ソフトSMって感じです
当然のようにエロですのでご注意ください
しかし温いです
ごめんなさい←局地的に





































ロープ



「ん……そこ…通して……」
あまり柔らかく出来ていない体に無理をいわせながら首をめぐらせ、指示してやると、古泉がまだ迷いの滲む目を俺に向けながらため息を吐いた。
「やめま…」
「せん」
ここまで来て止められるか。
古泉の言葉を遮り、かつ、打ち消してやると、古泉はほとほと困り果てたような顔をしたが、
「ほら、早くしろよ…」
と唸るように言ってやると、古泉がゆるゆると手を動かし、赤い綿ロープを指示した場所に通した。
「そう、そうしたらさっき通した、そうそこだ、そこで結んで…」
おそらく十回を越しただろうため息をまた吐き出し、古泉は黙ったまま俺の指示に従って、ロープを結んだ。
「ほい、完成。似合うか?」
「……似合わないわけじゃありませんけど、普通の格好でもあなたは十分素敵だと思いますよ」
ぐったりと疲れきった様子でそう言った古泉に俺は顔をしかめ、
「なんだ、せっかくやらせてやったのに、嫌だったのか」
「嫌だということも止めたいということも、繰り返し何度も言いましたよ」
はぁ…と古泉はため息を吐く。
そんなにため息ばかり吐いてどうする。
「ええ、ため息を吐いたところでどうしようもないということは分かっています。でも、もう、ため息くらいしか出てきませんよ。別にSMの趣味があるわけでもないのに、どうして好きな人を縛り上げなきゃいけないんです」
「お前も見たかったんじゃなかったのか?」
前に俺が、今みたいに亀甲縛りで縛られたことがあるって言ったら悔しそうな顔してたじゃないか。
「あれは……」
と古泉は言葉を詰まらせ、顔を背けた。
「あれは? なんだよ」
「…なんでもありません」
拗ねたように言う古泉に、俺は眉を寄せ、
「言えよ」
縛られてると胸倉を掴んでやったり出来ないのが難点だな。
オプションとして手も一緒に縛らせたんだが、止めといた方がよかったか。
「言いたくありません」
「言えって言ってんだろ。言わなきゃまた前みたいにお前を縛った上に、今度こそ泣いて懇願するまで焦らしまくるぞ」
「なっ…、どっ……どういう脅しですかそれは!!」
どういうも何もそのまんまだろ。
この前はつい絆されて途中で手を抜いちまったが、あれは我ながら堪え性がなかったと後で反省したんでな。
まあ、
「それが嫌ならさっさと白状しろ。何であの時あんな悔しそうな顔してたんだ?」
「……だって、」
と古泉は唇を尖らせながら、
「あなたは僕が知らないいろんなことを知っているんだなと思うと、なんだか悔しくなったんですよ。あなたが様々なことを経験していることも」
「…だからお前に教えてやれるんだろ」
そう言いながらも、呆れた声は出なかった。
古泉のそんな、いささか幼いと思えなくもない独占欲が、くすぐったいほどに嬉しかったからだ。
「お前と初めてすることもたくさんあるんだから、そう拗ねるな」
「拗ねてなんかいません」
そうかい。
まあそれくらいの嫉妬なら可愛いもんだ。
思わず声を立てて笑うと、
「なんですか」
と古泉が俺を睨んできた。
「別に」
と返した俺は、
「古泉、キスしてくれ。見ての通り、俺は動けないんだから」
「……っ、もう、あなたって人は…!」
怒ったように顔を赤くした古泉は、頭突きでも食らわすような勢いで顔を近づけてきたくせに、やけに優しく甘ったるいキスを寄越したのだった。

動きを封じられたまま、うつ伏せにしてもらい、腰を高く上げる。
見た目だけなら、俺が古泉に無体をされているようにしか見えないのだろうが、実際のところはまったくと言っていいほど逆なのだから愉快なことこの上ない。
ロープが擦れてかすかな音を立てるのを聞きながら、
「古泉…っ、ローション、なくて、いいから……」
「痛いのが好きだとでも仰るつもりですか? たとえそれが嘘じゃなかったとしても、流石に聞けませんよ」
呆れた声で返す古泉に、軽く舌打ちすると、古泉がため息をつくのが聞こえた。
俺としては、出来ませんと泣いて懇願する古泉が見たかったのだが、そうあっさり返されると詰まらんな。
次はどうしようか、と考えていると、ローションをまとった指が侵入してくる感覚に喉が小さく鳴った。
「まるで猫みたいですね」
小さく笑った古泉の空いている手が、俺の頭を撫でる。
「猫が好きか?」
「そうですね…。特に好きというわけでもありませんが、嫌いではないですよ?」
「そうか」
じゃあ今度猫尻尾付きのプラグでも買ってみようか、などと考えていると、古泉が嫌な予感でも感じたのか、
「あの、何を考えているんです?」
「いや、ちょっとな」
道具の購入予定を、とは答えかねる。
言ったが最後止められそうだからな。
「…なんだか分かりませんけど、あまり奇抜なことはやめてくださいね。正直、今日のこれだけでも僕は限界です」
……言わなくても止められるのか。
仕方ない。
なら、とりあえずやめておいてやろう。
「古泉、お前は何かしたいこととかないのか?」
「それは……どう言う意味でしょうか?」
「こういう意味でに決まってるだろ」
流石にこの状況で将来の話とかは出来ん。
「……僕としては、良識的な範囲内のプレイでいいんですけどね」
そう言った古泉の指がイイところを突き、
「んあっ…」
と俺は声を立てた。
「遠慮、しなくても、いいんだぞ…? 俺の方が、よっぽどワガママ、言ってん、だし…っふ…く……」
「遠慮なんてしてませんよ。どうしてそこまで気にするんです? 僕が不満に思うとでも思ってるんですか?」
……なんと言えばいいんだろうな。
俺としては、古泉をもっと悦ばせてやりたいと思っているだけであり、そのためなら何をしたっていいというだけなのだ。
しかし、こういう方向に話を持っていってしまうのはおそらく、俺がそういう風にすることしか知らないせいなんだろうな。
俺が古泉より前に付き合った相手といえば、俺より年上で、良くも悪くも俺よりも物を知っていたから、一風変わったことを教えられたりすることもあったし、そうやって興奮を煽るのが普通だった気がする。
古泉とは、興奮を煽る必要なんてないくらい、古泉に触れたり、キスをするだけで体が熱くなるんだから、オプションなんてものは全く必要ないのかもしれないが、それでも足りないと思ってしまうのは、やっぱり、俺がどうしても引け目を感じてしまうからだろうか。
古泉とのことは、誰にも言えない。
古泉の部屋に何か俺の痕跡を残すことも出来ない。
好きだという感情も、口にしたり体を繋げることでしか伝えられない以上、後に何かを残すこともほとんどない。
「…ああ、そうか」
気がついて、俺は思わず呟いた。
「いきなりどうしたんですか?」
首を傾げる古泉に、
「いや、ちょっとな」
と返す。
どうしてこんな風にロープを使って縛らせたりするのか、その理由が分かっただけだ。
俺は、古泉に独占されたいだけなんだ。
ほんの短い間だけでも。
ついでに古泉の、泣き顔や恥ずかしがる顔など、普段は見せないような表情を見ることでも出来れば御の字だと思うくらいに、俺はこいつに惚れこんでいるらしい。
苦笑した俺に、古泉は軽く眉を寄せて、
「気になるんですけど、教えてくれませんか?」
「気にすることじゃないって。……お前が好きってだけだから」
ぽかんとした古泉が、次の瞬間には嬉しそうに笑う。
その表情も好きだと思いながら、俺は古泉に、
「もう縄を切っていいぞ」
「いいんですか?」
「そうしたいんだろ?」
「ええ」
サイドボードに置いてあったはさみへ古泉が手を伸ばすのを見ながら、俺は小さく笑う。
やっぱり抱き合えなきゃ嫌だな、と小さく呟いたことは、古泉に気付かれてないといいと願ったんだが、どうやら聞こえちまったらしい。
「やっぱり、あなたもそう思うでしょう?」
と満面の笑みで振り向かれた。
「僕は、あなたに触れられて、こうして抱き合えるだけでもとても幸せなんですから、無理しないでください」
「……ああ」
子供みたいに笑う古泉に、俺も笑みを零す。
「あなたの笑顔が好きです」
言いながら縄を切って解いた古泉が、俺の体を抱きしめる。
「やっぱり、痕になってますね。僕がうまく出来なかったから……」
しゅんと肩を落とす古泉に、俺は出来るだけ熱っぽく、
「じゃあ、責任とって赤くなってるところ全部、お前が舐めて治してくれ」
と囁くと、古泉が困ったように笑いながら頷いた。
その唇が、俺の首筋に触れる。
手首にも、胸にも、丹念にその舌が触れる。
軽い擦過傷になっている部分に舌を這わされるとちりりとしたかすかな痛みが走ったが、それすらも快感に変換されるのは、相手が古泉だからに違いない。
「あっ……古泉、早く、もういいから、くれ…っ」
恥ずかしげもなくねだると、
「だめですよ、まだ全部舐め終わってません」
からかうように小さく笑った古泉の舌が、腿の付け根と言うよりもむしろ会陰と呼んだ方がいい場所をねっとりと舐め上げると、中途半端に性感を煽られたままだった部分が助けを請うようにぶるりと震えた。
古泉のくせに焦らしプレイとは生意気だ。
腹いせに軽く髪の毛を引っ張ってやると、
「っ、痛いですよ」
と睨まれた。
「俺はお前よりよっぽど苦しんでんだからそれくらい思い知れ」
「そんなに欲しいですか?」
欲しくなけりゃ言うか。
「そうですね」
「というかお前、縄解いてからの方がよっぽと鬼畜臭いのはなんでだ」
「……そうですか?」
きょとんと首を傾げるところを見ているとそうは思えんがな。
「それは多分、」
と古泉は俺の腰に両腕を回し、俺を抱きしめながら言った。
「不慣れなSMまがいの行為よりも、こっちの方がよっぽど嬉しくて、楽しめるからだと思いますよ」
「……そういうもんか?」
「それに、あんな状況ではただでさえ乏しい余裕がさらになくなりますからね」
余裕がなくなってるんなら、もっと直情的になったっていいだろうに。
俺はそっとため息を吐きながら、
「俺に襲われるのが嫌なら、俺が襲おうと思うこともなくなるくらい、お前から仕掛けろよ」
精一杯の譲歩のつもりでそう言ったのだが、古泉は笑顔のまましばらくその表情を凍らせると、
「無理言わないでください」
と断言しやがった。

それじゃあまるで俺が色情魔かなにかのようじゃないか。