甘ったるいと思うほど



男同士の後ろめたさだとか、家族、世間そのほかに対する申し訳のなさだとか、色々と考えもする。
もともと俺は、少々の不満を抱いてはいたものの、実に平々凡々とした日常に満足していた。
それが、高校に入学し、ハルヒと係りあうようになってから、平凡な日常からは遠ざかり、古泉と付き合い始めてからはなおさらだ。
いつだったかハルヒに普通の生活で満足してみたらどうだみたいなことを言ったが、今じゃ俺の方がよっぽど普通ではないのかもしれない。
ホモで、ネコで、しかも付き合ってる相手は超能力者。
もし、古泉と付き合い始める前の俺が今の俺を見たらどう思うんだろうな。
おそらく、信じようともしないんだろうが。
古泉との関係が恐ろしく非生産的で、先も見えない関係だと、俺も分かっている。
それでも――
「今日、泊まりにきませんか」
家に帰るなり、そんなメールが届いた。
狙っていたようなタイミングだ。
考えるより先に、メールを返す。
答えは当然決まっている。
今夜も明日も予定はないんだから。
俺は適当に言い訳しながら家を出た。
待ち合わせに遅刻しそうな時並に必死で自転車をこいだ。
見っとも無いほど赤い顔をして、息を切らした俺を、古泉は笑顔で迎えた。
「急いで来てくれたんですね」
言うな、余計に恥ずかしくなる。
「恥ずかしがるあなたは好きですよ。とても色っぽくて、そのくせ大胆で」
口説いてる暇があるならさっさと中へ入れろ。
「どこにですか?」
……いい加減にしろ。
「失礼。悪ふざけが過ぎましたね」
まったくだ。
それでも引き返さなかった自分に呆れながら、俺は勝手知ったる人の家とばかりにあがりこみ、まず確認するのは冷蔵庫の中身だ。
いくらか減ってはいるが……瀕死の食材も多数か。
ため息が出る。
「すみません」
古泉は申し訳無さそうに謝っているが、それを聞くのも何度目だ。
俺は諦めながら冷蔵庫のドアを閉じた。
それから晩飯の支度をし、ふたりで一緒に食べ、ソファに並んで腰掛けて、ぐだぐだと話しながらテレビを見た。
ぎりぎり触れ合う肩や腕が、暖かい。
伝わってくる熱が心地よくて、俺はあくびをもらした。
「眠たいですか?」
いや、気持ちいいだけだ。
眠気はそれほどでもない。
よくあるだろ?
暖まると眠くなったり、頭がぼんやりしたりして、あくびが出てくることって。
「そうですね。…よろしければ、このまま横になって少し休みませんか? いつかのお礼に、膝をお貸ししますよ」
そうだな…。
俺はもうひとつあくびをして、横になった。
古泉の膝枕は多少固いが、暖かくて気持ちよかった。
思っていた以上に眠気が起こっていたのか、瞼が勝手に下りてきた。
「おやすみなさい」

……重い。
肩のあたりから腰の方にかけて、妙な重さが掛かっている。
目を擦りながら開くと、点けっぱなしのテレビがもう夜半過ぎであることを告げていた。
俺はため息をつきながら、重さの元をぺちぺちと叩いた。
「…ぅ……」
膝枕をしているうちに眠くなったんだろう。
古泉は膝を俺に貸したまま、俺の上に重なるようにして眠りこんでいた。
「…っあ、すみません! つい、眠くなってしまって…。大丈夫ですか? 重かったでしょう?」
慌てて体を起こした古泉を見上げて、俺は苦笑した。
大したことでもないのに過剰に謝るなよ。
「いえ……」
…なんか妙だな。
不自然に目を逸らしたりして…変な夢でも見たのか?
そんなことを思いながら頭を古泉の方へと傾けると、違和感があった。
びくりと古泉が身動ぎし、赤い顔で俺を見る。
「ちょ、ちょっと、何を…っ!」
俺は無言で手を伸ばすと、違和感の元に触れた。
古泉の顔が余計に赤くなり、取り乱して見える。
俺は体を起こすと、古泉を真正面から見据えた。
古泉は穴があったら入りたいとでも思ってるのか、酷く縮こまっていた。
俺は呆れながら呟いた。
「別に、言やあいいだろ」
「へっ!? あ、ちょっ…!!」
古泉の抗議を無視して、既にきつくなっているズボンをくつろげ、それに触れた。
「っ…!!」
お前、どんな夢見たんだよ。
ガチガチになってんじゃねぇか。
「ぅあ、な、舐めないでください…っ!」
――やばい、楽しい。
余裕がない古泉の顔を見るのが。
「くっ……ぅ」
鼻声が妙に色っぽいなお前。
「やめて、くださいよ…」
じゃあ言え。
「はっ…?」
どんな夢を見たんだ?
「……そ、の…」
言い難いなら選択肢をやろう。
1、俺の夢。
2、俺以外の夢。
「あなた以外の夢であるはずがないじゃありませんか」
否定表現を重ねると分かり辛いな。
俺もよくやりはするが。
「…っあなたの夢ですよ!」
どんな?
と問いながらつっと舌を滑らせる。
びくりと身動ぎした古泉が、顔を背けながら答えた。
「あなたに、こうされてる夢です!」
………は?
「正夢に…なっちゃいましたね」
そう苦笑した顔はいつもの古泉の顔だった。
余裕のない顔の方がいいのに、と思いながら俺は歯を立てたのだった。
そこまでされるとは夢のお告げにもなかったようだ。
しばらくのた打ち回っていた古泉に、俺は出来るだけ素っ気無く言った。
ごめん。
…嫌いになったか?
「……驚きですね。あなたがそんなことを聞いてくるなんて」
ずっと聞いてみようと思ってたんだ。
お前と……こんな関係になってから、ずっと。
俺は男、お前も男で、この先どうなるか分からない。
どうしたいのかも分からない。
お前のことは好きだと思う。
でもそれがいつまで続くかも分からない。
何より――お前を信じたいと思うのに、信じられなくなる時があるのが辛い。
「すみません。…僕のせいですね」
俺は黙って首を振った。
「僕のせいです。あなたのことを愛しているのに、世界のためや機密
だと言って、自分のことをさらけ出せない僕が、あなたを不安にさせているのでしょう。僕は嘘もつきますし、今の僕が凉宮さんの望むようにキャラクター作りをした結果であることはあなたも知っての通りです。そんな僕を盲目的に信じろなどという身勝手なことを言う資格は、僕にはありません。ですから僕は、決定権をあなたに委ねます。僕との付き合いについてはあなたが決めてください。あなたの僕に対する愛情がなくなった時、あなたは自由に僕を――切り捨ててください」
言い切った時、古泉は酷く苦しそうな顔をしていた。
それが演技である可能性もないわけではないが、たまりかねて、俺は古泉にキスをした。
「……悪かった」
お前にそんな顔をさせたかったわけでも、そういう話をしたかったわけでもない。
ただもう少し、信じさせてもらいたかっただけだ。
「……すみません」
「謝るな。俺は――お前を信じられないと思ったらそう言う。全部、言うから。お前のことを好きだってことも、全部」
「ありがとう」
強く、抱きしめられた。

「それで、どうしていきなりあんなことを聞いてきたんです?」
古泉が尋ねてきたのはベッドの中で、タイミングとしてもおそらく最悪だった。
「なっ、い、いきなり、なんで…っ、ぁ!」
「気になったものですから。…言ってくださらないんですか?」
言えるか!
出来るだけさりげなくお前の気持ちを確かめたかったとか言うこっ恥ずかしいセリフを、俺が吐ける訳あるか!?
無理だ無理!
諦めろ!
「言ってくださらないんでしたら、イかせてあげません」
掴むな止めるな止まるな!!
「さあ、言ってください。さっき自分で仰ったじゃありませんか。全部言ってくださると」
そう、古泉は人の悪い笑みで言い、俺は自分の発言をひたすら後悔したのだった。