エロですよー
甘いですよー
SOS団メンバー全員揃って、初詣でに出かけたことはいい。 その後、有希の部屋で新年会と称するパーティーになったのも、楽しかったからよしとしよう。 だがな。 ――その後のことについては、俺は一切よしとはせんぞ。 「それじゃあ、今日はこれで解散っ」 上機嫌に言ったハルヒの顔が赤かった。 酒は飲ませてないはずなんだが、部屋が暖かかったからか。 それとも、こっそり酒を飲んでたんだろうか。 「あたしとみくるちゃんはこのままここに泊まるから、あんたたちはさっさと古泉くんの部屋に帰りなさいよ? 夜は短いんだからね」 何で俺まで古泉の部屋に帰る必要があるんだ。 俺は家に帰って寝るぞ。 大体、何時間騒いだんだ? 初詣でに行ったのが昼頃で、それからここに来て――今はもう、夜の9時だ。 妹にねだられて二年参りにも行かされた俺は寝不足だ。 いい加減眠い。 「別に、僕の部屋で寝ればいいじゃないですか」 にこやかな笑みを浮かべて言う古泉に、俺は眉を顰めた。 どの口でそんなことを言いやがるんだ、こいつは。 俺がこんな時間帯に部屋に行ったところで、穏やかに眠らせてくれるとは到底思えん。 「とにかく、俺は家に帰る」 「……そうですか」 意外にあっさりと引き下がるな、と思った俺に、古泉は悲しげに目を伏せた。 「では僕は、冷え切った寂しい部屋に帰ろうと思います。あなたはどうぞ、ご家族の待つ暖かい家へ帰ってください」 「嫌味ったらしいやつだな」 そんなことを言ったからといって、俺が考えを変えると思ったのなら大間違いだ。 同情を引きたいならもっとうまくやれ。 そう思った俺の目の前で、有希がきゅっと可愛らしく、古泉の服を抓んだ。 「…お父さんも、泊まってく?」 ……有希? 今ちょっと聞き捨てならない発言があった気がするんだが、俺の気のせいか? 「ひとりでいるのは寂しいこと。私には、よく分かるから」 そう言った有希の瞳がどこか悲しげな揺らぎを見せていた。 それが、古泉にも分かったんだろう。 「大丈夫ですよ。今日は涼宮さんと朝比奈さんを泊めるんでしょう? 僕までご一緒しては悪いでしょうから、心配しないでください」 有希を落ち着かせるように穏やかに言った古泉に、俺も言い添える。 「そうだぞ。……こいつのことは、俺がちゃんと見ておくから、お前は心配しないで、ハルヒたちと楽しんでろ」 「え」 と声を上げた古泉の服の襟を引っ掴み、 「ほら、さっさと帰るぞ」 「……はい」 間が抜けるほど嬉しそうな声には、何も言わないでおいてやった。 そうして有希の部屋を後にした俺は、歩きながら、 「泊まるだけだからな。手出ししてくるなよ」 と古泉に釘を刺す。 「つれないですね」 「返事は」 「…はい」 残念そうな声を出すんじゃない。 「だって、せっかく一緒にいられるんですよ?」 「それでもだ」 俺は眠いんだ。 本気で眠らせてくれ。 というか、何かされてても寝る気がするぞ。 「分かりました。じゃあ、あなたは寝ててください」 「寝てる相手に何かするつもりかお前は。とんだ変態だな」 「……本当に眠いんですね。いつにも増して、言葉にトゲが感じられます」 「分かったんなら寝させろ」 あくびをしながら俺は古泉の部屋に上がりこんだ。 寒い部屋に暖房を入れもせず、上着を脱ぎ捨て、冷え切ったベッドにもぐりこむと、眠気が逃げ出しそうに寒かった。 「古泉、早く」 「どうせならもう少し色っぽく言ってくださいませんか」 「……帰るぞ」 不機嫌丸出しで言うと、 「すみませんでした」 と謝られた。 するっと布団の中に入ってきた体が暖かい。 人の体ってのは意外と熱を発散しているもんなんだな。 「あなたの体も、暖かいですよ」 お互い暖かくて言うことなしだろ。 分かったらさっさと寝ろ。 古泉の体に腕を回し、体を密着させると眠気を誘うほど暖かく感じられた。 抱き心地がいまひとつ良くないことについては目を瞑ってやろう。 そんなことを考えながら文字通り目を瞑り、俺は眠ろうとしたのだが、脚に違和感を感じた。 妙に熱くて硬い。 「……古泉」 薄く目を開けると、 「すみません」 と謝られたが、そこは大人しくなる気配がない。 ぐっと膝で押してやると、古泉が小さく息を詰めた。 「お前なぁ…」 「っ、呆れた声で文句を言い出す前に、その脚の動きを止めてくれませんか!?」 「いや、若いんだなと思ってな」 「あなただって同い年でしょうが」 「それでも、なぁ?」 俺はここまでなったりせんぞ。 いくら、恋人が一緒の布団で寝るからと言って、それだけでここまでとは……可愛いもんじゃないか。 なんとなく、優越感に似たものを感じながら手を伸ばすと、 「…っあ、あなたの方から、約束を反故にしたんですからね!」 と言った古泉が、俺を組み伏した。 それこそあっという間だ。 素早い、というよりもむしろ、余裕がないのか。 「余裕なんて、あるわけがないでしょう。あなたと一緒にいられて、それだけでも楽しいのは真実ですけど、それにしたって、この状況は生殺しです」 そう恨みがましい目で見てくれるなよ。 「んっ…大体……」 と俺は古泉が肩に吸い付いてくるのに顔を顰めながら、一応の文句くらいは述べさせて貰おうと口を開いた。 「新しい年の初めくらい…、こういうこと……っ、ん…なしで過ごしたって、いいんじゃないのか?」 罰は当たらんと思うぞ。 「いいじゃないですか。今年一番最初のあなたを僕にください」 「バカやろ…っ」 今年も何も、最初から、そして当然これから先も、俺には古泉だけだってのに、何寝ぼけたこと言ってやがんだ。 それこそ、新年早々縁起でもない! 「すみません」 薄く笑った古泉の喉に噛み付いてやる。 痕が残るよう、しっかりと。 いつぞやの仕返しだ。 「いえ、僕はあなたを今更手放すつもりなんてありませんし、万が一にもあなたをおいて死ぬようなことがあったら、それこそ幽霊になろうとどんな醜態をさらそうと、あなたの側にいるつもりです。先ほどの発言について縁起でもないと判断する必要は全くありませんよ」 じゃあ何だったって言うんだ。 「つまりですね…」 と古泉はこの場に他に誰もいないにも関わらず、内緒話でもする時のように声を潜め、顔を近づけてきた。 「…僕が言いたかったことは、実に単純なことなんですよ」 もったいぶらずにはっきりと言え。 俺がそう言ってもまだ躊躇う様子を見せていた古泉だったが、観念したように口を開いた。 「……秘め始めといきませんか」 「…はぁ?」 「…と、まあ、そう言いたかっただけなんですよ」 何なんだこいつは本当に。 俺は脱力すると共にため息を吐いた。 深読みした俺が馬鹿みたいじゃないか。 余計なところで深読みして、勝手に空回りするのは俺ではなく、古泉の役割だったはずだが、いつの間に俺にまで伝染しちまったと言うのか。 「嬉しいですね。ほら、よく言うでしょう? 夫婦は似るものだと」 「夫婦じゃないだろ」 「夫婦同然じゃありませんか。子供もいて、あなたがお母さんと呼ばれ、僕がお父さんと呼ばれているんですから」 それを言われると反論し辛いのだが、それでも、夫婦ではない。 「言葉や理論を弄ぶのは楽しいですが、今日はよしておきましょう。せっかくのお正月ですし、あなたとふたりきりでいられて、何にも気兼ねせずにいられるんですからね」 そう言った古泉の手が、不埒な動きを見せる。 というか、話している間にも器用に動き回っていたその手のおかげで、俺の服は防具として何の役にも立たなくなっている。 「ひ、秘め始めなら明日にしろよっ」 あれは1月2日の行事であり、今日は1日、元旦だ。 「もう残り数時間じゃありませんか。それに、年が明けて最初、第一回目なら、姫始めと呼んでも差し支えはないと思いますよ」 そう言った古泉が俺の胸に吸い付き、紅い痕を残していく。 ぴりっと、痛いのか痺れるのか分からないような感覚が走る。 「…っ、あ、この、卑怯者…!」 俺の発言権どころか思考まで奪うつもりか。 俺がそう思ったのは、どうやら正解だったらしい。 「愛してますよ」 いつものことながら甘ったるい声で、古泉は俺の耳元で囁いた。 「今年一番最初に、あなたに愛を告げられるのが僕だということも嬉しいですし、一緒にいられることも嬉しいです。…愛してます。あなたが、好きです」 そんなこと、とっくの昔に知ってるよ。 「馬鹿の一つ覚えみたいにくだらないことを繰り返すんだったら、もういっそ体で示したらどうだ?」 最大限――そう、正しく最大限だ。何しろ、これ以上譲るべきスペースがどこにもないからな――譲歩してやった俺がそう言うと、古泉がこの上なく幸せそうな馬鹿面浮かべて俺を抱きしめた。 「ありがとうございます。新年早々無理強いはしたくなかったので、嬉しいですよ」 そういうとまるで俺が積極的に誘っているかのようではないか。 「その通りでしょう?」 笑うな。 と言おうとした俺の口からは、意味のない音が漏れた。 俺の股間でくちゅくちゅと淫らがましい水音が響いたせいだと言えば、どういうことかお分かりいただけるだろう。 「あ、っん、……は…」 「気持ちよくしてさしあげます。今年最初が嫌な思い出になるのは、僕の望むところではありませんしね」 余裕綽々な態度が腹立たしいことこの上ない。 それは紛うことなき事実だ。 だがしかし、――だめだな、俺は。 そうやって、古泉が俺にしか見せないだろう顔や姿を見せるだけで、嬉しいんだから。 今更と笑いたいなら笑え。 俺自身笑い飛ばしてやりたい気分だからな。 なんせ――毎日のように、そんなことを思っている御目出度い頭の持ち主が俺なんだよチクショー。 「責任、取れよ…!」 何の、とは言わず、俺はそう唸った。 古泉のことだ、どうせ自分にとって都合のいいように解釈した後、今している、このいささか後ろめたい行為に対して反応しちまっている俺の体に責任を取れと言ったと思うだろうと、俺は推測した。 「もちろんですよ」 古泉がそう言い、俺は自分の予想が当たったと思ったのだが、 「あなたにそこまで思われる僕は、本当に幸せものですね」 ………ちょっと待て。 「はい?」 「誰がそんなことを言った?」 「明確には仰られませんでしたが……先ほどの発言の意図は、そういう意味ではなかったのですか? 僕のことばかり考えてしまうようになってしまったことについて責任を取れと……。…当たりですね?」 ぽかんとした俺の顔を見て、古泉は得意げに笑った。 「この調子で行けば、あなたと指示語だけで会話を成立させるという僕の夢も、近いうちに叶いそうですね」 調子に乗った古泉の手が、俺の脚を大きく割り開く。 普通なら人前でする姿じゃないがためにかなりの羞恥心を伴うはずのポーズも……なんというか、今更過ぎて、恥ずかしいと大して思わないあたり、自分の末期症状ぶりに泣けてきそうになるぜ。 それだけ、繰り返し何度も古泉と体を重ねて……それでも飽きもしなければ嫌にもならないってのは、何なんだろうな。 「当然、愛でしょう」 嬉しそうに言った古泉が、額づくように頭を低くして、本来なら指でさえ触れないはずの場所を、わざとらしく扇情的に舐めた。 「ひ、ぅ…っ」 舐めるなんて可愛いもんじゃねぇ。 舌を捻じ込むな。 息を吹きかけるな。 などと文句を言ってやりたいのは山々なのだが、俺の口から飛び出すのは、 「あっ、あ、…んぅ……」 などという情けない嬌声――ああ、嬌声だとも、残念ながらな――だけだ。 「唾液だけで、ローションも必要ないくらいになるんですね」 「誰の、…っせい、だと、…」 「ええ、僕のせいですよね。あなたの体が敏感過ぎることも理由のひとつではあると思いますが」 笑いながら言った古泉が、俺の唇を指で開き、その指を押し込んでくる。 「んっ、なんらよ…!」 「舐めてください。ちゃんと舐められたら、入れてあげますよ」 「てめ…っ」 最初は古泉の方がよっぽど余裕がなかったくせに、いつの間にか優位に立った挙句、さも人が欲情した動物みたいに扱いやがって。 噛むぞ。 「どうぞ?」 気にした風もなく、古泉は言った。 「あなたに噛まれた指が痛むなどということも、きっと楽しいでしょうからね」 お前はいつからそんなマゾヒストになったんだ。 「別に、そういう訳ではありませんよ。僕だって、痛いよりは気持ちいいことのほうが好きですからね。あなたがそうであるように。それとも、あなたは痛い方がお好きですか?」 そんなことはないと分かってて言ってんだろうな。 答えは態度で示せとばかりに、口の中をくすぐる指が憎らしいが、俺は大人しくそれに舌を絡めた。 言うことを聞くご褒美、とばかりに歯茎をなぞられ、快感が背中を駆け上る。 古泉の空いている方の手は、悪戯に俺の体を撫で回している。 どうでもいいが、何でお前はそんなに手つきがエロいんだ。 「そんなつもりはないんですが…」 「ん、あ…やら、って…」 どうして俺がこんなエロゲ紛いの声を立てているかというと、古泉の手が遠慮の欠片もなく太股の内側だの、腰だのを撫で回すからであり、口を閉じられないがためにだ行音が明瞭に発せられず、ら行音に聞こえてしまうがためである。 つまり、俺のせいじゃない。 「色っぽいですね。舌っ足らずなあなたも、可愛くて素敵ですよ」 「変態っ、か、よ…っ…」 「そうかもしれませんね。あなたなら、どんな姿をしても、どんなことをされても、嫌いにならない自信がありますから」 どうせなら、もう少しまともに言ってくれ、そういう台詞は。 この状況で言われても嬉しくもなんともない。 「そんなことを仰いながら、十分に喜んでおられるように見えますが」 そう言った古泉の指が、俺には制御のしようもない男の本能的部分に触れやがった。 「…っ」 「そろそろ、唾液も十分絡みましたから、後ろを触りましょうか」 するならさっさとしろ、そして俺を大人しく眠らせてくれ。 そう思いながら頷くと、 「じゃあ、お願いがあるんですけど…」 「ふぁっ?」 「……やらぁって言ってみません?」 ――有希、それと、俺の腹の中にいる、まだ見ぬわが子よ。 お前たちのお父さんは、お母さんが思っていたよりも遥かに変態でどうしようもない男だったようです。 男を見る目のない母さんを許してください。 「そんな、遠い目をされなくてもいいじゃありませんか。男のロマンですよ?」 そんなロマンは認められん。 というか、男のロマンと言われると俺でもそういう妄想をするかのように聞こえるからやめてくれ。 俺はそんなアホな妄想を抱いたことはない。 そして古泉、お前はエロ漫画の読みすぎだ。 「そんなに読んだことはありませんよ」 じゃああれだ。 アダルトビデオの見すぎだ。 「そちらは見たこともありませんね。あなたはおありなんですか?」 「……黙秘権を行使させてもらう」 と言えば、見たことがあると白状するようなものだろうが、それ以上のことは言わないという意思表示にはなったらしい。 「そうですか。まあ、僕には必要ありませんね。あなたがいますから」 恥ずかしいことを平然と言い放つ奴だ。 俺は呆れながら古泉の指を軽く噛んだ。 焦らすのもいい加減にしろ。 「すみません」 古泉の指が俺の口から引き抜かれ、透明な糸を引きながら、唇から離れていく。 それが待ち望んだ場所に押し当てられただけで、びくんと脚が震えた。 それくらい、古泉に慣らされた体を、俺はどう思うべきなんだろうな。 不名誉に思うべきか、それともいっそ開き直って誇ってやるべきか。 「古泉…っ」 「分かってます」 弓形になった唇が俺の唇に重なるのと同時に、指が中へ入ってくる。 嬌声は古泉に吸い取られ、くぐもり、なんだか分からない音になって口の端から漏れているだけだ。 俺の頭の中も、なんだか分からなくなってきている。 指を突っ込まれているのは頭ではないはずなのだが、頭の中をくらくらするほどかき混ぜられている気分だ。 それも、酷く不規則かつ大胆に。 「んぅ…っ、はっ……古泉…」 長くて息苦しくなるほどのキスからやっと解放され、そう呟くと、 「そんな目で見ないでくださいよ。痛くしたくないんですから」 どんな顔だと聞くまでもない。 おそらくは、古泉が自分の欲を抑えきれなくなるような顔なんだろう。 自分がそんな顔をしているということは余り認めたいことではないのだが、多分、古泉だけがそう思うのであり、他の誰が見たところで見っとも無いと感じるに違いない。 それくらい、表情筋が弛緩して、言うことを聞かなくなっているという自覚はある。 それよりも、目下のところの懸案事項は表情筋以上に弛緩して、俺の意思などお構いなしにひくついている、内肛門括約筋だ。 なお、それがそもそも不随意筋であることに突っ込んではいけない。 随意筋であるはずの外肛門括約筋も、同じく役立たずになってるしな。 ……って、何で俺は正月一日からこんなことを考えねばならんのだろうね。 原因は全てお前のものだ、喜べ古泉。 「ええ、全く喜ばしいことですね。あなたが僕を欲してくださるなんて」 くそ、無駄に根暗な時もあるくせに、こういう時ばかりハルヒ並みのポジティブさを見せやがって。 ほんとに可愛くねえ野郎だ。 「嬉しい、んっ、なら、…早く、しろよ…」 「はい」 今の古泉の発言をもしも文字だけで表現するとしたら、ピンク色をした、丸っこい愛らしい文字がぴったりなのだが、そんなものが似合うのは朝比奈さんだけで十分だ。 お前がそんな声を出すんじゃない、気色悪い。 「そうやって照れて、悪態を吐くあなたも、好きですよ」 だから、嬉しそうに言うんじゃない、と顔を顰めた俺だったのだが、古泉のものが押し当てられたせいで苦情も不服も忘れた。 ――何とでも言え。 俺も一応若いんだよ。 たとえハルヒに熟年夫婦呼ばわりされていようとも、有希という大きな娘がいようとも、まだ高校生だからな。 頭でグダグダ考えたところで体は正直……ってなんかどこかの官能小説みたいだな。 我ながらどうかしている。 いつだったか、雑談している時に古泉が言ってたっけな。 人が恋をするのは、真心に至るためだと。 このぐちゃぐちゃで後ろ暗い状態が真心かと思うと、笑えてくるのか泣けてくるのか自分でもよく分からんが、そんな混沌とした状態もまた俺たちには丁度いいのかも知れない。 だから俺は諦めとも開き直りともつかない境地に至りつつ、古泉の背中に腕を回した。 部屋着にしている長袖Tシャツの滑らかな感触に、服を脱がせるのを忘れてたことにやっと気がつく。 どれだけ余裕がなかったんだ。 それとも、単純に眠かったんだろうか。 まあいい。 今更どうこう言ったってしょうがないどころか、更なる焦らしプレイに突入されちまうだけだ。 だから俺は黙って息を吐き、準備を整える。 頃合を見計らって古泉が腰を進めてくるのは、もう以前のようにわざわざ声を掛けるまでもないと分かっているからだろう。 阿吽の呼吸ってのはこういう時にも使えるのかね。 「…っ、ん、ぅ、うぅ…っ!」 抑えきれない声が口から飛び出す。 自分でさえ聞いてられないような声だ。 可能なら古泉の耳を耳栓できっちりと塞いでやりたいくらいなのだが、 「もっと聞かせてください。あなたの艶かしい声を」 妄想フィルターでも掛かってるのかお前の耳には、と叫んでやろうと開いた口に、再び指を捻じ込まれる。 同時に、激しく抽挿を繰り返され、 「ひっ、あ、…あっ、……っんの、や、ろぉ…!」 噛み付いても知らんぞ。 不可抗力だ。 「ええ、構いませんよ」 不敵な笑みを浮かべた古泉の声から、少しずつ余裕が失われているのが分かる。 だがそれ以上に、ただでさえ少ない俺の余裕も失われていく。 「やっ、やらっ…! らめ、らって…は、げし…ひっ」 「あ」 嬉しそうに、古泉が笑ったのが見えた。 なんだよ。 「言ってくださいましたね」 そう言われて、古泉がさっき言っていた男のロマンとやらを思い出した。 ぐわぁっ、と呻いた瞬間に、最奥を突かれ、余計な声まで漏れる。 「ありがとうございます」 えぇい、嬉しがるな、変態野郎。 ――その変態野郎に縋って善がっている俺も、よっぽど変態なのだろうが。 それなら変態同士丁度いいと思うことにしておこう。 薄く笑みの形に歪んだ唇に、古泉のそれが重ねられる。 「愛してます」 今年が始まってまだ一日経っていないはずだというのに、これで何度目だ。 ああ、いい、答えなくて。 お前のことだから自分が何度その言葉を口にしたかくらいのことは覚えてるんだろうが、数えたって無駄だろう。 それに、どうせ今年もまた、数え切れないほど言われるだけだろうからな。 だから俺は、自分から古泉にキスをして、 「…俺も、愛してる」 と今年最初の言葉を告げてやったのだった。 |