人間としては、これがただのフィクションだとは思えなかった。
勿論、ノンフィクションだとは言わない。
そういう意味では違っていることは多いからな。
だが、事件の概要や登場するキャラクターの要素を抜き出して考えると、どう考えてもこれは俺たちSOS団のことにしか思えなかった。
一体どういうわけだ、と唸りながら俺は可愛らしい表紙を睨んだ。
『エスパー少年と俺』というふざけているのか真面目なのか全く分からないタイトルが憎らしくさえ思えた。
そんなハルヒの興奮は放課後になっても収まらず、つまりは放課後の部室でも似たようなことが繰り返されることとなった。
「キョンはもう読んだから、次は有希ね。有希なら読むのも早いでしょ」
という理由で長門から古泉、そしてよりによって朝比奈さんにまでその薄っぺらい冊子は回し読みさせられることとなった。
「人に勧めずにひとりで楽しめ」
という俺の意見は完全に無視である。
分かっちゃいたが、たまには聞いてくれ。
特にこういう時は。
その間にもハルヒはウキウキと上機嫌でネットサーフィンをしている、と思ったらどうやらこの冊子の作者のサイトを探しているらしい。
生憎発見出来なかったらしいが、俺たちにとっては僥倖だとしか言いようがない。
そうこうするうちに一通り回し読みが終了した。
各人の反応としては、なんとも言い難い苦笑顔で、
「これはこれは…」
と呟く古泉に、ただ一言、
「…ユニーク」
と言った長門。
それから分かっておられるのかどうか、朝比奈さんが戸惑いながら、
「どうしたんですか? これ…」
とハルヒに聞いていた。
「クラスメイトに借りたのよ。面白いから読んでみないって言われて。あたしも普段だったら読んだりしないんだけどさ、たまったま凄い暇だったのよね。それに、あらすじを聞いたらなんだか誰かに似てるような気がして、興味が沸いたし」
余計な真似をしたクラスメイトってのは誰だ、と脳内検索をする俺の耳に、ハルヒのとんでもない発言が突き刺さる。
「本当にこういうことがあったら面白いのに!」
やめてくれ。
冗談じゃない!
「す、涼宮さん…流石にそれは…」
いつもならイエスマンに徹するか傍観者であろうとする古泉まで止めに入ろうとしたのだが、ハルヒの前には全くの無力、暴風雨の夜に表に放り出されたビニール袋も同然の有様である。
ハルヒはキラキラと眩しい笑顔で、
「いっそ今度の映画はこれにしようかしら! なんとかして作者を見つけ出して許可を取って。ううん、無許可でもいいわ。そうなったらキョンが主人公で、古泉くんが超能力者ね! 名前のない主人公なんてあんたにはぴったりよ!」
本気でやめてくれ!
自衛隊でも何でもいい、誰かこいつを止めろ!!
「ある意味では、彼女なりの優しさのあらわれなんでしょうね」
知った風なことを古泉が言ったのは、なんとかハルヒに映画化企画を思いとどまらせ、結果として不機嫌なハルヒの背中を眺めつつ下校する破目になった坂の途中でのことだった。
「何がだ」
「映画化のことですよ。あの作品であれば、前とは違って、我がSOS団の正式メンバーが全員画面に登場することになりますからね。前回のようにあなたがひとり寂しく裏方に徹することもなくなります。何より、今度の文化祭が終ってしまえば、次に5人全員で文化祭に向けて活動する機会もなくなってしまうでしょうからね。その前に、思い出を作りたかったというところではないでしょうか」
「そんな思い出は要らん」
吐き捨てるように言うと、古泉は鼻にかかった笑い声を漏らした。
「あなたと涼宮さんのどちらか一方だけでも、もう少し素直だったら、もっと違っていたんでしょうね」
と独り言のように呟いたので、俺はそれを独り言と見なし、そのまま黙り込んだ。
前方を歩く三人が、どういうわけか、いつもと少々様子が違っているのが気になってもいたからな。
ハルヒが不機嫌なのは仕方ないにしても、長門と朝比奈さんがよく分からない。
長門はなにやら楽しげに見えるのだが、何がどう楽しいのか全く把握出来ない。
まさかあの薄い本が気に入ったわけでもないだろうに。
…俺は長門が厚物好きであると信じている。
一方、朝比奈さんはというと、ふっと夢見るような目で空を見上げたかと思うと、赤い顔をしてぶんぶんと頭を振り、落ち込んだように地面を見つめるのだが、気がつくとまたなにやら夢想しているというのを繰り返していた。
はっきり言って、一番挙動不審である。
ハルヒが妙なものを読ませたりしたせいで、どこかに支障を来たしたというのでなければいいのだが。
「朝比奈さんが気になりますか」
そう聞いて来た古泉に、俺は眉を寄せつつ、
「お前は気にならんのか?」
と聞き返したのだが、古泉は冗談めかして、
「僕はあなた以外気になりませんから」
などと宣った挙句、わざわざ耳元で、
「…あまり熱心に見つめないでください。妬けそうですから」
と思わず鳥肌が立ちそうなことを囁きやがったので、俺は古泉を全力で突き飛ばしてやった。

本当の問題が生じたのは、翌日のことだった。
昨日の不機嫌さもどこへやら。
ついでに映画化云々について騒ぐことも止めてくれたらしいハルヒに、俺が心底安堵しながら部室に行くと、そこには長門も朝比奈さんもハルヒもおらず、何故か疲労困憊といった様子で長机に突っ伏す古泉と言う珍しい代物だけが鎮座していた。
「ハルヒに見られるぞ」
俺が言うと、古泉は顔を上げもせずに、
「大丈夫ですよ…。彼女は今日、ここには来ませんから」
「そうかい」
急用でも入ったのかね、と思いながら俺は他の部員の行き先を考える。
朝比奈さんはまた鶴屋さんに連れ出されでもしたのだろうか。
長門はコンピ研か?
それとも、最近は時々朝比奈さんと鶴屋さんと三人一緒に出かけたりもしているようだから、今日もまたそのパターンなんだろうか。
しかし、何でこいつがこんなに疲れてるんだ?
「古泉、何かあったのか?」
やっと聞いた俺に、古泉はまだ顔を上げようともせず、
「……昨日のやりとりで察してください」
と答えた。
…昨日のやりとりって……。
「…まさか……」
「そのまさかです。…人の心を読まないようにするだけでどれだけエネルギーを消耗するか、あなたに分かりますか!?」
俺にキレるな。
しかし、古泉の今の反応だけでも、それがどれだけ大変なのかはなんとなくだが理解出来た。
「…お前も本当に苦労人だな……」
「他人事扱いですか」
ほぼ他人事だろうが。
俺の方には何も起こってないしな。
「それはそうでしょう。幸か不幸か、変化は能力についてだけのようですからね」
「だろうな。…他の設定なんかは、ほとんどそのまんまなんだからな、あれ」
「本当に、あれには驚かされましたね…」
「全くだ」
と俺と古泉は揃ってため息を吐いた。
古泉の身に起きている異変については、ハルヒのことだからその内飽きるかどうかして元に戻るだろうと楽観視していられるのだが、あの冊子についてはハルヒ絡みでない以上、そうも言ってられん。
「…あれだけ詳しいってことは、内部の犯行なんだろうな」
「少なくとも、SOS団員の本当の属性を把握している人物によるものでしょうね」
「…誰だと思う?」
ハルヒがとぼけてるだけで、本当はハルヒが書いたとか、そんなことは絶対にあってもらいたくはないが、長門が実は腐女子だとか、考えるだけなら色々可能だが。
「朝比奈さんかもしれませんよ?」
意地悪く笑って言った古泉を、俺は鼻で軽く笑い飛ばして、
「大穴でお前ってのはどうだ?」
と言ってやったのだが、古泉も負けてはいない。
「それよりは、あなたの自作自演の方がまだありそうです」
二人でニヤリと笑いあった。
この笑みは、秘密を共有するものの笑みだ。
「ねぇ、」
「部室でエロい声を出すな」
俺の抗議など無視して、古泉はにやにやといやらしい笑みと共に囁く。
「心が読めるのは少々面倒ですが、便利な力もあるんですよ? 周囲と遮断してしまうとか…ね」
「……何が言いたい」
軽く睨みつけても怯まず、古泉は笑顔のままで言った。
「第三巻の再現…なんてどうです?」
「ここでなら、前にもしただろ」
後始末も大変だったし、腰も痛かったんだぞ。
「ああ、それでは外でした方が楽しめますかね」
……それくらいなら、ここの方がずっとマシだ。
「なら、いいでしょう」
「心を読むな。このエロ超能力者め」
そう唸ったところで、通じやしないのは妙な超能力があってもなくても変わらないのだろう。
「あなたも嫌がってないんですから、お互い様でしょう?」
そう笑った古泉に、そっとキスされた。
その後は、お定まりのコースを辿るだけだ。
いつもとは、ほんの少しばかりシチュエーションが違うだけで、やることは二日前の行為とほとんど変わりやしない。
あるいは、あの本の中身とも。
本当に、どこまであの本は正確なんだ?
付き合い始めた時期こそ違っているし、あれこれエピソードやプレイも違ってはいるのだが、あまりにも同じところが多すぎる。
だが、もしあれが本当に誰かの妄想の産物だったとして、俺と古泉の関係までほとんどそのまんまだったなんて、あれを書いた人間は知ってるのかね?