なんちゃってスピンオフ作品です←
色々とすみません
これは全くのフィクションであり、実在の人物、団体、事件などには一切関わりがないということをまず最初に告げておきたい。 これはただの作り話である。 しかも元になった物語とどれほどの共通点があるのかという疑問すらあるような内容である。 だからどうかこの話のことは、ただのプロモーションビデオ、ないしはお遊びの代物であるということを了解の上で見ていただきたい。 さて、今回もまたフィクションである以上、登場人物がどこかでみたような風貌、名前であったとしてもそれはただの作り事なので気にしないでもらいたい。 よって、この古泉イツキが、たとえ妹も一緒とはいえ、朝比奈ミクルなる美少女と同居しているというのはこの話の中だけのことなので、妙な嫉妬心ゆえに彼奴を呪うようなマネはしないでいただきたい。 今回の物語は、その二人の愛の巣であるらしい、こじんまりとした家から始まる。 その日も二人は仲むつまじくお茶をしていた。 若い二人が昼間っから渋茶をすするってのはどうなんだろうかと思われるかもしれないが、これが二人の日常である。 「今日もいい天気ですねぇ…」 のんびりと、と言うにはいささか硬い表情ながらもミクルが言うと、イツキも頷いた。 「そうですね」 と、そこに第三の声が響く。 「ごめんください」 どこかかすれた中性的な声だ。 「お客さんでしょうか」 ミクルがそう呟いて立ち上がり、玄関に向かう。 カメラはミクルを追ったのか、ミクルが引き戸を開ける様子を映し出す。 そうして映し出された来訪者の姿は逆光でよく見えない。 だがそれはわざとそうしたように見えた。 「ケイです。今日からお世話になります。どうぞよろしくお願いします」 と来訪者は告げた。 ミクルは驚いた顔で、 「え? ええっと…どういうことですか? お世話にって……」 「あれ? 聞いてませんか? イツキくんのお父上から連絡が行っているはずなんですが……」 「ええ?」 ミクルが困り果てていると、奥からイツキが顔を出した。 「どうしたんですか?」 それを見て、ケイと名乗る来訪者は玄関の中に踏み込んできた。 その姿が今度こそはっきりと映し出される。 それは、なんでもないどこにでもいそうな服装をした少年だった。 しかし、その顔だちは美しいと言っていいほど整っていた。 少女の装いをしても違和感がないだろう少年に、イツキは一瞬息を飲んだようだった。 「お前がイツキくん?」 「え、ええ…そうですが……あなたは…?」 「俺はケイ。今日からお世話になりますって、連絡行ってなかったか?」 「ああ…父から電話が入ってはいましたけど…こんなに急だったんですね」 「悪いな。まあ、とにかくよろしく頼む」 そう言ってケイは強引にイツキと握手を交わした。 居間に通されたケイにミクルがお茶を淹れ、そのすぐ横ではイツキが父親に電話をしていた。 「じゃあ、本当に? ……ああ、はい、編入手続きも済んでいると。分かりました。なんとかしますよ」 そんな風にして通話が終了し、イツキはため息を吐きながら受話器を戻した。 ケイはずずっとお茶をすすってから、 「確認は出来たみたいだな。よろしく頼む」 と笑った。 その笑顔に見入るような顔をしたイツキだったが、 「それでは、あなたの部屋を決めなくてはいけませんね」 「俺は別にどこでもいいぞ。それこそ庭でも構わん。雨露がしのげれば十分だ」 「庭じゃ雨露もしのげないでしょう。……僕の部屋にもう一枚くらい布団が敷けますから、それで構いませんか?」 イツキの問いかけに、ケイは少し驚いたような顔をし、しばらく迷っていたが、 「…お前がいいなら、それで構わん」 と答えた。 「荷物はありますか?」 「ああ、今晩辺り届くはずだ」 「足りないものがあったら言ってくださいね。生活費の追加を振り込んでくれるそうですので」 「いや、俺も自分の手持ちがあるから気にしないでくれ」 「遠慮はしなくていいですからね」 と微笑したイツキを、ケイはなにやら仔細ありげに見つめていた。 早めに寝ることにしたその夜も、先に目を閉じたイツキをケイはじっと見つめていた。 まるで、そう、恋うるように。 翌日。 イツキと同じ制服に身を包んだケイは、なんの変哲もない高校を眺め、感慨深げに呟いた。 「今日からここに通うんだな」 そんなケイにミクルは優しく笑って、 「ケイくん、あたしが校内を案内しましょうか?」 と言った。 普通の男子高校生なら一も二もなく頷くところだ。 しかしケイは迷うように、 「え、あ……あー…出来れば、イツキにお願いしたい…な」 と呟き、上目遣いにイツキを見る。 画面いっぱいに映し出されるケイの上目遣いのオネダリ顔に、 「僕でよろしければ」 と頷いたイツキの顔も赤くなっていた。 それから二人は校内をあれこれみて回った。 転校初日だとかそういう問題でなく、登校したなら真っ先に教室に向かわねばならんはずなのだが、校内の案内が優先されたらしく、あちこちみて回る。 いつの間に放課後になったのかも分からないが、色々な部活にもチャレンジしたらしい。 様々なコスチュームに身を包んだケイの姿が画面に踊る。 そうして夕陽の差す図書館にも足を運んだ二人は、閲覧テーブルの上に広げられた一冊の絵本に目を止めた。 ケイはそれを読み始め、ざっと読んで行く。 イツキは珍しそうにそれを読むケイを興味深そうに見つめ、 「人魚姫がお好きですか?」 と尋ねた。 ケイは顔を上げ、 「好きも何も、知らないな、こんな話」 「そうですか? 有名な話だと思うんですが……」 訝るイツキにケイは少し慌てながら、 「や、俺はあんまり本とか…読まなかったから……」 「そうなんですか」 いくらか同情的な瞳をしたイツキに気付かない様子で、ケイは本を読み通し、軽く眉を寄せる。 「……悲しい話だな」 「…そうですね」 俺はぱたんと本を閉じ、 「他の所に行こ、イツキ」 と言って、とっとと図書室を出て行った。 意味ありげに映し出されたのは「人魚姫」の表紙の美しくも悲しい姿だった。 それからしばらく。 ケイもどうやら学校生活に馴染んだようで、忘れた教科書をイツキのところに借りに行ったり、イツキやミクルと一緒に昼食をとったりしている。 「順調みたいですね」 と笑顔で言ったイツキに、ケイは難しい顔でサンドイッチを頬張りながら、 「まあ…一応、な」 と歯切れの悪い返事を寄越す。 「…何か問題でも?」 心配そうな顔をしたイツキにケイは首を振った。 「なんでもない」 ミクルもイツキもそんなケイの様子が気になったようだったが、問いかけられないものを感じたのか、それ以上は尋ねなかった。 その日の放課後、ケイと帰る約束をしていたイツキはいつまで経ってもケイが来ないのでその姿を探して校内を歩きまわっていた。 「どこに行ったんでしょうか……」 ケイを心配しているのだろう。 足早に校内を歩きまわっていたイツキはふと思い立って、体育館裏へと向かった。 そこにはケイが立っており、その向こうにはケイと上級生らしい女生徒の姿があった。 ケイも今来たばかりだったのか、 「俺を呼び出したのはあなたですか?」 と問いかけた。 「そ」 女生徒はきれいな長い髪を翻して、ゆったりと振り返った。 その顔ははっきりとは見えないが、スタイルも顔だちも決して悪くないようだった。 「何の用ですか? あまり遅くなると心配されるんですけど…」 そう問いかけたケイに、 「うん……そのね…」 と恥かしそうに言葉を濁らせる。 「…そのさ、こういうところに呼び出したんだからもう分かってるかも知れないけど……あたし、ケイくんのことが……好き…なんだ……」 段々声を小さくし、かすかに震える女生徒に、 「……それで?」 ケイは冷たく響く声でそう告げる。 勇気ある女生徒はびくりとひとつ震えて、それでも、 「…っ、ケイくんが嫌じゃなかったら、あたしと付き合ってもらえないかな…?」 と言い切った。 イツキは何かに驚いたかのようにその場から逃げ出した。 これ以上は聞きたくないとばかりに。 それが紳士的な理由なのかは分からないが、とにかくイツキが走っていった後も、ケイは女生徒を見つめていた。 真っ赤な顔をした女生徒を観察していたケイは、やがてそっと唇に笑みを浮かべた。 冷酷で、どこか凄絶ですらある笑み。 薄く開かれた唇から放たれた言葉は、 「悪いけど、俺、女の子に興味ないんだ」 という一言だった。 次の日、ケイに対してどこかぎこちないイツキの様子を不思議に思ったミクルはそれを学校の友人である鶴屋さんに相談しようとした。 鶴屋さんこそが昨日ケイに告白した当人である。 「ミっクルー! ちょっと聞いてよっ」 話を切り出す前にそう言われて、 「えっ、ど、どうしたの鶴屋さん…」 と戸惑うミクルに鶴屋さんは立て板に水の如き勢いで昨日の顛末を話した。 その最後の一言、 「ケイくんって女の子に興味ないって、つまり、男には興味あるってことだったら、イツキくんも危ないんじゃないのっ?」 という言葉にミクルは凍りついた。 昨日、家に帰ってから二人の様子がどこかおかしいことからすると何かあったとしても不思議ではない。 それに、ミクルにはひとつの懸念があった。 それは、イツキの持つ超能力を狙う存在がイツキに近づくという可能性であり、ケイもそうではないかという懸念だ。 「だとしたら、あたしはイツキくんを守らなくっちゃ……」 決意を固めるミクルだったが、それをストレートにイツキに言うと、イツキは頭を振って否定した。 「あの人はそんな人じゃないと思いますよ。それに……僕の超能力と言っても、普段はろくに発揮されないじゃないですか。自分にそんな力がまだあるのかということさえ、疑わしい気持ちになりますよ」 「それは……イツキくんの力は、必要な時にならないと出ないから…」 「色々な人に狙われるような力にも思えません」 「そんなことはありません!」 そう強く言い張るミクルに一瞬驚いた様子を見せたイツキだったが、 「とにかく、」 と強引に会話の主導権を引き戻し、 「あの人は、そういう私利私欲のために僕に近づいたとは思えません。それに、僕の父から連絡をしてきたんですから、そんな怪しい人ではないでしょう」 「……じゃあ、私はそれを確かめてみます」 そう凛々しく言い放ったミクルと離れ、イツキは階段を下る。 そうして昇降口でケイを見つけ、声を掛けようとしたのだがその前に、 「イツキ!」 とケイが声をあげ、駆け寄ってきた。 「遅かったんだな。どうかしたのか?」 その顔に浮かぶのは無邪気な笑みだ。 この人がそんな悪人のはずがないと確信めいたものを抱きながら、イツキは笑みを見せ、 「なんでもありませんよ。帰りましょうか」 「ミクルさんはいいのか?」 「ええ。調べ物があるとかいう話ですよ」 「そっか。…じゃあ、今日はお前と二人で帰るんだな」 嬉しそうに言ったケイにイツキは目を細め、そうして二人は歩き始めた。 坂道を下りながら、他愛もない話をする。 普通の友人同士のように。 そのくせ、イツキはどこかぎこちなくて、堪りかねたようにケイは口を開いた。 「なあ、俺、お前に何かしたか?」 「え?」 「昨日から変だぞ」 「す、すみません」 「…何かあったか?」 心配そうにイツキを見上げたケイに、イツキは苦しそうに胸を抑えて、 「…すみません、実は昨日……」 と昨日、そんなつもりはなかったのだが告白されているのを目撃してしまったことを白状した。 ケイは驚いた顔をしていたが、苦笑を見せ、 「恥かしいところ見せたな」 「その……不躾ですが、お断りしたんですか?」 「ああ」 なんの悪気もなくケイは頷いた。 「だって俺は……」 そう言って切なくイツキを見つめたが、ふいっと顔を背け、 「いや、なんでもない」 早く帰ろうぜ、と逃げるようにケイは足を早めた。 その日、いつまで経っても帰ってこないミクルに代わってケイが料理を作り、イツキと二人で食事を取った。 イツキは食後のお茶を飲みながら、古めかしい時計を見つめて、 「…ミクルさん、遅いですね」 と呟いた。 「そうだな。…風呂、沸かしてあるから先に入ったらどうだ?」 「僕はまだ少しやることがありますから、どうぞあなたから入ってください」 「いいのか? じゃあ、そうさせてもらうな」 いそいそとケイは風呂に向かい、イツキは勉強道具を広げ始めたのだが、 「……そう言えば、シャンプーがもう切れてるんだっけ」 ストックがあるはずだから大丈夫だろうけど……分からないかな、と呟きながら立ち上がり、風呂場へと向かう。 脱衣所の戸に何気なく手をかけ、 「すいません、シャンプーが…」 かすかな音を立てて開いた戸の向こうにあったのは、真っ白で華奢な背中だった。 その白さに息を飲むより早く、 「っ、きゃあああああああああああああ……!!」 と絹を裂くような悲鳴が上がり、ケイが胸を抑えてその場にうずくまる。 「すっ、すみません!」 慌てて戸を閉めたイツキの耳に、小さくすすり泣くような声が届く。 「ひ…っu、も、やだ……。なんで、こんな……」 本音にしか聞こえないそれに、イツキは真っ赤な顔で眉を寄せ、 「すみません…」 と言ったが、返事はない。 「…本当に、ごめんなさい」 それから、どれくらい経ったんだろうか。 すすり泣く声が聞こえなくなってから、イツキはぽつりと呟いた。 「…女の子…だったんですね……」 その言葉に応えるように、中でガタガタという物音が響き、いきなりがらりと戸が開いた。 顔を出したケイはまだ服を着ておらず、裸身にタオルを巻いただけの格好だ。 そんな格好でイツキを見つめ、 「な、内緒にして……!」 と泣き濡れた顔で懇願した。 「どうしてです? そもそも、どうして女性なのに男性としていらしたんですか」 「……そうじゃないと、ここで一緒に暮らすなんて出来ないと思ったんだ。それに……俺は、隠れてなきゃ、いけなくって……だから…」 要領を得ないケイの話にイツキは困惑しながら、 「これからも、男性と言うことにするんですか?」 「そう…してほしい」 深刻そうなケイにイツキは軽くため息を吐く。 「今更、明らかにしても混乱を招きそうですしね。とりあえず、今はちゃんとお風呂に入って、落ち着いてください。僕は…あなたの布団をミクルさんの部屋に移動させておきますから」 「どうして?」 「どうしてって……」 イツキは顔を更に赤らめながら、 「…僕が男であなたが女性なら、同じ部屋で寝るわけにはいかないでしょう?」 「……ずっと一緒に寝てただろ」 「僕はあなたが女性だと気付きもしませんでしたから」 苦笑混じりに言っておいて、イツキは偽悪的な笑みを浮かべ、 「知ってしまった以上、危険だとは思わないんですか?」 ケイはしばらく黙り込んで考えていたが、 「……イツキなら、いい」 と小さな声で告げた。 「……は?」 「イツキなら、いいって言った」 顔を赤く染めて、ケイはイツキに近づく。 イツキはよろけるように下がり、壁に背中をぶつける破目になった。 「あ、あなた何を言って……」 「…分からんか?」 恥かしそうにしながら、ケイはイツキに触れそうなほど近づいて、 「……俺は、お前のことが…」 と告げようとした瞬間、 「ままままま、待ってください!!」 どこか上擦ったミクルの声が響いた。 飛び込んできたミクルは彼女の戦闘服であるところのウエイトレス姿になっている。 「だめっ、だめです! イツキくんは渡しません! あなたには絶対、だめです!」 「ミクルさん…」 悲しそうに言ったケイにミクルは決然と、 「そ、そんな顔したってだめです! あなたの正体はもう分かってるんですからね!」 と言い放つ。 「正体って……」 「あなたも、イツキくんの持つ力を狙ってきたんでしょう!?」 「……やっぱり邪魔するんだ」 ぼそりとケイは呟き、イツキから離れる。 「困ったな。俺もあなたみたいなタイプの人は嫌いじゃないから出来れば穏便にって思ったんだけど」 二人のやりとりから置いてかれていたイツキは戸惑いながら、 「あの…一体何がどうしたんです?」 「助けて欲しかったんだ。イツキに。…でもそれも、お前の力を狙って接近したってことに、変わりはないよな」 悲しげに言ったケイに、イツキは戸惑いを見せたが、ミクルは容赦なく、 「正体をあらわしなさいっ」 と言って、 「み、みくるビーム!」 とそれを放った。 「うわっ…!?」 ケイはその直撃を受けたが、致死性のものではなかったらしい。 光に包まれたかと思うと、そこに立っていたのは真っ黒なレザードレスを着たケイだった。 その頭には二本の角が黒く光り、口の端には小さな牙が見える。 「く…っ……、この姿は、見られたくなかったのに…」 悔しげにケイは呟き、驚いたままのイツキを見つめ、 「……色々、黙っててごめんな」 と告げた。 「…あなたは……一体…」 「……俺は、魔界の王女なんだ」 唇を不恰好に曲げて笑いながら、ケイは告げた。 「お前の助けが欲しくて、お前の力が欲しくて、お前に近づいたんだ」 「……本当に、そうですか?」 イツキの問いかけに、ケイは驚きを見せる。 それでもケイは偽悪的に笑って、 「ああ、そうだ。それ以外に何があるってんだ?」 「あなたは、本当に楽しんでおられるように見えました。ここでの暮らしも、高校生としての生活も。…それが全部嘘だったとでも?」 「……っ、楽しかったに、決まってるだろ…」 じわりと目に涙を浮かべて、ケイは言った。 「お前が好きだってのも、本当だ…」 でも、とケイは涙をこぼした。 「もう終りだ。俺は帰らなきゃいけない。正体がばれたし、本当はもう、時間もあまりなくなってて……。何より、お前だって、俺が人間じゃないと知ったらもう……」 「そんなことは……」 ない、と言えるだろうか。 躊躇うイツキに、ケイは気丈にも笑って見せた。 「いいんだ。お前といられて、普通の人間として暮らせて、よかったよ。本当に、楽しかった。……ありがとな」 そう笑って立ち去ろうとしたのか、背中を見せたケイを、 「待ってください」 とイツキは呼び止めた。 いつの間にかミクルはそこを離れていて、残っているのは二人きりになっていた。 「ここに残ることは出来ないんですか」 「出来ない…。ばれちまったし、それに、どうせ帰らなきゃならないって決まってたんだ。それが、少し早まっただけだと思えば……」 ぐすぐすと泣きじゃくるケイに、イツキは優しく、 「何も得ないままで帰るんですか? それでいいんですか…?」 「だって……」 「僕の力でよければ、持って行ってください。それで…あなたの役に立てるなら」 にっこりと微笑んで言ったイツキに、ケイは驚いて、 「そんなことしたら、お前は…」 「困りませんよ。どうせ、あってもろくに使わない力なんですし、力がなくなれば、狙われることもなくなるでしょうし」 「本当に……?」 「ええ、本当です」 ケイはしばらく迷っていたが、やがて意を決したのか、 「じゃあ…もらう、な。ありがとう」 と言ってイツキに近づいた。 その体が触れ合うほどに近づいたかと思うと、ケイはそっとイツキに口付けていた。 「ありがとう」 嬉しそうにケイは笑って、イツキの手を取った。 「お前に何かあったら俺を呼んでくれ。絶対に助けに来るから」 そう約束して、ケイは再びイツキから離れる。 その向かう先には、大きな黒い扉が現れた。 それが魔界へと続くものなのだろう。 「……イツキ、」 扉の向こうに足を踏み出しながらケイは振り返った。 そこに浮かんでいるのは、切ない笑み。 「…大好き」 それに対して、イツキはどう返事をしたのだろうか。 画面に映し出されたのはイツキの目元だけだった。 声もなければ、唇の形でそれを知ることも出来ない。 ただ、酷く切ない表情をしているのだけは分かった。 ケイは泣きそうな顔で微笑んで、その場を去った。 流れ出したエンディング曲は随分としっとりした音楽だった。 ヒロインのへったくそな歌を補って余りあるような力作だ。 俺はげっそりと疲れ果てていた。 「……なんだこれ」 「僕とあなたのラブストーリーですね」 にこにこと嬉しそうに言った古泉は、疲れた俺の頭を引き寄せ、半ば強引に肩を貸してくれる。 「恥かしいなんてもんじゃないだろ…。大体、超能力をなくしちまってよかったのか?」 「そこはそれ、我等が超監督のことですから、何かうまくするのではないでしょうか?」 「…いっそこれで終ってくれた方がこっちとしては楽なんだがな」 「それにしても、嬉しかったです」 と古泉が言うから俺は眉を寄せ、 「何がだ」 と問う。 古泉は悪戯っぽく笑って、 「あなたの銀幕デビューを飾る作品で、相手役を務めるのが僕であって、嬉しいですよ。本当にお仕事だったなら、そんなことは出来ずに、他の誰かがあなたとの恋愛沙汰を演じる姿を歯噛みしながら観るしかなかったでしょうからね」 「…あほか」 そんな話が来るとは思えんし、 「来たって断ってやるさ」 「ありがとうございます」 幸せそうに呟いて、古泉は俺の頬に口付けた。 |