一応エロですよー



















































耽溺



台の物を前に、隣り合わせに座り、肩を寄せ合う。
そうして、頬をすり寄せるように顔を近づけて、そっと杯に酒を注ぐ。
古泉は言うまでもなく上機嫌で、
「あなたと一日中一緒にいられて嬉しいです」
「俺はかなりの時間寝てたと思うが?」
「それでも、あなたの側にいられて嬉しいんですよ」
と微笑む古泉に軽く抱きつきながら、
「俺は、お前に好きだって言えるのが嬉しい」
と囁き返す。
「可愛いことを言ってくださいますね」
微笑した古泉の、柔らかな曲線を描く唇が、俺のそれに重ねられる。
「…ん……酒臭い……」
「あなたも飲んだら平気ですよ」
ほら、と古泉は口に酒を含み、そのまま口付けてくる。
そろりと開かれた唇の隙間から流し込まれる酒は、酷く甘い。
「…酒は辛口の方が好きなはずだったんだが……」
「辛くありませんか? これくらいでは物足りないとか?」
「いや……」
俺はするりと古泉の唇を撫で、
「…お前といたら、どんな酒だって甘くなるだろ」
「おや、そうでしたか」
くすっと笑って、古泉は俺にもう一度酒を飲ませてくる。
唇から溢れたそれが、つっとあごを伝うのを、そろりと舐める舌が熱くて、ぞくりとした。
「ん……っ、くすぐったいだろ…」
「つい…どうしても、ね」
悪戯っぽく囁きながら、古泉は俺に口付けてくる。
「ふ……、ちょ……っと、待てって……。まだ、飯食ってない……」
「ああ、すみません。お腹が空いてるんでしたよね」
詫びるように言いながらも、古泉は俺を離そうとはせず、むしろ引き寄せて膝の上に乗せた。
「古泉?」
「僕が食べさせますから、口をあけて…?」
「…子供じゃないぞ」
「僕がしたいんですよ」
にっこり笑って俺の文句を封じた古泉は、箸でつまんだ天ぷらを口元に持ってくる。
「…全く……」
苦笑しながらも嫌じゃないからと口を開けば、それを口の中に落とされる。
「食べて少し休んだら……ね…?」
「ばか…」
少しは嫌がってるつもりなのに、声を聞くとちらともそうは思えないのが不思議だ。
「……早く食っちまうには、この体勢は不適切だと思わんか?」
低く囁けば、古泉はにやりと笑って、
「そうですね。…でも、時間はたっぷりあるんです。食事を楽しむ余裕があってもいいでしょう?」
と言いやがった。
ああくそ、開き直るしかないのか。
ハルヒなんかに見られないことを願いながら、俺は古泉の着物にしがみつき、体勢を整える。
そうしておいて、
「…今度は、豆が食いたい」
とねだると、
「こちらの豆ならいいですよ。他のは許せませんけど」
なんてさり気なく際どいネタを返しながら、口元に煮豆を持ってこられる。
「…食い物の豆以外に興味があるわけないだろ。……お前がいるんだから」
馬鹿だろ、と呟けば、古泉はくすくす笑いながら俺の頬を撫で、
「僕もです。あなたがいてくれたら…」
「それは俺が見てないところじゃ浮気するぞって宣言か?」
と意地の悪いことを言ってやると、古泉はじっと俺を見つめて、
「それは…妬いてくれるってことですか? 浮気だと言って咎めてくれる、と?」
「……さてね」
はぐらかそうとした俺の目を見つめて、古泉は柔らかく微笑する。
「そうしてくださると嬉しいです」
「……だからそれはするって宣言なのか?」
「いいえ、そんなことしませんよ。あなた以外の人なんて、要りません」
「…そうは言っても難しいだろ。お前は大店の若主人なんだから」
「難しくても、不可能ではありませんから」
なんでもないことのようにそう言った古泉は、
「だから、信じてください」
と俺に口付ける。
「ん…、信じてやる」
信じたい、とは不思議と思わなかった。
自然と信じていたとでも言おうか。
疑う気すら湧かない。
古泉がこう言ってくれたならきっとその通りになるんだろうと確信めいたものさえ抱いた。
「…ああもう、早く食うぞ」
俺は料理ののった皿をひとつ取り上げてねだる。
「食って、早く寝ちまおう」
そう囁く俺に、古泉は嬉しそうに、
「ええ、そうしましょう」
と返した。
食事をして、空になった器なんかを手早く部屋から運び出す。
前ならそのついでに階段裏だの部屋の隅だの人目につかないところでちょっと泣くかどうかしてから、意を決して部屋に戻ってたってのに、今日は違うかと思うと余計に嬉しい。
勿論、別の覚悟は要るわけだが。
そろりと襖を開き、部屋の中に滑り込むと、灯りはほとんど消され、残っているのは寝間の行灯がひとつきりだ。
古泉は布団を整えて待っていてくれたらしい。
「お帰りなさい」
と優しく声を掛けてくる。
「ただいま」
なにやらくすぐったい気持ちになりながらそう返し、古泉に歩み寄ると、そのまま抱き寄せられ、布団に引き込まれた。
「ん…っ……せっかちだな…。休んでからとか言ってなかったか?」
「布団の中で休んでもいいでしょう? …あなたのこの冷えた足を少しでも暖めてあげたくて」
この街の決まり文句めいたものを冗談めかして呟きながら、古泉が俺の脚を撫で上げてくる。
「ちょ…っ、ん、やぁ……」
くすぐったいというより、何か違ったものがぞくりと這い登ってくる。
「可愛い声を上げてくれますね」
愉快そうに指摘した古泉を恨めしく睨んでも無駄らしい。
「もっとですか?」
「ばか……っ…」
冷えた足裏ばかりか、指先までやわやわと揉みしだくように撫で回した手が、じわじわと上ってくる。
もどかしいほどゆっくりした動きと、むず痒くなるほど柔らかな触れ方に熱を煽られる。
「は…っ、ぁ、あう……」
それをなんとか紛らわそうと古泉の着物にしがみつけば、優しく頭を撫でられる。
「んゃ……っ…、くすぐったいって……」
「気持ちいいんでしょう?」
「ん……」
こくりと頷くと、古泉は嬉しそうに笑った。
「もっと乱れていいんですよ」
「…じゃあ、乱れさせればいいだろ」
毒づきながら脚を動かし、古泉の体に絡める。
「喜んで」
と微笑した古泉が内腿に手を滑らせる。
「ひゃ…っ、ぁ……んん…」
「痛みはありません…?」
確かめるように窄まりをなぞられて、ぞくぞくと体が震えて、ああもう、だめだな。
「ない…、から…っあ…、責任、取れ、ばかぁ…!」
「はい?」
きょとんとした顔で首を傾げる古泉の首に腕を絡め、きつく睨む。
「一晩で、こんな、堪らなく欲しくなるって、どうなんだ…。絶対お前のせいだからな。責任取れよ」
「…それはもう勿論」
幸せそうに笑った古泉が、やわやわとそこをほぐし始める。
「ふぁっ、あっ…古泉……っ…」
「せっかち過ぎます?」
揚げ足を取るようなことを言っておいて、古泉は優しく俺の口を吸う。
くちゅくちゅと音がするほどに舌を絡めておいて、
「そうだ」
と呟いた古泉は俺を離した。
「ちょ…っ……」
どこに行くんだ、と慌てる俺に、
「どこにも行きませんよ」
と返しておいて、古泉は自分の荷物をがさがさと探り、中から蛤の殻を取り出した。
「…薬、か?」
「その通りです」
そう答えた古泉は殻を開き、中にぬりこめてあった白っぽい膏薬を示した。
「傷薬です。と言っても、極弱いものですけどね」
「…どうするつもりだ?」
「それは勿論、治療を兼ねて、」
にこりと笑ってその先は濁しやがった。
まあ、予想はつくがな。
「高いんじゃないのか?」
「そうでもありませんから、お気になさらず。使わないまま捨てることもある程度のものですし」
それはそれで勿体無い話だな。
苦笑しながら俺は布団を肌蹴させ、軽く脚を開く。
「これくらいでいいか…?」
と聞けば、
「もう少し開いてもらえます?」
「…調子に乗りやがって……」
唸りながらもその通りにしてやるのはなんなんだろうな。
ひやりとした物が触れて、そのまま指が押し入れられる。
「んふ……っ…ぁ……」
ろくな抵抗がないのは軟膏のせいという訳でもないような気がしながらも、喜んでそれを受け入れる。
「柔らかくて熱くて気持ちいいですね」
と囁きながら、古泉が指を動かしてくる。
弱いところを狙う動きに、びくりと体が跳ねる。
「ひゃっ、あん…っ、古泉……っ!」
「はい」
律儀に返事はするくせに、指は遠慮なくそこをえぐり続ける。
「や…、ん、ふぁあ……!」
噎び泣くような声を上げながら布団を握り締めれば、
「僕がいますよ」
なんて言葉と共に伸し掛かられる。
近づいた体を抱き締め、口付ける。
痛みそうなほどきつく抱き締めても、古泉は嬉しそうに笑う。
「んっ…は…、く、ぅん……っ!」
過ぎる快感をやり過ごそうとすると勝手に体に力が入り、脚の間にある体を締め付けてしまう。
「ほら、脚を閉じたら奥まで届きませんよ?」
「お前こそ…っ、そこばっか、してたって、入らんぞ…」
怨みがましく呟けば、古泉は口の端を上げるような笑い方をして、
「こうしてるだけでも、気持ちがいいものですよ。あなたの中は触り心地もよくて、暖かくて、素敵ですね…」
「あ、ほかぁ…っ!」
戯言にしても過ぎる、と眉を逆立てても、古泉は怯まない。
「…あなたが好きです」
思い出したように囁いたばかりか、その後も古泉は思う様俺を翻弄してくれたのだった。
ぐったりと疲れながらも、その疲れがどうにも快くていかん、と思いながら、今度こそゆっくりと布団に横たわり、古泉の腕枕を借りてぼんやりと天井を見上げた。
「……一日あなたの側にいられて、とても嬉しかったです」
ぽそりと古泉は吐き出した。
「…あなたが好きです」
そう言って優しく抱き締めてくれる。
俺は気だるさの残る手を動かして、古泉の頬に触れる。
「俺も…好きだ」
「あなたのそばにずっといたい…」
そう言ってくれるのは嬉しいが、
「……明日はちゃんと帰れよ」
「やっぱり、これ以上の居続けはだめですか?」
しょんぼりと呟く古泉にも俺は厳しく、
「当たり前だろ。……お前が来るのを待ってるのも、結構楽しいんだ。だから、ちゃんと帰って仕事をしろ。それで…疲れたり休みたくなったら、俺のところに帰って来い」
「あなたに会いたいから、帰りますよ」
そう告げて、古泉は寂しそうに天井を見上げた。
その横顔を見つめながら、
「…帰ったら、森さんによろしく伝えてくれ」
と言ってやると、古泉は心底驚いた様子で、
「え!? ど、どういうことですか? どうしてあなたが森さんを知って……」
「それは森さんに聞けばいいだろ。…まあ、俺があの人の世話になったというか……お前が思ってるより、お前はいろんな人に心配されてるし、愛されてるってことなんだろ」
小さく笑った俺に、古泉はまだ信じられないという顔をする。
「そんな……あの人が……?」
「…お前があの人についてどう思ってるかは知らんが、俺の目にはあの人はお前の姉さんか何かみたいに見えたぞ。放任かと思ったら、少しばかりお節介なくらい、お前のことを心配してるし、愛してくれてて…」
実は、と声を潜めて、
「…少し、心配にもなった」
「え?」
「森さんもお前を好きだったら、もっと大変だっただろうな」
くすくすと笑った俺に、古泉はありえないと笑う。
「ないですよ、そんなこと」
「ん、それには感謝だな」
「……ちゃんと、話してみます」
約束するように呟いた古泉に頷いて、
「次はその報告を持って来いよ」
と言ってやった。