ご注意ください!
この作品は朝比奈みくるの妄想の産物と言う設定であり、
一部キャラクターの性格および設定の捏造があります
「涼宮ハルヒの約束」?
さて、何のことでしょうか?←
…ってな状態ですが、一応これまでのシリーズと同じ設定ですよ
エスパー少年と俺 Vol.裏4
愛しているから
Written by ミクル
目を覚ますと、僕を取り巻く世界がおかしくなっていた。 いや、違う。 世界がおかしくなってしまったから、僕は目を覚ましたのだ。 窓の外はまだ夜明け前の青に染まっている。 どうにも不安を煽ってくれる青だと思いながら、僕は意識を集中させた。 彼を探すことに。 いつだって、そうしようと思えば彼の気配を感じられた。 彼がどこにいても分かった。 時には彼が幸せな気持ちを抱いているのか、それとも違うのかと言うことも分かった。 なのに今は、何も分からず、感じられない。 それの意味することはひとつだけだ。 でも僕は、それを認めたくなかった。 だから、その事実を言葉に変えず、その理由を探る。 おかしくなったのは世界だ。 では、何故世界がおかしくなったのか。 自然に起きた現象ではないと思う。 世界が変わるなんて、そんなおかしなことが簡単に、しかも何の前触れもなく起こって堪るものか。 何者かの手が加えられた可能性はとても高い。 ならば、かえって楽だ。 世界を変えるなんて大きなことをしたならば、世界にはいくらでもほころびが生じているはず。 それに、世界を変えたというよりは別の世界の彼と入れ替えられたというのがより正しい状況らしいことも少し探れば分かってきた。 ならば、その世界に行けば彼はいる。 消されたわけではない。 傷つけられたわけでもない。 それならば、きっとすぐに見つけられる。 見つけて、連れ戻せる。 それならまずは、入れ替えられてしまったこちらの彼に接触しよう。 そうして、彼がいた世界を探しに行こう。 世界を渡ることはたやすいことではない。 でも、僕はじっとしてなどいられない。 だから、探しに行く。 何日掛かってもいい。 何年掛かったっていい。 僕は絶対に彼を取り戻す。 そう誓って、僕は他の能力者に連絡を取ったり、協力を要請することもせずに家を飛び出した。 やっと明け始めた空の色が、毒々しいほど赤く思えて嫌だった。 それを見ないように目を伏せながら、早朝の街を走る。 息が苦しくなっても、横腹が痛くなっても、僕は走り続けた。 その痛みの方が、胸の痛みよりずっと弱々しく思えた。 そうして駆け込んだ彼の家の玄関チャイムをけたたましく鳴らす。 どうやらもう起きていたらしい彼のお母様が開けてくださったのを幸いに、 「すみません、ちょっと…!」 と慌ただしく階段を駆け上がり、彼の部屋に飛び込んだ。 いつもと何一つ変わらない部屋だというのに、そこに本来の主がいないだけで酷く胸が痛む。 まだ何一つ知らずにいるのだろう。 眠っている彼の呼吸は穏やかで、寝顔も平穏そのものだ。 彼と同じ姿形をしているだけの別人だと思えば、もっと嫌悪の情が湧きあがっても不思議ではないと思うのに、そんなものはなかった。 違う世界の、おそらく少しだけ状況が違うだけの彼。 放っておけば、自分のいる世界が変わっていることにも気がつかないかもしれない。 僕はこんなことをした存在を恨みながら、彼の肩に触れた。 「すみません、緊急事態です。起きていただけますか」 そう声を掛けても目を覚まさない。 ただ少し、身動ぎするだけだ。 「お願いします。起きてください」 言いながら肩を揺さぶって、やっと彼が薄く目を開けた。 眠たそうなその目が僕を捉え、驚愕に見開かれる。 「なっ……!? 古泉!?」 「申し訳ありませんが、先ほども申し上げましたとおり、緊急事態です。出来るだけ早く制服に着替えていただけますか?」 「緊急事態って……」 「説明は後ほどします。今はどうか、急いで…」 僕はよっぽど切羽詰った顔をしていたのだろう。 彼は首をかしげながらも僕の言葉に従ってくれた。 その間に僕は彼のご家族に、早朝から彼を借り出すことを詫びておく。 いきなりやってきてさらっていくようなものだというのに、彼のお母様と妹さんは彼と僕のためにおにぎりを作って持たせてくれた。 ありがたく頂戴したそれを手に、彼を引っ張り出す。 向かう先は、まだ朝の早い時間のせいで人影も少ない近くの公園だ。 そこのベンチに並んで座って、彼は怪訝そうに僕を睨んだ。 「で、一体何なんだ? 緊急事態ってのは。またハルヒが何かやらかすって言うんで緊急招集でも掛けて来たってわけでもないんだろ」 「ええ。……こう言っても、あなたに信じていただける可能性は非常に低いのですが、これから話すことは全て真実です。僕は何も嘘を吐きません。…それだけ、覚えておいてください」 「お、おう…?」 不思議そうに首を傾げながらもそう言ってくれた彼に、辛うじて微笑みかけながら、僕は説明を始めた。 ここが彼のいるべき世界ではないということ。 彼の代わりにこの世界にいた人が彼の世界に行ってしまった、というよりもむしろこの世界にいた彼を別の世界にやる代わりに、何も問題のない彼がこちらに来てしまったこと。 僕の持つ力についても、僕と彼の関係についても話し、そのため命を狙われたりしているということも話した。 彼はまるで夢物語のような話に眉間の皺を深くするばかりだったけれど、 「…とりあえず、お前がそう信じてるのは分かった。で? なんで朝っぱらから俺を呼びに来たんだ?」 「あなたの協力が必要だからです」 今、僕の愛しい人がどこにいるのか、僕には全く分からない。 ひとつひとつ異なる世界を探しに行くのは余りにも無謀だ。 ならば、おそらく目の前にいる彼の中に残る、彼のいた世界の残滓を辿り、その世界を探し当てるしかない。 可能性としては、いくつかの世界の彼を入れ替えている可能性もないとは言えない。 それならばひとつひとつたどるまでだとも思っている。 だから、と僕は彼に頭を下げた。 「どうか、お願いします。僕に力を貸してください」 「お前……そこまで…?」 驚いている彼を見つめて、僕ははっきりと告げる。 「当然です。僕にとって、僕の愛しい人はあの人だけなんです。他の誰でも代わりにはなりませんし、困難だからと言って投げ出したくもありません。たとえ自分の力が尽きようとも、あの人を見つけて、取り戻したいんです」 自分のため、愛しい人のため、愛しい人が愛する家族や友人のためにも。 「……」 彼が何か呟いたようだったけれどそれはよく聞き取れなかった。 「何と仰ったんですか?」 そう聞くと彼は何故だか顔を赤らめて、 「どうすりゃいいんだって聞いたんだよ!」 と噛みつくように言った。 「協力してくださるんですね。ありがとうございます」 感激して言った僕に彼は顔をしかめつつ、 「まだ全部信じたわけじゃないからな。ただ、探すとなったらお前の力を見る機会だってあるだろ? そうしたら信じてやれるかもしれないって思っただけだ」 「それでも嬉しいですよ」 では、と僕は手を伸ばし、 「少しの間、手をお借りしますね」 「おう…?」 怪訝そうにしながらも彼が僕の手の上に自分の手を重ねた。 そこから読み取るのは彼の世界の情報だ。 どれくらい遠いのか、どうすればそこに行けるのかを考える。 それだけを探すだけでも精神力を要するし、時間も掛かる。 「…なあ、いつまでこうしてりゃいいんだ?」 「すみません、もうしばらく……」 「せめて移動させてくれ。ちびっ子共がやってくるような公園でこの状態は流石に居た堪れない」 この状態、と言われてやっと自分たちの状況を思い出した。 つまりそれまで綺麗さっぱり忘れてしまっていたわけだ。 それくらい余裕がなかった。 でも、それではかえって集中も出来ないだろうと気付かされ、僕は苦笑しながら立ち上がった。 「それでは、僕の部屋にでも移動しましょうか」 「ああ、せめてそうしてくれ」 よっぽど恥かしかったのか、彼は顔を赤くしていたがそれを隠すように急いで立ち上がり、 「どっちだ?」 と聞きながら歩き出した。 そういうところも似ているものなのだろうかと思うと共に、それならばあまり遠い世界でもないのかもしれないと感じた。 今日中に迎えに行けるかもしれない。 まだ気が急いているのを感じながら、出来るだけゆっくりと歩いて部屋に戻る。 彼に不安を与えないように気をつける意味も込めて。 マンションの一室である僕の部屋に入ると、彼は興味深げにきょろきょろと室内を見回して、 「あいつもこんな部屋に住んでんのかね」 と呟いた。 「あいつは…あなたの世界の僕、ですか?」 「ああ」 短く答えた彼は苦笑して、 「もっとも、俺はあいつに嫌われてるらしいから、よく知らないんだけどな」 「嫌われて…ですか」 たとえ別の世界のことであるにしても驚きだ。 僕が彼を嫌うなんて。 「本当に嫌われているんですか?」 「面と向かって確かめたわけじゃないが、まず間違いないだろ。あいつはハルヒのことが好きらしいからな。その近くをちょろちょろしてる俺が目障りでならんらしい」 なるほど、そういうことになっているのか。 「不思議なものですね。世界が違うとはいえ、そんなにも違うなんて」 「だから、俺はお前が……その、お前の世界の俺を好きだって聞いて驚いたんだよ」 「ええ、それは驚くでしょうね」 くすくすと笑いながら僕は少しだけ意地の悪いことを思った。 彼の世界の僕は本当に見る目がない、と。 たとえ外見や能力はぱっとしていなくたって、彼はとても魅力的な人だ。 それなのに、そんなことにさえ気がついていないとは。 あるいは、超能力なんてものがなければ僕も気付けずにいたんだろうか。 いや、出会えさえしていれば、時間はかかっても気がついていたと思いたい。 それくらい僕はあの人が愛おしい。 「何にやけてんだ?」 胡乱そうに聞かれて、僕は慌てて笑みを納めた。 「すみません、少々考え事を」 「内容は言わなくてもなんとなく分かるからいいぞ」 そう悪戯っぽく笑った彼は、 「さっきの…なんだ? 手を繋いでなんかしてたよな。あれは何なんだ?」 「あなたの中に残っている、あなたのいるべき世界の情報を探していたんですよ」 「…よく分からんが、あれには時間が掛かるんだよな?」 「ええ、少しばかり…」 「なら、お前が急いでるってのに悪いが、先に腹ごしらえをさせてくれ。腹が減った」 「……ああ、すみません。そう言えば何も食べずに連れ出してしまったんですよね」 「それくらい必死なんだろ」 そう笑って許してくれた彼に詫びつつ、僕は急いでお茶を入れた。 彼はソファに腰掛け、テーブルの上に持たされたおにぎりを広げている。 「何か食べるのでしたら作りますが…」 「気を遣うなよ。それより、お前も食ったのか?」 「いえ……」 「なら、お前もちゃんと食え。腹が減ってはなんとやらと言うだろうが。お袋も多めに持たせてくれたみたいだし」 「…そうですね」 苦笑しながら僕もおにぎりをひとつ頂戴する。 そんな優しさも、あの人と似ているのに、似ているがゆえに違いが目立って、余計にあの人が恋しくなった。 早く、会いたい。 そう焦れば焦るほどうまくいかないということなんだろうか。 結局午後までかかって僕はその世界を見つけ出した。 「分かりました」 と僕が言った時には彼はもう飽き飽きした様子でやっと解放された手をじっと見つめていた。 「すぐに行けるか?」 「大丈夫でしょう。あなたはどうです? 空腹でしたら何か作ってもいいですが…」 「いい。俺としてもここが別の世界ならとっとと帰りたいからな」 「それでは、行きましょうか。目は閉じていた方がいいですよ。気持ちのいいものではありませんから」 「分かった」 この短い時間でも僕を信じてくれたんだろうか。 彼は素直に目を閉じる。 その手を再び取って、僕は彼と共に世界の壁を越えた。 ひたすらに、彼の世界、愛しい人を求めて。 無事に帰りついた世界で、僕は改めて愛しい人を抱きしめた。 その直前に何か言っていたような気もしたけれど、それを聞く余裕も僕にはなかった。 やっと取り戻せた。 失わずに済んだ。 腕の中に、何より愛しい人がいる。 「…よかった……」 そう呟いて強く抱きしめる僕を咎めもせず、彼は優しく微笑んだ。 「ああ。お前のおかげだな。…いつも、ありがとう」 「いえ、あなたのためですから」 答えながら泣きそうになる。 少しだけだけれど、滲んでしまった涙を見られたくなくて、僕は彼にキスをする。 そうしてお互いの存在を確かめ合った。 |