タイトルで分かるように、パラレルです
正しく「パラレル」って感じの作品です
平気だぜって勇者はドンビキ覚悟でどうぞー











あるいはひとつの可能性


全てのきっかけは僕が転校してきたこと、それから彼女が平凡な日常に退屈しきってしまっていたこと、何より、僕と彼女が出会ってしまったことだと、彼女らは口を揃えて口にした。


僕の所属する部活をどう表現すればいいのだろうか。
正確に言うならば部活ですらないが、活動場所は文芸部室であり、立派に部室棟の一角をアジトにしてしまっている。
活動している人間も学校の生徒なんだから、やはり部活らしくもあるのかもしれない。
しかし、僕たちの部は部として認められていないどころか、同好会としても認められておらず、それどころか、存在そのものが生徒会や教員に黙殺されているのが現状である以上、部活とは言えない。
それでも、僕たちの集まりの名前を知らない人間は、うちの高校にはおそらく存在しないだろう。
出来る限りお近づきになりたくないという畏怖と、教員にあくまで従わない反骨的性質及び魅力的な女子生徒を有することに対する賞賛と羨望、そのほか複雑な感情が入り混じった声で、僕らの集まりの名は囁かれる。
――SOS団、と。
所属する僕にも、それがどういう集まりなのかはよく分からない。
…分かるものか、とも思うのは、所属する面々からして普通じゃないからだろうか。
他にはきっとないだろう。
宇宙人に未来人に超能力者、おまけに、そんな人間を無意識に集めて(あるいは作り出して)しまった、神様みたいな力を持つ人がいる集団なんて。
嘆くようにため息を吐きつつも、僕は自分がにやけてくるのを感じて軽く頬に触れる。
いけないいけないと思いつつも、楽しくてならないのは、きっと僕自身、変化を求めてしまっていたからだ。
単調な日々の良さだって、分からないわけじゃない。
でも、それに甘んじてしまうにはまだ早いと思う。
好奇心も行動力もまだまだある十代のうちに、そんな特異な人々とお近づきになれてよかったと、僕は時々本気で思い、それからこっそり苦笑を漏らすのだ。
その笑みをなんとか押さえ込みながら、僕は部室のドアをノックする。
「どーぞ」
と素っ気無い返事があるのを確かめてから、
「こんにちは」
と室内に入れば、
「遅い」
一睨みされた。
「これでも、終ってからすぐ来たんです。宇宙人のあなたと一緒にしないでください」
苦笑混じりにそう言い返せば、彼はにやっと笑って、
「難なら、用意してやろうか? お前専用の、教室から部室までの直通路。便利だぞ。教室のドアをくぐればそこはもう部室だ。発動条件を指定したプログラムを埋め込んでやれば、部室に行く時以外は普通に機能するし。ただし、失敗すると上半身と下半身が生き別れになったりするかもしれんが」
「まだ当分死にたくないんで勘弁してください」
本気じゃないんでしょうが、心臓に悪いです。
僕がそう言うと、団長席から団長が言った。
「キョン、古泉くんをからかうのが楽しいのは分かるけど、やめたげなさい。一応、一般人ってことになってるんだし」
「一応」という言葉も、「ことになってる」という表現も不要です。
「僕は本当に一般人なんですって、何度言わせるんですか、涼宮さん!」
「だって、古泉くんが転校してきてから変わったんだから、違うのかもって思うのが普通じゃないの?」
悪びれもせずに言った涼宮さんに、僕が反論を口にするより早く彼が言い添える。
「元々一般人だったとしても、今はお前の存在そのものや言動がキーになってんのは確かだろ。いい加減、自分の立場ってもんを理解してくれ」
窓際で読書をしていた未来人まで、硝子玉めいた真っ直ぐな目で僕を見つめてくる。
それが意味するのは彼の言葉への同意と、僕へのちょっとした詰責だろう。
六つの目から向けられる厳しい視線に耐えかねた僕は、
「…っ、こ、コーヒー飲みに行ってきます…!」
と言って逃げ出そうとした。
「あっ! こらっ、待ちなさい!」
という涼宮さんの言葉に耳も貸さず、脱兎の如く逃げようとした僕だったが、ドアを開いたところで団員の最後の一人にして最重要人物にぶつかってしまった。
「きゃ」
と小さく愛らしい声が胸の辺りから上がる。
僕は慌てて、
「す、すみません、朝比奈さん。大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です…」
力なくもそう言って微笑む朝比奈さんに、ほっとする。
「古泉くん、これからどこか行くんですか?」
「ちょっと、コーヒーを買いに…」
僕が言うと、朝比奈さんは残念そうに、
「そうですか…。あたしがおいしいコーヒーを淹れられたらいいんですけど…」
「朝比奈さんのお茶も十分堪能させていただいてます。ただ、ちょっとばかり眠いものですから。…眠気を飛ばしたいだけなんですよ」
そう言った僕に、朝比奈さんは柔らかく、
「ありがと、古泉くん。じゃあ、あたし、その間にお着替え済ませちゃいますね」
と言った。
僕は朝比奈さんと入れ代わりに部室を出て、階段を下り始める。
ほっと息が口から零れるのは、どうやら大した問題にもならなかったらしいと分かったからだ。
それにしても、何度騒動に巻き込まれ、証拠を見せられても信じられない。
あの人がこの世界を作り変えたりしているなんて。まだ涼宮さんの方がそれっぽいのに。
実際、涼宮さんは朝比奈さんの機嫌を取らなければならない立場にあるはずなのに、むしろ率先して朝比奈さんを泣かせたり、いじめたりしている。
加えて、朝比奈さんの持つ無意識の力を利用して、自分の好きなようにしていることもしばしばだ。
彼女を派遣したらしい機関とやらも、何を考えているんだか。
それに、…そうだ。
朝比奈さんがこの世界を変えていると聞いても納得出来ない理由がもう一つある。
あの優しくて愛らしい人が作ったりしているにしては、この世界は余りにも汚くて、悲しすぎる。
真実この世界を作ったのが朝比奈さんであるならば、この世界はもっと平和だろう。
けれども、超能力者の彼女は機関の考え、と言いつつも半分くらいは自身も、この世界が朝比奈さんの創造物だと信じているふしがあるし、宇宙人の彼も情報という形での世界への影響を、未来人の彼女も時間への影響をそれぞれ認めている。
納得出来ていないのは僕だけだ。
……なんで僕、巻き込まれてんだろ…。
春過ぎに転校してきて以来、何度目とも知れない嘆きを、胸の内で繰り返すしかない僕は、ただの一般人だ。
本当は記号の羅列でしかない名前しか与えられなかった宇宙人と違って汎用性は高くないし、見ているだけで和むような愛らしい人のように万能でもない。
辛いだろう大きな役目を負わされてなおそれを楽しみ、明るく笑っていられる超能力者のように特異能力も持ち合わせていないし、未来から来たという文学少女のように未来の自分と遭遇したことも過去の自分に会いに行ったことも今のところない。
彼女に連れられて、過去の朝比奈さんに会いに行ったことはあるけれども。
そんな僕がどうして、と考え込む僕に、彼女らはあっさりと言ったものだ。
朝比奈さんに気に入られるようなことをしてしまったのが原因だと。
宇宙人の彼はおまけに、
「その原因の半分はまず間違いなくお前の王子様然とした外見のせいだな」
なんて言葉まで付け足してくれた。
大変ではあるけれども変化に富む、楽しい日々を送れることに僕は感謝するべきなのだろうか。
それとも、平凡な日常を返して欲しいと訴えるべきなのだろうか。
どちらにせよ、僕はもう選んでしまっている。
この、一風変わった集団に所属し、余人には知られないまま奇妙な事件に巻き込まれ続けることを。
――あの、冬の日に。

そんな風に、僕が悟りにも似た感覚を抱き始めた、二月も半ばのある日のことだ。
涼宮さんの命令で呼び出される予定もなく、昼まで惰眠を貪ってやろうと思っていた僕の部屋に、突如として宇宙人の彼が現れたのは。
KYZERONという長ったらしいアルファベットの羅列にしか変換出来ない記号の羅列を本名とする彼は、宇宙人――というかむしろ、宇宙人によって作られた人造人間と言った方が正しい気がするのだけれど――のくせに、非常に人間臭い。
自分の名前をもじって、キョンなんて軽い響きのあだ名を作ってしまったりもするし、あるいは僕と一緒にボードゲームに興じたりもする。
表情なんて、未来人である長門さんよりもよっぽどころころ変わる。
…長門さんが表情の変化に乏しく、口数も少ないのはある種のプロテクトのせいなんだと知ってはいるけれど、あれはちょっと酷いんじゃないかと思うくらい、平坦な感情表現と声だから、ついつい彼と比較してしまうのは、僕の悪い癖だ。
それにしても、彼はよく笑うし、怒る。
眉を寄せて涼宮さんを非難する時もあれば、朝比奈さんの愛らしい姿に目尻をだらしなく下げている時もある。
そんな彼が、ほとほと困り果てた様子で、僕の部屋に現れたのだ。
何かあったと思うのが当然だろう。
「どうかしたんですか?」
人間らしく玄関から登場しなかったことを咎める余裕もなく、僕は彼に聞いた。
すると彼は、やはり困り果てて困惑に揺れる瞳を潤ませて、僕を見つめた。
どういうわけか紅潮した頬が、ええと、何と言うか、色っぽいんですけれども。
「古泉…」
声もやはり困りきっていた。
への字に曲げられそうな唇を見つめる僕に、
「…上から、新しい指示が来た……」
途方に暮れたような彼の言葉に、僕も慄然とせざるをえない。
だって、そうだろう。
その言葉で思い出されるのは、転校してきて間もない頃、僕がやっと彼、長門さん、涼宮さんに、それぞれの正体と目的を告白されたばかりの頃に、いきなり襲撃してきたクラスメイトのことなのだから。
大人しげに振舞っていた委員長がいつも通りの控え目だが好印象を与える笑みもそのままに、ダガーナイフを振りかざして来た時には本気で死を覚悟したものだ。
その時、彼女は言い残した。
『いつかまた、自分のような急進派が来るかもしれない』
それから、
『彼の操り主が意見を変えるかもしれない』
とも。
その時僕は、助けに来てくれたばかりか、僕を庇って大量出血の大怪我を負っていた彼におろおろするばかりでいたけれど、それでも彼女の遺言染みた言葉は耳に残っている。
彼に下された新しい指示。
それが、彼女の言ったような意味だとしたら、僕は間違いなく、殺される。
ぞっと寒気を感じながらも、僕は逃げられない。
彼から逃げられるはずがない。
たとえ彼に、特別な宇宙人的能力がなかったとしても。
身動ぎひとつ出来ない僕の顔を見上げて、彼は言った。
「…朝比奈さんの反応をみるために、鍵であるお前を篭絡しろって。なぁ、どうしたらいいんだ?」
と。
……はっきり言おう。全く以って予想外だったと。
「な……何ですって?」
聞き間違いだろうと、そんなことはないと分かっていながら聞く僕に、彼は思わず僕がたじろいでしまうほど顔を近づけて、
「だから、お前を篭絡しろって言われた、と言ったんだが? 聞こえなかったのか?」
「いえ、聞こえはしましたけど……冗談、でしょう?」
「……冗談に聞こえたか?」
むっすりと眉を寄せる彼は、真剣そのものだ。
いつものように僕をからかう気配すらうかがえない。
まさか、
「本当…なんですか……?」
「ああ」
「――っ、じょ、情報統合思念体って一体何考えてるんですか!」
思わず頭を抱えて叫ぶと、彼はため息を吐き、
「俺の方こそ聞きたい」
むすっとしたままそう唸るように呟いた。
「で…まさか、実行する気じゃ、ない……ですよ…ね?」
焦りながらじりじりと後退を始めた僕に、彼は悲しげな視線を注ぐと、
「……すまん」
と一言謝った。
その途端、僕の体が動かなくなる。
この感覚は覚えがある気がする、というか、クラスメイトに襲撃された時に金縛り状態にされた時と全く同じじゃないか。
しかし、正確に言うと全く同じではなかった。
あの時は口も聞けず、瞬きすら出来なかったが、今はそれくらいなら出来る。
…それくらいしか出来ないと言うべきかもしれないが。
とにかく僕は自分に残された最後の手段として、
「待ってください。本当に、あなたはそれでいいんですか? こう言うと失礼にあたるかもしれませんが、あなたは宇宙人とか人造人間という以前にもはやすっかり普通の、僕のようなただの人間とそう変わらないほどのアイデンティティを確立し、自身というものをはっきりと持っておられるように思います。それなのに、あなたは命じられたからと言って自らの意に染まないことをするつもりなんですか?」
「…っ、俺、だって、……こんなこと、しなくて済むなら、したくねぇよ…!」
彼の顔がくしゃりと歪められ、泣きそうに見えた。
彼が泣いているところなんて――彼の素性からするとむしろそれで当然なのかもしれないけれど――見たことがなかった。
だから僕は、ややあって彼の頬を伝い始めたその液体が本当に涙なのかと疑いたいような気持ちになった。
「…あなたはもう、僕たちと同じ、人間ですよ。ですから、命じられたからと言って機械のように実行しようとしないでください。…お願いします。責めは全て僕に……」
そう言おうとした僕を、彼はいきなり抱きしめてきた。
全力ではないのだろうけれど――その気になれば地球だって割れそうな彼の全力なんて想像も出来ない――普通の男子高校生としては少々強過ぎるくらいの力で。
「あ、の……」
本当に僕を篭絡にかかるつもりなのか、と慌てかけた僕だったが、それにしては様子がおかしいと思った。
なんだか、小さな子供が自分より大きな相手に頼ろうとして必死に縋りついているように見えたせいかもしれない。
…ってこれはたとえになってないのかな。
彼はまだ3歳だと自分で笑っていたし、体格も僕より少し小さいのだから。
「その…大丈夫ですか?」
「人間と同じになんて、なりたく、なかった…っ…」
しゃくり上げながら彼が言い、僕は息が止まるかと思うほど驚き、また戸惑った。
どうしてそんな悲しいことを言うんだ。
「こんな、苦しい、なら、心なんて、欲しく、なかった…!」
命令に逆らうということがそんなにも苦しいことなのか。
…そうなのかもしれない。
情報統合思念体というのは仮初にも彼にとって親のようなものであり、上司でもあり、あるいは教師のようでもあるのだろう。
それならば、その命令に逆らうというのは苦しいことと思ってまず間違いはないだろう。
「…そんなに、苦しいんですか?」
いつもなら酷く頼もしくて、余裕綽々な態度に少なからず反発したくもなってしまうような彼が、小さくこくんと頷くと、どうしようもなく頼りなく見えた。
だから僕は、決して言うつもりのなかった言葉を口にしてしまったんだ。
「……でも、その命令は実行出来ませんよ」
「あ…?」
訝しげに僕を見つめてくる彼から目をそらすことも出来ないのは僕にとっても辛かった。
おそらくこれから、その表情が嫌悪か、あるいは裏切られたように感じるそれに変わるはずだから。
でも僕は、それをしっかりと見つめるべきなのだろう。
だから僕は目を閉じることはあえてせず、彼を見つめ返しながらはっきりと言った。
「今更篭絡されるまでもなく、僕はもう……ずっと、あなたのことが好きなんですから」
あるいは、だからこそ篭絡するように命じられてしまったのかもしれないけれど。
そんなことを思う僕の目の前で彼が大きく目を見開き、驚きを表した。
それがいつ、傷ついたようなそれに変わってしまうのだろうと思う僕に、彼は震える声で問う。
「嘘…だろ……?」
「本当ですよ。…あなたなら、僕の心を読むことだって出来るんじゃないですか? そうして確かめればすぐに分かることでしょう?」
というか、これまで読まれていなかったのか。
そのことの方がよっぽど驚きに思えた。
「だ、って、絶対…嫌われてる、と、思って…」
「え」
今度は驚くのは僕の番だった。
彼はさっきよりも静かに涙を零しながら、頬を紅潮させている。
宇宙人でも人間と感情表現があまり違わないのであれば、これは怒りの表現ではなくむしろ喜びの表現ではないかと思うのは、惚れ込んでしまったがゆえの欲目というやつだろう、きっと。
彼は真っ赤になったまま、しばらく視線をさ迷わせていたが、やがて上目遣いに僕を見つめると、
「…本当、なのか……?」
「……本当です。あなたのことが、好きなんです」
「……っ、だめ、だ、怖くて心なんて読めん…」
震える彼に、僕は小さく笑って、
「だったら、僕を信じてください。僕の言葉を。…それとも、信用なりませんか、僕みたいな人間は」
「んなことあるか! …だが……本当、に…?」
「僕の方こそ、お聞きしたいですね。…まるで、あなたも僕のことを愛してくださっているかのようにしか思えないのですが」
彼は更に顔の赤味を深め、
「……すまん」
ともう一度謝ってから、滔々と話し始めた。
「お前を篭絡しろなんて命令が下ったってのは真っ赤な嘘だ。そんな命令、下されてない。ただ、俺が、……っ、お前を、好きに、なっちまって……。でも、俺は人間じゃないし、どんなに似て見えても、人間にはなれないし、お前は人間の女の子によくもてるから、俺なんて、絶対に好きになんてなってもらえないって思って…。優しくされるのが嬉しいのに、期待しそうになるのが嫌で、意地悪なこと言ったりしたから、お前には嫌われてるって、思ってた…。だから、信じられないのは俺の自業自得、なんだが……。――でも、だけど、俺、は……お前が、好き、で…。お前が、俺が人間じゃないって分かってて、なのに、人間と同じに扱ってくれる、だろ? それで、好きに、なっち、まって…。朝比奈さんがいるからいけないって、思うのに、止まらないし、ハルヒにだって注意されたり、したのに、どうしようも、なくて、それで、せめて、一度だけでも、体だけでも、繋げたらいいかな、なんて、思って…。でも、その後嫌われるのが嫌、で…姑息な、嘘、なんて、吐いたりして……。ごめ……ごめん、なさい……。き、嫌いに…なら、ないで…くれ……」
しゃくり上げながら長々と心情を吐き出してくれた彼に僕が思ったのは、やっぱり彼はもう人間なんだということだった。
「嫌いになんかなりませんよ。むしろ、嬉しすぎてどうにかなりそうです」
「ほんと…か…?」
目を赤く泣き腫らしながらそう聞いてきた彼に、
「ええ。…改めて、あなたのことを本当に愛おしく感じました」
これまでより、ずっと強く。
もう、見ないフリなんてきっと出来やしないと思うほどに。
「…金縛りを解いてもらえますか?」
僕が頼むと、
「え? …あ、すまん。すっかり忘れてた」
と彼が言うとともに体が動くようになった。
真っ先に僕がしたことは言うまでもないだろう。
彼の細い体を抱きしめて、夏休みに彼が冗談めかしながら、僕をそそのかすように言った言葉を、彼の耳元で囁いたのだ。
――I love you.
とね。
彼が信じられないというなら、信じてもらえるまで何度でも囁こう。
それでもダメなら態度で示そう。
嬉し涙をまだ滲ませる彼の目尻に口付けると、彼が飛び上がらんばかりに驚いたのがおかしくって、思わず笑ってしまった。
きっとこれから、こんなやりとりが、不思議でおかしくて楽しい日々の一部になると信じて、僕は彼の温かな体を強く抱きしめなおした。