オリキャラ注意の捏造警報です
そんなんでもオッケイっていう猛者だけお願いします

こんな注意書きの下でなんですが、
ネタを提供してくださり、
色々相談にも乗ってくださった匿名係長様、
ありがとうございますw


てなわけで、ある意味合作な連載スタートですよっと







































ハーフムーン
  第一話



サンタはいるか、と聞かれたら、想像上の赤服じーさんなんぞいないと答えてやる。
だが、その由来となったじーさんなら、うちの遠縁のじじいだったりする。
どういうことか、説明するのは難しいようでいて実に簡単だ。
ただし、聞き手に柔軟な思考が必要になるだけで。
サンタクロースの元となったとされるそのルーツの一つは、北欧の森に住む妖精であるという。
その妖精が、うちの母方の遠縁のじじいであり、うちのお袋は由緒正しくも北欧の森から出てきて、流れ流れて極東にやってきた妖精の一族の血を引いているということだ。
血を引いているどころか、お袋自身、多少他の種族――まあ、言ってみたら日本に住む妖精のようなもんだな――の血が混ざっているため、見た目からして大和民族ではあるのだが、歴とした妖精、エルフである。
そこ、座敷わらしなんて言うなよ。
妖怪ってのもちょっと違うらしいから、下手にお袋を刺激しないでくれ。
拗ねて森に帰られると困る。
ともあれ、そんなお袋はなんだかよくわからんが、ただのサラリーマンに過ぎない親父と恋に落ち、どう市役所の戸籍係をごまかしたものかしらないが、ちゃっかり結婚。
子供まで成したその子供のひとりが俺というわけだ。
つまり、純粋な妖精であるお袋と、人間に過ぎない親父との間に生まれた俺や妹は、半妖精とかハーフエルフとか呼ばれるものなわけ。
妹が歳の割に幼いのは、妖精の長命かつ成長が緩やかな特性が色濃く出たからであり、俺が歳の割にじじ臭かったり、妙な知識があったりするのもやはり、知識の豊富なところを受け継いだからである――というのがお袋の主張であるが、どこまで本気にしていいのか、甚だ怪しい。
ともあれ、俺はマジに自分が非科学的な不思議世界の住人であるということを、割と大きくなるまで自覚していなかった。
家の中で皿が飛ぼうが、植物が異常繁殖しようが日常光景に過ぎないのが当時の我が家だったし、皿やコップは今でも時々ふよふよと飛んでいる。
それもあって、俺はテレビの特撮物や心霊特集を本気で信じたりしていたわけだ。
そして、人間でもハーフエルフでも同じように、自分にとって日常であれば何も不思議に感じないので、俺もそれ以外の不思議を求めた。
しかし、それでもまさか、本物の宇宙人や未来人、超能力者なんかとお近づきになる日が来るとは思わなかったがな。
だが、そういうことを抜きにしても、SOS団というこの集まりは快いものだった。
たとえば、もし俺が、
「俺は本当はただの一般人なんかじゃなくってハーフエルフなんだ」
なんて本当のことを白状したところで、ハルヒはおそらくバカにしたように俺のつまらない冗談として片付けるだろう。
だが、それでも根本からの否定なんかしないはずだ。
「バカじゃない、そんなこと言われて信じると思うの。あんたみたいな妖精がいたら、ロマンも何もないでしょ」
などと言いながら、それでもエルフだの妖精だのの存在は信じ続けてくれるに決まっている。
朝比奈さんなら、
「そうだったんですか」
と驚いてくれるだろうか。
それとも既にそうと知っていて、少しも驚かないのだろうか。
そこはどうせ例の「禁則事項」だろうから、答えてはもらえないのだろうけれど、しかし、間違いなく否定はされないだろう。
長門も同じように、否定などしないに決まっている。
俺がそうだということも知っているはずだ。
だから、いつものように、それこそ、俺がみれば分かるだろうに、自分の性別を今更になって殊更に強調したのと同じように、
「……そう」
の一言も返せば御の字で、ヘタすりゃただ頷くだけに決まっている。
…だが、古泉はきっと違う。
「へえ、そうだったんですか」
と言いながらも、腹の中では信じてくれないのだろう。
あいつは俺がただの人間だと信じきっているし、それに、ああ見えて存外頭が硬いのだ。
そう分かっていたのに、どうして俺は、言っちまったんだろうな。
その日は、部室にいるのは俺と古泉と長門だけで、ハルヒは来る心配もなかった。
だから、だろうか。
俺は、チェス盤を見つめながら、
「古泉、」
と声を掛けた。
「なんでしょうか?」
「お前、前に言ったよな? 俺はただの人間だって」
「言いましたね」
「あれを訂正しておく」
「訂正……ですか?」
訝る古泉に、俺は殊更にはっきりと頷いて、
「俺は実はただの人間じゃない」
「おや、ではなんでしょうか」
面白がるように古泉は笑った。
全く信じてないな。
まあいい。
「聞いて驚け。俺の親父はただの人間だが、実はうちのお袋は人間じゃない。妖精なんだ」
「ほう、ではあなたと妹さんは妖精と人間のハーフというわけですか」
「そうだ」
「それなら、あなたも何か不思議な能力をお持ちなのでしょうか?」
「いや、」
と俺は顔をしかめた。
「意識して使えるようなものは特にないな。ただ、半月の頃になると力が強まるみたいでな。……映画撮影の時、桜が狂い咲きしたのを覚えてるか?」
「ええ」
「あれは俺のせいだ。ハルヒがぶつくさ言ってたのを聞いて、無意識にやらかしちまった」
「なるほど。他には?」
「孤島に行った時の台風も俺が呼んじまった。だがあれは、お前がクローズドサークルがどうとかって講釈を垂れるからいけないんだぞ」
「おや。確かにあの時の台風の動きは不自然でしたが、まさかあなたの仕業だったとは」
大仰に驚くそぶりを見せた古泉に、俺はいよいよ虚しくなった。
やめだ、やめ。
「古泉、お前、全然信じてないだろ」
「ばれましたか」
くすっと笑った古泉の顔は、ハルヒの前では見せないようなものだったが、そんなものに気を取られる余裕など俺にはなかった。
ずきりと胸が痛み、酷い喪失感に襲われた。
体や心、あるいは、存在そのものの根幹を揺るがされるような感じさえした。
このまま自分が消え失せてしまうような。
……だが、この感覚だって初めてのものじゃない。
存在を否定される度に味わってきたものだ。
それなのに、久しぶりだったからかね。
酷く強い痛みを感じた。
痛みに疼く胸を押さえながら、
「なかなか面白い冗談でしたが、まさか涼宮さんにお話しするつもりじゃありませんよね」
なんて古泉の言葉を聞き流す。
ふと横目で見ると、長門が何か言いたげに俺を見つめていた。
その視線は、どこか心配そうですらあった。
実際、長門は心配してくれていたのだろう。
そして、長門が口添えしてくれれば、いい頭の固い古泉であろうとも、俺の主張を嫌々ながらにでも認めてくれたはずだ。
だが、そんなことをしてまで認めてもらいたいわけじゃない。
存在を否定されて本当に消えてしまうような儚さは、俺のような半妖精にはないものだし、喪失感だってそう感じるだけ、ただの錯覚に過ぎない。
別に大丈夫だと長門に首を振って答えた俺は、それでもその日、残りの時間をほとんど黙りこくって過ごした。

唐突だが、俺は一ヶ月のうちでどんな時が好きかと言うと、勿論小遣いをもらえる月初めも好きなのだが、経済的な意味を除くと、月に二度ほどある、半月の頃が特に好きだ。
一番力が充実している気がするし、実際そうなんだろう。
普段は使えないような力が使えたり、見えないものが見えたりするのだから。
俺のように、半月の頃に力が強くなるのはどうやら変わったことらしく、いとこやはとこやおいっこめいっこにも不思議がられる。
たいていは、満月か新月、どちらかに偏るからだ。
そんなわけで、半月の頃は妖精なんかもどこか大人しい。
大人しいというか、無防備なんだろうか。
だからこそ、俺みたいな半人前にも見えるように思う。
俺ひとりやけに充実した状態で、ふらふらと夜の街をそぞろ歩きなどするのが楽しかった。
お袋は妖精だからか、子供が夜歩きしていても何も思わないらしい。
せいぜい、面倒な人間に見られないよう気をつけろと言われるくらいだ。
何度も口を酸っぱくして言われるのは、半月の頃の俺が、力が充実しているのはともかくとして、それに伴って、力の安定性に欠くせいだ。
制御が不安定化した力は非常に厄介で、勝手におかしなことになっても不思議じゃない。
桜の狂い咲きや、台風召喚みたいにな。
というわけで、何かあっても大問題にならないようにと、俺は人目を避け、ふらふらと人気のない夜中の公園をぶらついていた。
気にかけるのは人目と力の暴走のふたつだけだ。
余計なことにならないよう気をつけながらでも、歩いているといつもとは違う世界が見えた。
木の陰や、月光の中に精霊や妖精の気配を感じる。
風の匂いもいつもとは違った。
妖精たちはたいてい気位が高いものだから、俺みたいな半妖精なんて中途半端なものに構ってくれることはないのだが、木の枝間にまどろむ姿が見えるだけでも面白い。
そうして歩く俺の姿に、どれほどの人間が気付いたかはよく分からない。
何せ、俺は半分妖精だからな。
見え辛いと感じるやつがいても不思議じゃないし、実際、焦っていたり疲れていたりすれば見えてないだろう。
それくらい、曖昧な存在なのだから仕方がない。
ともあれ、俺は周囲に人の気配が全くなくなったのを確かめて、地面を蹴った。
別に、古泉にあんな反応をされたから、目に見える証拠を見せてやろうなんて思ったわけじゃないが、ふわふわと飛んでいる小妖精を見ていると、あんな風に飛んでみたいと思ったのだ。
月光に引き上げられるように、一瞬、ふわりと体が軽くなる。
だが、そんなもんは本当に一瞬のことで、すぐに俺の体は重力の存在を思い出し、地面へ落ちる。
それでも、ただジャンプするよりは飛べたはずだ。
この調子でいけるか?
首を捻りながらも、俺はもう一度地面を蹴った。
さっきよりは滞空時間が延びた……気がする。
そんな具合で練習することしばし。
まどろんでいたはずの小妖精が目を覚まし、俺のぶざまな飛び方をせせら笑いはじめたので、いい加減にしてやめようかと思ったところで、
「……何をしてらっしゃるんですか?」
とすこぶる聞き覚えのある声で問われ、肝が冷えた。
「古泉? お前こそ、何してんだこんな時間に」
「散歩です。あなたこそ、何を?」
「俺も散歩だ」
「へぇ…」
せっかく会えたんだ。
いつもとは違う場所で見知った顔と話すのもいいだろうと俺は古泉を手近なベンチに誘った。
腰を下ろすなりため息を吐いた古泉に、俺はちょっと眉を寄せ、
「疲れてんのか」
「ああいえ、そういうわけじゃないんです。強いて言うなら、余計なものを吐き出しただけで」
「なら、いいんだがな」
そう呟いた俺に、古泉は柔らかく微笑んだ。
なんだよ。
「いえ、……このところ、あなたとゆっくり話すような機会もなかったでしょう? それにどうもここしばらく、あなたの方が僕との会話に乗り気でないようでしたので、あなたに嫌われてしまったのかと思っていたところなんです。それで尚更、あなたに心配していただけて、嬉しかったんです」
「あほか」
と笑いながら、俺は言う。
「嫌われるかもなんて心配するくらいなら、嫌われるような真似をしなきゃいいんだろうが。それとも、思い当たる節でもあったのか?」
にや、と笑った俺に、古泉はかすかに声を立てて笑い返した。
「全く、おっしゃる通りですね。でも、」
その顔が曇ったかと思うと、古泉はどうにも苦い声で、まるで独り言のように呟いた。
「僕はあなたに嫌われるようなことを、そうと分かっていながら、どうしてもしなくてはならない時も、ないわけではありませんから」
「古泉…」
「正直言って、僕は本当にあなたには感謝しているんですよ。涼宮さんの機嫌がこのところとても安定しているのは間違いなくあなたのおかげですし、それだけでなく、僕自身、あなたといるととても気が休まるのです。……いつもありがとうございます」
そう言って古泉は俺に頭を下げた。
「んな…大したことはしてないだろ」
「いいえ」
と古泉はやけにはっきりと口にした。
「ご自分では気付いておられないかもしれませんが、あなたは人の気持ちを慰め、穏やかにしてくれるんですよ。それに、僕を含めて、どれだけの方が救われるか」
「ありえん話はやめろ」
そう鼻で笑った俺は、
「それより、お前にちょっと聞きたいんだが、いいか?」
と話題の転換を図った。
「なんでしょうか」
「お前は、ハルヒが言うような不思議があると思ったりしてないのか?」
古泉は首を傾げた。
何を今更、とでも言うように。
「それは、涼宮さんが望むのであれば、あるのでしょうね。ただ、だからと言って、あらゆる超常現象が実在するとは思いませんが」
「なるほどな」
「あなたはどうなんです?」
「俺?」
「信じてらっしゃいますか?」
「そりゃ、まあ、な」
と俺は小さく笑った。
自分自身非常識な存在なんだ。
俺が信じなくてどうする。
…とは流石に言い兼ねた。
「宇宙人に未来人に超能力者まで会ってるんだ。他のがいないなんて言い切るほど、固い頭はしとらん」
「なるほど」
そう言って古泉が笑ったのが癇に障り、む、と眉を寄せた。
「なんだよ」
「いえ、あなたらしいな、と、そう、思っただけなんです。悪い意味ではありませんよ」
にこりと古泉は笑ったんだと思う。
だが、その笑い方が、いつものあの作り笑いとはどこか違って見えて、戸惑った。
今のは、作り笑いではなく、本心からのそれだとでも言うんだろうか。
だとしたら、なんでこいつはそんな綺麗な笑い方が出来るんだろうかと思った。
妖精ってのは、特に小妖精とかエルフみたいなもんは、人間とは比べ物にならないほど綺麗な生き物だと思う。
そんなものを見慣れてるはずの俺なのに、古泉のその笑みは、妖精なんかよりももっとずっと綺麗で、美しいもののように思えた。
正直、見惚れたと言っていい。
古泉は自分の笑顔がどんなものだったか、意識してないのか、怪訝な顔をした。
自分じゃ自分の顔は見れないから仕方ないのかもしれないが、それにしたって無防備だ。
「どうかしました? 気持ち悪いことでも言っちゃいましたかね」
まるで不安がるように言う古泉に、俺は慌てて、
「いや、そうじゃないから気にするな」
と打ち消し、これ以上不審がられないようにと、
「お前は、頭が固いよな?」
少々意地悪く言ってみたが、古泉の笑みは消えなかった。
「そうですね。我ながらどうかと思うことも度々ありますよ。あなたの柔軟性を分けていただきたいくらいですね」
「柔軟性ねぇ……」
だったら、と俺は薄く笑って提案した。
「ちょっと想像してみろよ」
「想像、ですか?」
古泉は珍しくもきょとんとした顔で首を傾げた。
どうやら今夜は油断しているらしい。
それとも、俺から見ると逆光になるのに加え、これだけ薄暗ければ表情なんてろくに見えちゃいないとでも思っているんだろうか。
残念ながら、半月の頃は視力もよくなるんだな、これが。
というわけで、俺には古泉の表情の変化が、薄暗闇の中でもよく分かった。
「もっと不思議なことと遭遇したら、とかな。それか、遭遇するならどんなのがいいとか、ないか?」
「……どうでしょうね」
と古泉は苦く笑った。
「やはり、立場と言うものがありますから、どうしても隠蔽することばかり考えてしまいそうですよ」
「職業病みたいになってるな」
呆れて呟いた俺に、古泉もため息を吐いて、
「全くその通り、因果なものです。自分が超能力者なんかにならなければ、ここまではならなかったように思うんですが」
「じゃあ、あれか? お前の頭が固いのは、不思議を自分で事実だと認めちまったら、隠蔽して誤魔化したり、ハルヒに否定させるのも苦労しそうだからか?」
「そうですね。そういうこともあるのかもしれません」
「……じゃあ、こう考えたらどうだ? 今更新しい不思議が出てくるとかじゃなくて、お前の力が閉鎖空間の外でも使えたら、とか」
「…ああ、なるほど」
そう呟いて、ほっとしたように笑ったってことは、俺の提案したこの遊びに付き合えないことを悪く思ってたってことなのかね。
翳りがちだった表情を明るくさせた古泉は、少し考え込んで、
「…そうですね、あの力が閉鎖空間だけでなく通常空間でも使えたなら、やってみたいことがひとつだけ」
「なんだ?」
「……空を、」
空?
「飛んでみたいです。あの灰色の空ではなくて、こんな綺麗な夜空を」
そう言って空を見上げた古泉に釣られて、俺も顔を上げた。
街中だから、古泉には大して星も見えてないのだろうが、俺の目にはちゃんと星も見えた。
風に乗り舞う、小さな妖精の姿も、力をくれるような月の光も、古泉には見えない。
俺だって、普段は見えないものだ。
それを見せてやれたら。
そんなことを思った時、俺の目標は決まった。

古泉と一緒に、空を飛んでみたい。