とある彼女の憂鬱  第三話



後になって聞いたことなのだけれど、この日には既に我々の集まりの正式名称が決まっていたらしい。
なんでも、コンピュータ研究部にパソコンを強奪しに行く前、涼宮さんが、
「やっぱり名前が必要よね」
と悩んでいたため、朝比奈さんが、
「世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの団、ってどうですか?」
と無防備にも提案したのだと言う。
「なにそれ」
「えっと、前に、知り合った人が言ってたんです。世界を大いに盛り上げる…って」
「ふぅん。……世界を大いに……略してSOS団でどう?」
どうもなにも、そう言った時には彼女の中で決定されていたのだろう。
そんなわけで、SOS団と決まってしまったらしい。
僕がその翌日部室を訪れると、「文芸部室」のプレートは、涼宮さんの手によると思われる手書きの文字によって、「SOS団」に上書きされていた。
ドアをノックして、
「どーぞ」
とこれまた素っ気無い返事があるのを確かめて開ければ、
「遅い。だからもっと早く来いって言ってるだろうが」
と睨まれた。
「すみません。家庭調査の打ち合わせとか、色々することがあるものですから」
初めて体験したけれど、転校生と言うのもなかなかめんどくさい。
これは、転校生があんまり発生しない理由と結びつくんじゃないだろうか。
そう思いながら答えた僕は、彼が珍しく椅子に座っておらず、床にかがみこんでいたのにつられるように視線を下ろして、そのままうろたえることになった。
「なっ、な、なんなんですかぁ!?」
「声が裏返ってるぞ」
指摘しながら彼が拾っているのは、どう見ても女性特有の下着の類である。
それを恥ずかしげもなく素手で掴み、他の散らばっていた制服とあわせて、パイプ椅子の上に置いた。
見事なまでにきっちりとした折りたたみ方がいっそ嫌味ったらしいほどだ。
「きょ、今日は一体何があったんです…?」
「ハルヒの思いつきに決まってんだろ。全く……」
大袈裟なくらいはっきりしたため息を吐いた彼は、首を回しながら椅子に座りなおし、
「そう言えば、」
と思い出したように僕を見た。
「お前、なんで敬語なんだ?」
「え?」
「敬語。クラスでは敬語じゃないんだろ? なのになんで俺たちには敬語で喋るんだ? 朝比奈さんにだけならまだ、年上だからってんで説明はつくが」
「ああ、そうですね。……どうしてでしょう?」
僕にも理由はよく分からない。
ただ、
「なんとなく、敬った方がいいような気がしまして……。本当になんとなくなので、説明はし辛いんですけど」
「……お前、勘がいいのか悪いのか、どっちだ?」
「え?」
「いや、なんでもねぇよ」
そう言って彼は僕から目をそむけた。
僕は首をひねりながら長机の上に目を向け、そこに置かれた一枚の紙切れに気付いた。
「所信表明……?」
このSOS団ってなんですか、と彼に聞いたところ、先述のような説明をしてくれたわけだけれども、とりあえず、僕はこの所信表明に目を通した。
その内容を読みながら、つい笑ってしまったのは、別に彼女の文章がどうとか言うよりも、その子供っぽい勇気のためだろう。
それから、同じようなことを思っている自分についても、笑ってしまったのかもしれない。
本気でこんなことを主張する人がいたなんて。
「それで、涼宮さんと朝比奈さんはどちらへ?」
「さっきまで正門にいたはずだから、今頃は生徒指導室じゃないか?」
え。
「バニーガール姿でそのビラを配りに行くとかなんとか言ってたからな」
…それは……。
「捕まるだろ」
捕まるでしょうねぇ。
願わくば、お説教されるのは涼宮さんだけで、朝比奈さんは被害者として認められるように、と朝比奈さんのために祈った。
あなたの魂に安らぎあれ。

しばらくして、目を本物のウサギのように真っ赤に泣き腫らした朝比奈さんが帰って来た。
慌てて彼女のために椅子を引き、それから着替える気力も失ってすすり泣く彼女の肩にブレザーを乗せた。
肩が冷えるような季節でもないけれど、念のため。
それから僕の精神衛生のため。
美少女のむき出しの肩は、非常に目の毒だと思います。
こんな状況だから、僕は彼女の愛らしくも危なげな姿を網膜に焼き付ける間もなく、ひたすら途方に暮れる破目になった。
昨日以上に酷い有様に、僕はもはや言葉もなく、ただ朝比奈さんの肩が揺れるのを見つめるほかない。
気まずい沈黙に包まれた部室の中で、息苦しい時間を過ごすことしばし。
「あー、腹立つ!」
とおそらく非常に理不尽な怒りにびしびしと空気を震わせながら、団長がご帰還なさった。
それだけでびくっと震え上がる朝比奈さんのトラウマは計り知れないものがある。
ぶつぶつと生徒指導や担任の教師への文句を並べ立てる涼宮さんは、自分がまだバニーガール姿であることを覚えているのだろうか。
男の目と言うものを全く意識しない足取りで部室の中を横切り、あまつさえ愚痴を並べながら椅子に座って足を組んだ。
扇情的過ぎます。
しかし、彼はなんら気にしていない様子で、
「ハルヒ、お前、バイトは?」
と聞いた。
バイト?
今この状況でどうしてそんなものが気になるんだろうか。
「まだ大丈夫よ」
涼宮さんは涼宮さんで、さっきまでの不機嫌を忘れたように、不敵な笑みを返すし。
「…まだ、な」
と呟いた彼の声はいくらか呆れているように響いた。
本から顔を上げた長門さんも、心なしか心配しているように見えなくもない目を涼宮さんに注いでいる。
一体なんだというのだろうか。
「もういいわ。今日はこれで解散! 終了!」
そう言った涼宮さんがウサミミをむしりとり、机に叩きつける。
そしてそのままバニーの服を脱ごうとし始めるので、僕は慌てて顔を背け、いや、そうじゃなくて部屋から出るべきだと思い至って立ち上がった。
まだ動こうとしない彼の手を引っ掴み、
「何やってるんですか、出ましょう」
と言うと、彼は一瞬きょとんとした顔をした。
何を言ってるんだと言うような顔だ。
それに構わず、強引に廊下へ引っ張り出した段階でやっと合点が行ったらしく、
「…ああ、そっか、女子の着替え中に、男子である俺たちが部屋にいたらまずいよな」
と感心したように呟いていたが、
「まさかと思いますけど、お二人がバニー服に着替える時も部室に残ってたんじゃないでしょうね?」
「いや? 朝比奈さんが出てってくれと涙ながらに訴えるから、ちゃんと出た」
「………」
この人は一応常識のある人だと思ってたのだけれど、どうやらそれは違ったらしい。
あったとしても、涼宮さんと比較して、という程度だ。
とんでもない。
それとも、都会ではこんなものなのか?
そんな馬鹿な。
ドア越しに聞こえてくる啜り泣きの声と、
「いつまで泣いてんの! ちゃっちゃと着替えなさい!」
という怒声を聞きながら、僕は頭を抱えた。
本当にこの調子で無事に高校生活を過ごせるんだろうか。
ともあれ、なんとか無事に着替えを済ませたらしい朝比奈さんは、しかしながら、制服姿になったところで元気が出るはずもなく、しおれきった青菜みたいになりながら部室から出てきた。
かける言葉も見つからない僕をかすかに見つめて、
「古泉くん……」
と墓場の幽霊みたいな声。
「……あたしがお嫁にいけなくなるようなことになったら、もらってくれますか……?」
これはどう答えるべきなんだろうか。
ここで簡単に頷いてしまっていいものだろうか。
というか、これ、本気?
冗談なのかどうかさえ分からないんですけど、本当に大丈夫なんだろうか。
僕が迷っている間に、彼女は僕にブレザーを押し付けるようにして返し、ふらふらと危うげな足取りで帰っていった。
もしかして、彼女を家まで送るべきだったのだろうか。
「古泉」
彼に呼ばれて振り返ると、彼はどこか難しそうに眉を寄せて突っ立っていた。
その手にあるのは二つのかばん。
ひとつは僕のものらしい。
それを僕に押し付けながら、
「お前、明日の放課後は暇か?」
と聞くので、
「え? ……ええ、今のところ、ここに来る以外、何の予定もありませんが…」
「なら、悪いがちぃとばかり付き合ってくれ」
「明日……なんですか?」
放課後はここに来なくてはならないんじゃなかったのか、と戸惑う僕に、彼は明言した。
「明日だ。明日は何もないからな。部活も、ハルヒの急用でなしになるから」
急用でなしになるなんて、おかしな言い方だなと僕が思っている間に彼はさっさと帰ってしまった。

次の日、朝比奈さんは学校を休んだ。

バニー事件のせいもあり、気がつけば涼宮さんは全校的に有名人になっていた。
知らない奴はモグリだという段階にまでなっている。
僕はと言えば、まだその仲間だとはみなされていないようだけれど、遅かれ早かれ仲間扱いされることになるのだろう。
ため息を吐けばいいのか笑えばいいのか分からない気持ちになりながら、クラスメイトのしている噂話に耳を傾けていると、
「なんだか凄いことになってるわね」
と朝倉さんに声をかけられた。
「全くね…」
「古泉くんも一緒に何かしてるの?」
「僕はまだ、さほど係わり合いになってはないけど……どうも、逃げられそうにないなぁ…」
ため息も止まらなくなりそうだ。
「そう。…でも、一緒にいるなら、昨日みたいな、公序良俗に反するようなことはしないように、気をつけてあげてね?」
全く仰る通りですよ。
クラスで一番の才媛にそれとなくたしなめられて、余計にへこんだ。
その放課後のことである。
携帯を見ると、涼宮さんから本日の活動中止を告げるメールが届いていた。
突然のはずのそれなのに、ちっとも驚かなかった僕は、別の方向で驚かされることになっていた。
昨日、彼が予言した通りだ。
一体どういうことなのか。
訝しんでいると、手の中で携帯が震え、新たなメールの着信を告げた。
今度は彼だ。
『昇降口で待ってる。30秒以内に来い』
という無茶振りだ。
うちの教室から昇降口までどれだけの階段があると思ってるんだろうか。
それでも一応慌てて駆けつけると、既に下靴に履きかえた彼が、不機嫌な顔をして立っており、もはや決まり文句となりつつある、
「遅い」
という言葉を発した。
「すみません」
「とっととついて来い」
と言った彼は、僕が靴を履き替えるのを待たずに歩き出す。
慌てて追いすがり、
「一体どこへ行くんです?」
「俺ん家」
「え?」
「話がある」
それからずっと黙り込んでしまった彼についていった僕は、自分の現在の住居であるそれとよく似たような高級マンションに足を踏み入れた。
自分も住んでいるくせにこういうのもおかしいけれど、やっぱり慣れない。
どこか寒々しいエントランスを抜け、7階で下りる。
そうしてたどりついた彼の部屋は、なんというか、不思議な部屋だった。
何もないわけじゃない。
汚れているわけでもない。
ただ、ほどほどの生活感があるにもかかわらず、それが妙に人工物めいて感じられ、ドラマのセットを思わせた。
部屋の隅には観葉植物の大きな鉢がひとつきり。
綺麗に手入れされたそれが、余計に作り物臭さを感じさせる。
大体、リビングにそんなものを置いている家庭の方が稀有なんじゃないだろうか。
しかも、少しも傷んでいないなんて。
他にももっといっぱいあったのなら、観葉植物が好きなのかと思えて逆に自然なのだけど、そうではないから余計に奇妙に映った。
ソファの配置も、テレビの位置も、壁に掛けられた小さな絵も、全体的にドラマか何かのようで、とにかく作り物めいている。
平均的な家庭像を求めてやってみたものの、平均値を取りすぎて逆に不自然に陥ったみたいだ。
この調子なら、寝室にでも行けばおそらく、ベッドの下にエッチな本でも隠してあったり、アイドルか戦闘機かそれともアニメか、とにかく何かしらのポスターが一枚は貼ってあるんじゃないだろうか。
そんな、妙にうそ臭い部屋に彼は暮らしているらしい。
リビングのソファに勧められるまま腰掛けた僕の前に、彼が手ずから淹れたお茶が差し出される。
礼儀として口にすると、なんでだか、妙な気分がした。
ペットボトルのお茶でもないのに、なぜか味気ない。
沈黙に耐えかねて、僕は口を開いた。
「あの、……お一人、なんですか?」
「ああ。同居出来るような親も存在しないんでな。姉や妹みたいなもんはわんさといるが、仕事でもない限り近づく気にはならん」
女は化け物だ、なんて呟く彼の口調も、その言葉も、なんだかおかしかった。
そう言う意味だろうか。
いつにもまして単調に響く彼の声が、少しだけ怖かった。
「簡潔に言う」
濁りのなさゆえに、無機質のようにさえ見える瞳を、真っ直ぐこちらへ向けて、彼は無表情に言った。
「俺と朝比奈さんは、少々の意味の違いはあるものの、ただの人間じゃない」
……どういう意味でしょうか。
涼宮さんや長門さんの方がよっぽど普通じゃない気はするけど。
「まあ、あいつらもある意味そうだが」
…あれ? 今、僕、口に出して喋りましたか?
そんなつもりはなかったんだけれど、でも、無意識の内に声が出てると言うこともよくあることだから、気にしないでおきたい。
「まあ余計なことは考えずに、とりあえずは俺の話を聞け」
そう言って彼は口を開いた。
「性格がどうのって意味じゃなく、文字通り、本当に純粋な意味で、彼女と俺はお前のような大多数の人間と同じとは言えないし、言わない」
意味が分かりません。
「この銀河を統括する情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。……それが、俺の正体だ」
「……」
「俺の仕事は、朝比奈みくるを観察して、入手した情報を統合思念体に報告すること。あと、他にもまあちまちました仕事があったり、そもそも俺の存在自体が実験的な要素を含むものでもあったりするんだが、それは話がややこしくなるから今はおいとく。朝比奈さんを観察して情報を得ることが俺の任務だとでも思ってくれ」
「……」
「俺が造られたのは三年前。それからずっと、俺はその仕事だけをして過ごしてきた。この三年間は、特に不確定要素が発生することもなく、至って平穏だったな。むしろ暇なくらいだった。だが、最近になって無視出来ないイレギュラー因子が朝比奈みくるの周囲に現れた」
「……」
「それが、お前だ」
そう言って彼が長々と話し始めた内容を、その十分の一だけでも、自分が理解出来たとも思えなかった。
それほどまでにスケールが大きく、現実離れしていて、複雑怪奇な話をされた。
情報統合思念体とかなんとか言われてもさっぱりだ。
呆然としている間に、彼は長い話を終え、一息つきたくなったとばかりに、やっと自分の湯飲みに口をつけた。
あれだけ話せばそりゃあ喉も渇いただろう。
「朝比奈さんには、自分の都合のいいように周囲の環境情報を操作する能力があると考えられている。その範囲や影響度合いなんかはケースによってまちまちだし、こっちとしても量りかねている面もあるんだが、その力があると言うことはまず間違いない。だからこそ、俺もここにいるし、お前もここにいるんだからな」
「待ってください」
混乱しきったまま、僕は言う。
「正直に言いますが、あなたが何を仰っているのか、僕にはさっぱり解りません。それどころか、あなたの正気を疑いたい気分です」
「信じてくれ。――今は、それしか言えん」
そう言って彼はため息を吐いた。
そうしていると、いくらかだけど人間味が戻っているように思える。
さっきまでの彼は、本当に作り物のようで、正直恐ろしいくらいだった。
「どうして、僕なんです? あなたが、ご自分で仰られたように宇宙のなんだかよく分からないものに造られた端末だとして、どうしてその正体を僕に明かす必要が?」
「お前が朝比奈さんに選ばれたから、だな」
と言って彼は僕を見つめた。
何もかも見透かされそうな瞳にぞくっとする。
「朝比奈さんは意識的にしろ無意識的にしろ、自分の意思を絶対的な情報として環境に影響を及ぼす。その環境ってのには、周囲の人間も含まれる。お前が選ばれ、呼び寄せられたことには必ず理由がある」
「ありませんよ」
大体、呼び寄せられたってのはなんなんだ。
僕はたまたま、この町で一人暮らしをすることになっただけだ。
朝比奈さんと知り合ったのだって、転校してからのことだし。
「あるんだ」
僕以上に強く断言して、彼はお茶をすすった。
「おそらくだが、お前は朝比奈さんにとっての鍵なんだ。お前と朝比奈さんが、全ての可能性を握ってると言っても過言じゃない」
「過言にもほどがありますよ。本気で言ってるんですか?」
「勿論」
僕は、彼をじっと見つめ返した。
学校で見るのとはあまりに印象が違う彼。
どこか作り物めいた、人間味の薄い言動。
その表情は相変わらずの無表情だ。
まるで、家でまで表情を作ったりするのは疲れると言わんばかりに。
思い返してみれば、確かに、学校ででも彼は時々こんな調子だった気がする。
男子高校生の平均値を行くような言動の中に紛れる、微妙にピントのずれた発言や常識外れの行動が思い出される。
でも、たったそれだけで、こんな馬鹿げた話を信じられるわけがない。
「あの、そんな話でしたら直接朝比奈さんにした方が喜ばれるのでは? 僕では残念ながら、ついていけない部分も多いですし…。それか、涼宮さんなんて喜びそうですが」
「ハルヒは知ってる。それに、統合思念体の意識の大部分は、朝比奈さんが自分の存在価値と能力を自覚してしまうと、予想外の危険を生む可能性があると考えてるからな。少なくとも当分は様子見だ」
「僕が聞いたままの話を彼女に伝えるかもしれないじゃありませんか。それなのにどうして、僕にこんな話をするんです?」
「確かに、お前の言葉なら朝比奈さんは半信半疑ながら信じるかもしれない。だから、こうやってお前に説明したのも、本当はかなり危険な行為だと俺も認識している。だが、それ以上に話しておかなきゃならんと思ったんでな」
「どうしてです?」
彼は躊躇うように――あるいはその統合思念体とやらの承認を求めていたとでも言うのだろうか――少し言葉を詰まらせたけれど、
「……情報統合思念体が地球においているインターフェースは俺ひとつきりじゃない。また、統合思念体の意識には、統一されていない部分もある。その中には、積極的な動きを起こして情報の変動を観測しようという動きも現に存在するんだ。そうなると、朝比奈さんの鍵であるお前に危機が迫る可能性がある。その警告をしたかった」
ともあれ、と彼は僕が言おうとした言葉を封じて続けた。
「信じる信じないはともかく、お前には、知っていてもらいたかったんだ。……それから、お節介かもしれないがもう一つ。…お前はもうどっぷり首まで浸かった関係者なんだ。軽はずみなことはやめてくれ」
そう言って彼は立ち上がり、
「晩飯、食ってくだろ」
と何事もなかったかのように言った。
心なしか申し訳なさそうな顔をした彼が作ってくれたカレーは、手作りのはずなのにどうしてかレトルトみたいな味がした。