エロですが
それ以上にげろげろに甘いことを警告したいです←
























































スイート



寝室の明かりはつけず、物の輪郭線くらいならいくらか掴めるという程度の暗がりの中、古泉はそれでも迷わず俺をあの馬鹿でかいベッドに横たえた。
そのまま手を伸ばし、ベッドサイドのライトをつける。
弱々しい光に照らされた古泉の顔は、なんというか、はっきりした光の下で見るよりもよっぽど、……やらしい。
「あなたの方こそ、艶かしいったらないですね」
馬鹿げたことを言いながら、古泉が今度こそ遠慮のないキスをしてくる。
重ねた唇の隙間から入り込んできた舌が、俺のそれをからかうように誘い出す。
「ん……っ、ふ、ぁ……あ…」
俺の喉からかすかに漏れる声とも吐息ともつかないそれが無性に恥かしいってのに、
「可愛いですよ。もっと聞かせてください」
などと更に恥かしいことを言う古泉に、俺は一応の抵抗らしきものを試みる。
「…っ、まだ、風呂も入ってないんだが……」
「いいですよ、そんなのどうでも」
本当にどうでもいい様子で言った古泉が、いそいそと俺のTシャツをまくり上げにかかる。
「うあ…っ!?」
思わず声を上げ、身を竦ませれば、古泉はふふっと意地の悪い笑いを漏らし、
「そう怖がらないでくださいよ。まるで強姦魔みたいな気分になります」
って喜ぶな!!
お前は変態か!?
だとしたら俺は本気で人生における重大な選択を誤ったんじゃないだろうか。
と、まあ、そんなことを思いつつも、自分も十分興奮しているんだから、そうなると俺も変態の同列に並べられるしかないのだろうか。
古泉の手が、先日よりもよっぽど性急に触れてくる。
そのくせ、触りたくて仕方がないというようなねちっこい触り方に、ぞわぞわと、不快感と一体化したような奇妙な快感が立ち上る。
「やめ…っ、も、お前、ねちっこいって……」
「そうですか? では、もう少しストレートにした方が?」
からかうように言った古泉の唇が胸の突起に触れると、びくりと体が跳ねた。
「ひぁあ…!」
「前にも思ったんですけど、あなたって、感じやすいですよね。それとも、スイッチが入りやすいってことでしょうか」
「何、言って…っ、ん、アんん…」
だから、人が話してる時は触るなっつうに。
「いつもはストイックなくらいなのに、こうなると違うんだなと思いまして。…いえ、それでいいんですよ? 僕としては、嬉しい限りです」
にまにましながら古泉はふたつの突起をかじったり抓ったり押し潰したりねぶったりと実に楽しそうに弄ぶ。
その度にこっちは妙な声が漏れて気持ち悪いことこの上ない。
ふわふわしたような、それともどこかへ落下して行くような落ち着かない感覚に、知らず知らずのうちに古泉の体へ手を回し、まるですがりつくようにしがみつけば、古泉は嬉しそうに笑ってキスを落とす。
「本当に、可愛い人ですね」
「っるさい…! ばかに、すんな…っ、ぁ、あ…――っ!」
「ばかになんて、してませんよ。可愛らしくて、愛おしいと、そう思うままを口にしているだけです。それとも、信じられません? だから、からかっているように聞こえてしまいますか?」
そんなことを言いながら、幾許かの不安を滲ませるのはずる過ぎる。
それ以上拒絶めいた言葉を、冗談でも言えなくなるだろうが。
返事の代わりに、俺はしょうことなしに手を伸ばすと、古泉の頭を引き寄せてキスをした。
これが返事だ。
文句あるか。
「あるわけないでしょう?」
ふふ、と忍び笑いを漏らした古泉が、俺のズボンに手をかけ、遠慮もなく引き下ろした。
それだけでも酷く羞恥心を煽られるってのに、古泉はわざとらしく下着の上から反応しかかっている俺のものを軽く押さえると、
「…嬉しいです」
と笑った。
「っ、おま、え、なぁ…っ!!」
「そう怒らないでくださいよ。…僕だって、不安なんです。あなたが本当に許してくれるのか、この一週間ほどの間に、あなたの中に迷いが生じてないか、何もかも、不安でなりません」
だからこそ、と古泉は綺麗なのだが筋張ったその指を下着の中に侵入させながら、囁いた。
「嬉しいんです。…あなたも僕と変わらないんだと思えて」
「…同じに、決まってんだろ」
唸るように言えば、古泉の笑みが深まる。
調子に乗らせっぱなしのようで気分はよくないのだが、それでも俺は、なんのかの言っても、こいつのこの笑顔が好きなんだろう。
「愛してます」
恥ずかしげもなく囁く声も好きで、優しく抱き締めながら、どこか悪戯に動き回る腕も手も指も好きで。
……ああ、くそ、誰かどうにかしてくれ。
「どうにか、ってなんですか?」
不思議そうに聞いてくる古泉の鼻先に噛みついてやりながら、どうしようもなく昂ぶったものを押し当てるように腰を揺らせば、古泉が幸せそうに笑う。
こいつの方こそ、どうしようもないよな。
前途洋洋たる若社長が、何の因果で俺みたいな男に惚れたのか、惚れるようなことになっちまったのか。
神様ってのがいたらそれは酷い皮肉屋か悪戯好きに違いない。
「僕は、嬉しいですよ。あなたを好きになれたことも、あなたが好きだと応えてくださるのも」
「っ、そ、んな、ところで、喋るなぁ…!」
抗議をしようとしたってのに、甘ったれるような声が出て非常に気分が悪い。
しかし古泉は構わずに俺のものへ舌を這わせながら、含み笑いを漏らす。
それすら刺激になり、腰が揺れるのが恥かしい。
いっそ、もう少し理性が飛んでしまえば楽になるだろうに、古泉は焦らすようにある程度のところで刺激をやめてしまう。
その妙に手慣れたやり様に、いくらか苛立ちを感じながらも、流石にそれを言い立てることは出来なくて、俺は赤く染まったまま治らない顔を背けるしかない。
やがて古泉は昂ぶらせるだけ昂ぶらせた後、惜しげもなく放した手をベッドサイドの小さな引き出しに伸ばし、中からごそごそと何かを取り出した。
取り出されたのは、なにやら小振りなチューブで、それを何にするつもりか見当もつかない俺の目の前に、古泉はそれをかざして見せた。
「こういうものも、ちゃんと準備してたんですよ。気付いてました?」
「いや…ていうか、なんだ、それ」
上がりきった息の下から問えば、古泉は商品説明でもするような口調で、
「いわゆる潤滑剤の一種ですね。色々種類があって迷ったんですけど、とりあえずはノーマルなものを選んでみました」
潤滑剤、って……まさか。
「まさか、じゃないでしょう? …あなたを極力、傷つけたくないんです」
当然のように言って、古泉はチューブの封を切り、ビニールを床に投げ捨てた。
後で誰が掃除すると思ってるんだろうな、こいつは。
眉を寄せても古泉には通じなかったらしく、皺の寄った眉間にキスされた。
「痛くないようにしますから」
そうなだめるように言いながら、チューブのふたを開けると、人工香料の甘ったるい匂いが鼻先をくすぐった。
いくらか強引に手の平の上へとひねり出されるそれを見ながらぼんやりと、そんな風に出してたら最後まで使い切るのが大変になるなんてしみったれたことを思うのは、俺もいくらかおかしいってことだろうか。
実際、意識なんてもはや薄皮一枚で繋がってるようなものに違いない。
そうでなければ、
「…脚、開いていてくださいね」
などと生唾を飲み込むような熱っぽい声で言われただけで、それにおとなしく従えるはずがない。
冷たいクリームの絡んだ指があらぬところに触れたってのに、いきなり触れた冷たい感触に身を軽く竦ませるだけで、それ以上逃れようともしないなんてことが、正気の状態でありえるはずがない。
なるほど、さっきあれだけ焦らしたりしたのは俺から思考能力を奪うためだったのか。
どこかで自家撞着を起こしそうなことを思いながら、俺の手はシーツを掴む。
入り込んできた指の感触が、あまりに慣れなくて気持ち悪くなりそうだ。
「苦しいですか?」
心配そうに聞いてくる古泉には首を振る。
苦しくはなく、慣れない異物感があるだけだからな。
慣れないというなら、慣れれば楽になるんだろう、多分。
そう思いながら俺は不快感を逃がすようにシーツを掴んだ手に力を込める。
ぎゅっと目を瞑れば、耳がくちゅくちゅと粘るようなどこかいやらしい音を拾い上げ、変に興奮を煽られる。
おまけに、俺は学生時代にあれこれ振り回されたせいか、妙に適応能力が高いと言われるのだが、それがこんなところでも発揮されたらしい。
体の中をくすぐる指の感触が、いつの間にか違和感を失い、その動きを確かめようとするように、あるいは追おうとするように、体が震えた。
それに気をよくしたらしい古泉の指が更に深く、大胆に動き、ある一点を捉えた。
「っん……」
思わず声を上げちまったとはいえ、別にそれがよかったわけじゃない。
ただ、その感覚が、ある意味で嫌な予感を伴うものだったのだ。
初めて古泉に素肌をあれこれまさぐられた時、始めのうちはなんともなかったはずの指の感触が、いつかおかしなほどに快感をもたらすように変わっていった。
その、始めのうちと似たような気がした。
つまりは、それが段々と気持ちよさに変わっていってしまうという予感だ。
「やっ…、こい、ずみ……」
「すみません、もう少し我慢してください。そうしたら、きっとよくしてみせますから」
よくしなくていい、と止めたかったってのに、俺からすると的外れなことを言って、古泉は熱心にそこを指で押し上げてくる。
その度に、じわりじわりとそれが快感へと変わっていくのが、正直、怖いくらいだ。
「んん…っ、ぁ、やめ、…やめろって……」
「聞けませんよ」
困ったように笑いながら、古泉はなだめるようなキスを寄越す。
「そんな声と顔で言われて、真っ正直に受け取れると思います? それに、我慢出来ないと言ったでしょう?」
「はっ……ぅ、んぁ…!」
もうまともな受け答えも出来やしねぇ。
思考が融かされる。
何かに飲み込まれる。
嬌声染みた声を飲み込むことも出来なくなり、思うままにされる。
「ねえ、」
熱っぽい古泉のいつにも増してぞくりとさせられるような声が耳に触れる。
「もう、大丈夫ですか?」
何が、と聞くべきところだと思う。
大丈夫ってのはなんだとつっこんでやりたいとも思う。
それなのに、俺の頭は勝手に肯定するように動いた。
「いい、から……っ、も、早く、して、イかせて、くれ…」
「……ちょっと、やり過ぎました? 意識あります?」
心配そうな顔をしながら訳の分からないことを聞いてくる古泉を、意識がなかったら返事も出来んだろうと睨みつけてやりつつ、
「焦らすなぁ…!」
と馬鹿みたいに叫んだところで、古泉の指が引き抜かれた。
空いた空隙が、無性に寂しくて切なくなる。
それを狙いすましたかのように満たされて、体が一際大きく跳ねた。
指では満たされなかった奥まで満ちるのは、幸福感なんだろうか。
それとも違う何かなんだろうか。
分からない。
分かるわけがない。
自分が正気じゃないんだろうということだけはどうしてか分かりながら、俺は古泉を離さないよう必死に抱き締めて、ぼろぼろ涙をこぼした。
痛かったわけでも、悲しかったわけでも、泣くほど嬉しかったわけでもないのに、何故か涙が止まらなかった。
それを滑らかな舌先で拭い取りながら、古泉が囁く。
「あなたって、案外涙腺が弱いんですよね。何度見ても、とても魅力的な涙ですが、お願いですから、他では見せないでくださいよ」
分かったからと何度も何度も頷いて、腰を揺らすとどうしようもなく気持ちよかった。
そればかりに頭の中も体も支配されるのが分かっても、止めようがない。
ぐちゃぐちゃになった頭がそれでもまともに働いてくれるなら、俺はもっと違った人生を歩んでいたに違いない。
単純な快感とは違う、気持ちよさに捕まる。
「愛してます」
とうわ言めいて囁かれる言葉だけで、天井知らずのそれが強まる。
だから、
「言う、な…ぁ、ああっ…ん、ひぁ…!」
と言ったってのに、
「無理です。…言わずに、いられません。……あなたが、好きです。愛してます」
びくんと一際大きく震えた体が弾けて、それでも俺は、ほとんど同時に弾けたがゆえに引き下がろうとした古泉をどうしようもなく震える声と腕と脚で以って引き止めた。
足りない。
まだ、足りない。
古泉が言わずにいられないというなら、その全部を受け取りたくて、受け止めたくて、でろでろに融けた思考と体で、俺は古泉を抱き締めた。

目が覚めた時の気分は最悪だった。
本気で、最悪としか言いようがないほどに。
体はそう悪い状態ではなかったが、その理由が、俺が失神同然に寝ている間に古泉が俺の体を拭うかどうかしたためだとか、古泉が俺の知らない間に用意していたあのよく分からんクリームのためだとか思うと、最悪な気分に拍車がかかる。
おまけに、別に酒に酔っていたわけでもない俺の頭は、飛び飛びながらも昨夜のことを明確に記憶しており、その断片が蘇ってくるだけで、頭を壁に打ちつけて赤い花を咲かせてやりたくなるくらいである。
「お願いですから、そういうことは絶対にやめてくださいね」
困ったように苦笑しながらも、どう見たって幸せ満開という顔で言う古泉を睨みつけ、
「全部、お前のせいだ」
と恨み言を言ってやっても、幸せお花畑頭には微塵も堪えんらしい。
「はい、僕のせいですよね。…他の誰のせいでもなくて」
余計な部分を強調して、嬉しそうに笑った古泉が、俺にキスをする。
触れるだけでも、酷く甘ったるいそれに、思わず目をすがめた。
「愛してます」
まだ言い足りないとでも言うのか、砂糖や蜂蜜やシロップよりも甘く囁く古泉に、なんとか頷きを返せば、古泉が更に幸せな顔をすると知っている。
それで自分も幸せを感じちまうという、色んな意味で恥かしいことも。
しかし、だ。
なんとか起き上がった俺に向かって古泉が、
「この調子なら、毎日だって出来ますね」
なんて浮かれきった声で言うなどということは予想だにしていなかった。
「なっ…!?」
驚いて古泉を見れば、古泉は俺よりよっぽどでろでろの顔で、
「もう我慢しなくていいと言ってくださったのはあなたでしょう?」
「んなこと、言ったか…?」
冷や汗のようなものが背筋を伝う。
「言ってくださいましたよ? 我慢される方が嫌だと、はっきり言ってくださいました」
こいつの性格からして、そう断言するってことは本当に俺がそう言ったということなんだろう。
全く記憶にないからと言って今更打ち消そうとしたところで無駄になるに違いない。
俺は目の前が真っ白だか真っ赤だかに染まるのを感じながら、昏倒するようにベッドへ身を投げ出した。