エロですよ
甘いですよ
古泉に手を引かれ、早足で旅館に戻り、部屋に入る。 夕食は、と聞かれたのには古泉が、 「まだいいです。後で電話を入れます」 とか何とか言っていた。 部屋に鍵を掛けるが早いか、キスされる。 抱きしめられる肩が痛い。 貪られる唇も。 ここまで性急に求められるのは久し振りじゃないだろうか。 下手をすると、一度古泉が俺の前からいなくなろうとしやがった、あの騒動の前夜以来かも知れん。 「んっ、…ふあ、な…ぁ……古泉…」 上着が肩から滑り落ちるのを感じながら俺は古泉に問う。 「もう…いなくなったり、しないよな…?」 「するわけないでしょう」 はっきりと答えられたことが嬉しい。 「あなたをひとりで放っておくとどうなるか分からないと、さっきも痛感させられましたしね」 「……そうだな」 小さく笑って、同意してやる。 「もしまたお前が、俺や長門に断りもなく、身勝手にいなくなろうとしやがったら、今度こそ浮気してやるからな」 「怖いですね。…でも、そんな風に脅さなくても、大丈夫ですよ。あなたの方が嫌だと言っても、放しません」 「それこそありえんな」 鼻で笑いながら古泉の服を脱がせにかかる。 露わになった白い肩に口付けて、いつもの仕返しにキスマークを残してやると、反撃のように抱え上げられた。 「お風呂、一緒に入るんでしょう?」 「入る。が、それとこれとは関係ないだろ。下ろせ」 「聞けませんね」 憎たらしい薄い笑みを浮かべながら、古泉がそう言って、俺を風呂場へと連れて行く。 残っていた下着やなんかを全て脱がされ、同時にキスを繰り返される。 「嬉しそうですね。すっかり勃ち上がってるじゃないですか」 「うるさい、お前に人のことが言えるのか?」 「言えませんよ。こんなあなたを前にして反応しなかったら、不能になったとしか思えませんね」 だろうな。 俺は風呂場に足を踏み入れ、思わず感嘆した。 「本当に豪華だな。ひのき風呂か」 「最近改装されたばかりだそうですから、余計にきれいに見えるんでしょう。露天風呂の方は岩風呂だそうですよ」 「そりゃいいな」 掛け湯をしようと手桶を取り、浴槽の側に膝をついた俺の背に、古泉が口付ける。 くすぐったいような感覚がぞわっと背を這う。 「掛けるぞ」 「何をですか?」 へらへらすんな。 お湯以外の何を掛けると思うんだ、この変態は。 「それは勿論、」 「言うんじゃない」 俺しかいないとはいえ、流石にそんなシモネタは耳にしたくない。 「恥ずかしがるあなたも可愛いですよ」 首筋に音を立てて吸い付かれ、 「んっ…」 甘ったるい声が漏れた。 だめだな。 まともに風呂に入るつもりはなかったとはいえ、キスくらいでここまで煽られてるのは多分、いつもと違う状況のせいだ。 せめて汗だけでも流したくてざばっとお湯を被る。 古泉にも少しかかったようだが気にする必要はないだろう。 遠慮も自重もない手が俺の腰を抱きしめてきていたからな。 「いつも思いますけど、細い腰ですよね」 悪かったな、貧相な体で。 お前と違って鍛えてないんだよ。 「貧相じゃなくて綺麗なんですよ。あなたを抱くたびに、この細い腰が壊れてしまわないか心配になるくらいです」 その割に酷使してくれるじゃねえか。 「僕もまだ若いものですから」 ああそうかい。 笑顔で言うセリフでもないと思うがな。 というか、寒いんだが。 「すみません。ちゃんと浸かりましょうか」 「待てこら」 そんなことを言いながら、何でお前はわざわざ外に向かおうとするんだ。 中でいいだろうが。 「どうせなら露天風呂の方がいいじゃないですか。開放的で気持ちいいと思いますよ? それに、外の方がのぼせ辛いでしょう?」 のぼせるようなことをするつもりなんですし、と耳元で囁かれてぞくっとした。 「それなら余計中で我慢しろ。声を聞かれたらどうするつもりだ」 「あなたが我慢すればいいだけのことでしょう? 難でしたら、声を出せないように口をずっと塞いでおいてあげますよ」 「ばっ…」 文句を言おうとした俺の口が塞がれ、俺は再び抱え上げられる。 くそ、自分の腕力を誇ってやがるのか。 古泉は俺を外へ出るドアの前に下ろし、にっこりと笑みを浮かべて言った。 「ね、いいでしょう?」 「……文句言われたら、お前が謝れよ」 俺は責任なんて取らんからな。 不貞腐れながらそう言うと、軽くキスされた。 「ええ、任せてください」 だから、そういう時に笑顔を振りまくなっつうの。 その笑顔に弱いんだから。 ドアを開けるとすぐに、そこそこの広さのある岩風呂があった。 二人で入っても余裕だろうな。 その辺まで古泉は下調べをしてたんだろうか。 ざぶっと湯船に浸かり、一息吐く。 ちらりと古泉に目を向けると、一応ちゃんと浸かるつもりがあったのか、掛け湯をして湯船に入ってきた。 妙な距離をあけるのは何だ、俺に自分から寄って来いとでも言いたいのか。 ……仕方ない。 「…古泉」 名前を呼んで、にじり寄ると、笑みを浮かべて手を広げられた。 素直にそこへ飛び込むと、抱きしめられる。 同時に股間のものが触れ合い、思わず腰が揺れた。 「んっ…古泉…」 「欲しいですか?」 「そりゃな…。…何日ぶりだ?」 「今日の休みを貰うために、このところ忙しくしてましたからね。二週間ぶり…でしょうか」 二週間の禁欲が堪えるとは、呆れるしかないな。 しかも、抱かれたいという欲求である辺り、男としては情けないものがある。 「そんなに欲しいと思ってくださるなんて、嬉しいですね」 俺としては絶望的な事実だがな。 責任取れよ。 「喜んで。…でも、自分でなさったりはしないんですね?」 「自分でって…」 …俺はそこまで変態でも色情魔でもないぞ。 「じゃあここは、」 と古泉はそこを指でくすぐった。 それだけで歓喜に震える身体が憎らしい。 「本当に僕しか知らないんですね」 「そりゃ、な…っ」 古泉の肩に手を置き、身体を支える俺の腰を、古泉がいやらしい手つきで撫で回す。 「嬉しいです」 「あっ、んぅ…!」 指と共に熱いお湯が中に入ってくる。 慣れない感覚に声を上げる俺に古泉は笑って、 「どうしても声を上げそうになったら肩に噛み付くなりなんなり、好きになさってください」 と言ってさらに指を押し入れてきた。 少しは遠慮しろ。 「ふっ……う…っは…」 「ねえ、分かります? お湯なんて潤滑剤としてはほとんど役に立たないのに、それでも十分なくらいここは解れて、僕の指を飲み込もうとしてるんですよ」 「ば…か…っ、ふあっ…!」 「ここも、」 と古泉が胸へ口付ける。 恥ずかしいくらい赤くなって尖ったそれを、舌先で転がされると、身体から力が抜ける。 「欲しがってるんでしょう?」 「やめ…っ、古泉、あ、力、抜けるから…」 「しょうがないですね」 古泉の手が俺を引き寄せ、俺は古泉がもたれている浴槽のふちに手を置く形になった。 古泉の体に自分の体を預け、何とか支える。 「僕のを入れられるくらい解れるまで、もう少し耐えてください」 「んっ、早く…しろ……」 「魅力的な申し出ですが、あなたに怪我させたくはありませんから」 そう言いながら、指を増やされ、お湯が流れ込んでくる。 「…っ、ん、あぁ…っ」 古泉の背中に手を回し、爪を立ててなんとかやり過ごすが、声が殺しきれない。 仕方なく、自分の腕に噛み付いて耐える俺に、 「凄いですね。外だからですか? いつもより感じやすくなってるみたいですよ」 言葉攻めなんかいらねぇんだよこのボケ! とでも怒鳴ってやりたいのだが、口を離せば確実に情けない嬌声を上げるのが目に見えていて、出来ない。 早くと先をねだることも出来ず、いつにもまして緩慢な愛撫に耐えるしかない。 「もうよさそうですね」 呟かれた古泉の言葉を嬉しく思ったとは口が裂けても言えん。 「僕の肩に手を置いてください。…そう、それでいいですよ」 今にも力が抜けてどうしようもなくなりそうな足でなんとか体を支える俺に、古泉が何か言おうとした。 が、それより先に片手でなんとか探り当てた古泉のものに触れると、それを待ちわびているとしか言いようのない場所に押し当てた。 「はっ……」 甘ったるい吐息が口から飛び出す。 目の前にあるニヤニヤ笑いは見なかったことにしよう。 息を吐きながら、ゆっくり腰を沈めると、短い喘ぎが口から漏れた。 その口を古泉が塞ぐのは声を抑えようとしてのことなのか? それともただの趣味か? …趣味だな。 間違いない。 「ふ、んんっ……ぁ、はぁ……」 「全部入りましたね」 「嬉しそうに、言うんじゃ、ない…っ」 こっちは足も腰もガタガタなんだ。 おまけに湯当たりを起こす寸前なのか、頭までくらくらしていやがる。 「そうですね。本当にのぼせては大変ですから、急ぎましょうか」 「ちょ、待て…っ、ひあぁっ…!」 止める間もなく突き上げられる。 出し入れされる度に熱いお湯まで一緒に入り込んできて、余計な刺激までもたらすのに翻弄される。 「あ、やっ、イく、イくから、止めろって…っ」 「どうしてです? イけばいいでしょう?」 いくら貸切であっても風呂の中で出すのはまずいだろうが! 「しょうがないですね。では、少し我慢してくださいね」 そう言った古泉が、俺を抱えたまま立ち上がり、一瞬頭の中が真っ白になった。 嫌に甲高い声を上げた気もするが、それが気のせいかどうかさえ分からない。 「出ちゃいましたね」 絶対的優位にあるもの独特の余裕を見せられ、腹が立つ。 「うるさいっ、お前のせいだろうが!」 「っ、わざと締めないでくださいよ…」 一瞬、余裕の失せた顔を見せた古泉に、俺は薄く笑った。 ざまあみろ。 憤然とする俺を古泉が、床に敷かれたすのこの上に寝かせた。 コンクリの上にそのまま寝かされるよりはマシだが痛いことに変わりはない。 それでも俺は古泉を突き放しはせず、ただその体にしがみついた。 「お前も、早く、イけよ…」 「…ずるいですよ、そういう、発言はっ…」 「あっ、ひぅ…っ!」 イイところを二度三度と突き上げられ、さっき吐精したばかりのものがまた熱を持つのが分かる。 声を抑えることさえ忘れた俺に、古泉が何度もキスをして、俺の中へと吐き出した。 それに誘われるように、古泉の腹の下で俺も白濁を吐いた。 脱力した古泉の体の重みに愛しさを感じて抱きしめる力を強めると、 「愛してますよ」 と囁かれた。 数え切れないくらい告げられた言葉だが、いつになってもくすぐったさは変わらない。 俺は笑いながら、 「俺も愛してるから、」 さっさと抜いて、後始末をさせろよ、この色ボケ野郎。 さっぱりと全身洗い清めて風呂から上がり、浴衣に着替えた。 脱ぎ散らかした服を片付け、やっと人心地がつく。 「夕食はすぐに運んできてくれるそうですよ」 と先に上がっていた古泉が言った。 髪から水が滴り落ちてるぞ。 水も滴るいい男とか言いたいんじゃないだろうな。 俺は呆れながらタオルを取り上げると、古泉の髪を拭いてやった。 水を吸ったタオルを引っ張る形で古泉の頭を引き寄せてキスまでしたのは、古泉の、普段の言動からするとアンバランスに思えるだらしのなさが愛しく思えたからだ。 触れるだけのキスで済ませようと、体を離しかけた俺を、古泉の腕が強く引きつける。 それでもキスは深くならず、至近距離で古泉と向き合うことになる。 ……思えば、付き合い始める以前はこの距離の近さを嫌がったものだが、もはや自然としか言いようがなくなっているのも妙なもんだな。 「僕は幸せものですね」 そう古泉が笑い、俺も笑って頷いてやる。 「全くだな。…まあ、それを言うなら俺も幸せものだ」 一緒にこうして旅行が出来るくらい、ハルヒにも機関にも認められてるとは。 付き合い始めた頃には、こんな未来を夢想することさえ出来なかったからな。 「嬉しいですよ」 言葉通り嬉しそうに笑った古泉の頭を撫でてやり、俺は体を離した。 そろそろ人が来そうだったからな。 そうして運ばれてきた食事はテレビの旅番組で見るような豪勢なもので、正直俺には勿体無いくらいだった。 「今度来る時は有希も連れてこような」 これだけ量が多いと有希が食べてるところを見たくなる。 「そうですね。是非、有希も一緒に」 笑顔で応じた古泉は、 「今度こそ、家族旅行にしたいですから」 「そうだな」 そこまで古泉が「家族」にこだわるのは、やっぱり、家族を失っているからなんだろうか。 それなら、もっと大事にしてやりたいと思う。 俺は小さく笑い、 「ちゃんと家族だからな?」 「ええ」 嬉しそうに笑う古泉を愛しく思った。 いたって平穏無事に終った食事の後、俺が気がついたのは、 「……大浴場に入れん」 ということだった。 何しろ体のあちこちにキスマークが残されているのだ。 これを人目に触れさせられるほど俺は恥知らずじゃない。 「古泉……まさかお前、それを狙ってたんじゃないだろうな…」 大浴場を楽しみにしてたのに、と俺が睨みつけると、古泉は慌てて、 「狙ってなんかいませんよ。その、止められなかっただけで…」 かぁ、と赤くなるのに免じて許してやっても良いが、 「…その分部屋風呂に入るからな。邪魔するなよ」 「邪魔だなんて酷いですね」 そう言った古泉が俺を抱きしめる。 「まだ足りないんです、と言ったら怒りますか?」 「……その聞き方はずるいだろう」 「すみません」 笑いながら謝っても謝られてる気になれん。 俺はため息を吐きながら古泉を抱きしめ返した。 その後? 言うまでもないだろ。 ちゃんと土産を買って帰ったに決まってる。 |