ご注意ください!


この作品は朝比奈みくるの妄想の産物と言う設定であり、
一部キャラクターの性格および設定の捏造
があります

「涼宮ハルヒの約束」?
さて、何のことでしょうか?←

…ってな状態ですが、一応これまでのシリーズと同じ設定ですよ





エスパー少年と俺 Vol.4
  信じているから
 Written by ミクル



古泉と付き合っているということは、当然ながら極秘中の極秘のことであり、友人はおろか、同じ部活の連中だとか家族にも勿論言っていない。
知っているのは古泉の超能力者仲間くらいのものだろう。
それについては、古泉に一任しているが、今のところ言触らされたりもしていないので、信用していいということなんだろう、おそらく。
結果として、周囲からするとただ同じ部活をしていて、同じクラスだということくらいしか接点のない俺たちが、校内で一緒に過ごすということは部活中以外にはなくなっている。
昼食なんかは一緒にとってもいいはずなんだろうが、俺は弁当、あいつは学食となれば、学食に弁当を持ち込んだりするのはいささか不自然なのでやめている。
…そのうち弁当でも作ってやるべきだろうか、と思いながらもそんなことをしたらまたあいつが変に恐縮したりすることを思うと歯痒くて出来ないままでいた。
他にも、あいつと付き合っているということを証し立てるようなものは、何一つありやしなかった。
無意識のうちに、そんなものを残すことを恐れていたのだろう。
そうして、あいつの負担になることを怖がっていた。
俺がそれを猛烈に悔やむ事になったのは、冬休み前のある日のことだった。

その日、俺にとって世界は残酷なまでに激変していた。
――と言えば、漫画やアニメなんかだと、目が覚めた時から違和感があったとかなんとか言うものなのだろうが、俺の場合はそんなこともなく、いつも通りで何も変わっていないと思い込んでいた。
クラスメイトの谷口はいつものように馬鹿面をさらしていたし、国木田だっていつもと同じ。
何度席替えをしようが俺の後ろに居続ける、我等が文芸部長ハルヒも、いつもよりいくらか上機嫌で座っていた。
なにやらにやついているのが若干不気味といえば不気味で、これから何が始まるのかと思わずにはいられなかったが、それもいつも通りのように思えた。
俺の認識が甘く、まったくと言っていいほど現状を把握できていなかったということに俺が遅れ馳せながらも気がついたのは、放課後になってからのことだった。
部室に向かう途中、俺はたまたま見かけた古泉に駆け寄り、
「古泉」
と声を掛けた。
少しばかり表情が緩んでいたかもしれないが、それくらいは許してもらいたい。
振り返った古泉はというと、なんというか、妙に硬い表情に思えた。
「お前、どうかしたのか?」
俺が聞くと、古泉は怪訝な表情をして、
「あなたこそ、どうかしたんじゃありませんか?」
と言った。
なんだそりゃ。
俺はいつも通りだろうが。
「そうですか? 何か…いつもと違うような気が…」
そう言われると俺の方も何か勝手が違うような気がしてくる。
しかし、気のせいだろう。
それより、と俺は辺りに気をつけながら声を潜め、
「今日、お前の部屋に行ってもいいか?」
「は!? 僕の部屋に!?」
驚愕としか言いようのない声を古泉が上げたので、俺まで驚かされる。
なんだその反応は。
「なんであなたが僕の部屋に来る必要があるんですか」
本気で言っているらしい古泉に、嫌な予感がした。
冷や汗が背中を伝う。
「……古泉、ちょっと確認したいことがある。これから少し時間をもらってもいいか?」
「…ええ」
古泉も何かを感じているんだろう。
短く答えて俺についてきた。
俺が向かったのは部室のある旧館の屋上だ。
そこが一番人気がない。
中館から見られる可能性はあるものの、見られたところで話の内容までは知られないだろうしな。
「古泉、いくつか聞かせてくれ」
屋上のちょっとした壁にもたれかかるようにして、俺は言った。
この後の展開によっては自分の体を支えることも出来なくなってしまいそうだという予感があった。
「…お前と俺の関係は?」
「ただの文芸部員としてのつながりしかないはずですが」
迷うことなくはっきりと告げられた言葉に、頭をガンと殴られたような気持ちがした。
何だこれは。
悪い夢か?
それなら醒めてくれ。
そうじゃないとしたら、何が起こったんだ。
記憶喪失?
そんなまさか。
それならそれなりのきっかけというものがあるだろう。
ずるずると地面に座り込んでしまいそうになる俺に、古泉が逆に問う。
「あなたの認識では違うようですね。お聞かせ願えますか」
「俺……は…」
声が嫌にかすれる。
泣き出しそうになっているのだと分かって、自分を殴りつけてやりたくなった。
しっかりしろ。
古泉が俺を騙しているというわけでもないらしいんだから、ここで崩れてどうする。
「…古泉と、付き合ってて……」
「僕と?」
古泉が不快そうに眉を跳ね上げた。
「どうもおかしいですね。あなたが冗談を言っているようにも見えませんが……。あなたの思い込みということでもないんでしょう?」
「そのはずだ…」
あれが全部夢であるはずはない。
むしろ、今の方が悪い夢のようだ。
「食い違いはそれだけなのでしょうか」
呟くように古泉が言った。
「これまでのことを思い出してみてください。何か違うのかも知れません」
「じゃあ聞くが、」
と言っておいて俺は少しの間躊躇った。
こんなことを聞けば頭がおかしいと思われるだろうと考えたせいだ。
しかし、今更同じだろうと諦め、
「お前、人の心が読めたりするか?」
「……はぁ?」
いよいよ不審そうに古泉の顔が歪んだ。
…決まりだ。
この古泉は俺の知る古泉とは違う。
全くの別人だ。
となると、どうしてこうなっているんだ?
またあの何か得体の知れない連中が俺たちの命を狙ってきているんだろうか。
あるいは、命ではなく、俺たちの関係性なのかもしれない。
やつらが奪おうとしているのは。
それを確かめるために、俺は目の前の古泉に聞く。
「お前と俺の関係は?」
「関係も何も、ただ単に、同じ部活動に所属しているというだけですね」
「文芸部に?」
「ええ。さっきそう言いませんでした?」
不機嫌に言われて、そうだったかもな、と力なく返した。
「何でお前は文芸部なんか入ったんだ?」
「涼宮さんに勧誘されたものですから。面白そうだと思いましたし」
「それで放課後退屈を持て余してるのか。なのにまだ辞めないのか?」
「涼宮さんがいますからね」
そう言って古泉は笑った。
柔らかく、俺に向けてくれるような優しい笑みに、心臓を抉られたような気持ちになった。
「…お前、ハルヒが好きなのか?」
「ええ。何かおかしいですか? 彼女はとても魅力的な女性だと思いますが」
ああ、そうかもな。
だが、あれだけ強引に振り回されて平気とは、お前はマゾか。
「…それをあなたに何度言われたでしょうね」
小さく、ただし今度は意地悪に笑って古泉が言った。
「こっちの俺にそう言われてたのか?」
「何度も言われましたよ」
クックッとテレビの悪役か何かのように喉を鳴らし、
「どうやら、あれは彼なりの牽制のようでしたけどね」
なんてこった。
とんだアンビリーバブルな世界だな、この世界は。
それともあれか。
ハルヒの逆ハーレムが成立する世界だとでもいうのか?
「…なんとかして、元の世界に戻らないと……」
俺が唸るように呟くと、古泉は意地の悪い笑みを見せ、
「僕としては、あなたがこのまま残ってくださっても構いませんけどね」
「そりゃまたどういうわけだ」
詳細に説明してもらおうじゃないか。
「簡単ですよ。――ライバルが一人減るということですからね。それも、とても強力なライバルが」
「…ライバルね……」
そう呟いて鼻で笑ったばかりか、我ながら馬鹿げたことを言っちまったのは、多分俺が苛立っていたせいなんだろう。
「なあ古泉、」
俺は自分が八つ当たりしようとしているということを古泉に悟らせないように、慎重に言葉を選んだ。
「さっきお前は、こっちの俺にマゾだのなんだの言われたのを牽制と説明したし、お前自身はそう信じているようだが、それは本当に正しい解釈なのか?」
「……何が仰りたいんです?」
怪訝な顔をした古泉に、嫌がらせを口にする。
「実はライバルなんかじゃなかったりしてな、と言いたい」
「冗談は止してください」
そう言いながらも若干顔が引きつっている。
察しは付いているんだろう古泉に、
「こっちの俺の発言の意図が、違う可能性がないとは言い切れんだろ。そいつもしょせん俺なんだ。ハルヒなんかよりもお前の方を選ぶかも知れん。となると、お前が言った発言は全く違う意味に取れるな。たとえば――」
ニヤリ、と俺の古泉にはなかなか向けないタイプの悪ぶった笑みを見せ、とどめのようにはっきりと言ってやる。
「俺ならハルヒと違ってお前を大事にしてやるぞ、とかな」
沈黙した古泉は嫌そうに顔をしかめていた。
もしかすると、ゲイをバカにするというよりもむしろ怖がっているようなタイプの人間にはこういう対応が効くんじゃないだろうか。
面白いことを知った。
「まあ、真意はこっちの俺に聞け」
「……あなたは、そうやってあなたの知る僕を落としたわけですか?」
冷たい目で睨まれた上、反撃のように聞かれ、俺は一瞬押し黙った。
だが、それも一瞬だ。
俺はにたにたと頭がおかしくなったかのように笑いながら、
「俺は自分であいつを落とす必要なんてなかったからな」
「つまりあなたの方が落とされた側だと?」
「そういうこった」
そう答えながら、自分の顔が最前とは違う意味でにやけてくるのを感じて、まずいなと思った。
それでも、口は勝手に動く。
「あいつは、俺を守ると言った。実際、守ってきてくれた。だから、きっと今回も平気だ」
声に出すと、本当にその通りに思えるから不思議だな。
ちょっと前まで本気で絶望を感じていたはずなのに、おかしなもんだ。
「俺はあいつを信じてる。そして、あいつは俺の信頼を絶対に裏切らない」
目の前の古泉はどういうわけかなにやら悔しげな表情を滲ませたかと思うと、
「だったらいいんでしょうけどね、実際はどうなんです? もう一日が半分も過ぎ去っているのに、何も起こっていないようじゃありませんか」
と、まるで負け犬の遠吠えみたいな調子で言った。
「まだ一日目だ。それがたとえ何日になっても、何ヶ月になっても、何年になろうとも、俺はあいつを待つさ。それしか、俺には出来ないんだからな」
自分でも、これは過剰じゃないかと思うほど自信たっぷりに言った俺の背後に、不意に人の気配が現れ、俺は抱きしめられた。
見なくても分かる。
「古泉…」
「お待たせしました」
耳慣れた優しい声が耳に触れる。
それだけで、幸せだと思った。
「そんなに待ってねぇよ。むしろ、もう少し遅くてもよかったんじゃないか?」
言いながら振り向いてやると、古泉の隣りには俺がいた。
予想していたこととはいえ、実際に見ると変な気分だな。
それは他の二人も同じらしく、動じてないのは俺の古泉だけだ。
「すみません。僕としては本当に必死だったんですよ。目が覚めたらあなたの気配が世界のどこにも感じられなかったものですから。それから、半狂乱になってあなたを探しました。見つけられたのは、本当に奇跡みたいなものですよ」
「奇跡か」
なら、神様に感謝ってところだろうか。
笑いながら古泉に背中を預け、この世界の俺に目を向ける。
「古泉に酷いことを言われたりしなかったか?」
「い、いや……全然…」
戸惑いながらも答える律儀さが俺らしいな。
「俺はちょっと余計なことを言っちまった気がするから、これから背後には気をつけろよ」
「って、お前何したんだ!?」
慌ててそう叫ぶここの俺に、ニヤリと笑い、
「こっちの古泉に要らん話をちょっとな」
「な……」
絶句したそいつに、こっちの古泉が落ち着いたまま言う。
「大した話じゃありませんよ。それに、あなたとは別人だということくらい、分かっています」
「そう、だよな…」
ほっとしたように言いながらも、そいつは何か変な違和感を持ったように見えた。
「なぁ、」
と俺は俺の古泉に小声で聞く。
「お前、あいつのこと、どう扱ったわけ?」
「どう……も何も、僕はあなたを探すのに必死でしたからね。ほとんど接触はしていませんよ。ただ、話す時などはやはりあなたと同じ姿形ですし、存在が平行的なものである以上、あなたにするようにしてしまったこともありますけど、あなたはそれくらいのことで怒ったりはしないでしょう?」
「要するに、無駄に丁寧に扱ってやったってことだろ?」
「明確に通じているようで何よりです」
誤解されたくないならもう少し言い回しを工夫しろ、ばか。
「…お前も罪な奴だよなぁ……」
俺が呟くと、古泉は不思議そうに、
「何がですか?」
「これで、こっちの二人まで付き合うようになったらどうなるんだ?」
「ここが平行世界である以上、その方が自然なように思えますけどね」
悪戯っぽく笑って言った古泉に、
「そういう問題じゃないだろう」
そう笑いながらも、俺はこれから面白いことになりそうな二人を見た。
俺の要らん話のせいで、こっちの俺を意識していいのかそれとも嫌ったままの方がいいのか掴みかねているのが一人。
古泉が馬鹿丁寧に扱ったりしたせいか、古泉を見る目が変わっちまったらしい可哀想なのが一人。
さて、どうなるか――と思ったところで、結末まで見てられないのが残念だ。
俺は悪辣な笑みを二人に向けると、
「俺は元の世界に帰るが、先達として忠告だ」
「忠告?」
こっちの俺と古泉、両方が俺を見る。
俺は自分の古泉の腕を取りながら、続きを口にした。
「意地を張るよりは素直になった方がずっといいぞ」
「それはどういう意味ですか」
胡乱な顔をして聞いてくるのには答えず、俺は俺の古泉を見上げる。
「もう、帰れるんだろう?」
「ええ、今すぐにでも」
「とっとと帰るぞ」
「仰せのままに」
答えろ、とか何とか言ってるのは耳にも入れず、俺たちはその世界から消えた。
それは変な感覚だった。
自分の体を一度壊され、もう一度組み立てなおされるような、と言っても通じないだろうな。
とにかく、快適なものではなかった。
気持ちの悪さに気がつけば目を閉じていたのだが、やっと安定したので目を開けると、そこは古泉の部屋だった。
「元の世界、だよな?」
俺がそう聞いたってのに、古泉は答えず、俺を真正面から抱きしめなおした。
「…よかった……」
「ああ。お前のおかげだな。…いつも、ありがとう」
「いえ、あなたのためですから」
嬉しそうに笑った目元に、うっすらと涙が見える。
それをよく見てやろうとしたのだが、古泉に気づかれ、そんなものは見なくていいとばかりにキスされた。
誰があんなことをしたのかとか、狙いはどうだとか、話し合わなきゃならんことはいくつもあったはずだってのに、俺は結局、翌朝までそんなことも考えられなかった。
理由は聞くな。