とある彼女の憂鬱  第十話



びりびりと部室棟が揺れた。
でも、どうやらこちらが攻撃されたわけではないらしい。
破壊されたのは向かいの校舎だろうか。
「ひゃっ、な、なんなんですか…?」
なぜだか真っ赤になりながら、びくついた様子で震えている朝比奈さんの手を掴んで起こし、僕は走り出した。
驚いているのか、彼女は案外素直についてくる。
汗ばんでいるのは僕の手だろうか。
それとも、彼女の?
ぞっとするような破壊音を聞きながら、僕は走る。
勿論、彼女の手は離さない。
逃げ場を求めて、一目散にグラウンドへと走り出た。
角を曲がるついでに見た朝比奈さんの顔は、気のせいかもしれないけれど、何故だか喜んでいるようにも見えた。
未知との遭遇がそんなに嬉しいんだろうか。
それとも、他に何か喜ぶ要素でもあっただろうか。
校舎を壊されてもいいように、その破片が飛んで来ないことを祈りながら、何もないグラウンドの真ん中目指して走る。
振り仰いで見た巨人の大きさは、校舎をはるかに上回って高く、大きかった。
振り上げられる拳の、その一撃だけで、校舎には大きな穴があき、そして崩壊していく。
終末の日のような光景から目をそらすように、僕は目をそらした。
転校してきてから、一ヶ月も経っていない。
でも、それでもそこは、困るべきか面白がるべきか迷ってしまうような、つまりは楽しい思い出に溢れた、僕たちの校舎であることに違いない。
それが粉々に破壊しつくされていく光景に、ぞっとしたものを感じた僕は、おそらく間違ってない。
だのに、
「ねえ、古泉くんは、あれが襲ってくると思うの?
どこか楽しそうな朝比奈さんの声が、いまだ走り続けている僕の耳に届いた。
「あたしには、邪悪なものには思えないんですけど。ううん、害意があるようにも思えないの。そんな気がしない?」
「解りません」
寒気を感じながら、僕は考えていた。
これからこの世界が一体どうなってしまうのか。
いや、この世界がじゃない。
僕たちがどうなってしまうのかと。
そして、僕たちというのは僕と朝比奈さんの二人だけじゃない。
僕と朝比奈さん、それからSOS団のみんな。
いいや、それ以上に沢山の人たちも含めたい。
田舎の友人も、こちらで出来た友人も、友人未満のクラスメイトも、教師や、それどころか、よく行くスーパーのパートのおばさんを入れたっていい。
この世界が本当に新しい世界なら。
今、そうして古いものを全て壊し、捨て去ることで、新しく生まれ変わろうとしているなら、そしてそれが、今僕が手を繋いでいる人によるものなのだとしたら、僕が失いたくない、どうなってしまうのか案じている人々は完全に必要ないとみなされてしまったと言うことなんだろうか。
それは嫌だと思った。
失いたくない。
あの世界を、心から愛していたわけじゃない。
いなくなりたい、あるいは、世界が変わってしまえばいいと思ったことだって、僕にはある。
それでもだ。
僕は、あの世界に惰性めいた愛着があったし、あの世界で暮らすことが楽しかったんだ。
「元の世界に戻りたいと思いませんか」
意を決して、僕は彼女に尋ねた。
「え?」
確かに輝いていたはずの瞳が、ただそれだけのことで、濁ったように思えた。
灰色の世界でも際立って白い顔が僕を見る。
そこには、裏切りを咎めうるような色が滲んでいるように思えたのは被害妄想と言うものだろうか。
「一生こんな所にいるわけにはいかないでしょう。食事をするところもありませんし、店も開きません。それに、見えない壁がある以上、ここから出て行くことも出来ないのであれば確実に飢え死にするしかありませんよ」
我ながらどういう説得の仕方だろうかと思いながら、それでも一応本能に訴える部分があるだろうとおもって口にしたのに、彼女はどこか朗らかな声で、
「うぅん、なんだかね、不思議なんだけど、そのことは全然気にならないんです。なんとかなるって思えるの。自分でも納得出来ないんだけど、でも、ううん、なんでだろ、あたし、今ちょっと楽しいんです」
「SOS団はどうするんです? 放り出してしまうんですか?」
「いいの。元々あたしは引っ張り込まれただけですし、それにほら、あたし自身がとっても面白そうな体験をしてるんだもん。不思議を探さなくていいと思いません?」
「不思議を見つけた以上、団長に報告した方がいいとは思いませんか?」
「そうでしたね、報告しなきゃ。きっと、朝になったら、涼宮さんにも会えますし…」
「そうじゃないんです。朝比奈さん、僕は、戻りたいんです」
はっきりと僕は告げた。
「こんな状況になって初めて気が付きました。僕は案外、今までの暮らしが気に入っていたようです。涼宮さんや長門さん、それから彼も含めて。そうですね、そこに、消えてしまった朝倉さんを付け加えてもいいです」
「古泉くん…?」
「僕は、みんなにもう一度会いたいんです。話すこともやりたいことも、まだいくらだってあると思うんです」
朝比奈さんは悲しげに顔を曇らせながらも、
「会えますよ、きっと。この世界だって、朝がきて、そしたらみんなにも会えます。あたしには分かるの」
「違います。この世界で会いたいんじゃないんです。元の世界のみんなに会いたいんですよ」
「意味が分かりません…。この世界と元の世界で違うっていうの? おんなじですよ。こっちの世界の方が面白いことが沢山あるはずなのに、どうしてそんなこと言うの…?」
戸惑うように、彼女は僕を見つめていた。
この世界を構築しようとしているにしてはとてもあどけなく、淋しげな顔だった。
「古泉くんだって、なんの面白いことも不思議なこともない、平凡な世界に飽き飽きしてたんじゃないんですか? 特別なことが起きる世界の方がいいじゃない」
「僕だって、そう思ってましたよ」
「だったら、」
「でも、」
僕は朝比奈さんの言葉を無理に遮って、頑迷なまでに主張を繰り返した。
「あの世界だって、急に放り出されるほど酷くもなければつまらなくもないんです。ただ我々が、面白さを見落としがちになってしまうだけで」
そんなことを話している間にも、校舎の取り壊しは進み、それとともに世界も姿を変えていくようだった。
既に見慣れた光景はなく、そこにあってしかるべき瓦礫の山さえ見えなかった。
「そう、あなたが気がついていなかっただけで、色んなことがあなたの周辺では起きていたんですよ。世界はあなたを中心に回っていたと言ってもいい。誰もが、あなたを特別な存在だと考えて、あなたに働き掛けようと行動していたんです。あなたが知らずにいただけで、世界は確実に面白くなっていたんですよ。それを、こんなところで放り出してしまうなんて、勿体ないと思いませんか?」
僕は掴んでいた彼女の手を離し、代わりにというとなんだが、彼女の肩を掴んだ。
真正面に、訝る様子を隠しもしない朝比奈さんの複雑な表情を見据える。
朝比奈さんは僕から顔を背け、まるでそれが義務であるかのように、支配者めいた視線で校舎を破壊し尽くそうとしている巨人を捉えた。
僕から見るといくらか横を向いたその顔は、年相応と言うにはあまりにも大人びて、普段とは似ても似つかないような物悲しさを帯びていた。
彼は言った、「進化の可能性」と。
長門さんは「時空の歪み」だと言った。
涼宮さんなど、「神」扱いだ。
では、僕にとってはなんだろう。
決定的な答えなど、僕は持ち合わせていない。
ただ分かるのは、ここで突き放すことも出来ないし、逆になにもかもを棄ててついていくことも出来やしないということだ。
彼女について、誰が何と言おうと関係ない。
そんなのは僕ではない誰かの認識であって、そんなものでは、僕の認識に影響を与えられはしない。
僕にとって彼女は――。
巨人が一斉にこちらを振り向いた。
確かな視線を感じる。
彼らに破壊されることで世界が生まれ変わると仮定したなら、これはどういうことだろう。
さっきまで、僕たちに向かってはこなかった彼らがこちらを攻撃対象として捉えているということはつまり、僕もまた生まれかわらなければ新しい世界の住人として認められないということだろうか。
あるいは、彼女自身さえも。
巨人の急激な対応の転換は、僕の対処のまずさを指摘しているように思った。
やばいなんてものじゃない。
なんとかしなければ、本当にどうしようもなくなってしまう。
恐怖に焦りそうになる頭を叱咤して、僕は考える。
長門さんはなんと言った?
その予言、あるいは預言を思い出せ。
それから、彼が最後の力を振り絞るようにして伝えてくれたメッセージは?
白雪姫。
スリーピングビューティ、すなわち眠り姫。
その共通点は?
もしかしたらいくらだってあるのかもしれないが、今の僕に思い付くのはひとつきりだ。
その答えを、理性は一笑のもとに切り捨てる。
そんなベタな展開が、平凡なものを嫌う彼女を満足させるに足るなんて思えもしない。
けれど、僕の直感はそれが正解だと僕を急かしていた。
もう時間はない。
僕は彼女の肩を掴んだ手から抜けつつあった力を呼び戻し、彼女を強引に振り向かせた。
「なんですか……」
拗ねたような彼女の顔に、歯痒さが募る。
「僕は、転校してきて、あなたに出会ってから、ずっと楽しくて仕方がないんです」
「え……?」
「それだけでも、あなたは僕にとって特別な存在なんですよ」
「こ、古泉くん…?」
怯えるように震える肩を押さえて、僕は強引に彼女の唇に自分のそれを重ねた。
こういう時は目をつぶるものだと聞いていたから、僕も当然目を閉じていたので、彼女の表情は分からない。
泣きそうなのか、痴漢に遭遇したような顔になっているのか、はたまた助けを呼ぼうとして叫ぶ寸前なのかさえ。
たとえ痴漢よばわりされてもいいと思えた。
誰だって、こんな状態になったらそう思っただろう。
もう少しだけでも、とついつい彼女の体を抱きしめる腕に力がこもる。
遠くでまた耳をつんざくような物凄い音がしたかと思うと、不意に衝撃を覚え、とうとうあの青い攻撃を受けたかと思いながら目を開けると、そこにはすっかり見慣れた天井があった。
「ゆ……め…?」
そんな馬鹿なと思いながらも、何が馬鹿なものかとも返す。
夢に決まってる。
現実であるはずがない。
あそうだとも、と思おうとする僕の努力を無に帰すのが本当に好きらしい宇宙人は、翌日の休み時間に廊下で会ったかと思うと、
「お前と朝比奈さんは、二時間三十分、こっちから消えてた」
と断言してくれた。
夢オチで済ませてくれるような優しさはないらしい。
「そうでしたか」
と一応頷いた僕は苦笑しながら、聞きそびれていたことを聞いてみる。
またいつあんなことが起きるか分からないから、ではなく、純粋な好奇心で。
「ふと思ったんですが、あなたの本名を聞きそびれてましたね。…教えていただけませんか?」
彼はかすかに怪訝な顔をしたものの、
「本名っつうか、製造番号みたいなもんだがな。……一番近い表現をするなら、KYZERONだ。もじってキョン」
「え? それをどうもじったらそうなるんです?」
首を傾げる僕にため息を漏らしながら、彼は律義に答えてくれた。
「最初と最後のKYとNはそのままにして、間のZEROをアラビア数字のゼロに直してみろ。0がアルファベットのOに見えるだろ。それでローマ字読みすれば、キョンだ。KYONでキョン」
「ああ、なるほど、そうだったんですね」
納得した僕は微笑しながら尋ねる。
「キョンと呼んだ方がいいですか? それとも、極力本名に近い方がいいでしょうか」
「キョンでいい。…前にも言っただろ」
「そうでしたね」
小さく笑って、もうひとつ、気になっていたことを問い掛ける。
「教えてください。あなたのような存在は、あなたの他にどれだけ地球上にいるんです?」
「俺のような存在ってのが、俺と同じく情報統合思念体によって作られた、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースのことを指すなら、そこそこいるぞ」
「それでは、僕はまた朝倉のようなものに襲われたりするんでしょうか?」
「大丈夫だ」
彼はいつも以上に自信たっぷりに答えた。
「お前のことは俺が守る。相手がなんであれ、手出しはさせん」
僕は軽く目を見開くと、そのまま小さく笑った。
この人がここまで言ってくれるとは。
「それは、とても頼もしいですね」
「そうかい」
言うべきことは言ったとばかりに去っていく彼の背中を見送ったところで、ばしんと派手に背中を叩かれた。
「おっかえり!」
眩しいばかりの笑みを見せたのは涼宮さんだった。
「帰って来てくれて嬉しいわ。なんと言ってもみくるちゃんとはまだまだ全然遊び足りなかったし、古泉くんとももっと仲良くなりたかったんだから。それにしても、よくやってくれたわ。もうダメだとばかり思ったのよ?」
「ご心配をおかけしてすみませんでした」
この人は何があっても動じない、と思い、目を細めながら一応そう言った僕に、
「楽しかったからいいわ! それより、我らがSOS団の存続が決まった以上、みくるちゃんを退屈させたりしないように、色々考えなくっちゃ。古泉くんも協力してよ?」
「ええ、僕に出来ることでしたらなんでも」
そう笑えば、涼宮さんもにやっと笑い、
「その言葉、忘れないでよ?」
と言われ、一瞬後悔したものの、
「はい」
と頷く。
こんな風に言われるのも、この世界に戻ってきたから出来ることだと思うと、なんだか嬉しいばかりに思えるのだ。
僕の表情からそれを見て取ったか、涼宮さんはじっと僕を見つめて、
「うん、いい顔になったわね」
「そうでしょうか」
「前よりは、だけどね」
と彼女は笑って、
「古泉くんも変わるのかしら」
「僕も……ですか?」
少しばかり引っ掛かるものを感じて呟いた僕に、
「みくるちゃんも変わったわ。有希も、ちょっとだけど。キョンも、随分変わりつつあるんじゃないの? 分かりづらいけど」
「そう…なんですか?」
「そうなのよ」
涼宮さんは楽しそうな声で言った。
「今から楽しみだわ」
それで話は終わりだったのか、涼宮さんはチェシャ猫みたいに笑いながら去って行った。
放課後の部室で顔を合わせた長門さんは、同じく部室にいた彼がいつものように、僕へ理不尽な言葉を呟くより早く定位置のパイプ椅子から立ち上がり、僕にの胸に飛び込んできた。
「よ、かった…」
気のせいか、泣きそうな声な声に聞こえたけれど、それさえ、僕の思いあがりのように思えるほど、彼女の声は淡々としていた。
彼女の瞳も、乾いたままだ。
彼女に課せられた制限は、不条理なまでに効力を持っているらしい。
「ご心配をおかけしました」
「……私のせい。……すまない」
いつもと同じ調子で言いながらも、僕を見つめた彼女の目は優しかった。
しかし、それはすぐに消え、彼女はぱっと体を離した。
「いけない。……こんなところを見られたら、また…」
何の心配をされてるのかよく分かりませんけど、彼女には彼女の考え方と言うものがあるのだろう。
僕は苦笑しながらそろりと彼女から離れ、いつもの――そう、いつものだ――席に座り、いつものように彼と向かい合う。
「今日は、遅いと言いませんでしたね」
「隙がなかっただけだ」
そう言いながら、彼は生気の感じられない目で長机の上にぽっかりと空いた空間を見つめていた。
その目も、どこか超然とし過ぎて人間らしからぬ態度を僕にとるのも、彼が気を許してくれているからだと思うと、なんだか嬉しくて、
「オセロでもします?」
と声を掛けていた。
そういうことだろうと思ったのだ。
どうやらそれは当たっていたらしい。
彼はかすかに口の端を動かして、笑みらしきものを見せたかと思うと、小さく頷いた。
僕が判別出来るギリギリを狙っているかのような、本当に小さな動きだったけれど、十分だ。
僕が立ち上がり、棚からオセロを引っ張り出したところで、部室のドアが開いた。
「こんにちは」
ここしばらくの虚脱したような様子を忘れたように、朝比奈さんは野に咲く可憐な花のように朗らかな声を掛けてくれた。
彼がいち早く、
「こんにちは、朝比奈さん」
と声を掛け、僕も、
「こんにちは」
と声を掛ける。
…昨晩のことがあるから、少し恥かしい気がしたけれど、彼女にしてみればあれは現実ではないのだろうからと、努めて平静を装ったのに、
「あ…」
とかすかな声を立てた朝比奈さんは、恥かしそうに顔を染め、
「…こ、ここ、こんにちは…」
……ええと、この反応は一体……。
その後登場した涼宮さんによって朝比奈さんがまたまた無体な目に遭わされているのを背後に聞きながら、僕は彼に尋ねた。
「朝比奈さんは、あれを覚えてるんですか?」
「さてね」
曖昧に彼は呟いた。
「意地悪しないで教えてくださいよ」
「……夢だとでも思ってるんじゃないか?」
「随分曖昧な返事ですね。あなたなら、なんだってご存知かと思ったのですが」
「お前に喋り過ぎてもよくないだろ。…特に、朝比奈さんのことはな。だから、自分で考えろ」
「分かりました」
頷いて、僕は顎に指を当てて考え込んだ。
はっきりと覚えているのだろうか。
でも、彼女にしてみればあれは夢でしかないはずだ。
つまり、あんな夢を見たというだけで、あんなにも恥かしがる人だと言うことか。
それはまた、なんとも、
「…可愛らしいですね」
「妄想垂れ流しみたいな独り言はやめろ」

ともあれ、僕たちは自分の日常に帰ってきた。
これからも、あの非日常的な日常が過ぎていくのだろう。
そのことに、僕は少なからず怖気づきながら、それでもほんの少し、本当に少しだけだけれど、楽しみにしているのじゃないだろうか。
よくない兆候だ、と思いながら、僕は時計を見上げた。
待ち合わせの時間にはまだ三十分ばかりもある。
しかし、律儀な朝比奈さんのことだ、もうそろそろ来るに違いない。
第二回の不思議を求めての市内探索は、どういうわけか、涼宮さんも彼も長門さんも欠席だという。
そのくせ、団長不在であっても決行しなくてはならないのだというから、僕はこうして朝比奈さんを待っているわけだ。
その三者が揃いも揃って欠席ということに、少なからず作為的なものを感じるし、実は三人ともがこっそりとこちらを観察しているのではないかと思いもする。
そうじゃなくて、三人で何か会議をしていても不思議でないと言えばその通りだ。
ともあれ、ただの人間に過ぎない僕には、ただの人間などではない彼ら彼女らが一体何をしていたところで、知ることは出来はしないので、分からないものは分からないままでいよう。
ヘタに知らない方がいいこともある。
思った通り、すぐに姿を見せた朝比奈さんは、僕しかいないことを怪訝に思ったりはしないのだろう。
なんせ、待ち合わせの時間にはまだまだあるのだから。
今日は僕たち二人だけで、しかし団長命令がある以上、一日市内探索を敢行しなければならないと聞いたら、どんな顔をするだろうか。
そう思うだけで少しばかり面映ゆい気持ちになるのを感じながら、僕は軽く手を上げて彼女を呼んだ。
さて、この後一体どうしようか。
まずは先日と同じように喫茶店でお茶だろうか。
それなら、その時に話したいことがある。
何をおいても話したい話だ。
まずは、そう――。
宇宙人と未来人と超能力者についての話をしてみたい。