ご注意ください!

この作品はバンダイナムコゲームスより発売された
PSP専用ソフト「涼宮ハルヒの約束」
をもとに妄想された作品です
ネタバレは激しくありませんが、若干、プレイされないと分からない表現などが含まれます
ネタバレが嫌な方や未プレイの方はご注意くださいますようよろしくお願いします


またこの作品には一部キャラクターの性格の捏造がありますので
それについてもご注意ください


腐女子は死んでも治らない



今が大変な状況にあるってことは、分かってるんです。
ここから脱出出来なかったらどうなるかさえ、あたしたちには分かりません。
でも、それでも、――妄想だけは止められないんです。
腐女子って、なんて因果な生き物なんだろう。
あたしは小さくため息を吐きつつも、やっぱり妄想を止められないのでした。



夜の部室で、パソコンの前に突っ伏して眠るキョンくん。
部屋の明かりをつけっぱなしなので、部屋の中は明るい。
その明るささえ気にならないほど、疲れているらしいキョンくんに、足音を忍ばせながら近づくのは当然古泉くんで、その手をついと伸ばし、キョンくんの髪を撫でる。
それでも起きないキョンくんに、そっとキスをする、と言っても唇は隠れているから、頬に。
眠り姫みたいに目を覚ましたキョンくんは、驚きもせず、慌てもせずに古泉くんを見るのは、キスされるのが初めてじゃないから。
「…お前か」
なんて普通に呟いたキョンくんと古泉くんはしばらくの間、真面目な話をする。
でもそれは、間合いをはかっているだけ。
キョンくんがそう機嫌も悪くないと判断した古泉くんが、つっと距離を詰めると、
「…涼宮さんに僕たちのことを明かせば、この閉鎖的閉鎖空間からも脱出できるかもしれませんよ?」
といたずらっぽく言うの。
キョンくんはむっと眉を顰めて、
「それでお前が消えたらどうなる」
言外に、消えられたら嫌だという思いを滲ませているのは、狙っているのかそれとも分かってないのか。
「僕のことも心配してくださるんですね」
それだけの言葉で、過剰なほどに喜ぶ古泉くんと、それとは対照的にますます顔を顰めるキョンくん。
「今更だろ、ばか」
なんて、拗ねたように唇を尖らせたキョンくんに、さらりと触れるだけのキスをする。
キョンくんからもキスをして、触れるだけのそれが段々深くなって…。
抱きしめあいながら、
「…ハルヒは?」
と確認するキョンくんに、古泉くんは小さく笑って、
「大丈夫ですよ。しかし、この能力は便利ですね。元の世界に戻っても、保持しておきたいものですが、それは流石に無理でしょうか」
「なくなってもらった方がいいな。そうじゃないと、お前が何をするか分からん」
「そうですね。涼宮さんに絶対に目撃されないのであれば、あなたと一緒に街を歩いたり、外ですることも可能でしょうから」
「外でとか…っ、さらっと言うな、この変態」
「それより、涼宮さんの所在を確認するということは、……いいんですよね?」
このまま続けても、とキョンくんの腰に手をやって、いやらしく撫で回す古泉くんに、
「んっ…」
切なげな声で答えるキョンくん…。



と、そこまで妄想したところで、
「みっくるー? 何妄想してるんだいっ?」
と鶴屋さんに声を掛けられて我に返りました。
何って言えるわけないです。
あわあわと慌てるあたしに、鶴屋さんはにやにや笑いながら、
「キョンくんと古泉くんのことだろっ?」
「分かってるんだったら聞かないでください…」
あたしはもう泣いちゃいそうです。
同じ腐女子仲間だって分かってても、こんな風に話しかけられたりするのは、心臓に悪いです。
「みくるは本当にあのふたりがお気に入りだね。あたしはナマモノにはあんま興味ないんだけど、でもあのふたりは別だねっ! うん!」
となにやら満足そうです。
「何かあったんですか?」
あたしが聞くと、鶴屋さんはにんまりと笑った。
「聞きたい?」
「聞かせてほしいです」
ネタと素材は多いに越したことはないですから…っていえその。
「じゃあ、聞かせてあげようっ」
嬉しそうに笑った鶴屋さんは、声を小さくして、あたしに顔を近づけました。



あたしが校内を見て回ってた時のことなんだけど、キョンくんと古泉くんが話してるのを偶然聞いちゃったんだよ。
立ち聞きなんて人聞きの悪い事を言うのはなしだよっ。
偶然聞こえちゃったんだからね。
色んなことを話してたんだけど、あたしにはよく分かんないことも多かったんで、見つかんないうちに逃げようかなって思った時に、キョンくんが言ったのさ。
「お前どんなコがタイプなんだ?」
ってね。
これって、明らかに古泉くんが気になってるってことだよね?
古泉くんの方も、ちゃっかり、
「あなたですよ」
なんて言っちゃったりして、これはキタかなって思ったんだけど、キョンくんは照れるんだかツン発動なんだか分かんないけど、とにかく、冗談扱いして一蹴しちゃったよ。
勿体無いったらないね。
あとはあだ名がどうとかって話してたかなっ?
「お前は俺をあだ名で呼ばないな」
ってそれはつまり呼んで欲しいってことだよね。
キョンくんも可愛いじゃないかっ。
古泉くんもそう思ったのか、試しに呼んでみてたよ。
一々呼び方に注文をつけるキョンくんがまた可愛くってね。
本当にいいもの見させてもらったって感じだよ。
そんなわけであたしも大いにネタを仕入れさせてもらったんで、後でさり気なーくお礼の品なんて持っていこうかと思うんだけど、みくるは何がいいと思う?



好きなタイプを聞くってことは付き合ってなかったのね、残念。
と考えているところにいきなりそう聞かれたあたしは、慌てて、
「温かいものが食べたいんじゃないかなぁ」
「温かいもの? それっくらいでいいのかい?」
「ええ、多分、今のキョンくんならそれが一番嬉しいと思います」
「ふぅん」
ちょっと失敗しちゃったかな、と思ったんだけど、鶴屋さんは気にしなかったみたい。
「んじゃ、あとで焼きそばを試作して持ってくとしようっ」
といつものように笑ってくれた。
よかった。
変に思われたらどうしようかと思ったの。
あたしたちがもう何日も学校から出られないまま、同じ一日を繰り返してるなんて、鶴屋さんは知らないんだから、さっきの発言は、本当にまずっちゃった。
反省していると、鶴屋さんがにんまり笑って、
「ところでみくる、みくるはどっちが攻めだと思う?」
なんてことを聞いてきたんです。
あたしは思わず、
「もちろん、古泉くんですっ」
と鼻息荒く答えちゃったんだけど、鶴屋さんは、
「えぇ? キョンくんじゃないのかいっ?」
って首を傾げた。
どうしてそう思うのかしら。
どこからどう見たって、キョンくんは受けなのに。
「古泉くんの方が受けっぽいと思うけど?」
「一見そう見えて実は、っていうのが萌えるんじゃないですか」
「うーん、でもなぁー」
なんて言う鶴屋さんとこそこそ内緒話をしながら、来るかどうか分からない明日のための準備をしました。
キョンくんと古泉くんにも、ちゃんと焼きそばを持っていってあげたりしているうちに、夜になってしまったんだけど、そろそろ帰るはずの鶴屋さんが、帰ると言い始める前に、とあたしは鶴屋さんにお願いしました。
「あたし、今日、帰れないんです。だからシャワーを浴びたいんですけど、一人じゃ怖くて……。鶴屋さん、一緒に来てくれませんか?」
「いいよっ、みくるの頼みだからね!」
快く引き受けてもらえてよかった。
ほっとしながら準備を整えて、鶴屋さんと一緒に体育館に向かいます。
シャワールームは体育館にあるんだけど、壁とか結構薄くて、誰もいない時にひとりで使うと音が響くから、別な意味でもドキドキしちゃいそうです。
昼間は平気でも、夜になると流石に校内を歩くのも怖くて、あたしはおっかなびっくりって感じで鶴屋さんの腕にしがみつきながら、体育館に行きました。
そうして、男子のシャワールームの前を通った時でした。
「……っあ、ん、や、やっぱり…」
シャワーを使う水音の中に、そんな声が混ざって聞こえました。
当然、あたしも鶴屋さんも足を止めます。
黙っているのは言うまでもありません。
だってその声は、キョンくんの声だったんだもの。
いつものお疲れ気味の声とは違って、色っぽくて、ドキドキしちゃうような声に続いて聞こえたのは、いつもよりずっと意地悪そうな古泉くんの声でした。
「今更何を言い出すんですか? 誘ったのはあなたの方でしょう?」
「俺は…っ、そんな、つもりじゃ…」
「あなたの方から誘ってくださったのは事実です。…心細かったんでしょう? 人間、疲れた時には精神状態も不安定になりがちですから、不安を抱いたことを隠さなくてもいいんですよ」
「ひっ、ぅ……痛い…っ」
「ああ、すみません。少々やり過ぎました。でも、気持ち良さそうに見えますね」
「んっ……痛いけど…気持ちいいから…。…というか、古泉…」
「なんです?」
「お前、なんで、こんなことまで、ぁ、うまいんだ…? そんなのまで、機関仕込みだとは、流石に、言わんだろうな……?」
「ふふっ、禁則事項です」
「お前がそれを使うな」
コン、と小さく硬い音がしたのは、キョンくんが古泉くんを叩いた音だったんでしょうか。
あたしとしては、禁則事項って言葉を使われるくらいかまわないんだけど、キョンくんは気に入ってるのかなぁ。
「痛いですよ。酷い人ですね。僕はこんなに献身的にご奉仕しているというのに…」
「何が、奉仕だっ、…冗談も大概にしろ…」
「奉仕とは言えませんか? この状況を見れば、誰がどう見ても、僕があなたに対して奉仕しているようにしか見えないと思いますが」
「知、るか…っ、ん、ぐっ…ぅ……く――…っ」
「ね、熱いシャワーと同時にマッサージするのも結構効くでしょう?」
「あー…気持ちい――…」
あたしと鶴屋さんは同時に脱力しました。
それこそ、床に突っ伏さなかったのが不思議なくらい。
「お約束ですけど…でも……」
小声で漏らしながらため息を吐いたあたしに、鶴屋さんは明るく、
「でもまぁ、いいもの聞かせてもらったから、よしとするさっ」
こんな時でもそんな風に言えるなんて、なんてポジティブなんだろう、と思いながらも耳はまだキョンくんの色っぽい声を拾っています。
「…キョンくんの声、凄く色っぽいですね」
女子のシャワールームに移動しながらあたしが言うと、鶴屋さんも頷いて、
「あれを聞いたらキョンくんが受けにしか思えないよ」
と言いました。
冷静に考えれば、一緒に平気でシャワーを浴びれるんだから、ふたりの関係は健全なもの以外のなにものでもないんでしょうけど、でもやっぱり、妄想は止められません。

だって、腐女子なんだもの。