イヌも喰わない (前編)



金曜の夜に長門の部屋に泊まるというのはもはや俺の生活習慣のひとつとして刻み込まれていると言っても過言ではないだろう。
機関に呼び出されたかなんだかで古泉が来られない夜も、俺は長門の部屋に泊まるようになっていた。
最初の頃こそ遠慮していたのだが、そうすると長門は寂しそうだったし、そもそも俺は長門を娘のように思っているから、長門とふたりで寝ても問題の生じようがなかったため、そうなった。
その理由には、古泉の言葉も大きい。
「今日、僕は泊まりに行けませんけれど、あなただけでも長門さんと一緒にいてあげてください」
と古泉がある時に言ったのだ。
古泉は殊更に嫉妬深くもないが特別寛容でもなかったはずで、この言葉は俺を驚かせた。
「どうかしたのか?」
俺が問うと古泉は苦笑して、
「僕の都合で長門さんに寂しい思いをさせてしまうのは申し訳ありませんし、心苦しいものがありますから」
そう言われて嬉しかった。
「お前も父親としての自覚が出てきたんだな」
笑顔でそう言うと古泉は、
「そうですね。あなたほどではありませんが、僕も確かに長門さんを娘のように可愛いと思ってますから」
いいことだ。
「じゃあ、俺だけで長門の部屋に泊まることにする。お前も、もし来られそうになったら夜中でも気にせず来いよ?」
「ええ、分かりました」
そんな遣り取りがあって以来、俺は金曜になると毎週のように長門の部屋に行った。
たまに俺に用事が出来て、長門の部屋に行けない日があると、古泉だけが長門の部屋に泊まったりもする。
あのふたりがふたりきりの状態で一体どうやって過ごすのか気になる気もするのだが、一度長門に聞いてみると、
「…内緒」
と答えられ、古泉には、
「長門さんが内緒にしていることを僕がばらすわけにはいかないでしょう」
とかなんとか言われた。
仲良きことは美しき哉、と言いはするが見せ付けられる方ははっきり言ってむかつくと思う。
まあとにかく、そんな風にして俺は長門の部屋に毎週入り浸っていたわけだ。
今日も金曜で、俺は部室からずっと、長門と古泉と共に道を歩いていた。
ハルヒ公認となっている以上はばかるものはない、というのは古泉の考えであって俺としては多少世間体というものを考えたっていいと思うのだが、古泉と二人ならともかく、長門もいるなら三人手を繋いで歩いてもそう嫌ではない。
少なからず衆目を集めちまうのがなんとも言い難いがな。
それでも、長門が嬉しそうにしているのを見ると俺も嬉しいし、SOS団としてでなく古泉と一緒に外を歩けるってのは喜ばしいことだから、気にしないでおく。
学校帰りにスーパーに寄るのももはや規定事項で、俺は長門と今夜の食事について話しながらあれこれと買い込んだ。
長門は相変わらず、俺と古泉に財布を出すことさえ許さないが、それも長門なりの気遣いだと知っているから、俺たちも甘んじてそれを受けている。
その代わりに、長門の部屋の掃除を手伝ったり、買い物袋を持ったりして、出来るだけ返しているつもりなんだが、長門に言わせると、一緒にいられることだけでも十分だそうだ。
全く、可愛い娘だな。
それなら、と俺は思いついたことを口にした。
「明日、三人で出かけるか?」
長門は俺の隣りで鍋を見ていたのだが、じっと俺を見つめると、
「いいの?」
「ああ。早起きして、弁当でも作って行こう。どこがいい?」
考え込む長門に目を細めつつ、俺は居間の古泉に声を掛けた。
「古泉、明日長門と三人で出かけたいんだが、構わないよな?」
「いいですね」
言いながら古泉は立ち上がり、こちらへ顔をのぞかせた。
「長門さんはどこがいいですか?」
と俺と同じ質問を長門にする。
古泉も長門を優先するようになったと思うと何やら感慨深いものがあるな。
この調子ならいい父親になってくれるんだろう、と俺はふたりに気付かれないよう、そっと自分の腹を撫でた。
なんのかんの言いながら、俺も母親感覚が身につき始めているらしい。
ふとした物事に、親としての視点で反応したり、ちょっとしたことでも腹の中にいる子供に結びつけたりするのが、すっかりくせになっているからな。
男子高校生としてどうかはともかく、妊娠中の身としてはいいことだろう。
俺が小さく笑みを浮かべたところで、
「…海」
と長門が言った。
「海ですか。海と言っても色々な場所がありますがどんなところがいいですか? 何がしたいか言ってもらえると一番いいんですが」
古泉が問うと、長門はぽつっと、
「釣りをしたい」
と答えた。
長門が釣りに興味があるとは思わなかったが、長門らしい選択だと思った。
何かを見たり聞いたりすることなら、長門はたとえこの場にいても出来るんだろう。
長門がやろうと思えばの話だが。
しかし、釣りのように自分の体を使って体験しなければならないようなことなら、どうやったってここでは出来ないだろう。
それにしても……釣りか。
前に行ったハゼ釣りは川釣りと言うよりもむしろ海に近いようなものだったが、それでも海釣りとはやり方が違うだろう。
「古泉、お前海で釣りとか、やったことあるか?」
「子供の頃に一度か二度はありますが、人に教えられるほどではありませんよ。あなたはどうです?」
「一度もないな」
「そうですか」
と古泉は少し考え込み、
「まあ、なんとかなるでしょう。確か、知り合いに釣りが趣味の人がいましたから、その人に初心者向けの釣り場か、釣りの体験イベントでもないか聞いてみます」
「お前の知り合いに?」
反射的に顔を顰めた俺に古泉は苦笑して、
「確かに、機関がらみで知り合った人ですけど、機関の人間としてではなく、僕自身として交渉の出来る相手ですから、そんな顔はしないでください」
「胡散臭い」
「そう言わないでくださいよ。これが一番簡単な方法なんですから」
俺はため息を吐きつつ、
「じゃあ、今回だけだぞ。今回は急だったからな。ただし、今度からはもっと早くから計画を立てて、俺たちだけで出来るようにしよう。長門も、そっちの方がいいだろ?」
長門は小さく頷き、
「……明日も楽しみ」
と古泉をフォローするように呟いた。
それから古泉は居間に戻りしばらく電話をかけていたが、夕食の準備が出来上がる頃になって、手配が出来たと告げた。
仕事が速いにもほどがあるだろう。
俺は憤然としながらも、古泉については睨むだけにとどめた。
何より、長門が嬉しそうだったからな。

問題は、次の朝生じた。
それも、よりによって俺に、だ。
長門に問題が発生すればかなりの大事であり、古泉も仕事柄と言うかなんと言うか、健康管理には気を使っている。
だから、そんなことになるとしたら俺なんだろうが、それにしたってこれはないだろう。
朝になったらいきなり、布団から起き上がるのも億劫なほど体がだるくなっていた。
寒気がするのは俺の体温が異常に上がっているからだろう。
これはまず間違いなく、
「風邪でしょうね」
呆れきった声が降ってきた。
声自体は嫌いじゃないが今の状況下でのほほんと響かされるとむかつくな。
俺はのそりと体を起こして声の主たる古泉を睨みつけた。
…だめだ、これだけで目眩がする。
ついでに言うと、額に乗せられていた濡れタオルがべちゃりと落ちたのも不快だった。
「ほら、無理してないで寝てください」
「だ、めだ…。今日は、出かけるんだろ…」
「出かけられるわけないでしょう。あなた今どれだけ熱が出てるか分かってるんですか?」
分からないし、知りたくもない。
知ったら余計に重病にかかったような気分になるだろうからな。
とりあえず水が飲みたい。
声がかすれてどうしようもない。
「湯冷ましを用意してありますよ」
そう言った古泉が俺に小さな湯呑を寄越した。
「すまん」
小さくそう言ってそれを飲み干す。
それだけでも少しはマシになった気がする。
……気のせいかもしれないが、ここはあえてそう思っておくことにしよう。
「長門は……?」
「薬を買いに行ってます。ここには風邪薬もないので」
「…そう、か……」
古泉の腕を掴み、その腕に支えられるようにして立ち上がる。
ふらふらするが、そう酷くもない。
これくらいならいけるんじゃないか?
「何ばかなことを言ってるんですか」
呆れきった声を出した古泉を睨みつけ、
「だ、って、長門が、自分で希望を言って、きたんだぞ…」
初めてとは言わないが、それでも数少ない、愛娘のわがままを叶えてやりたいと思うのはおかしなことか?
「それはそうですが、でも、本当に危険ですからやめてください。病院とご自宅以外、どこかへ行くことは許しません」
風邪なんかほっときゃ治る。
「大人しく寝ていれば、でしょう。あなたが長門さんを可愛いと思っていることはよく分かっていますし、約束を重んじることも分かってます。でも、だからこそ今は、自分の体を大事にしてください」
「……っ」
本当は、分かっている。
今ここで出かけたところでどうしようもないだろうってことも、それで長門が喜ぶはずもないってことも。
だが、それでも俺は、長門が寂しそうな顔をするところを見たくなかったのだ。
「じゃあ、せめてお前と長門だけでも行ってこい」
「嫌です」
即答された。
俺としてはかなりの譲歩だったってのに。
「なんで、だよ」
「こんな状態のあなたを一人で放っておけると思うんですか」
「別に、家に帰ればいいだろ…」
「それであなたが大人しく養生してくれるとは思えませんね」
それは確かにそうかもしれない。
「それに、あなたを残して出かけて、僕たちが楽しめると思うんですか?」
それでも俺は長門の希望を叶えてやりたかったのに、どうしてこいつは分かってくれないんだ。
自分だって、俺や長門のために無茶をするくせに。
「お前は、長門がかわいくないのかよ!」
「どうしてそうなるんです?」
戸惑う声を上げる古泉の手を思い切り振り払う。
体が大きく揺らぎ、床に膝をつく破目になったが構うもんか。
俺は古泉を睨み上げ、
「お前だって、怪我したことを隠したりするくせに!」
「それは…」
一瞬硬い表情になった古泉だったが、
「……今は関係ないでしょう」
その言葉で、キレた。
キレたのは堪忍袋の緒だの、理性の糸だのなんて可愛らしいものじゃない。
涙腺も壊れたように液体を流すし、脳のシナプスだって断裂されたに違いない。
「お前なんか、大っ嫌いだ!」
わんわん泣きながら、ほとんど意味もないようなことを喚く俺を、古泉は横抱きに抱えると、布団に連れ戻した。
暴れる俺を布団に押し込めた古泉が辛そうな表情をしていたことさえ、この時の俺にはどうでもいいことだった。
ただひたすら悪態ばかり吐いていたのは、古泉の言葉が悲しかったせいだ。
分かり合えていると思っていたのに、そうじゃなかった。
余計なことは必要ないほど理解し合えているというポーズを取っていただけに過ぎなかったんだ。
あいつは俺の名前を呼ばない。
俺もあいつを名前で呼ばない。
あいつは俺の前でも敬語キャラを止めない。
俺もあいつに演技を止めろとは言わない。
言わないんじゃなくて、言えないんだという気もするが。
本当はずっと怖かった。
俺が好きな「古泉一樹」の全てが偽物で、だからこそあいつは演技をやめられないんじゃないかと考えることも、あいつが、本当は俺なんか好きでもなんでもないんじゃないかと考えることも、怖かった。
後者については、普段なら、あり得ないと一蹴出来る。
それくらい古泉は俺を愛してくれてるから。
でも、だめだ。
今日みたいに理性より感情が先行している時に、あんな風に突き放されると、不安ばかりがどっと押し寄せてきて止まらなくなる。
結局俺は、長門が帰ってきても泣き止むことが出来ず、泣き疲れて眠るまで、延々泣き続けた。

翌朝、目が覚めてもまだ、気分は最悪だった。
風邪はすっかり治っているようだったが、昨日のみっともない自分への嫌悪は募るばかりだし、何より、古泉への苛立ちが少しも消えていなかった。
「お母さん、具合は?」
襖を開けて入って来た長門は、お粥を作ってきてくれたらしい。
「具合は大分いいが、気分は最悪だ」
ため息を吐きつつそう答えると、長門は少し困ったような表情を浮かべ、
「昨日、お父さんと何かあった?」
「……そんなところだ」
というか、古泉に聞いてないのか。
「お父さんに聞くのも、聞かないで自分で調べることも私には出来る。でも、したくなかった。私はインターフェースとしてではなく、お父さんとお母さんの娘として、お母さんから話を聞きたいと思ったから」
「……ありがとな。長門」
小さく首を振った長門からお粥の入った皿とスプーンを受け取る。
「熱いから気をつけて」
「ああ」
吹き冷まして口に運んだそれはえらく美味かった。
腹が減っていたというのもあるんだろうが、それ以上に、長門が作ってくれたというのが嬉しいんだろうな。
塩加減も柔らかさも俺の好みに合わせてあるのが余計に嬉しい。
「おいしい?」
「ああ、凄く美味い」
「よかった」
ほっとした様子の長門に、俺は目を細めつつ、ついっと視線を逸らして言った。
「その……昨日は悪かったな。約束を果たせなくて」
「いい。お母さんが元気になる方が大事。出かけるのはまたの機会で構わない」
「それに、あんなみっともない姿まで見せちまって……」
「気にしないで。それより私は、お母さんがあんな風になるまで怒った理由が知りたい」
「それは……」
長門に言っちまっていいんだろうか。
言ったところで長門が困るだけなのは分かる。
それに、どうせ俺は全部口にすることなんか出来やしない。
それなら、一言だけ言ってしまえ。
「……古泉のばかが甲斐性なしだからだ」
そう唇を尖らせると、長門はきょとんとした顔をし、それから小さく頷いた。
「……なんとなく、分かった」
あれで分かるのか。
「…何があっても、私はお母さんの味方だから。お父さんがお母さんを不安にさせても、私は絶対に、お母さんを不安にさせたりしないから」
と長門が俺を抱きしめた。
優しく、暖かく。
それだけで、頑なになりつつあった心が解けるような気がしたってのに、
「具合はどうですか」
と顔を出した古泉の顔を見るなり、心まで一気に冷えた。
それが古泉にも通じたんだろう。
古泉の表情が翳る。
俺は長門をそっと引き離すと、
「長門、世話になったな。もう大丈夫だから帰る」
「……そう」
心配そうにしている長門には悪いが、これ以上古泉の顔を見ていたくなかった。
だからさっさと帰り支度をして、帰ろうとしたってのに、
「送っていきます」
と古泉が有無を言わさずに俺の荷物を取り上げた。
「一人で大丈夫だ」
「まだ万全じゃないでしょう。せめて途中まででも送らせてください。……お願いします」
俺は仏頂面のまま古泉と共に長門の部屋を出た。
密室でふたりきりになるのが嫌で、エレベーターを使わず、階段を下る。
中途半端な時間帯のせいか他に人影はなかった。
「…まだ怒っているんですね」
ぽつっと古泉が言い、俺は古泉を見もせずに答えた。
「悪いか」
「いえ……」
「なら黙ってろよ」
そうでないと俺の方も止まらなくなりそうだ。
言いたくないことまで全部吐き出して、何もかも全て終らせてしまいたくなる。
「――僕は、」
黙ってろと言ったのに、古泉は黙らなかった。
「…悪いことをしたとは思いませんから、謝りませんからね」
次の瞬間、俺は自分が何をやったのか全く理解出来なかった。
ただ、手の平が痛くて、古泉がぽかんとした顔で俺を見ていたことだけが分かった。
古泉の白い頬が見る間に赤くなっていき、それでやっと俺は、自分が古泉の頬を思い切り打ったと知った。
昨日の晩から緩みっぱなしらしい涙腺が、ぼろぼろと涙を流す。
「なんで、なんでお前はそうなんだよ! 自分だけはいくらでも無茶をして、隠し事をして、俺には平気な顔しか見せないくせに、なんで俺のことは責めるんだよ! 俺が、何言ったって、……聞いてくれやしないくせに…!」
怒鳴り声は段々弱くなっていく。
嗚咽が混ざり、聞き苦しくなっていることを理解しながらも、止められなかった。
「演技してる姿しか、俺には見せてくれないのか? 本当のお前を見たいと思う俺が、間違ってるのか? もっと知りたいと思うのが、そもそもの間違いなのか?」
答えない古泉の胸倉を掴み、睨み上げる。
「本当にお前に愛されてるのか不安になるのは、俺が悪いからなのか?」
これだけ声を荒げていれば、階段伝いに響き渡って誰かに聞かれているかもしれない。
それでも構わないとさえ、思った。
誰かに知られてもいい。
ただ、古泉のことだけが知りたかった。
だが、古泉は黙り込んだまま唇さえ動かさなかった。
「……もう、いい」
俺は体から力が抜けきっていくのを感じながら手を離し、古泉の手からカバンを取り返した。
体にはもう余計なエネルギーなど一片たりとも残っていないだろう。
力の抜けた足取りで、ふらふらと階段を下る。
「…じゃあな、古泉」
吐き捨てるように言っても、返事は返ってこなかった。
俺はそのまま振り返りもせずに、家へと帰った。
胸の中が重く、どうしようもないほどに痛かった。
ひとりでぼんやりと過ごす日曜日なんて、久し振りだった。
病み上がりということもあって出かける気にもなれず、部屋でごろごろと過ごす。
いつもならシャミか妹あたりが顔を出すのだが、俺の機嫌の悪さを感じ取ってか、どちらも寄ってこなかった。
油断すれば古泉のことを考え、また涙が止まらなくなりそうになる。
気を紛らわそうと思っても無理だった。
何を見ても、古泉に繋がる。
それくらい、古泉は俺の中に溶け込んでいた。
だからこそ、気付いてしまったことが辛かった。
俺たちの中にあった、暗黙の了解。
古泉は恋人という立場を利用して機関のために働きかけない。
その代わり、俺は古泉に余計な説明を求めない。
そんなルールを、俺たちは自分でも気付かないうちに課していたらしい。
だから俺は、古泉に敬語を止めろと言えなかった。
機関がどんなものなのか問うこともしなかった。
古泉がいて、長門がいて、幸せに感じていたはずなのに、今の俺には、自分たちの感じていた幸せがとてつもなく空虚なものに感じられた。
作られた幸せだったようにさえ、思えた。
古泉の言葉も、行動も全て、作り物だったのかもしれないとも思う。
逆に、言葉や態度はいくらか演技を含んでいたとしても、古泉はちゃんと俺を愛してくれているとも思った。
相反する感情がせめぎ合い、余計に感情と思考とを乱れさせる。
こんな風に自分の感情を持て余すことが、これまでにあっただろうか。
多分、ここまで酷くなるのは初めてだ。
そのせいか、余計に不安になるのに、いつもなら頼れるはずの古泉に頼れないことが辛かった。
「…古泉の、ばか……」
毒づいた声が、どれだけ俺が気弱になっているか示しているようで、思わず耳をふさいだ。