絵茶での暴走の産物ですので自重出来てません
かなりのエロです
多分言葉責め?
着信音で目を覚ました俺は、半分眠ったままの頭で携帯を掴み、無造作に通話ボタンを押し、 「もちもち?」 ………ちょっと待て、なんだ今のは。 別に目の前に搗きたての餅があったわけでもなければ、モチノキ科の植物があったわけでもない。 寝ぼけてはいたがろれつが回らなくなっているわけでもないはずだ。 それなのに、なんだ今のは。 唖然としている俺の耳に、落ち着いた、しかしながらどこからしくない、長門の声が届いた。 「…私」 「あ、ああ。こんなあちゃ早くかりゃ、一体ろうちたんら?」 …まただ。 認めたくないのだが、どうもおかしなことになってるようだな? 「…そう。私の力不足」 「ふぇ?」 「涼宮ハルヒの無意識下における情報の改変を阻止しようとして失敗した」 それから長門が淡々と語ったところによると、昨日の晩、ハルヒは何を思ったか、俺の赤ん坊の頃がどんなだったか気になったらしい。 気になった、というところから、俺が赤ん坊になればいいとか、赤ん坊の時の様子が知りたいなんてところに直結しちまうのが、あいつの物凄いところだろうか。 局地的に訳の分からん集中力を発揮するからな、あいつは。 しかし、俺がハルヒの願望通り、本当に赤ん坊になっちまうと困る。 なんと言っても俺は自分の家にいるわけだし、朝は妹が起こしに来る。 その時、俺が赤ん坊になってたらパニックなんかじゃ済まされない。 おまけに、ハルヒに対して妙に懐いちまっている妹が、それをたとえあれこれ片付いた後にしても報告してみろ。 恐れていた事態の実現だ。 と言うわけで、本来なら観測が基本であり、不干渉を貫くはずの長門が、例外的にハルヒの能力に干渉を行った。 しかし、ハルヒの力って奴は、情報統合思念体なんて大層なものが目をつけるほどのものであるからして、長門でさえ完全に打ち消すことは出来なかったらしい。 おまけに、その過程で無理をしたせいか、常日頃のあれだけ万能かつ優秀な長門だというのに、しばらく大規模な情報改変は難しい状態にまでなっちまったという。 そこまで無理しなくてもよかっただろうに。 とにかく、かくして俺は言葉だけが幼児期に退行を起こすという、なんの罰ゲームかと聞きたくなるような事態に追い込まれたのであった。 「全ては私の責任。…ごめんなさい」 「いや、謝りゃりゃくていい。気にしゅんにゃ」 鬱陶しい赤ちゃん言葉をあまり発したくはなかったのだが、どうやら落ち込んでいるらしい長門にフォローを入れずにはいられず、そう言った。 我ながら聞き苦しい。 しかし…どうしたもんかね。 「早いうちに家は出た方がいい」 だよな。 かと言って行く先は………あるか。 正直、行きたくない。 こんなみっともない状態を知られたくはないし、知られたが最後、自分で自分の首を絞める事態に陥りそうな気もする。 だが、いつまでに治るか長門にさえ分からない状況でもあるし、公園をうろついていて補導されるのもいただけない。 それより、知り合いに会って話しかけられるのが怖いか。 こういう時、籠もっていられる場所となると、ひとつしかない。 古泉の部屋だ。 ここでそんな選択肢が出てくることから察しがつく方も多いと思うので、あえて細かいことは言わないでおく。 とにかく、古泉は俺が迷惑を掛けても一向に構わんと思っている相手であるということさえ、分かってもらえればそれで十分、それ以上の説明は不要だ。 「古泉一樹のところなら、おそらく安全」 と長門のお墨付きももらえたので、俺は古泉にメールを送った。 『悪いが、緊急事態だ。お前の部屋にかくまってくれ』 返事も聞かずに身支度を整える。 今日は平日なので、一応制服に着替え、慌てた風を装って家を飛び出してから、 『早くに用事が入ってるのを忘れてた』 とお袋にメールを入れて一応誤魔化しておく辺り、俺も非常事態慣れしたと思うべきだろうか。 ともあれ、これで第一の関門は突破だ。 無事に、家族に情けない赤ちゃん言葉を聞かれることなく脱出することが出来た。 古泉の部屋までの道程がいくらか心配ではあったが、まだ7時前の、早朝と言ってもいいような時間帯だったため、これも無事免れることが出来た。 つくづく、ジョギングするような奴や部活に励むような奴が友人にいないことに感謝したい気分だ。 皮肉めいたことを思いながら、俺は勝手知ったる他人の家、とばかりにそう厳重なセキュリティがあるわけでもないマンションのエントランスを抜け、階段を上って古泉の部屋の前まで行くと、インターフォンのボタンを押した。 中でピンポンという軽い電子音が響き、すぐに古泉を顔を出した。 「一体どうされたんですか?」 「……」 それには答えず、俺は強引に部屋の中に入った。 当然だろう。 誰が通るか分からないマンションの廊下なんかであんなみっともない声を出せるか。 しかし、だからと言って古泉相手にもしゃべり難く、俺は引っ張り出した携帯でぽちぽちと言葉を打ち込み、その画面を古泉に向けた。 「…ハルヒ関係だ……って、それはまあなんとなく分かりますけど…具体的にどうしたって言うんです? もしかして、口が聞けなくなったとか…ですか?」 そんなところだ、と俺は頷いたのだが、古泉は眉を寄せ、 「嘘でしょう」 い゛っ!? 何故分かった。 「全部が全部嘘だとは言いません。でも、本当のことも言ってくださってませんよね?」 だからなんでそんな細かいところまで分かるんだお前は。 それとも何か。 俺はそんなに分かりやすいか? 「分かりますよ。…他でもない、あなたのことなんですから」 そんな風に優しい声で言われてぐらついたところで、古泉はまるで捨てられそうな仔犬のようにしょんぼりした顔になり、 「…それとも、やはり僕はまだあなたに信じてもらえてないのでしょうか。本当のことを明かしては、もらえないのでしょうか……」 と言われて、俺がこれ以上だんまりを決め込めるはずもなく、 「っ、しょうじゃにゃくて…!」 と思わず叫んだところで、古泉がぽかんとした顔で俺を見た。 「……今、何か……」 慌てて口を押さえたところでもう遅い。 というか、逆に肯定したようなもんだ。 古泉はさっきまでのしおらしい表情もどこへやら、にんまりと唇を笑みの形に歪め、 「どうやら、非常に面白いことになっているようですね?」 と言いやがった。 隠して俺は居間まで連れ込まれ、ソファに座らされた上で洗いざらい白状させられた。 当然、あのみっともない幼児語で、時折舌をもつれさせながら話す破目になったことは言うまでもない。 そんなことをやたらとニヤニヤしながら聞いていた古泉は、 「つまり、ネックは言葉だけなんですよね?」 「うん? …ああ、しょうにゃるか」 「でしたら、どうでしょう? 発音の練習をしてみる、というのは」 「へ?」 「舌がもつれたりせず、ちゃんと回るようになればいいんでしょう? でしたら、喋り始めた小さな子がするように、発音の練習をしたら、ちゃんと発音出来るようになるのでは? ましてや、あなたは小さな子供と違い、正しい言葉も知っているわけですし」 なるほど、一理あるかも知れん。 と言うか古泉。 「どうかしました?」 「お前、がっこは?」 「学校ですか?」 もう登校しなきゃまずい時間だろ。 「遅刻していきますよ。それこそ、放課後、部室にさえ顔を出せばいいわけですから」 おいおい、それでいいのかよ。 「いいんですよ。…あなたを一人になんて出来ません」 そう言って古泉は俺を軽く抱き締めた。 暖かさにほっとしたってことは、俺もやっぱり、こんな異常事態に参ってたってことなのかね? 「いつ治るか分からないなんて状況では、不安になって当然ですよ。…僕も、心配なんです。ですから、可能な限り、側にいさせてください」 「…ん」 頷いた俺の目を、古泉はにっこり笑顔で覗き込み、 「それでは、発音練習、しましょうか?」 「え!?」 「するんでしょう?」 「しゅる、けりょ……」 お前の前でしなきゃならんのか? 「相手がいた方が練習もしやすいでしょう? ちゃんと言えてるかとか、どこかに問題はないかとか、チェックしてさしあげますよ。その方が、きっと上達も早いですし」 「…笑っちゃり、しにゃいか?」 「しませんよ。…ああでも、可愛らしさのあまりにやけてしまうのはうまく止められないかもしれません。すみません」 「…馬鹿」 「そういう言葉は綺麗に発音出来るんですか」 子供ってのはそんなもんだろ。 品のない言葉とか大人が嫌がる言葉に限ってうまいこと覚えて発音するもんだ。 しかし、発音練習ってどういうことを言えばいいんだ? 「そうですね。とりあえず、言い辛い言葉を把握しましょうか?」 言い辛い言葉、ねぇ。 「ちゃ行が言いぢゅりゃい」 …さ行に加えてだ行とら行もだな、こりゃ。 「母音は綺麗に出ますよね?」 そりゃ、基本の音で一番単純だからな。 「一番よく使ってるからかと思いました」 そう言った古泉の目が、……なんだろうか。 不穏なものを感じさせる色をしている気がする。 「にゃにが言いちゃい」 「だって、そうでしょう? ……いつだって、あ行しか言えなくなるじゃないですか」 言いながら俺の腰に触れてきた古泉の手を思い切り振り払うと、古泉は小さく笑って、 「冗談ですよ」 と言ったが嘘だな。 もし万が一にでも俺が拒まなければそのままおいしくいただかれていたに違いない。 「変にゃことしゅるにゃら、出てく」 「出てってどこに行くんです? いつ戻るかも分からないんでしょう?」 「知りゅか」 ふいっと顔を背ければ、申し訳なさそうに見える顔で古泉が俺の手を握り、 「すみません。冗談が過ぎましたね」 「……もう、しにゃいか?」 「嫌がるようなことはしませんから」 「……信じるかりゃ、にゃ?」 微妙にずるい言い方をした古泉に、俺も少々ずるい言い方で返すと、古泉は笑って頷いた。 そうして、一応休戦状態めいたことになったところで、練習を再開した。 五十音を順番にたどったり、思いつく限りの単語を並べてみたところで、古泉が提案してきた。 「いっそ幼児語を使ってみたらどうですか?」 「はぁ?」 お前は何を言い出すんだ。 「幼児語というのは、子供が言いやすいからそうなっているわけでしょう? それなら、そちらの方が発音しやすくて、とりあえずは意味も通じやすいのではないかと思うのですが」 一理ある気もするが、今は別に会話を成立させたいわけじゃなくて、言葉遣いを直したいだけなんだが。 「というか、興味があるんです。実際、ああいう言葉の方が言いやすいんですかね?」 …お前な。 と呆れつつも、俺としても古泉のこういう好奇心の強いところは嫌いじゃないので、ついつい乗っちまった。 「幼児語ってゆうと、にぇこをにゃーにゃって言うようにゃやちゅか?」 「そうですね。後は、車だったらぶーぶとか、小さい子が言ってた気がします」 「お前の口かりゃぶーぶとか出りゅとおかちいにゃ」 「そうですか?」 頷くと、古泉は面白がるように目を細めながら、 「あなたが言うと可愛らしいですけどね」 「アホ。そりゃ、欲目とかにゃんとか言うやちゅらろ」 ふふ、と笑った古泉は、 「そうですね。…あなたのことが、好きですから」 恥ずかしげもなく言った古泉から目をそらして、俺は一生懸命練習するようなふりをして、思いつくだけの幼児語を並べ立てる。 わんわん、ちゃーちゃ、くっく、あんよ、ぽんぽん……。 これが非常に恥ずかしい。 考えなくても分かるだろ? 十何年かぶりに幼児語を一人で喋り捲るなんて、恥ずかしすぎて顔から火が出そうだ。 なのに古泉は何が楽しいのか、にやにやしながら俺を見ているから、余計に恥ずかしい。 だから俺は、 「しょう言えば、はりゃ減ったにゃ」 「はい?」 「あしゃ飯食ってにゃいんらよ」 「朝ごはんを? それはお腹が空いたでしょう。気が利かなくてすみませんでした。すぐに何か作りますね」 「ん、たにょむ」 視線が鬱陶しい古泉がキッチンに消えてからも、無駄に思える練習を続けた。 実際、無駄な気がしてきた。 喋り始めた子供がまともに喋れるまで何年かかる? それを、たとえ言葉を知っているところで、すぐさま流暢に喋れるようになるとは思えん。 かといって止めなかったのは、そうするのが怖かったのかも知れない。 長門がいつ回復するかも分からない。 これがいつまで続くかも分からない。 それどころか、治らなかったらどうなる? そんな馬鹿げたことを考え始めるのが怖くて、俺はそれ以外を忘れたくて、ずっと言葉を並べた。 これだけよく言葉が頭に入っているもんだと呆れたものの、そのうち流石に品切れを起こし、幼児語でなく普通の言葉に戻り、それから人の名前に移った。 ハルヒも朝比奈さんも長門も案外言い辛い。 さっきから何度か使ったからよく分かってるが、古泉なんてかなり言い辛い。 「こいじゅみ」 「呼びましたか?」 と言う古泉に、俺は思い切り眉を寄せ、 「お前にょ名前、言いぢゅりゃい」 「すみません」 くすくすと笑いながら、古泉は俺の前に朝食を置いた。 トーストと目玉焼き、ベーコンで野菜がないのは愛嬌というところだろうか。 狐色に焼けたトーストにマーガリンを伸ばしながら、俺は呟く。 「いちゅき」 「…どうしたんですか?」 驚く古泉に、そこまで驚くことじゃないだろうと呆れつつ、 「呼んぢぇみただけらりょ」 「珍しいじゃないですか、あなたが呼んでくださるなんて」 「いちゅき、って言った方が言いやちゅいかと思って試ちたらけりゃ。…どっちも言いぢゅりゃいりらりゃったが」 「もう一回言ってくれません?」 「……やら」 「いいじゃないですか。もう一回くらい」 「お前が調子ににょるらろ」 「だめですか」 「らめりゃ」 不満げな古泉にじとっと睨まれながら朝食を食べ終えた俺が、礼儀として自分で皿を洗ってソファに戻ると、古泉はなにやら難しい顔をして腕を組んでいた。 「にゃにを考えてりゅんら?」 「いえ、言葉の練習だけではだめなのかと思って、他の方法を考えていました」 「思いちゅいたか?」 「ひとつだけですが。…試してみます?」 「ああ」 そんなもん、聞かれるまでもないだろう。 「では、こちらに来てください」 言われるままソファに腰を下ろせば、古泉が俺に向き直り、真剣な顔で、 「ここはやはり、舌の使い方から練習したらいいと思いませんか?」 「へ? お前、にゃに、言っ……んんっ…!?」 反論する間もなく、古泉に口付けられた。 それも、触れるだけでなく、舌も絡むような濃いやつだ。 なんでいきなり、と戸惑う俺などあっという間に征服され、入り込んできた古泉の舌に蹂躙されるばかりである。 この野郎、と暴れようにも体に力が入らない。 一度唇を離した古泉は、 「はっ……、ほら、ちゃんと舌を使ってくださいよ。練習、でしょう?」 「っ、や…」 抵抗出来ないまま、もう一度口を塞がれる。 くちゅ、と淫らがましい水音がして、羞恥を余計に煽られる。 「いつまで経っても慣れませんね。…そういうところも、好きなんですけど」 そう言いながら、古泉は遠慮の欠片もなく俺の服を脱がせにかかる。 「ちょっ、にゃ、んで、スイッチ、入っちぇ…んぁ…っ!?」 「あなたが可愛いからですよ。真っ赤な顔をしながら言葉の練習をする姿も、思いがけず僕を喜ばせてくださるのも、可愛らしくて、愛しくて、…我慢出来なくなります」 「がっ、我慢ちろよ…ぉ…!」 「無理です」 笑顔でさらりと言った古泉が俺にもう一度口付ける。 熱い舌に煽られるように、いつの間にか俺もそれを求めて古泉に縋りつき、舌を求めていた。 慣らされた体を怨むべきか、と思いはしても、その原因である古泉を恨もうとは思えない辺り、俺の頭も大概やられている。 俺のシャツをすっかり肌蹴て笑った古泉は、 「別に舌が短くなってるとか、そういうことではないんですね。麻痺しているという様子でもないのに、言葉だけが舌っ足らずになっているのは不思議ですね」 と冷静ぶったことを語っているが、こいつがそういうことをする時の方がよっぽど危ない。 本当に余裕がない時こそ、そんなことをするのがこいつだからな。 つまりは虚勢を張っているに過ぎないのだが、そうと分かると余計に聞きたい。 「にゃ、んれ……っ? にゃにが、しょんにゃに、気に入ったんらよ…っ!」 「言ったでしょう? …あなたが可愛らしいから、ですよ」 そんな風に笑いながら、古泉は俺の服を脱がせにかかる。 「制服を汚すのは不味いでしょう?」 なんて親切ごかして言っているが、意味するところは、途中で止めたりしないし、どろどろになるまでするってことだろう。 それにぞっとしているのかぞくりとしているのか微妙な違いを自分でも把握出来ないような具合になりながら、俺は眉を寄せた。 古泉はそれすら愛しげに見遣りながら、俺の体に触れてくる。 優しく、そのくせからかうような動きに、俺の喉が引き攣る。 「っ、あ、…ぅ、……あぁん…!」 「可愛い」 繰言のように呟きながら、古泉は俺の胸に口付け、身が竦むような快楽を送り込んでくる。 頭の中までじわりじわりと蝕まれ、明確さを失っていく。 ぼんやりして、与えられるものにすがるしかなくなっていく俺を見つめながら、古泉は囁いた。 「ねえ、練習の続きはしないんですか?」 「ふ、ぇ……?」 今度はまた何を言い出したんだ? 「幼児語の練習ですよ。ほら、ここはなんて言います?」 そう言いながら、古泉は俺の胸に手を這わせる。 「やっ…ら、らりぇが、言うか…っ! ひあぁ…!」 痛いほどに胸を押し潰されて、悲鳴を上げれば、古泉は意地の悪い笑みと共に、 「言ってくださいよ」 言わなければもっと痛くする、と言わんばかりで、俺は泣きそうに顔を歪めながら、 「…っ、……ぱい、ぱい…」 「よく言えました」 よしよし、と馬鹿にした仕草で俺の頭を撫でながら、 「では、これは?」 と言いながら舌を絡めてくる。 「…ちゅ、ぅ…?」 「でなくて、これですよ」 と、古泉は俺の舌先を指で軽く抓んだ。 それさえぞくりとした、どこか後ろ暗い快感に変換されて、体が震える。 「……べろ…?」 「じゃあ、ここは?」 古泉の指先が、唇を押さえる。 「…くちみる」 「ここ」 つっと体を滑り降りた指が、痛いほどに乳首を抓んで、体が跳ねた。 「っ、痛…!」 「これくらいなら、平気でしょう? むしろ、好きですよね」 そう言いながら古泉が乳首に歯を立てると、ツキリとした冷たい快感が走る。 ひりつくような熱とは違うそれに、喉が引き攣った声を立てた。 「ねえ、ここ、なんて言うのか教えてくださいよ」 「ちゃ、…こび……っ」 「ちゃこび? …へぇ、あなたはそういう風に言ってたんですか」 そんな風に呟くのを聞いていると、まるで古泉が何もかも記憶に留めようとしているようで、無性に恥ずかしさが募った。 「お、ぼえ、にゃくて、…ひ、いい…っ」 「いいじゃないですか。…あなたのことなら、なんだって知りたいですし、なんだって覚えていたいんです」 のうのうとそんなことを言いながら、古泉は俺の体を舐めまわし、触れまくる。 刺激を与えられるたび、緊張と弛緩を繰り返す筋肉が痛くなってくるほどだ。 そんな風にして俺を翻弄しながら、古泉はまるで知りたがりの子供のように、 「ここは?」 と聞くことを忘れない。 それこそ、くどいくらいだ。 熱の回った頭ではもう抵抗することすら馬鹿げたことに思えて、問われるままに返す俺も俺だが。 しかし、それがまだ腹とか脚とかならよかった。 そう恥ずかしくもないからな。 ところが、古泉はその手がキワドイ部分に至ってもそれを止めてくれなかったのだ。 「ここはなんて言うんでしたっけ?」 そう言いながら、熱を帯びた中心を握りこまれ、ひっと喉が鳴った。 「おみゃ…ぇっ、この、変態…!」 「じゃあ、もう止めます?」 と言って緩められかけた手を、思わず掴んで止めたのは、その、あれだ。 悲しい男のサガというかなんというかだ。 「やめ、りゅにゃ…」 「では、ちゃんと言ってくださいよ。これ、なんて言うんですか?」 それでもなお酷い葛藤に苛まれ、躊躇う俺を脅すように、 「言わないと…」 「…っ、ちんちん…」 結局俺は古泉の脅しに屈するしかなかった。 くそっ、覚えてろよこの変態野郎…っ。 「はい、よく言えましたね」 と笑う顔は本当に綺麗だってのに、やってることは酷いなんてもんじゃない。 これで俺が心に大きな傷を負ったらどうしてくれる。 「そうしたら、僕がちゃんと責任を取りますよ」 言いながら古泉はキスを寄越す。 甘ったるいような、それだけで浮上してしまいそうなキスは、本当にタチが悪い。 古泉自身よりも悪い気がする。 「責任、っちぇ…?」 「あなたが恥ずかしくて人前に出たくなくなりでもしたら、僕があなたの面倒を見ますし、もしこのままあなたが元のように喋れなくても同じです。…僕があなたを守りますから」 古泉の言葉もタチが悪い。 本当に真剣な表情で囁かれる、熱っぽさのない言葉だってのに、本当はそれに浮ついた好きだの愛してるだのと言った言葉以上に熱が込められていると分かるのが悪い。 少しばかり危ないほどの言葉の選び方も悪い。 何より、その声がいけない。 何もかも委ねてしまってもいいような気がしてくる。 …相手は変態だってのにな。 ため息を吐きたいような、それとも思い切り笑ってやりたいような、訳の分からない気持ちになってきた俺の脚を撫で、そっと開かせて古泉は言う。 「本当は、そんなに嫌でもないんでしょう?」 「っ、にゃにを……」 「本当に嫌なら、それこそ蹴るなり殴るなりする人ですからね、あなたは。そうしたところで、僕があなたを嫌いになるはずがないということもよく分かっているんですから、躊躇う理由なんてないはずでしょう? それなのに、そうしないのは、あなただって恥ずかしいことを言わされるのが嫌じゃない、ってことですよ」 違う。 なんだその酷い誤解、いや、曲解は! 「あなたのその素直じゃないところも、好きですよ」 そう言いながら、古泉は指を滑らせて目的のものを軽く握りこみ、 「これはなんて言うんですか?」 「……」 「言ってくださいよ。…恥ずかしいのも、好きなくせに」 そんな風に言われて誰が言えるか、と思うのに、古泉はことさら優しく囁くのだ。 「いやらしいあなたも、愛しいですから」 「っ、やらしく、にゃんか…!」 「いやらしいですよ。熱っぽく潤んだ瞳も、キスして欲しそうに薄く開いた唇も」 言いながら古泉は俺にキスをする。 すっと離れたそれに、寂しさを感じたなんてことは断固として認めたくない。 それを認めたら、古泉の言う通りだと認めるようなもんじゃないか。 「赤く染まった肌も、無意識にかどうか知りませんけど、物足りなさそうに震える腰も、ペニスやアヌスまでいやらしくて、愛しいです」 「お、お前に羞恥心はにゃいにょか…っ!?」 なんでそんな涼しい顔で、医学番組でもない限り、放送禁止になるだろう単語を言えるんだ。 「そんなものより、あなたの方が重要ですし。…ほら、僕も恥ずかしい言葉を言いましたよ? あなたもちゃんと言ってください?」 そう言いながら、古泉は痛いほどにそれを揉みしだく。 「たま、たま……ぁ…っ!」 「…可愛い」 楽しそうに、何より愛しげに呟いて、古泉は脚の奥へと指を滑らせた。 「ここは? 言えますよね?」 「…おちり……」 もはや抵抗する気力も失った。 限界だ。 もう無理だ。 「素直でないあなたも好きですけど、素直になられるとそれはそれで格別なんですよね。つまり僕は、あなたなら何でもいいってことかもしれませんけど」 独り言のように呟きながら、古泉は唾液で濡れ光る指先でそこをつつき始めた。 もどかしいそれに身をよじれば、 「なんて言ったらいいと思います?」 と意地悪く問われる。 完全にショートして、焼ききれた頭が、辛うじて羞恥を感じるより早く、俺の口は勝手な言葉を叫んでいた。 「っ、もっと、ちて…」 「よろこんで」 古泉の唇が弧を描いたかと思うと、指先が中へと入ってくる。 それだけで、体中を快感が走り始める。 「あっ…ぁ、ん…!」 「あなたって、本当にスイッチが入り辛いんですよね。こちらの良心が咎めるくらい、焦らして苛めて辱めて、それでやっとやる気になってくださるってどうなんですか。まだ若いのに…」 自分の方がよっぽど年寄りめいたことをぶつぶつと呟きながら、古泉の指先は縦横無尽に動き回る。 「やぁ…っ! あ、こい、じゅみ…っ、もっと、奥ぅ…!」 「まあ、手間をかけることさえ楽しいですし、その分だけあなたが余計に愛らしく見えるので、それはそれでいいんですけど」 「っ、余計にゃ、こと、言ってにゃいで…、はやっ…く、ぅ…」 気持ちよさに半分ほど泣きじゃくりそうになりながら訴えても、古泉はなかなか望むことをしてくれなかった。 それで、完全におかしくなっていた頭で俺は思ったんだろうな。 古泉はまた俺に恥ずかしいことを言わせたいんだろうと。 俺は潤んだ目で古泉を睨みつけて、 「早、くっ…、ちろよ…っ! こいじゅみの、おっき、い、ちんちんで、おれにょ、おちり、いっぱいにちて、も、っと、気持ちよく、ちろ…ぉ……っ」 と叫んだ。 古泉は一瞬驚きに目を見開いた後、獣染みた目で笑った。 「本当に、スイッチの入ったあなたって、魅力的過ぎて怖いくらいですよ。スイッチって言うより……むしろ、ヒューズが飛んだって感じですか? 物凄い豹変っぷりで…。――お願いですから、他の誰にもそんな顔、見せないでくださいよ?」 「こいじゅみ、こいじゅみらけ、らかりゃ…っぁ…!」 押し当てられた熱にぞくぞくと背中まで震えた。 「痛くても、知りませんからね」 と古泉が言ったことから察せられるように、古泉は別に焦らしたりしていたわけではなく、本当に必要最低限だけでも慣らそうとしていたわけだ。 つまり、強引に貫かれた俺の体は、痛みで二度、三度と大きく痙攣する破目になった。 「かっ……は…ぁ……」 「大丈夫ですか?」 びくんと震える俺の体を優しく抱きしめて問う古泉に、頭は勝手に揺れる。 「らい、ろぶ…。い、ちゃく、ても、…気持ち、い、かりゃ……」 「っ、動きますよ…!」 「ふぁっ!? やっ、しょりぇ、は、まだ…っ! ――ヤァっ、りゃっ、りゃめぇえええええぇぇぇぇ…!」 制止はきかず、古泉は乱暴なまでに激しく腰を使い始めた。 揺さ振られる体が悲鳴を上げる。 それなのに、こうなるともう理性なんて欠片も利きやしねぇ体は古泉を抱きしめて、 「あぁっ、ん、…はっ…も、っとぉ…」 なんてねだり始める。 「もっと、ですか? こんなにしてるのに、足りない?」 「ぅ、んっ…! おちり、の、にゃか、あっ、こいじゅみでっ、いっぱい、らけろ…っ、足んな、ぁ、い…っ」 「じゃあどうしましょうか」 「ぱいぱいもっ、ちゃこびも、しゃわって…!」 「ああ、そうでしたね。すっかり忘れてました」 すみません、と言った口が、乳首に触れる。 そうして痛いほどにかじられても、 「あ、ァっ…っ! やっ、…しょれ、もっと…もっと、ちて…!」 恥や外聞どころか、身も世もなく善がり狂う俺を、古泉は変態らしく愛しげかつ幸せそうに見つめて、 「ほら、やっぱり僕たちはぴったりなんですよ。体の相性も、性格も…ね?」 「かも、にゃ…っ。淫乱と変態っ、にゃんて、最低らけ、ろ…っ……ひあぁ…!」 一際大きく腰を使われ、最奥を突かれた俺がのけぞると、古泉は苦しげな声で、 「くっ……、最高、の、間違いでしょう…? お願いですから、そんなに締め付けないでください。先にイきそうになるでしょうが……」 「やら…っ、まら、いっちゃ、りゃめ…っ! あっ…あぁあ……」 だめだと言いながら強く締め付けたからか、体の中に熱が放たれる。 その熱にさえガクガクと足腰を震わせながら、俺は恨みがましく古泉を見つめ、咎める。 「あーぁ……。…まら、らめ、って、言った、にょに……」 古泉は苦い顔ながらも笑って、 「すみません。…でも、ほら、」 ぐっと腰を使われると、中で古泉が存在感を取り戻したと示される。 「っあ……」 「…まだ、いけますから」 「ん、……今度は、もっとにゃがく、ちろ。俺が、いいって言うまで、イくにゃ……」 「仰せのままに」 と笑って、古泉は誓うようにキスをした。 ――これだから、嫌なんだ…。 古泉とそういう行為に及んだ時の常ではあるのだが、俺が布団の中で丸虫のように丸まって自己嫌悪に陥っていると、古泉は困ったようにだが人の気も知らないで笑い、 「そう嫌がらなくてもいいじゃないですか。思うんですけど、あなた、そうやって普段は潔癖なまでに性的なことから顔を背けるでしょう? その反動で、一度タガが外れるとああなってしまうんじゃないですか?」 「知るかっ!」 「別に僕はそれを直したらいいと言いたいわけじゃありません。そのままでいいと思いますよ。ですから、そんなに落ち込まないでください。…ね? それとも、僕とするのはそんなに嫌ですか?」 嫌だね。 ああ、嫌だとも。 「本当に?」 そう言って俺の顔を覗き込んでくる古泉の顔は、酷く悲しげで、 「……お前、本当に意地悪だ…」 「どうしてですか?」 「だ、って、そうだろが……」 俺が本当にそう思ってるわけないと分かってて聞いてくるのは意地が悪いにも程がある。 真っ赤になりながらもごもごとそのようなことを口にすれば、古泉は笑って、 「今のはそういうつもりじゃなかったんですけどね。…安心しました。あなたに本当に嫌われたりしたら、僕は生きていけませんから」 「馬鹿」 「本当ですよ?」 「そこは冗談って言っとけ」 「…って、あれ? 治ったんですね、赤ちゃん言葉……」 「あ?」 そう言えば……。 「治ってた…みたいだな」 「よかったですね」 と笑った古泉は、 「やっぱり、いっぱい喋ったのがよかったんじゃないですか?」 と臆面もなく言いやがったが、それについては全力で全否定してやる。 |