エロです
ちなみにお題は、
「友人同士の古泉とキョンで、
プチ遠出をした際にホテル代をけちって近くのラブホテルにとまることにして
あれやこれや興味津々に見た後、もにゃもにゃ」
です。(原文ママ)
略して「ラブホでもにゃもにゃ」です←
そんな感じの内容ですので好きな方だけどうぞ
俺と古泉の関係をして言い表すのには、少々面倒な言葉の羅列が必要になる。 理由の大半はあいつの肩書きと属性とハルヒとによるものであり、俺のせいではない。 俺から見ればあいつはただの友人で、ハルヒに振り回される同志である。 あいつから俺を見ると、それに加えて――で、いいんだろうな?――観察対象だの世界の鍵だのと言ったよく分からないものが入ってくる。 ハルヒのせいで生まれた名称としては、SOS団員とか、副団長と平団員とか、肩身の狭い男子組とか、そういうのだな。 はじめの内こそ俺も警戒なりやっかみなりを抱き、単純ならざる感情をあいつに対して抱いていたものだが、最近では特にそういうこともなくなり、他の友人に対するのと同じか、あるいはそれ以上の信頼を寄せるようになっていた。 あいつも、俺をそう思ってくれているんだろう。 そうでもなければ、今日みたいに、遠出に誘われることもなかったはずだからな。 そう、遠出だ。 距離は大したことはない。 無理すれば日帰りも可能だが、一泊した方が楽、という程度のものであり、本来なら俺たちも日帰りのつもりだった。 しかし、生憎天候が崩れ、電車が止まっちまったんだな、これが。 一体何の陰謀だと聞きたくなったが、かくして俺たちは土砂降りと暴風の中、コンビニで買った安くてちゃちい傘の中で肩を寄せ合いながら、一夜の宿を求めて歩きまわっていたわけだが、駅前近くのビジネスホテルやカプセルホテルは同じような境遇の人で埋まり、ちょっとばかりグレードの高いホテルもご同様。 まさか男二人でロイヤルスイートなんて真似は出来なくて、このまま野宿かと覚悟を決めかかったところで、俺はふと足を止めた。 「どうしました?」 俺が疲れたとでも思っているんだろうか。 心配そうに俺の顔をのぞきこんできた古泉に、 「……この前、帰省した時のことなんだがな、」 と俺は話し始めた。 「俺よりちょっとばかり年上の従姉が遠方に旅行に出かけた時の話をしてたんだ。女二人で車を借りてな。二人とも金に余裕があるわけじゃないからはなからホテルに泊まるつもりなどはなく、車の中で雑魚寝するつもりだったんだが、若い女二人でそれは危ないし、第一車の中じゃ安眠も出来ん。そこで利用したのが、」 俺はすっと目の前のホテルを指差した。 けばけばしいネオンで浮き上がるのは、十年以上前のセンスで付けられたカタカナの名前。 「…こういう、ラブホテルだったんだと」 「は…あ……」 頭がくらくらする、と言わんばかりに古泉は額を押さえた。 「ここもいっぱいかも知れんが、ためしに入ってみるか」 そう言って俺が入ろうとすると、 「ま、待ってください」 慌てた様子で古泉が俺を止めた。 何だ。 「何だじゃありませんよ。…あなた、正気ですか?」 「正気だ。だからこんなことが言えるんだろうが」 それに、ラブホテルなら普通のホテルよりもずっと安上がりで済むからな。 「あなたのその経済観念は今時貴重かつ非常に好ましいものではあると思いますが、男二人でラブホテルというのもどうかと…」 「だから、俺の従姉は女二人で入ったって言っただろうが。男女のカップルじゃないという点では同じじゃないか。それに、この大雨の中、野外で夜明かしなんて嫌だぞ。電車の中や狭苦しい駅舎に詰め込まれて待つのもな」 「だからって……」 「別にいいだろうが。俺とお前なんだ。何か間違いが起こるわけでもなし、構わんじゃないか」 「それはそうですけどね、」 「なら、」 俺は強引に古泉の手を引っ掴んで歩きだし、 「とっとと入るぞ。せめて雨風をしのがせろ」 背後にため息を聞きながら、ホテルの中に入ったのだった。 タッチパネル式の人気のないフロントでざっと料金と部屋の写真に目を走らせたところで、一番安い部屋が空いているのが分かった。 「ラッキーだったな」 「…そうですね」 抵抗する気もなくなった、とばかりに気の抜けた声で言った古泉にそれ以上話を振っても酷なだけか、と俺はぱっぱと部屋を選び、出てきたカードキーを手に部屋に向かった。 「しかし、男二人でも入れるもんなんだな」 部屋に入ったところでそう呟くと、 「あんなに自信満々だった割にそういうこと言うんですか」 と小さく笑われた。 「それに、たまには男二人で利用する人もいるんじゃないですか?」 「だろうな。まあ、俺たちもそう見なされたんだろうな。…というか宿泊という意味での利用なら、実際そうなわけだが」 そうですね、と頷いた古泉がソファの上に荷物を放り出す。 俺も荷物を置き、それから部屋の中をぐるりと見回した。 一番目に付くのは大きなベッドだが、どピンクの派手なそれとすぐ脇の自動販売機からは目をそらし、反対側、ソファの正面でもある大きなテレビに目を向ける。 テレビ台の中にはゲーム機なんかも置いてあるようだ。 ソフトは大して面白味もない上にちょっとばかり古いものだが、悪くはないな。 「後でゲームでもするか」 と言えば、古泉も楽しくなってきたのか、 「いいですね」 意外と明るい声で同意を示された。 テレビを点け、すぐに出てきたのが大写しになった裸の女の子だったのにはびびったが、ちゃんとチャンネルを切り替えればニュースなんかも映り、俺たちが足止めを食らった原因であるところの大型台風が更に荒れ狂っている様が映っていた。 テーブルの上に置いてあったラクガキノートの浮かれかえった様に腹を抱えて笑っていると、 「先にシャワーを浴びさせていただいて構いませんか?」 と背後から聞かれて竦みあがった。 耳元で囁くんじゃない。 「あ、ああ、いいぞ」 「ありがとうございます。思ったよりも、濡れてしまいましたからね」 「フロントに頼んでクリーニングでもしてもらうか?」 俺の服も大概びしょ濡れだが。 「そこまでするほどではないでしょう。空調の効いた部屋で適当に広げておけば乾きますよ」 「だな」 無駄金は使いたくないし、と頷けば、古泉が小さく笑うのが聞こえた。 文句でもあるのか? 「いいえ、まさか。余計な出費を抑えたいのは僕も同じですからね」 そう、俺がかつて考えていた無根拠な予想よりも、機関は財布の紐が固いらしい。 古泉は普段から極力出費を抑え、なかなかの節約生活を送っている。 …そういうところも、俺が親近感を覚えた理由のひとつではあるんだが、もう少し経費なんかを認めてやったっていいと思うぞ。 一度搾ってきたらしい上着をソファの背に掛けて、古泉はバスルームに消えていった。 安い部屋でよかったなと思ったのは、高い部屋だとそのバスルームがガラス張りで丸見えだったり、部屋自体にもあれこれ要らんオプションがついていたらしいことが、備え付けられたパンフレットで分かったからだ。 一緒に風呂に入ったこともある仲ではあるが、そんなもんを見せられるのも見せるのも勘弁願いたい。 俺がノートのバカな書き込みに何かひとつセンスのいいものでも書き足してやろうかと考えていたところで、古泉がバスルームから出てきた。 着替えのかわりに、備え付けのバスローブを纏っているが、それが妙に絵になる。 「出ましたよ。あなたも早く入った方がいいんじゃありませんか」 「ああ、そうだな」 よいしょ、と爺むさく呟きながらソファから立ち上がった俺は、古泉にならって濡れた上着を一度バスルームで搾った後、戻ってきてそれをソファの背に預けた。 「そうそう、」 タオルで頭を拭きながら古泉は言った。 「入浴剤なんかも置いてありましたよ。難でしたら試してみたらどうです?」 「要らん。お前こそ、貰って帰らなくていいのか?」 節約少年なんだし、と言外に匂わせてやる。 「ふふ、そこまでは流石にしませんよ。入浴剤なんて貰って帰っても食べれませんし」 お前、そういうところは本当に顔に似合わず堅実というか、普通だよな。 まあ、悪くはないが。 俺は苦笑しながらバスルームに戻り、ざっとシャワーを浴びた。 思ったよりも体が冷えていたらしく、熱いお湯が気持ちよかった。 濡れた後に平気な顔してクーラーの風に当たってたんだから当然だろう。 わざわざドライヤーで乾かすまでもないだろうと、タオルで拭いただけでまだ湿った髪のまま部屋に戻ると、古泉がソファを物干しにし、ベッドに寝そべってテレビを観ていた。 「何か面白いことやってるか?」 「大したことはしてませんね。台風のニュースと後はバラエティーがいくつか、というところです」 「なら、見てもしょうがないか」 それなら、と俺は古泉の手からリモコンを取り上げ、 「せっかくホテルに泊まるんだから、普段なら金が掛かってしないことをするかね」 と呟きながら、チャンネルをアダルトビデオのそれに変えた。 「え」 隣りで絶句する古泉には、もうひとつ節約術を教えてやろう。 「AVってのはな、買うと高いんだ。かといってネットで探すのはなかなか面倒だし、うっかり履歴を消し忘れたり人に見られたらと思うとおちおちオカズになんぞ出来ん。詐欺サイトも怖いしな。それで俺なんかは谷口から回されてくるのをへいへいと受け取ってたりするんだが、こういうところだといくら見てもタダだからな。ついでに見て、目の裏にでも焼き付けて帰って使ったらどうだ?」 「……そういうものですか…?」 「とりあえず、他のチャンネルよりは普段見れないことをやってると思うが」 「はぁ…」 呆れたように呟きつつチャンネルを変えようとしないってことは、こいつもやっぱり人並みに興味はあるってことかね。 「……考えて見ると、お前とそういう話をしたことってなかったな」 途中から始まったビデオがひとつ終り、次のビデオに切り替わったあたりで俺がそう呟くと、古泉は苦笑して、 「そうですね。まあ、しなければならないというわけでもないですから」 「というか、お前でも性欲とかあるのか?」 「……それはどちらかというと僕がお聞きしたいことですね」 は? なんでだよ。 「普段から思ってたんですよ。…あれだけ魅力的な女性陣に囲まれていながら、一向に誰とも進展しないあなたは、本当は性欲もない聖人君子かなにかじゃないのかと」 「冗談だろ」 俺だってたまにはもやもやしたものを抱えることくらいあるに決まってる。 ただそれが顔に出ないだけで。 「そういうお前こそどうなんだよ」 「僕ですか」 古泉は困ったように苦笑して、 「そうですねぇ…。人並みに興味はありますけど、取り立ててどうということはありませんね。あなたのご友人のように女性を積極的に口説こうとも思いませんし、口説かれたいとも思いません。もっともそれは、僕のアルバイトのせいもあるんですが」 「機関ってのは恋愛も禁止してるのか?」 「いえ、そういうわけじゃありません。誤解のないよう申し上げておきますが、それくらいの自由は僕らにだってありますし、実際妻帯してる方もいらっしゃいますよ。ただ僕は、特別守りたい誰かを持ちたいとも思わないですし、女性と付き合うということに積極的になろうとも思わないんです」 いつになく古泉が饒舌に自分のことを話してくれたのは、こんなちょっとばかりおかしなシチュエーションのせいだったんだろうか。 あるいは、古泉としてはなんとかビデオから意識を反らしたくて必死に話していたのかもしれない。 俺はと言うと、視線だけはビデオに向けながら、耳は古泉の声だけを拾い続ける。 「一人暮らしだといいよな。家族の目を気にしなくていいから」 何の時に、とは言わずにそう言うと、古泉は苦笑しつつ、 「そうですね、そういうこともあります」 「俺なんか大変だぞ。いつ部屋に飛び込んでくるか分からん妹がいるからな。部屋には鍵もないし」 「それなら、僕の部屋をお貸ししましょうか」 冗談めかして古泉は言った。 「僕がいない時にでも、使ってくださって構いませんよ」 それは確かにある意味では魅力的な申し出なんだが、 「流石に遠慮させてもらう。お前だって帰ってきてイカ臭かったら嫌だろうよ」 ははっ、といつになく軽い笑いを漏らした古泉は、 「それもそうですが、少々残念ですね。…あなたとより親交を深めるいい機会だとも思ったのですが」 「ばか」 そう言ってから黙り込んだのは、ビデオが退屈な導入部を脱していよいよという部分に差し掛かってきたからというのが半分、古泉がどんな風にして自分を慰めてるんだろうか、なんて余計なことを考え始めちまったからというのが残りの半分だった。 気付かれないよう、横目で古泉の様子を伺いながら、口の中にたまった唾を飲み込む。 下半身の方に妙な熱が集まっちまったのは、古泉が何を見てどんな風にどんな顔して、なんて思ってたせいじゃないと思いたい、いや、無理でもそう思うぞ俺は。 冷たいシャワーでも浴びて頭と下半身を冷まそうか。 しかしこのタイミングでシャワーを浴び直しに行くってのもなんか変だよな。 ああくそ、シャワーは後回しにしときゃよかった。 などと俺が葛藤していたら、 「ねえ、」 と隣りから声を掛けられた。 「な、んだ?」 声が引きつったのは、思いがけず声を掛けられたせいであり、後ろめたかったからではない。 古泉はどこか熱っぽい目をして俺の方に向き直ると、 「…あなたも、勃ってますよね」 「っ…」 「見れば分かると思いますけど、僕もなんです」 なんでもないことを言うように言った古泉はテンパっている俺に構わず、とんでもない一言を言い放ちやがった。 「いっそかきっこでもしませんか」 とな。 「か、かきっこってお前……」 何言い出すんだこいつは、と唖然とする俺に古泉は小首を傾げて、 「あれ? しませんか? そういうこと」 少なくとも俺はしたことねぇよ。 「小学生の頃って、そういうことに興味を持ち始めるでしょう? 倫理観とかも薄いものですから、親の目を盗んで友達とそんなことをしたこともあるんですが」 小学校どころか中学校高校でも俺はそんなことをした覚えなどない。 聞いたことだってないぞ。 「でも、そう大したことじゃありませんよ」 そうかい。 「それに、こんな状況下ですし、各自でするよりはいいと思いませんか?」 そう言って古泉は俺の顔をのぞきこみ、こんな時に使うべきじゃないだろう、ねちっこい声を響かせた。 「ねえ、しませんか」 「うー………」 どうしたもんかね、と迷う間はなかった。 何故なら、長い付き合いであるにも関わらず気がつかずにいたのだが、俺の首は俺の下半身並みに我慢がきかない奴だったらしく、勝手にこくりと頷いていたからな。 「ありがとうございます。これで堂々と出来ますね」 と古泉が笑ったくらいには、古泉もどうやら切羽詰っていたらしい。 バスローブの隙間から現れたそれは、先走りで濡れていて、何て言うか……エログロそのものみたいだ。 というか、俺のとは大分違う気がする。 それを見て、ドキドキと妙に興奮してきたのはなんでだろうな。 深く考えたくはない。 「失礼しますね、」 と言って古泉は俺のバスローブも肌蹴てしまうと、古泉のと比べると少々見劣りがしないでもないものを取り出し、そっと指を絡ませてきた。 遠慮しているんだろう動きが、不思議と気持ちよくて、 「んっ……」 と堪えきれない息が漏れた。 「あなたの手も、貸してください」 「あ、ああ…」 言われるまま手を伸ばし、古泉のそれに触れると、それが酷く熱く、脈打ってるのが分かった。 ヤバイ、と思ったのはどうやら間違いじゃなかったらしい。 「興奮しました? 大きくなりましたよね、今」 「っ、お前が触るからだろ…!」 「そうですね、責任を以って最後まで面倒見ますよ」 などと言われて、古泉の余裕が鼻についた。 だからだと自分に言い訳でもするように考えながら、俺は握り込んだ古泉のものを扱きあげた。 「くっ…」 小さな声が古泉の口から漏れた。 それに気をよくして、俺はさらに指を動かす。 すると古泉も対抗するように強く刺激してくる。 もっと感じさせてやりたいと思っているのか、もっとして欲しいと思っているのか、分からなくなるほど。 つけっ放しのAVは、もはや音声すら頭に入って来なくなっていた。 ただ古泉にされる行為が気持ちいい。 古泉にされているということに興奮する。 俺だけなのか、それとも古泉もそうなんだろうか、と思いながら覗き見た古泉の顔は、思っていたよりも興奮に染まっていた。 赤味を帯びた頬に、熱っぽく潤んだ目。 薄く開いた唇からは熱い呼気が漏れている。 熱心過ぎる指も、手の中で存在を主張するものも、示すものはただひとつ、興奮で。 どうしてだろう。 俺は、そんな古泉に余計に興奮していた。 おかしいと思った時にはもう遅かった。 むしろ、何で古泉で欲情するんだ何て気づかない方がずっとよかった。 しかし俺はうっかりと思っちまい、気付いちまった。 古泉のそれに負けないくらい息を荒げながら、考える。 何でなんだ、と。 初めてこんなことをするからか? …違う。 こんな異常な状況だからか? …それも違う。 ただ興奮しているだけならそうなのかもしれない。 だが、それだけじゃない。 俺は古泉に欲情して、もっと触れて欲しい、見て欲しい、愛して欲しいと――。 ……愛して? ……………嘘だろ。 顔がかっと赤くならずにすんだのは、既に真っ赤になっていたからだ。 思わず手を止めてしまったが、古泉は咎めなかった。 どうしたものか、と頭を抱えたくなったところで、 「…あの、すみません」 と声を掛けられた。 「あ、ああ、すまん。手が止まってたな」 「いえ、そうではなくて、ですね…」 言い辛そうに口ごもった古泉だったが、俺の目を覗きこむと、 「…もっと、触っても…いい、ですか…?」 俺は首を傾げて古泉を見つめ返した。 何を言ってるんだ? ここまで来て途中で放り出される方がよっぽど辛いと思うんだが。 「…イかせてくれるんだろ…」 小さな、ほとんど囁くような声で呟くと、 「それは、いいってことですよね」 と確認を求められた。 言葉で返す余裕もなく、俺はそれに頷き返し、続きを求めるように腰を揺らした。 古泉の喉が動くのが、やけにくっきりと見えた。 「ありがとうございます」 馬鹿丁寧に言った古泉の手が触れたのはさっきから熱くなっているその場所ではなく、バスローブに包まれたままの上半身だった。 遠慮がちに、布越しに俺の体を確かめるように手が動かされるだけで、後ろめたさにも似た感覚がぞくぞくと背筋を這い上がる。 「古泉…?」 さっきの続きをされるだけだと思っていた俺が戸惑いの声を上げると、古泉は微かな笑みだけを寄越してバスローブを脱がせやがった。 「な…」 「触っていい、と許可してくれたでしょう?」 あれはそういう意味だと思わなかったんだ、と言おうとした俺の首筋に、古泉がキスだかそれとも噛み付いてんだかよく分からないものを落とす。 それで反論を封じられるのも、なんとなく情けない話だ。 普段なら服に隠れて見えない場所を見ようとするかのように、古泉は視線を俺の体に絡ませる。 日焼けを知らない二の腕の裏側をじっくり眺められた後、同じくらいねちっこく舐め上げられ、 「ひ、ぅ…!」 と思わず声を上げた。 その声の高さに恐怖にも似たものが湧き上がる。 このままどうにかなってしまうんじゃないか、なんてことを思う。 むしろ、予感すると言った方がいいほど、強く。 「ぁっ……こ、いずみ…」 「大丈夫ですよ。痛いことも怖いこともしませんから。……ね」 そう言った古泉の指先が胸の突起に触れた。 男にあっても、あるだけ無駄だと思っていたそれは、最初のうちは柔らかく、特に何という感覚も催させなかった。 いや、ある意味ではぞくりとしたものを起こさせてはいたのだが、それを言うなら二の腕なんかの方がよっぽど強かった。 それでも、古泉があの艶かしい目でそこを凝視しながら、丁寧に、しかもしつこいほどに指先で捏ね、抓み、嘗め回し、吸い上げたりするものだから、いつの間にかそこは真っ赤に充血し、硬く立ち上がっていた。 その時にはもう俺はベッドに横たえられており、たった二つきりの突起物が混乱とも酩酊ともつかない快楽を起こさせることで、完全に思考を放棄していた。 おかしいともやめろとも言えず、赤ん坊みたいにそこを吸う古泉の、柔らかで気持ちのいい髪に指を絡め、抑えられない声を上げる。 「んっ……ふ、ぁ、古泉…っ……」 「気持ちよくなってきたって顔、してますね」 どこか底意地の悪そうな顔で笑った古泉は、わざと自分の腹で俺の昂ぶったモノを潰しながらそれ以上の刺激は与えず、つまりは生殺しのような状態を維持しつつ言った。 「もっと、気持ちよくなりたいですか?」 「なり…たぃ……」 もう自分が何を言ってるかも分からなかった。 意識さえ朦朧としてくる中でただ思ったのは古泉が欲しいということだった。 だから俺は、俺の脚を広げられるだけ広げさせた古泉に向かって言ったのだ。 「キス…したい……」 と。 「それ、は………」 こんなことをしておいて、古泉はキスに躊躇うのかと思うとなんだかおかしかった。 同時に、妙に悲しくて、 「キスしないんだったら、ここまでだ」 何を乙女みたいなことを言ってるんだろうね、と自分を笑いながら、これで本当にやめられたらと思うと不安で胸が潰れそうになった。 黙ってれば欲したものを得られたかもしれないのに、余計なことを言ったんじゃないか、と。 しかし古泉は、感極まったように俺を抱きしめると、 「そんなことを言っていると、僕の方こそ止まれなくなりますよ」 と言って、俺の唇に自分のそれを重ねた。 重ねた、というよりはむしろ押し付けた、という感じだろうか。 想像以上に乱暴で、性急なそれに、流し込まれる唾液の甘さに、さっき不安に染められた胸が満たされる。 だらだらと零れた先走りの滑りを借りた指が脚の間に触れる。 それだけで腰が揺れたのはくすぐったからなのか、それとも違うのか。 それすら分からない。 アルコールを摂取した覚えもないのに、まるきりそんな感じだった。 「ん、く……ぅ…」 入り込んでくる指の感覚に息を詰めると、 「大丈夫ですか?」 と問われた。 「だい、じょぶ……だから…」 その先は俺にも分からん。 「…出来るだけゆっくりしますね」 おそらく労わっての言葉が、かえって残酷に思えた。 早く古泉が欲しい。 いつまで続くのか分からんこの感覚を、早く終らせて欲しい。 決着をつけて欲しい。 そう願いながら、俺はシーツを握り締め、苦痛に耐える。 耐えたっていいと思った。 それなのに、古泉というやつは人の裏をかくのが好きなのかね。 「ぃ…っ! な、…やぁ…!」 聞くに堪えない嬌声が俺の口から飛び出したのは、古泉の指が俺の中を抉ったからだ。 「ここが気持ちいいんですね」 ほっとしたように笑った古泉の表情にどきりとした隙に、更にそこを押し上げられ、 「あ、んっ、…やめ…! なん、だ、これ…!?」 信じられないような感覚にうろたえる俺に、優しくキスをして、古泉は囁く。 「大丈夫です。僕を信じてください」 「そう、いう、…ひっ……問題、じゃ、な…ぁあ…!」 これまで感じたことがないような快感なのに、達してしまうには足りなくて、体の中を熱がどんどん渦巻いていくようだ。 それでも自分で前を刺激しなかったのは、自分の手は古泉の体に縋りつくのに必死だったからだ。 放したくなかった。 放してしまえば、どこかに消えそうで怖かった。 古泉も、この行為も、この記憶も。 だから俺はぬちゃぬちゃと耳に障る水っぽい音に耳を塞ぐことも出来ず、あられもない声を上げ続ける口を塞ぐことも出来ず、ただ古泉を抱きしめ続けた。 「入れます、ね…」 汗の雫を滴らせ、湿り気を帯びた手で俺の脚を殊更に開かせながら、古泉は言った。 俺はその手を握り締めて、早く、と口の動きだけでねだる。 声はもう出せなかった。 喉が渇いて、古泉のキスが欲しくて仕方なかった。 痛みと熱さと共に古泉が俺の中に入ってくる感覚に、全身を焼かれる思いがした。 嬉しいのか苦しいのか悔しいのか、それさえ分からない。 「…っう、ぁ……」 呻いた俺の口を古泉が塞ぐ。 注ぎ込まれる唾液で喉を潤した俺は、古泉の首に腕を絡め、もっとと唇をねだる。 そうして、声になんかならないと思いながら口にした言葉は、意外にもはっきりと響いた。 「好き…だ…」 と。 一瞬、古泉の動きが止まる。 その目が俺を捉える。 信じられない、と呟こうとしたのが唇のかすかな震えだけでも分かった。 「ごめ…」 ぼろ、と涙が零れた。 「…気味、悪いよな…。変なコト、言っちまって…ごめん…」 泣きながらそう謝る。 しゃくり上げると古泉が抜け出てしまいそうで、思わず脚を絡めた。 「そんなこと、ありません」 どこか慌てた様子で古泉は言った。 至近距離で俺の目を見つめてくるその目には、どこか興奮の冷めた冷静さがあった。 頭から冷水を被らされたみたいな顔だ。 「でも……本当、ですか…?」 「冗談で、言えるかよ…」 そもそも俺は冗談でだって友人とこんなことが出来る人間じゃない。 ――相手がお前だから、俺は…。 叫びすぎて掠れた声でそう言っても、古泉にはちゃんと聞こえたらしい。 俺を強く抱きしめて、俺の耳に唇を寄せ、その吐息で俺のことを震わせておいて、 「…僕もです」 「…ほん、と…か……?」 「本当です。あなたを、愛してます。あなたでなければ、こんなことをしたいとは思いませんでしたし、するはずもありません。あなたが、好きです」 それだけで、体を焼いた熱がもっと違う何かに変わった気がした。 単純な快楽とも違う、満たされる感覚に。 「好き、なんだ」 馬鹿みたいにそう繰り返せば、 「僕も、好きです」 と囁かれる。 「友人としてだと、思ってきたんです。でも、あなたの乱れた姿を見たら、違うと気がついたんです。僕は…ずっと、あなたとこうして繋がりたかったんだ…」 「俺も…」 ああ、なんだか二人揃って馬鹿みたいだな。 自分が相手をどう思ってるかなんてことにも気付かないでいたくせに、ほとんど同時にそれに気がつくなんて。 小さく笑ったところで、古泉が軽く腰を使い、 「んあ…っ!」 と声が漏れた。 「おかしいですよね。…してることは同じなのに、さっきまでよりもずっと気持ちよくて、あなたの中がさっきよりも熱く感じられるんです」 「俺も、同じだから…」 「…愛してます」 繰り返される言葉より熱っぽくキスを交わし、体を重ねた。 貪るように、それまでの時間を埋めるように。 翌朝になって、俺は痛む下半身を引き摺るようにして服を着て、荷物をまとめた。 「大丈夫ですか?」 なんてわざわざ聞いてくる古泉は黙殺だ。 …まだ異物感があって歩き辛い、なんて言えるかよ。 そうして、 「それじゃ、そろそろ行くか。もう電車も動いてるんだろ? 腹も減ったし、コンビニにでも寄って腹ごしらえしよう」 と言っておきながら、俺は部屋のドアの前で足を止めた。 「…どうしましたか?」 不思議そうに聞く古泉を見上げた俺は、おそらく相当に情けない顔をしていたに違いない。 「……なあ、」 「はい?」 「…ここを出たら、元に戻るのか?」 それだけ言って、俺は俯いた。 古泉の顔を見ているのが怖かった。 ここを出てしまったら、また元の関係に戻ってしまうのだとしたらここを出たくないと思いながら、古泉にその通りだと言われたら大人しく頷くしかないことに胸が痛んだ。 何より愛してると言っても、俺には家族もあり、世界だって大事なんだ。 だから、古泉の役目のことも、その困難さも、幾許かは分かっているつもりでいる。 だから、ワガママは言えない。 それでも、と思う部分に蓋をすることくらい、出来ないわけじゃない。 じわりと滲みそうになる涙を堪える俺の頭を、優しく古泉が撫でた。 「あなたがそうしたいと仰っても、させません」 意外に強く言われ、弾かれるように古泉の顔をもう一度見上げると、優しくキスをされた。 大丈夫だと、俺を安心させてくれるような優しいキス。 それに笑みを返し、 「……好きだぞ」 と精一杯はっきりした声で、それでも小さく告げれば、 「愛してます」 と返された。 ここを出ても大丈夫だと言い聞かせるようなそれに背中を押されて、俺はドアを開け、踏み出した。 |