エロです
披露宴だなんだと何度も着替えさせられ、飲み食いやら挨拶やらでくたびれはてた俺が、どさりと倒れこんだのは自室のベッドでもなければ古泉のベッドでもなかった。 テレビや映画でもなければ見たことがないようなキラキラしい、しかしながら上品な部屋の、大きく広々としたベッドはスプリングも効いていて、そのくせ柔らかく体を抱きとめてくれた。 「大丈夫ですか?」 と声を掛けてくれたのは当然古泉で、俺はああとかうんとか生返事を返しながら、なんとか起き上がった。 「シャワー……せめて化粧落としてくる……」 「手伝いますよ?」 「断る」 とこれはきっぱりと言わせてもらう。 化粧なんてそれこそ、こうして女の子に見えなくもないようにしてくれる魔法の最たるものをまじまじと見られて堪るか。 「今更だと思うんですけどね」 苦笑しながらも古泉は許してくれる。 「気をつけてくださいよ」 と言って見送ってくれたので、俺は大人しくそのままバスルームに行こうとして、足を止めた。 「どうしたんです?」 首を傾げる古泉を振り返り、 「……これ、一人じゃ脱げないんだ。…脱がせてくれるか?」 何しろ着せられたドレスは背中をばっちりカバーしている分、小さなホックやボタンでいっぱいで、とてもじゃないが一人じゃ脱げない。 実はその下にはコルセットまで付けられてるので尚更だ。 古泉だってそれは分かるだろうに、 「え…」 と軽く目を見張り、 「いいんですか?」 とまで聞いてくる。 「脱がせてくれなきゃ困るんだって」 「…じゃあ、失礼して……」 近づいてきた古泉がそろりと手を伸ばして、俺の首筋に触れる。 ホックやボタンなんかをひとつひとつ丁寧に外し、俺の拘束を解いてくれる。 「はぁ……好き好んで着てても苦しいのは変わらないんだよな」 そう呟いた俺に、 「そうなんですか? 少しも苦しそうに見えませんでしたけど……」 「ばか、そんなもん顔に出せるか。女の意地ってもんがある」 冗談めかして呟けば、古泉は柔らかく微笑んで、 「頑張っているあなたは本当に綺麗で美しいですよ」 などと褒めてくれる。 それがくすぐったくも嬉しくて、ドレスを床に落としながら、 「もっと」 とねだれば、 「綺麗ですよ。…今日のあなたは特に」 と耳元で囁いて、熱い指先がうなじに触れた。 「んっ……」 「どうしました?」 「や……なんか……。あれ…? 何でお前の指…そんな、熱いんだ…?」 「体温が高くなってるからでしょうか」 にこやかに言いながら、その指は悪戯に首筋をなぞり、俺の体を震わせる。 「ゃ…あっ……、ん…くすぐったいだろ……」 「くすぐったい、なんて声には聞こえませんけどね」 面白がるように言ったその指が、きついコルセットの上から背中をたどり、胸元を撫で上げる。 「古泉……っ…」 「気になってたんですけど……予行練習とはいえ、結婚式も挙げたのに、どうしてまだ名字で呼ぶんです?」 「…え……?」 「一樹、とは呼んでくれないんですか?」 「なっ、え、あ……それは…」 そりゃ、俺だって変だろうとは思っていた。 付き合ってもう随分になるのに、ずっと古泉と呼ぶのもおかしいだろうと思って、変えようと思ったこともある。 それでも、いざやろうとすると出来ないのだ。 「……恥かしいんだよ…」 「恥かしい…ですか?」 こくりと頷いた俺を、古泉は背後から抱き締めた。 「本当に、可愛いんですから」 「っ…」 「もっと恥かしいことならいくらだってしてるのに、名前で呼ぶのが恥かしいんですか?」 「しょ、うがない…だろ……。そんなことしたら、心臓だって止まりかねん……」 「それは困りましたね」 くすくすと笑って、古泉はコルセットのコードを解き始める。 「古泉…っ……ちょ……」 「…愛してますよ」 そう囁いて、耳に口付け、小さく俺の名前を呼んだ。 それだけでぞくんと体が震えて熱くなる。 「や…っ、待てって……! まだ、化粧も落としてない……」 「少しくらい…」 「よくないって! 肌によくないんだから落とさせろ!」 「そんなこと言って……あなただって、こんなに熱くなってるじゃないですか」 薄い下着越しに、昂ぶりかけたものを押さえつけられ、びくりと体が竦む。 「うぁ……、も、やだぁ……」 「泣かないで…」 ちゅ、と柔らかなリップ音を立てて、古泉が俺の頬に口付ける。 宥めるように何度も、優しく。 「たとえそれで少々肌が荒れたとしても、あなたの美しさにはかすかな瑕疵がつく程度でしかないと思いますよ」 「あほか…っ! や、だ……待てって…古泉……」 「一樹、でしょう?」 いつの間にか緩められたコルセットがドレスの上に落とされる。 露わになった肌の上を、熱い手のひらが辿る。 「ふっ……ん、あ…!」 「…可愛い」 低く囁いた声にも体を震わせる。 それだけで腰が砕けそうになる。 「や……」 「大丈夫ですか?」 親切めかして囁いて、古泉は俺の体を抱き上げた。 「ぅあ!?」 「ほらもうふらふらしてますから、シャワーなんて浴びるのは危ないですよ」 「誰のせいだよ……!」 と唸っても堪えやしねえ。 「僕のせいですよね。責任はきちんと取りますよ」 そう言って俺をベッドに下ろした古泉は、そのまま俺に覆い被さってくる。 「もう…っ、ばか……!」 最後の抵抗とばかりに罵ったが、もはや本当に抗う力なんかない。 煽られたせいだけでなく、俺だって元々古泉が欲しくて仕方なかったんだ。 これ以上抵抗なんて出来るはずがない。 「愛してます」 もう一度囁いた唇が俺のそれに重ねられる。 「ん……ふ…ぅぁ……」 深い口付けは苦しいほどだってのに、気持ちよさと心地好さに包まれる。 慣れ親しんだ感触もやり方も全部愛しい。 俺は自分から手を伸ばして古泉を抱き締め、もっと深くて長いそれを求める。 指先以上に熱い舌に、どろどろに融かされる。 喘ぎ声を漏らす隙間もないほど唇を合わせ、くぐもった吐息が鼻から抜ける。 その間も忙しなく俺の体をまさぐる古泉の手の熱さが、性急な動きが、余裕のなさを伝えてくれる。 それが嬉しいし、愛しい。 がっつきすぎだと笑ってやりたいが、それも出来ないほど俺も欲していた。 皆に祝福されて、綺麗なドレスを着て、何より将来を誓い合って、これ以上の幸せはないと思うのに、これ以上幸せになる方法を知っている体が勝手に求め始める。 「はっ……ぅ…ん……」 離れた唇の間からは吐息とも喘ぎともつかないものが漏れるだけだ。 言葉も要らない。 話すのに使うエネルギーすら惜しいほど、一つのことに集中する。 早く、と膝を立て、足を開いて誘えば、前に絡みついていた手が滑り、そこに触れてくる。 唇から離れた古泉の舌は、真っ赤になった胸を弄んでいたはずだと言うのに、いつの間にか滑り降りていた。 俺の両脚を肩に担ぐようにして上げ、腰を浮かせた状態で、シャワーも浴びていない汗ばんだ体を遠慮なく這うそれに、ぞくぞくと体が震えた。 背徳感に裏打ちされた快楽に囚われる。 だが、それはただ気持ちいいからする訳じゃない。 好きだから、したいからするんだ。 たとえこれが痛いだけの行為だったとしても、俺は躊躇わずにこの身体を差し出しただろう。 逆でもきっと同じだ。 「あっ…あぁっ………ふ…っ」 声を上げて、体を震わせて、きつくシーツを掴む。 いつもより荒っぽく中を探る舌は、本当にただそこを解きほぐしたいだけのように動き回る。 およそ一週間ぶりとはいえ、それだけできつくなるなんてことはないと思うのだが、荒っぽいくせに念入りに解されて、その度に走る快感をやり過ごそうと強張る体が汗を滴らせる。 普段ならもっと饒舌なはずの古泉がろくに喋りもしないほど、余裕をなくして求めてくれるのが嬉しい。 無理に体を曲げて見た古泉の顔は、いつになく精悍で、そのくせ獣染みて見えた。 汗まみれでもかっこいいってどうなんだ。 俺は笑って手を伸ばす。 抱き締めたい。 体を重ね合わせたい。 望むままに体の中を熱が焼いていく。 「っあ…っ、は、ぁあ……!!」 大きく跳ねる体を押さえつけるように、最奥を貫かれる。 激しい抽挿に体を跳ねさせながらも、痛みよりも快感を拾う。 嬉しくて、気持ちよくて、体が浮き上がるようにすら感じた。 吐き出された熱に奥の奥まで焼き尽くされて、俺も同じものを腹の上に吐き出したが、古泉は体を離したりはせず、そのまま抱き締めてくれた。 暖かくて、気持ちよくて、落ち着く。 古泉もようやく落ち着いたのか、 「大丈夫ですか…?」 と聞いてきたが、 「当たり前だろ…」 初めてじゃないんだからと思いはするが、言わないでおこう。 「……名前で呼ぶのは、本当に結婚してからでいいよな?」 と囁いて、口付ける。 「楽しみにしてますね」 そう笑った古泉に、俺も笑みを返した。 |