姫と騎士と王子



夕食の時間が近づいても、古泉が帰ってくることもなければ、帰ってくるという連絡もなかった。
長門の人待ち顔に、これまで以上の寂しさとか切なさのようなものを感じながら、俺は自分の夕食の支度に取りかかる。
無駄に充実した冷蔵庫の中身を見て眉をしかめるのは、この中身を減らすのはほぼ自分だけだと知っているからだ。
今日は食料の補充がない日だったってのに、昨日の夕食時から物の配置すら変わっていやしねぇ。
古泉は昼どころか夜も大抵外で食べるから仕方ないのかもしれないが、朝食くらい食っていけばいいだろ。
勿体無い。
おまけにどうやら、食材類は俺がここに通って、ここで飯を食うことになってから用意されるようになったらしい。
つまりあいつはそれまで全然料理なんてしてなかったということだし、家で食事をしようともしなかったということだ。
ただ、急ごしらえの設備であっても、一般的な食材が一通り揃うようになっているらしく、不自由した覚えはない。
たまに変わったものが欲しくなったら、ちょいと部屋の隅に据え置かれているコンソールをいじって注文すれば数時間以内には届けられるという至れり尽くせりっぷりだ。
要するに、ここの食材はほとんど俺のためだけに用意されていると言っても過言ではない。
それでも、おそらく高級なんだろう食材には手を出しかねて、俺はケチャップ味のチープなスパゲッティを作って夕食にすることにした。
自分のが出来上がった後で、長門のためのミルクを温めるのは、そうしなければ長門はミルクが冷めるのも構わずに俺が食べ始めるまで待とうとするからだ。
そんな風にするのもやっぱり、寂しいからなのかね。
ミルクを舐める長門を複雑な心境で見遣りつつ、俺は味気なくすら思える夕食を食べる。
夕食を共にする人間として長門が不適格と言うわけではい。
ただ、言葉を交わす相手もなく、ついでに言うと家主もいない他人の家で飯を食うのが面白くないだけだ。
その家主は一体いつ帰ってくるつもりなのかと、俺は時計を睨みつけたが、そんなことをしたところで無駄だと言うことは重々承知の上である。
それでも、苛立ちを向ける対象が他になかった。
そんな楽しさに欠ける食事を終えた後も、片づけが終った後も、古泉は帰ってこなかった。
時計が8時を回り、俺はそろそろ帰宅していい時間になる。
実際、森さんからは、今日はもう帰宅していいと連絡も入っていた。
それでも、帰れるわけがないだろう。
あんな悲しそうな長門を放っておけるわけがない。
だから、と俺は長門に風呂に入るよう勧め、自分は家に帰るのが遅くなる旨を残業という言葉に置き換えて伝える。
長門が申し訳なさそうな顔をしているのを一撫でして、ドライヤーで丁寧にその髪を乾かし、梳かしてやる。
9時が来て、長門がベッドに入る頃になっても、古泉はまだ帰ってこない。
長門の瞼を押さえるようにして目を閉じさせたのは、長門が眠そうだったからではなく、俺がその悲しげな瞳をそれ以上見つめていられなくなったからかも知れなかった。
長門が眠ったのを確認した以上、俺がここに留まり続ける理由はない。
だから、俺のこれは越権行為どころではないのかもしれない。
それでも、俺は長門の世話係として、長門が幸せで過ごせるように、快適な環境を整えてやるという義務があり、そのために申し立てをする権利もあるはずだと自己弁護をし、理論武装を固めた上で、俺はリビングのソファに腰掛けて、古泉の帰宅を待った。
可能な限り音量を絞ったテレビでニュースを確認し、今日一日の動きを追う。
ついでに、交通情報だのを見て、古泉が遅れて帰るだけの理由があるかもチェックするが、そうなりそうなものはひとつも見当たらなかった。
つまりあいつは、仕事か付き合いで帰りが遅くなっているのだろう。
多分、前者だな。
付き合いのパーティーなどに出席する時は、どういうわけか、たとえ無理矢理呼び出してでも長門を同伴すると決めているようだから。
大人ばかりの会場に、子供の姿をした長門が、それでも周りの大人たちに負けず劣らずきらびやかに着飾って、しかしいつも通りの無表情で立っているのは、ちょっと想像するだけでもどこか寒々しく悲しいものに思える。
前に見たテレビ映像からすると、実際その通りらしいしな。
それもこれも全部、あの馬鹿社長が悪い、と罵りながら、俺はじっと耐えた。
結局、古泉が帰ってきたのは日付が変わる間際のことだった。
「まだいらしたんですね」
意外そうに呟いた古泉は、ただいまの一言もなかった。
「遅かったな」
「…あなたに咎められるいわれはないはずですが?」
棘だか毒だか分からんものをいくらか含んだ声で言われても、今日の俺は引き下がるつもりなどさらさらない。
「お前に話があって、残らせてもらった」
「話…ですか。一体なんです? まさか愛の告白でもされてしまうんでしょうか」
皮肉っぽく笑った古泉とは対称的に、俺はぐっと顔をしかめるしかない。
「茶化すな。真面目な話だ」
「……お聞きしましょう」
スーツのジャケットをソファに投げ出しながら、古泉は俺の向かいに腰を下ろした。
高級なスーツが皺になるとか思いもしないんだろうな、こいつは。
「お前、長門のことを本当に可愛いと思ってるのか?」
「思ってますよ?」
何を言い出すのかとばかりに、人を小馬鹿にしたような調子で古泉は言った。
それさえ、用意された台詞のように響かせながら、
「可愛くなければ、ここまでするはずがないでしょう?」
「そうかもな。だが、それにしてはお前の行動は範囲が出費の方向に限られている気がするんだが?」
遠慮なく言った俺に、古泉の眉が軽く上がった。
いつも笑っているからか、マジな顔をされると妙に迫力があって怖いくらいだが、今の俺はそれをものともしないくらいには、こいつに対して怒っていた。
義憤と言ってもいいような種類の怒りである。
そうであれば、ちょっとやそっとのことで揺らぐはずもない。
「もうこんな時間です。あなたも早く帰りたいでしょうから、わざわざ回りくどい言い回しをなさらなくても結構ですよ」
どこか苛立ちの滲んだ声で言った古泉に、
「なら、言わせてもらうが、物を買い与えるだけで愛情を注いでいると言えるとでも思ってんのか?」
「思っていませんよ。彼女には、出来る限りの言葉を掛けもしているはずです」
「あれで足りると思うのか?」
「不十分だとでも?」
「ああ、全然足りんな。大体、長門を寂しがらせておいてよくそんなことが言えるもんだな」
「彼女はあなたがいれば大丈夫でしょう?」
「あほか」
それなら俺はわざわざこんなお節介なことを言いやしねぇ。
「俺はただの世話係だろ。長門にとって家族ってのはお前しかいないんだ。お前も、そのつもりで長門を迎え入れたんじゃないのか?」
「……正直に、言いましょうか」
うんざりした様子で、古泉は前髪をかきあげ、いつになく低い声で呟いた。
「僕にとって彼女は――そうですね、パーティーの同伴者として手に入れたに過ぎないんですよ。生身の女性を連れて行くのは何かと厄介なものですからね。その点、人形である彼女は申し分ないレディーだということです」
「なっ…んだと…!?」
怒りで反射的に握り締めた拳が震える。
それを辛うじて振り上げずに済んだのは、いくらかの理性が働いてくれた幸運によるものだとしか思えん。
あらん限りの悪口雑言を吐き捨てたいほどの怒りが込み上げてきていた。
俺の拳をちらりと冷たく見遣りながらも、古泉は不機嫌に沈黙する。
俺は苦いものを無理矢理飲み込まされたような顔になりながら、唸るように言った。
「…お前がどういうつもりであれ、長門はお前を慕ってるんだ。それに応えてやる義務ってもんがお前にはあるはずだろ!」
「だから、不自由のないようにしているつもりですが? これ以上のものを望まれても困りますね」
と古泉の言葉はあくまで冷たい。
「それに、あなたには関係ないことでしょう?」
「あるって言ってんだろうが。俺は長門の世話係だ。あいつがちゃんと過ごせるよう、環境を整えてやることだって、俺の仕事だ」
「本当に、お節介な人だ」
独り言であるかのように呟いておいて、古泉は冷笑を浮かべた。
「世話係と言うよりは、むしろ、ナイトのようですね」
「お姫様に必要なのは王子様の方らしいがな」
そう切り返してやると、何が愉快だったのか、古泉はかすかに声を立てて笑った。
「お話はこれで終りですね。明日も早くからお願いするんです。そろそろ帰って休息を取られてはいかがです? ああ勿論、泊まって行かれても結構ですが」
「断る」
一方的に話を打ち切る気でいるらしい古泉に、もう一言何かをぶつけてやりたくて、俺は言葉を探す。
そうしてやっと見つけた言葉が適切かどうかは分からないが、俺はソファから立ち上がりながら言った。
「…お前が今のままそれを無視するとして、長門がお前に向けてくれてる愛情はどうなるんだ?」
「彼女が僕に愛情を向けるなんてことはありえませんよ。なぜなら、彼女は愛されるための人形であって、自分から愛するなんてことはしないんですから」
怒鳴りつけてやろうとか、派手にあざが残るくらい殴ってやろうとか、そんなことすら思えないくらい、俺は呆れ果てた。
多分、怒りが頂点に達し、突き抜けちまったがゆえに逆に冷めたんじゃないかと思う。
力なくも小さくため息を吐いて、
「可哀想な奴だな。自分に向けられるのが愛情だってことにすら気がつけないなんて」
と呟いてリビングを出た。
その声が古泉に届いたかは分からん。
届いても届かなくても、どちらでも構わない。
本気で、古泉が憐れだった。
長門も可哀想だが、あいつも可哀想な奴だったらしい。
俺は帰るためにスーツに着替えなおした後、そっと長門の部屋に忍び込んだ。
古泉は、寝顔を見に来てもいないらしい。
俺は薄暗い部屋の中、長門のベッドに近づくとその髪をひとつ撫でた。
「…ごめんな。俺じゃ、力にもなれんらしい」
そう謝って、俺は虚しく帰途についた。
俺が古泉に何をしても、古泉には届かないんだろう。
それが打算も裏もないただの親切心や同情心であっても、あいつは勘繰り、勝手に傷つくに決まっている。
だからきっと、俺が何もしないでおくことが一番、あいつの精神衛生にはいいのだろう。
悲しくもそう結論付けてからの俺の行動は徹底していた。
ひたすらに古泉を無視したのだ。
声を掛けられれば話にくらいは応じるが、それも必要最低限。
挨拶も向こうからされなければ会釈程度で済ませる。
長門が一日どうやって過ごしたかなんて報告も極々事務的なものをデータとして残すのみにし、口頭での報告はしなくなった。
それこそ、あいつの望むものだったはずだ。
俺としても、変に気を使わなくていいなら楽になるはずだったってのに、なんだろうな、この居心地の悪さは。
「やれやれ」
面倒なこった、とため息を吐くと、長門が俺に向かって手を伸ばしてきた。
「どうした?」
問いながら屈むと、長門は俺の眉間に小さく白い指をやり、ぐいぐいとそこの皺を伸ばそうとする。
どうやら、自分でも気がつかないうちに眉が寄っていたらしい。
古泉を無視するなんてことが長門に悟られないはずもなく、長門は心配そうに俺たちを見るようになっていた。
「なんでもない。…お前は気にしなくていいんだ」
と言っても、長門が聞いてくれるはずもなく、憂いの色は余計に深くなっていく。
このまま弱られたらどうしようかと、俺がなんとか古泉との妥協点を探り始めた頃になって、古泉も危機感を抱いたらしい。
その日、珍しくも夕食前に帰ってきたかと思うと、長門を自室に残したまま、俺をリビングに呼び出した。
「一体何だ」
むっつりと眉を寄せながら俺が聞くと、古泉はしばらく躊躇うように視線をさ迷わせた後、案外素直に頭を下げた。
「…先日は言い過ぎました。すみません」
「……」
俺としては、驚く他なかった。
そんな風に古泉が折れてくるような必要性はどこにもないはずだ。
俺がへそを曲げて仕事をしないというのならともかく、俺は出来る限り、仕事はきっちりこなしているつもりだし、古泉の望むようにもしたつもりだ。
それなのに、どうしてだ。
驚いて黙り込んでいるのを、怒ってのそれだとでも思ったのか、古泉は途方に暮れたような力ない表情で、
「あなたは、長門さんの心配をしてくださっただけなのに、余計なことを言ってしまったと反省しています。……正直、僕としても参っているんですよ。あなたと言葉を交わしたりすることが、自分の中でこうも比重を大きくしているなんて思ってもみなかったんですが、失って初めて気がつくというもののようですね」
なんだそりゃ。
俺と話すことなんてそれこそ朝晩に一度あるかないかってところだっただろうに、そんなに重要だったか?
まだ、長門が不安がっているからとか言われた方が説得力があったと思うぞ。
しかし、古泉は本気でそう思っているらしく、
「それに、あなたに言われた言葉が、思った以上に堪えました。……本当に、すみませんでした。……許しては、もらえませんか…?」
と上目遣いに俺を見た。
俺はこれが社長のやることかよといくらか呆れつつ、
「…謝るのはいいが、お前、本当に俺の言いたかったことを分かってんのか?」
「……それは…」
と目をそらすってことは、分かってないんだな。
思わず大仰なため息を吐いてしまった俺に、古泉は別に慌てる必要もないだろうに、慌てたように言う。
「分かりたいとは、思っているんです。でも、僕には…いくら考えても、分からなくて…。長門さんが僕を愛してくださっていると言われても、僕の頭に浮かぶのは、それは彼女に出来ないことだから、あなたの勘違いなのではないかと言うことばかりで……。しかし、あなたがあんなに強く仰るんですから、本当にそうなのかもしれないとも、思うんです。それに……愛情を注ぐと言うことがどういうことなのかも、僕にはよく分かりません…。自分のやっていることで不十分なのかもしれないとは、思ってきました。でも、これ以外、どうしたらいいのか、分からないんです」
そんな風に言葉を紡ぐ声はどこか頼りなく、その姿もどこか小さな子供のように見えた。
「…お前、家族って長門以外にいないのか?」
「一応いますよ? うちの会社の会長はうちの父です」
そう言われて俺はしばし考え込む。
「……待て、うちの会長って、確かもう100を過ぎてなかったか?」
「そうですよ?」
するとお前は一体いくつの時の子供なんだ。
俺が戸惑っていると、古泉は小さく笑って、
「僕は父が80の時に出来た子供です。多少年が行き過ぎているとは思いますが、それくらいならまだ、特に不思議でもなんでもないでしょう? 母の方は若いんですし、ありえない話ではないと思いますが」
「あー……」
なるほど、そういういくらか複雑な家庭環境ゆえに愛情に対して鈍感に育っちまったってことか。
俺はがりがりと頭を掻きつつ、
「古泉、」
「はい」
神妙に頷く古泉に、俺は出来る限りのことを言ってやるつもりで口を開いた。
「…こういうのはケース・バイ・ケースであり、俺の考えていることが一般的なのかどうかすら分からんし、それがお前に当てはまるのかも分からんのだが、ちょっと聞かせてくれ。……長門がお前に駆け寄ってくる時、嬉しいとか可愛いとか、思わんのか?」
古泉は俺の問いの意味を図りかねているような戸惑い顔で、
「それは…もちろん、思いますよ? 実際、長門さんは可愛らしいですし」
うむ、ならまだ大丈夫だ。
「それは、長門に対してお前が愛情を感じているからじゃないのか?」
「そう……なんでしょうか…?」
…本当に面倒なやつだな。
「好きじゃなかったら、そんな風に思わないだろ」
これは誘導とか洗脳になるんだろうかと思いつつ言えば、古泉は躊躇うようにだが頷いた。
「そうかも…しれませんね」
「長門は長門で、お前が好きだからああやって駆け寄ってきたり、お前のことを心配そうに見ていたりするんだ。そこに愛情がないなんてことはありえんだろう」
「……」
まだ迷うように古泉は黙り込んだものの、かすかに頷いたので今はとりあえずよしとする。
「心配するのも、愛情のあらわれだ。愛情の伝え方やあらわし方が分からんというなら、難しく考えたりせず、一度思い切り長門を抱き締めてやったらどうだ? 思うんだが、いつものあれはわざとらしすぎて、そう演じているようにしか見えんぞ」
「そう…でしょうね…」
と古泉は困ったように苦笑する。
「ああしていればいいのかと、思ってしていただけのことですから」
「こうしたら相手は満足するだろうとかそんな余計なことは何も考えずに、自分がそうしたい時にちょっと抱き締めてやるとか、それが苦手ならちょっと話してやるだけでもいい。どうしても難しいなら時間のある時に、一緒の部屋にいてやるだけでも違うと思う。長門は、それだけでも嬉しく思うだろうし、お前の不器用な愛情表現だって、ちゃんと受け止めてくれるだろうさ。あいつは賢くて、察しもいいからな。…そうだな、持ち帰った仕事をする時に、長門を部屋に呼ぶか、お前が長門の部屋に行くかして、一緒にいるってのはどうだ? あいつなら邪魔になることはないだろうし、余計なことを見聞きして広めたりする心配もないだろ?」
「……分かりました。やってみたいと思います。…でも、」
古泉は不思議そうな顔で俺を見つめて言った。
「心配するのが愛情のあらわれのひとつだとしたら、こんな風に心配してくださるあなたは、僕に対して愛情を抱いている、ということになるんでしょうか?」
「………」
絶句した。
いや、古泉の素直さにも呆れたが、絶句したのはそのせいではない。
墓穴を掘ったかのような自分の理論の甘さのせいである。
なるほど、俺が言ったことから考えればそうなるのだろうが、それにしたって面と向かって言われると恥かしいなんてもんじゃない。
俺は自分の顔がふつふつと赤くなってくるのを感じつつ、ぶっきらぼうに言うしかない。
「まあ、ある意味愛情はあるのかも…な。ただ、」
「ただ?」
「お前が放っておけないくらいどうしようもないのが悪い」
俺がそう言うと、古泉は驚いたように目を見開いた後、破顔一笑した。
「僕は放っておけませんか」
「ああ。うちの妹くらい目が放せんな。というかだな、お前、俺のことを調べたんだろ? だったら、俺の性格だって聞いてるはずだ。俺には手のかかる妹と厄介な幼なじみがいて、そのせいで俺はついつい世話を焼いちまうお節介な人間になっちまってるんだ」
だから俺は、
「同じ家にいて、何もするなと言われる方が、家事全般、何もかも全てやってみせろと言われるよりもずっと苦痛なんだよ。長門のついでに、お前のことも面倒も見させろ」
自分でも恥ずかしいことを言っているという自覚はあったのだが、俺のこの発言は古泉にとっても声を上げて笑うのに十分なほどおかしなものであったらしく、腹を押さえながら笑った古泉は、俺がそのあまりにも珍しい様に唖然としているのにも構わず、
「分かりました。では、お手数をおかけしますが、これからどうぞよろしくお願いします」
と言って俺に手を突き出し、唖然としていた俺はなし崩し的にその手を握り返していたのだった。