前回の続きなのでのっけからエロです
苦手な方はご注意ください




















































夏幻の月
  7.確かな九月



「もっ、や、だ……やだぁ……」
小さな子供のように首を振りながら、あんあんと泣きじゃくっているのは、他の誰でもない、彼である。
いじめられすぎて理性を飛ばしてしまったのか、いつになく幼いリアクションに、戸惑うどころか興奮した僕はやっぱり人としてだめな部類に入るしかないんでしょうか。
しかし、彼は本当に可愛らしくて、おまけに、そんな風に理性が働いてないような状態だと、言葉の選び方ひとつにしても「彼女」の存在を思わせた。
「すみません。泣かないでください」
泣かせておいてそんなことを言うと、彼はくしゃくしゃに顔を歪めながら、
「だ、って、お前が、悪いんだ…っ」
「ご、ごめんなさい」
「謝るくらいなら、なんとか、しろよ」
しゃくり上げながらそう言った彼の胸は、あまりに弄られすぎて真っ赤に腫れている。
充血しきったそれは痛々しいほどで、ちょっと息が触れたりするだけでも堪らないらしい。
「なんとか、と、言われましても……。ああ、充血が酷いなら、冷やしてみます?」
「やだ…っ! これ以上、余計な刺激なんて、されて、堪るか…っ」
至極もっともな意見である。
そこそこに理性も残っているらしい。
「じゃあ、どうしましょうか」
困り果てて尋ねると、彼は心底恨みのこもったような目で僕を睨んだ挙句、自棄にでもなったかのように、
「ちゃんと、他のところも、触れよ!」
と怒鳴った。
「他のところ、って……」
「そ、こまで、言え、って、か? おま、ほんとに、酷過ぎるだろ…」
じわ、とまたもや大粒の涙が滲むのに、
「ああいえ、そういうわけじゃなくってですね、」
と慌てて弁明しようとしたのだけれど、彼には聞こえなかったらしい。
彼は僕の手をぐいっと掴んだかと思うと、自分の股間に押し当て、
「こっちとか、も、触ってくれよ…っ、も、ぅ、イきたい…ぃ…」
くらりと目眩がしたけれど、これが既視感のせいなどでないことは言うまでもない。
魅力的過ぎる申し出に、どうにかなりそうになっただけだ。
「お前だって、こんな、なってる、くせに…」
唸りながら、彼が僕のそれへ手を触れる。
「わ…っ」
驚く間もなく握りこまれたそれに与えられる愛撫が、酷く気持ちがいい。
「まっ、待って、待ってください。そんなこと、あなたに、されたら…」
「うるさいったらうるさい!」
本当に子供のように言いながら彼はそれを乱暴なくらい強く扱き立てる。
ぐっと奥歯を噛み締めて射精感を堪えながら、彼のそれを同じように扱くと、
「っあ、ぁ…っ、そこ、もっと…して…!」
と艶かしい声が耳に触れた。
「ここ、ですか?」
気持ちよさそうに、こくこくと頷く彼は、本当に素直だ。
普段の姿からは思いがけないほどに素直で、しかも快感に貪欲なところもあるらしい。
それを嬉しく思いながら、僕は彼に腰を近づけた。
「ん、む…っ?」
訝しむ彼にそっとキスをして、お互いのものを触れ合わせると、彼の手が僕のそれから離れて、背中へと回された。
滑る手をいくらか不自由そうに扱いながら、彼は僕を抱きしめ、キスをねだる。
上も下もぐちゃぐちゃになりながら、煽りあう。
先に根負けしたのは僕の方だった。
恥ずかしくなるほどに酷く濃くて粘るそれが、彼の胸の辺りにまでかかると、
「ひぅ…っぁ…!」
と彼が声を上げて達した。
そのまま力が抜け、くたりとした体を僕に預け、息を整えようとしている彼を抱きしめて、
「ねえ、今の、どっちでイったんです?」
と聞いてみると、
「ふ、え……?」
どうにも頼りない返事が返ってきた。
聞こえたのかな、と思いながら、
「今の、触られたからイったんですか? それとも、精液が乳首にかかっちゃったから?」
と意地悪く聞くと、彼は真っ赤になりながらも、
「わ、かんね…っ。……ぜん、ぶ…?」
と熱っぽく潤んだ瞳で僕を見つめ
「お前の触り方、エロいし、乳首も痛いし、それに……お前が、俺でそんなに興奮するんだと思ったら……」
なんて可愛らしいことを言うから、僕は堪らず、
「あなただからですよ」
そう告げてキスをした。
うっとりと目を閉じる彼の胸に顔を近づけると、吐息がかかるだけで彼の腰が揺れる。
「そ、こは、もうやだって、言ったろ…」
「だって、こんなに汚れてますよ?」
ほら、と日焼けの残る肌を汚した白濁を舐め取ると、
「ひあっ、あ、やだって…!」
嫌と言う割に歓喜に滲んだ声が上がる。
今さっき達したばかりのはずの中心もじくじくとした熱を持ち始めているようだ。
「っ、だからぁ!」
甘えたような怒ったような声と共に胸から引き剥がされ、涙で濡れた目で睨まれた。
「そこばっかだと、終りが見えなくて、やなんだよ…!」
「終り、って……ええと…」
「や、やるん、だろ? ちゃんと、最後まで。俺のこと…っ、あ、愛して、くれる、って、言ったろ…?」
羞恥に震えながら彼はそう言い、耐え切れなくなったかのように僕を抱き締めた。
「愛してます。ちゃんと、したい」
「だったら、…っも、早く、してくれ……」
あまりにも魅力的かつ、いっそ蠱惑的ですらある申し出に、ごくりと喉が鳴った。
それを聞きつけたのだろう彼は、薄く微笑んで、
「変に、我慢したりしなくていいから、早く」
と急かす。
僕は彼の体をそっとベッドに横たえた。
そうして、彼を眺める。
羞恥と興奮に赤く染まっているのは、頬や顔ばかりでなく、全身がうっすらと染まり、それだけで艶かしい。
そこに、さらに二人分の白濁が混ざり合い、飛び散っている。
彼が嫌がらなければ、全部舐め取ってしまいたいくらいの眺めだ。
恥かしそうに目を伏せながら、それでも上目遣いに僕を見つめてくる彼は、手出しすることを躊躇いそうになるほど慎ましやかに見えるのに、何もしなくても軽く開かれた脚は悩ましいほどだ。
「古泉…っ」
焦れたように呼ばれて、僕は小さく笑った。
「すみません、つい、見とれてました」
「みっ、見とれるほどのもんじゃないだろ!?」
更に朱が刺す頬へキスをして、
「見とれるほど、綺麗で、愛しいですよ」
「…本気で言ってんのか?」
「冗談だとでも?」
「……」
小さく首を振る、その控え目な仕草も愛しくて、
「本当に、いいんですよね?」
「いいって、言ってるだろ…っ」
「僕も、不安なんですよ」
正直に告げると、
「は!?」
と大袈裟に驚かれた。
「不安ですよ? あなたはご自分で思っておられるよりずっと、人を惹き付ける方ですし、僕はといえば、あなたに信頼されてるとは到底思えないような、嘘にまみれた人間ですからね」
「だが、…っ、」
うまく言えないように、彼は言葉を途切れさせたけれど、咎めるように僕を睨んで、
「俺のことを、好きって言ってくれてるのは、本気なんだろ?」
「本気です。間違いなく、あなたが好きです」
「…なら、いい。他にどれだけ嘘があっても、構わん。疑いそうになったら、聞くから。…好きかって、聞く、から……」
「はい。いくらでも、聞いてください」
聞かれる前に言っているかもしれないけど。
「あなたが好きです」
言いながら、彼の脚に触れると、ぴくりと彼が震えた。
それでも、抵抗はない。
むしろ、興奮したような眼差しを向けられ、こちらも煽られる。
見つめあいながら、悪戯でも仕掛けるように、そっと彼の脚をなぞると、彼の腰がくすぐったさにか、それとも快感にか揺れた。
「あ…っ、ん……古泉…ぃ…」
甘えるような吐息混じりの声で呼ばれて煽られる。
「愛してます」
そう告げて、膝に口付けてみる。
滑らかな肌をたどって、決して自分では見れないし、人にだってそう見せやしないようなところを覗き込むと、
「は、ずかしいから、じろじろ、見るな…!」
と怒られてしまったけど、
「恥かしがらなくていいですよ。…綺麗で、可愛らしいですから」
ぺろりと舐めると、それだけで彼の体が弾んだ。
「やぁっ…!」
上がる声も可愛くて、愛しくて、止められなくなる。
固く結んだ蕾のようなそれを、舌先で愛撫すると、本当に少しずつだけれど、柔らかくなり始める。
くちゅ、と挑発的な水音と共に、中へ指を差し込むと、きつく締め付けられた。
そのくせ、中はとても熱く、柔らかくて、これに包まれたらどんなに気持ちがいいだろうかなんて思った。
それはきっと、想像しても足りないほどなんだろう。
こうして、彼に触れるだけでも気持ちよくて、愛おしくてならないのに、彼に受け入れてもらえたら、どんな気持ちがするか。
そう思いながら、彼の中を探る。
それには、準備なんてそんな味気ないものではない、楽しさがあった。
彼を知る。
彼すら知らない、彼の一部を知るというのが楽しくて、嬉しくて、幸せで。
それに、想像以上の柔軟性を見せるそこに、興味が止め処なく湧いたのもある。
最初は一本の指さえきつくて、動かすのも辛かったはずなのに、段々とほぐれてくると、二本もの指を飲み込める。
中も、柔らかいばかりではなくて、筋肉の動きの感じられるところや、しこりのように硬くなった場所もあって、面白い。
そうやって、まるで探索のようにしているだけで、彼の喉からは悩ましい声が上がるのが不思議なくらいで、
「痛いですか?」
と聞いてみたら、腹を蹴られた。
「い、痛がってるように、見えるか…っ!?」
「すみません。自信がなくて、つい…」
「ばか…っ」
罵りながらも、彼は僕を見ている。
その眼差しも優しくて、嬉しくなる。
「愛してます」
告げながら、片手で彼を抱き締めるようにすると、彼が頭を寄せてくる。
それこそ、信頼の証のようで、嬉しくてならない。
顔を近づけたせいで、彼の吐息まで細かに拾えるようになる。
そうすると、中でほんの少し指を動かすだけでも、彼が敏感に反応しているのがよく分かった。
「ねぇ、ここ?」
「ひっぁ…!」
ぐり、と強めにしこりを押し上げてみると、彼が悲鳴のような声を上げて、ぎゅっと目を閉じた。
「ここが気持ちいい?」
「っう、ぁ…! …ひ…!」
押されるたびに、苦しそうですらある声を上げながら、彼はこくこくと頷いてくれる。
「息を浅くしないで…、大丈夫ですか?」
「あ、…はっ…、だ、って、こんな……っ…」
「そんなに、いい?」
「……っ、だから、お前、それ、無自覚か何か知らんが、ずるすぎるだろ…!」
いきなりそんなことを言われて、きょとんと彼を見返すしかない僕を、潤んだ瞳で睨みつけ、
「さっきから、敬語が崩れてんだよ…っ。やっぱり、狙ってなかったのか…」
「え? あ……崩れてましたか?」
気が付いてなかった。
いけないな、と僕は反省しかけたのに、彼は熱っぽく僕を見つめ、
「…んな、不意打ちされたら、余計に、気持ちよくておかしくなるだろ…」
そんな言葉に、どくりと心臓が脈打つ。
このまま手酷く抱いてしまいたいような衝動をぐっと堪えながら、
「…僕こそ、そんな可愛らしいことを言われたら、おかしくなりそうですよ」
「は…?」
「可愛いです。あなたがおかしくなるというなら、おかしくなったあなたを見てみたい」
「なっ…!」
「見たいですよ。あなたをもっと知りたい」
言いながらキスをして、彼の弱いところを押し上げると、
「ひっ、あ、…っも、知らん、からな…」
「はい?」
どういう意味ですか?
「――っ、引いたり、すんなよって、こと!」
怒鳴りながら、彼は僕の腕に縋るように抱きついてきた。
それとともに熱くなった彼の肉茎が、滑った先走りも、先ほどの白濁も一緒くたになったものを、僕の体に擦り付けてくる。
「はっ…ぁ、イ、イ…」
夢中になって自分で慰めるようなそんな彼の姿に、我慢も理性もどこかへ行きそうになる。
「ひとりで楽しむなんて、ずるいですよ?」
と拗ねたように言ってみると、彼は小さく笑った。
「お前がっ、勝手に、俺だけ、昂ぶらせ、て、る、だけ…っく、だろ…」
「本当に、誘い上手なんだから」
優しくしたかったのに、出来なくなりそうで、いっそ憎らしくなって呟けば、
「お前が悪い…っ」
と返された。
「じゃあ、責任はちゃんと取りますから、自分でなんて勿体無いこと、しないでください」
そう揚げ足取りをして、僕は彼の行為を止めさせると、彼の脚を一際大きく開かせた。
指を引き抜いたそこは、物欲しげにひくつき、見ているだけで目の毒になりそうなほどだ。
「んっ…ぁ、…古泉……は、やく…」
「ええ」
やわらいだ入り口へ、ひたりと凶器としか言いようのない欲の塊を押し当てたのに、彼はむしろ歓喜するように震えた。
「入れますから、ちゃんと、息を吐いてくださいね」
「ん…」
彼が頷いて、呼吸を整えるのを確かめて、僕は彼の中へと押し入った。
その熱も、柔らかさも、きつさも、やっぱり想像した以上だった。
強いというよりむしろ、優しい。
「ぁ、あ…っ、く、る…っ! 来て、る…」
興奮のあまり溢れてくるような彼の声に、それだけで達してしまいそうになるのを、奥歯を噛んで堪える。
可愛い。
愛しい。
ずっと、触れたかった。
ずっと、愛したかった。
やっと、触れられた。
確かに愛し合えた。
愛しい人。
大切な人。
僕を愛してくれる人。
その暖かで、確かな体を抱き締めて、
「あなたが好きです…。愛してる。他の何より、愛してます…」
「お、れも、好き…っ、愛してる…! 愛してる…」
繰り返しながら、背中に回される腕が、立てられる爪が、それだけでも愛しい。
彼の柔らかさや熱さをこの身に刻み付けるように腰を使うと、彼の体が大きく弾んだ。
「ふあっ、ぁ、んっ…! ひっ…、あっ、イイ…っ、そこ…、して…ぇ…」
甘い声でねだられてそれに応えずにいられるはずもなく、自分の方こそ我慢出来なくなりながら、彼の望むように弱いところを突き上げる。
そうして、何度も何度も彼を貫いた。
彼に包まれた。
お互い、これ以上はないというほどに、愛し合い、睦みあった。

夜中になって、今日の外泊をやっと連絡した彼は、僕のベッドで布団に包まったまま、小さく呟いた。
「なんで、こんなにお前が好きなんだ…?」
その言い方も、布団の中で丸まっているのも可愛らしくて愛しくて、
「理由が必要ですか?」
と聞いてみると、
「からかおうとするなよ」
と睨まれた。
「…分からんのは、気持ち悪いだろ。…いつなくなるか、不安にも、なるし……」
ぽそぽそと小さな声ではあるけれど、素直になり辛い彼がそこまで言ってくれるのが嬉しくて、僕は思わず彼を抱き締めて囁いた。
「あなたが、僕を案じてくださったでしょう? それが、僕に届いたんです。それで、僕はあなたを好きになりました。逆に、僕のそんな思いが、あなたに届いたのではないでしょうか?」
「……そういうもんか?」
「そういうことだと思います」
事実、そうなのだから。
「愛してます」
「……ん、分かってる…」
「あれ、あなたは言ってくれないんですか?」
僕が言うと、彼はばっと赤くなり、
「っ、恥かしくて、言えるか、んなもん…!」
「さっきはあんなに言ってくださったじゃないですか」
「うるさいうるさいっ! 全部まとめて忘れちまえ!」
子供のようにそう言って、頭を抱える彼に、
「本当に?」
と悪戯心から囁きかけると、びくりと彼が身を竦ませた。
「本当に、忘れてしまっていいんですか?」
あえてゆっくりそう言ってみると、彼はのろのろとこちらを見て、本当に悔しそうに呟いた。
「お前、本気でずるいな…!」
「すみません。…嫌いになりました?」
返事は、軽い、じゃれるようなキックをひとつ。
でも、それで十分だった。


余談にはなるけれど、あれ以来、彼の無意識の一人歩きが止まったのかというと、実はそうでもない。
彼と少しばかりケンカをしてしまった時にも現れるし、僕の知らない間に彼が妬いている時にも来てくれる。
決まってふくれっ面でやってきては、
「本当にお前は不甲斐無いな! いつになったら俺を楽にさせてくれるつもりなんだ!?」
なんて怒られるんだけど、それすら嬉しいってことに、この人はちゃんと気付いてくれてるんですかね?
そんなわけで、今日もベッドで眠る彼の寝顔を見ながら、床に正座して、彼にお説教されていたりするわけです。
そんな日々も、なんていうか、こう………。

この上なく、幸せです。