ご注意ください!

この作品はバンダイナムコゲームスより発売された
PSP専用ソフト「涼宮ハルヒの約束」
をもとに妄想された作品です
ネタバレは激しくありませんが、若干、プレイされないと分からない表現などが含まれます
ネタバレが嫌な方や未プレイの方はご注意くださいますようよろしくお願いします


またこの作品は朝比奈みくるの妄想の産物と言う設定であり、
一部キャラクターの性格および設定の捏造
がありますので
それについてもご注意ください


更に言うとエロですのでそういう意味でもご注意くださいませ































エスパー少年と俺 Vol.3
 文化祭が来ない
       Written  by ミクル



連日連夜のビデオ編集作業と、傍若無人な部長に振り回されることとに疲れ、俺は今日も部室で一人眠っていた。
眠っちゃならんとも思うのだが、底なし沼のような睡魔に抗えるはずもなく、ずぶずぶと眠りに入り、そのまま朝を迎えるはずだったのだが、
「こんばんは」
という声と、かすかな軋みと共にドアが開いた。
耳慣れた声で誰か分かる。
それが俺に危害を加えない――いや、ある意味では危害を加えてくるのだが、とりあえず、命の危険はない相手だと分かっているから、俺は目を開けなかった。
ぱたん、と小気味のいい音を立ててドアが閉まる。
忍ばされた足音が一歩ずつ慎重に近づいてくる。
そうしてそいつが傍らに立つと、それだけで、体温の暖かさを感じるように思えるのは、錯覚だろうか。
デスクの上に腕を組み、頭を載せて眠っている俺の、顔が向いている方に立った古泉が、俺のくしゃくしゃになった髪をかき上げる。
その手の動きが気持ちよくて、吸い寄せられるように頭をすり寄せた。
「古泉…?」
やっと目を開け、何しに来たんだと言外に問うつもりで名前を呼んだ相手は、いつになく真剣な表情を浮かべていた。
それで俺はやっとまともに頭を働かせる気になり、
「どうした? 何かあったのか?」
俺は、こいつがただの人間ではないことを知っている。
どういうものなんだかは未だに把握し切れていないものの、こいつがいわゆる超能力と呼ばれる妙な力を持っているということは、こいつが直接俺に伝え、それなりに証立てしてくれたことでもある。
そうであれば俺が忘れるはずなどなく、更に言うならこいつだけにしか気が付けないような何かが起こったため、俺を起こしに来たのかも知れないと思ったのだ。
「あなたも気がついておられないのですね」
驚いたように古泉は言った。
「俺はただの凡人だぞ。期待するな。っていうか、何に気が付いてないって言うんだ?」
古泉は軽く肩を竦め、ため息を吐いた。
なんかむかつくぞ、おい。
「我々の映画撮影が終ったのは、いつのことだったか覚えていますか?」
「は?」
「思い出してみてください」
いつって……もう何日も編集作業をしているわけだから、数日前のことになるんだろうが、と考えかけて違和感を感じた。
数日前?
はて、あの撮影に果たしてそこまで余裕があったか、と。
順番を逆に考えてみよう。
ハルヒのわがままに振り回され、とんでもない目に遭わされながら進行した恐怖の映画撮影は、本当に本当にギリギリ、もうどうしようもないって状態まで掛かったはずだ。
撮影が終ったのは確か昼休み。
昼食を食う余裕すらなかったことを覚えている。
なんで昼休みにやったかというと、翌日がもう文化祭だったからだ。
……うん?
どういうことだ?
「どうやら、分かっていただけたようですね。そうです。我々は、文化祭前日という同じ一日を繰り返しているのですよ」
「なんでそんな…」
「原因は分かりません。ただひとつ言えることがあるとすれば、今回もまた、僕が何とかしなくてはならないのでしょうね」
そう呟く古泉にはヒーローの悲哀とでも言うべきものが漂っていた。
超能力など欲しくはなかったと、古泉が一度俺に零したことがある。
いつになく気弱で、頼りない声で。
おそらく表情もその声と同じだったのだろうが、俺には見せないように、ずっと隠していた。
それでも古泉が度々巻き起こる事件に立ち向かうのは、そうしなければならないからなんだろう。
「それだけではありませんよ。…あなたを、守りたいからです」
「……古泉」
「はい?」
俺は古泉の油断ならない笑みを湛えた顔を睨みつけ、
「いい感じの台詞を言っているところに悪いが、人の心を読むなと何度言えば理解するんだおまえは」
「すいません。つい」
注意するたびに謝ってはいるが、改善するつもりは本当にあるんだろうかね。
俺は呆れながら、
「まあ、いい。わざわざ俺に伝えにきたっていうことは、俺に出来ることがあるんだろうな?」
と言っても、凡人である以上、俺に出来ることっていうのはたかが知れている。
これまでの事件だって、正直俺の手助けなんてほとんど必要なかっただろう。
過去にやったことと言えば、怪我をした古泉を危なっかしい手つきで手当てしてやったことと、情緒不安定になった古泉を宥めたことくらいだ。
……どうやって宥めたのかなんてことは知っていても思い出さないで貰いたい。
ああくそ、思い出すだけで恥ずかしさで死ねる。
「あなたにしていただきたいことがある……と申しますか、…その」
なんだ? 妙に歯切れが悪いな。
「…先ほど申し上げた通り、我々は同じ一日をループしています。しかしながら、数日が経過していることも実感しているわけでもあります。あなたはお気づきでなかったようですし、気付いておられたところで気にしないのがあなたなのでしょうが……」
おい、何が言いたいんだか分からんが、なんでそう顔を近づけてくる必要があるんだ?
嫌な予感に冷たい汗を伝わせる俺の耳に唇を寄せ、古泉はいつになく熱っぽく、つまりは下半身直撃と言わんばかりのエロい声を響かせた。
「…あなたと、したい」
こういう時ばっかり敬語を使わないってのは反則だろ。
カッと頭に血が上る。
顔が真っ赤になっていることは確かめるまでもない。
「なっ、…ちょ、ちょっと待て! お前、ここをどこだと思って…」
「分かってますよ。でも、もう何日もしてないんですよ? それ以前だって、映画の撮影で忙しくって、あなたとふたりきりになる機会すらなくて…」
泣きそうな顔で言うな、情けない。
それに、ここは学校だ。
校内でそんな行為に及べると思うか?
古泉の部屋でだって嫌だというのに。
「大丈夫ですよ。異常事態が発生しているような状況下であれば、僕の持つ力も強化されるのはあなたもご存知のはずでしょう? ここに人を近づけないことも、物音が外に漏れないようにすることも、今の僕には可能ですよ」
「だからと言って、…ん、むぅっ……!?」
これ以上は説明する必要も余裕もないとばかりに口をふさがれた。
いつになく性急な動きに、翻弄される。
頭の芯まで融けてしまいそうなほど熱くされる。
まさかそれも超能力だっていうんじゃないだろうな。
「違いますよ」
「だから、考えを読むんじゃないと何度言えば…っ、ふ、あ……」
「読んでません。あなた、ご自分ではお気づきでないかもしれませんが、あなたって、結構分かりやすいんですよ?」
マジか。
「考えていることが割と顔に出てるんです。そういうところも可愛らしくて、僕は好きですが」
さらっと好きとか言うな。
「おや、では真剣に言いましょうか?」
キスするためでなく、顔をギリギリまで近づけられるのは、たとえ相手が恋人であっても心臓に悪いと思うのだが、俺のそんな考えなど全く無視して、古泉は顔を近づけてきた。
そうして、滅多に見せない真剣そのものの表情で、
「あなたが好きです」
「…っ、ぅ」
声だけで感じるとは、俺はどれだけ変態なんだとか、古泉のことをこんなに好きだなんて気持ち悪いだろうとか色々思うのだが、体は勝手に動いて古泉のことを抱きしめていた。
嬉しそうに綻ぶ古泉の顔を見るだけで、俺まで嬉しくなる。
馬鹿みたいだと思いながら、止まれない。
「…ほんと、に、大丈夫なんだろうな…?」
誰かに見られたら俺はその瞬間舌を噛み切って死んでやるぞ。
「大丈夫です。僕を信じてください」
「……なら、いい」
あーあ、言っちまったよ。
そんなこと言ったが最後、古泉にもう無理という限界を通り過ぎたところまで持っていかれることは目に見えてるってのに、俺は本当に頭が悪い。
喜ぶ古泉の表情だけで、それでもいいかと思えてしまうあたりが特に。
それが癪で、俺はひとつ条件を付け足した。
「ただし、」
「なんでしょうか?」
「……これっきりだからな」
「…それは、どういう……」
戸惑う古泉に、俺はにやっと笑い、
「校内でするのはこれっきりってことだ。嫌ならさっさとこのループを終わらせて、ここを出ようぜ?」
「…はいっ」
そう答える古泉はまるで大型犬みたいだ。
ただし、でかいくせに品のいい、長ったらしい犬種名のな。
そんなヤツにここまで好かれて嬉しいと思うくらいには、俺も自尊心が高いらしい。
犬みたいな古泉が、本当に犬のように俺の体を嘗め回す。
頬、首筋、胸、腹と、どんどん危険領域に近づいていくその行為の、一体どこが楽しいんだか知らないが、毛づくろいか匂いつけのように、細かく、それも懸命にやられると、色んな意味で非常にくすぐったい。
くすぐったいだけならまだしも、変に興奮させられるあたり、俺もこいつのやり方に慣れちまったということなんだろうか。
ぺちゃっとわざとらしく音を響かせながら、古泉は興奮に勃ち上がりかけていた俺のものを舐め上げた。
「…っは……お前、結構、好きだよな…フェラすんの…」
「する相手があなただからですよ。それにここなら、痛みもなく、あなたのプライドを傷つけることもなく、あなたを悦ばせることが出来るでしょう?」
古泉は顔を顰めながら、そう言った。
本当に、なんて難しいやつなんだと思う。
面倒なやつだとも。
俺を好きだと言うくせに、それを態度でだって示すくせに、それでもまだ、俺と付き合っていることに罪悪感を感じずにはいられないらしい。
俺の方からも好きだと、呆れるほど繰り返し何度も言ってるってのにな。
大体、本当に好きじゃなかったらやらせるわけがないだろう。
俺だって男なんだから。
滅茶苦茶に暴れてしまえば、古泉が超能力を使わない限り、逃げ出すことくらいは可能だ。
そうしないってことを、分かってないんだろうか。
俺は呆れながら小さくため息を吐いた。
「どう、しましたか?」
不安げに見上げてくる古泉に、
「馬鹿だと思ってるだけだから気にすんな」
「どういう意味ですか」
不満げに眉を寄せる古泉に、俺は薄く笑い、
「なんでも出来るくせに、妙に自信なさげで、見た目以上に怖がりなところがあるよな、お前」
「……幻滅しましたか?」
まさか。
その程度で幻滅するんなら、俺だってまだ救いようがあったはずだ。
「可愛いと思ってる」
「…っ、あなたこそ、どうしてそんな風に可愛らしいことを仰るんですか」
お前が悪いんだろ。
それくらい言わなきゃ、どこまでも落ち込みそうだから。
「古泉、」
俺は張り詰めたそれを苦しく思いながらも、解放を求めるためでなく古泉を呼んだ。
「そこは、もういいから、後ろ…触って、くれ」
恥ずかしい要求をしながら、はしたなくも体の位置をずらし、事務椅子の上で大きく脚を開く。
無理をいわせた椅子が、軋んで文句を言った。
「いいんですか?」
わざわざ聞き返すな。
「すいません。でも…」
「あのな、」
と俺は顔を腕で隠しながら天井を仰いだ。
「確かにそこだったら痛くないし、俺だって感じてる自分を恥ずかしく思う必要はないわけだが、お前にばっかりさせて申し訳ないという気持ちにもなるし、……た、…足りないとも、思う、んだよ」
ああ、絶対喜んでる。
綺麗な顔なのに勿体無いと思うほど、表情が崩れてるに違いない。
「本当ですか?」
聞き返すな!
「顔、見せてください」
死んでも嫌だ。
「お願いします」
「嫌だっつってんだろ!」
可愛げの欠片もなく怒鳴った唇に、キスされた。
優しく、甘ったるいキスだ。
腕で目元を覆っているために、繋がりはそれ以上深くならず、物足りなさを残して離れていった。
「愛してます」
数え切れないほど繰り返された言葉がまた繰り返される。
「ん…」
「ここ、ひくついてますよ」
「要らんことを指摘するな!!」
ここと言われただけでどこなのか分かる自分も嫌だが。
古泉は俺の脚に手をやると、それが胸につくほど押し上げ、露わにされた場所に舌を這わせた。
「んっ……ぁ…やめろ……」
「嫌です。それに…こうされるのも、好きですよね?」
笑いを含んだ吐息を吹きかけられ、喉が引き攣った音を立てる。
「や、…っ、ひぅ…!」
「濡らさないと痛いでしょう? 触ってくれと言ったのはあなたですし」
俺は触れと言ったのであって舐めろと言った覚えはない。
「そうでした。では、こうしましょう」
古泉は俺の左脚を持ち上げ、自分の右肩に乗せると、空いた右手を俺の口元に差し出した。
「舐めてください。そうしたら、……ね?」
ね、じゃねえよ。
誤魔化した部分を明言されても困るがぼかされても困る。
俺は恨みがましい目をじっと向けた後、しょうことなしに古泉の指を二本まとめて口に含んだ。
舐めたそれがどうなるかなんてことは分かりきっているので、舐めるというよりも口の中に溜まっていた唾液を擦り付けるようにすると、古泉が小さく笑うのが見えた。
何だよ。
「いえ、積極的なあなたも素敵に思いまして」
蹴っ飛ばすぞ、と思いはしても実際にはそうせず、指に噛みつきそうになるのを堪えた。
口の中に指が入ってる状態で舐めてくるんじゃない。
怪我しても知らんぞ。
「いいですよ。あなたに痕を残されるなら、むしろ光栄ですね」
だから、光栄とか言うな。
「どうしてです?」
「……お前が、…っ……遠く、思える、から…」
嫌なんだ。
敬語を崩さないことだって十分嫌なのに、更にそれを酷くすることはないだろう。
「…本当に、もう」
焦れたように呆れたように、だがそれでも嬉しそうに言った古泉が、俺の口から指を引き抜いた。
その代わりに唇で口を塞がれ、指を性急に押し込まれる。
「んっ、んん……っふ…ぁ…」
口腔を貪る舌も、更にダイレクトな快感を送り込む指も、愛しくて、気持ちよくて、これ以上上がりようもないと思えた体温が跳ね上がる。
軋む椅子が壊れるか転ぶかどうかしそうで、俺は古泉の体を縋るように抱きしめた。
「可愛らしいことばかり仰られて…。そんなに僕を煽って楽しいですか?」
楽しいに、決まってる。
いつもいつも同じような表情しか見せない古泉が、あからさまに嬉しそうな顔をしたり、不安がったり、欲望塗れの顔を見せたりするんだ。
嬉しくて、楽しくて、こっちの熱まで煽られる。
中をかき混ぜる指が、俺の感情も理性も判然としないほどに攪拌していく。
「もう、いいですか?」
ぐちゃぐちゃになった頭に、古泉の声が響く。
「ん、…早く…」
そっと触れるだけのキスの後に、古泉の笑みが見えた。
驚くほどに熱くなったものが押し当てられたのを感じ、下肢が震える。
「ぁ…、古泉…っ、ぅ、んん…っ!」
俺を労わってか、じわじわと入ってくるそれは、むしろもどかしいくらいだ。
こんなんじゃ、足りない。
本来性的にもかなり淡白であったはずの俺に、そう思わせるまでに至らせた男は、それを納めきると、俺の目尻に口付けた。
「あなたの中、凄く、気持ちいいです」
「う、そつけ…。じっとしてて、何が…っ、」
「じっとしていても、あなたとひとつになっていることを感じられますし、それに、あなたが締め付けてくださいますからね?」
揶揄するような声に、顔が赤くなる。
「ばかやろ…っ、俺は、苦しいんだぞ…」
「すいません。…では、どうしましょうか?」
底意地の悪い奴め。
俺は古泉を睨みつけたのだが、
「そんな顔で睨まれても、そそられるだけですよ」
「そそられてんなら、それらしく、…しろよ…!」
くすりと古泉が笑った瞬間、
「んぅ…ひ、あぁっ…!」
ギリギリまで引き抜かれたそれに思い切り突き上げられ、体がびくびくと痙攣した。
気持ちいいのか痛いのかさえ分からない気分になりながら古泉に縋ると、古泉は俺を抱えたまま床に腰を下ろした。
より深くなる結合に、衝撃で一瞬クリアになったはずの頭が、またどろどろに融かされていく。
「あっ、ぁ、ん、…っ、古泉…! こい、ずみ…」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられて痛いくらいだろうに、古泉はむしろ嬉しそうに笑っていた。
「愛して、ます。あなたを、あなただけを。……あなたがいるから、僕は、…この世界を守りたいと、思うんです」
正義の味方にしてはあまりにもエゴイスティックな呟きに、俺は半分呆れながらもどうしようもなく嬉しくて、その体を更に強く抱きしめた。
「古泉…っ、も、イくから……っ!」
「いいですよ、イってください」
笑いながら口付け、昂ぶったものを扱き上げられる。
「あ、ぁ、……っ、ん、ぁあああ――…っ!」
そのまま俺の視界は、白く弾けた。
消えそうな意識で俺が思ったのは、目が覚めたらまず古泉をぶん殴ってやろうということだった。
理由?
決まってるだろ。
……俺は、一緒にイきたかったんだ。


僕は彼の体を綺麗にした後、この場の環境が変化していくのを感じてほっと息を吐いた。
これでだめだったらどうしようかと思っていたから助かる。
先ほど彼にはああ説明したけれど、実際には、文化祭前日を繰り返していた原因は、既に把握していたのだ。
この空間――高校の敷地内――が時間生物とでも言うべき奇妙な生き物に飲み込まれていたため、というのがその理由であり、通常の時空から切り取られた時間を、僕たちはここしばらくの間繰り返していたのだ。
空間内から脱出を図ることも出来ず、つまりは僕が外から攻撃することは不可能。
外にいる僕の仲間が攻撃しようにも、内部に我々が飲み込まれている状態では手出しが出来なかっただろう。
その上、内部にいる我々の考えや行動は全てあちらに筒抜けと言う、とんでもない状態だったのだ。
その状況を打破するためには、なんとかしてこの空間を吐き出させるしかなかった。
その方法として選んだのが、彼との性交だと知られたら、彼にはどれだけ怒られるんだろうか。
想像するだけでも頭が痛い。
でも、とりあえず考え付いた中ではこれが一番安全な手段だったのだ。
思考が読めるものにとって、彼が僕に向けてくれる言葉に出来ないほどの情愛の深さというものは、物凄い破壊力を持っているものだから、と僕は苦笑する。
彼が嫌がるから心を読むまい、と思っても強い思いは伝わってくる。
それは言葉の形を取らず、強い感情の奔流そのままに僕を包み込むのだ。
僕にとってはどんな痛みも苦しみも麻痺させるように甘いそれが、僕以外のものには痛みを伴う衝撃となるのは、納得出来るような気もするけれども、どこか不思議だ。
それが、いくら僕が増幅させたにしても、巨大な時間生物にさえ効果があるということも。
ともあれ、そのために時間生物は飲み込んでいた我々を吐き出してくれたわけだ。
おそらくかなり弱っているだろうから、僕がすべきことは止めを刺すことくらいのものだろう。
あるいは仲間たちがすでに何とかしようとしてくれているかもしれない。
僕はぐったりと眠っている彼の頬に口付けて、
「あなたのお陰で、僕たちは救われました。ありがとうございます」
と告げた。
「さて、」
名残惜しいけれど、時間生物をなんとかしなくてはまた飲み込まれるかどうかするだけだろう。
もし、再び飲み込まれたとして、同じ手で脱出できるとも思えないし、それ以上に彼がもう一度校内ですることを許してはくれないだろう。
僕は彼をパソコンに向かうような形で座らせると、その背に自分の上着をかけた。
「行ってきます」
と声を掛けて部室を出る。

今ならどんな強敵が現れても勝てる気がした。