微エロ?
……多分微エロです
でもやや変態プレイなのでお気をつけくださいませ





























割れ鍋に閉じ蓋



金曜の夜、俺は陰鬱な空気を背負って古泉の部屋を訪れた。
古泉の部屋を訪れるということは即ち、恋人との逢瀬の時間なわけだから、本来なら足取りだってもう少し軽くていいはずだ。
それなのに俺がどうして暗い気分になるかというと、手元にある紙袋が原因だった。
見るからに怪しいその袋は持つ人間の心情など欠片も理解しない物だった。
どこかで見たような、いかにもという感じのアニメキャラが営業スマイルを振りまいていやがる。
袋に空気を読めとは言わないが、渡した奴には思いっきり言ってやった。
そんなことを言ったところで、俺よりおそらく十歳以上は年上のあの人は気にもせず、
「暗いから分かんないだろー」
と笑っていたが。
どうして俺の周辺にいる、またはいた人間ってのはどいつもこいつも人の話を聞いてくれないんだ?
これが原因で古泉と別れる破目になったりしたら、自分の喉をつく前にあの人を社会的にぶち殺してやる。
俺はため息を吐きながら、古泉の部屋のドアを開けた。
「古泉ー邪魔するぞー」
「はい、どうぞ」
ひょこっと顔を出した古泉は、俺を見て首を傾げると、
「何かあったんですか? 元気がないようですけど……」
「ああ、ちょっとな」
ソファに座った古泉の隣りに座ろうと思ったのだが、気が変わった。
俺はよいしょ、と古泉の上に腰を下ろした。
「珍しいですね。あなたがこんな風にして甘えてくるなんて」
「文句でもあるのか?」
「いえ、文句だなんてそんな…」
「というか、」
俺は眉を寄せながら、古泉と向き合うように体を反転させ、
「俺がお前の上に乗るのなんて別に珍しくもなんともな…」
「うわわわわ! い、いきなり何を言い出すんですかあなたは!」
狙い通り真っ赤になった古泉が可愛い。
俺はにやっと笑いながら、
「事実だろ。入れただけでイったこともあるくせに」
と言ってやった。
このままどうにかしてやろうか。
そう俺が考えているのを見抜いたのだろうか、古泉は怪訝そうに、
「本当に、今日は少しおかしいですよ。うちに来るのも遅くなったみたいですし……。何かあったんでしょう?」
「…別に」
「嘘を吐かないでください」
そう言いながら、苦しそうな悲しそうな顔をするのはずるいと思う。
こっちが物凄く悪いことをしているような気分になるのだが、これが年下の特権と言うものだろうか。
「僕にどうにか出来ることじゃないから黙っているのかもしれませんけど、それでも、あなたがそんな風に抱え込んで苦しむのは見たくありません。お願いですから、教えてください」
……真剣な顔で言われると余計に言い出し辛いんだが、こうなったら逃げられないんだろうな。
俺は深く深くため息を吐くと、
「……引くなよ。あと、逃げるな」
「はい」
「…それと、先に言っておくが、俺の趣味ではないからな」
ああ、断じて俺の趣味ではない。
「はい?」
首を傾げる古泉の前に、俺は紙袋を引っ張り出した。
「…えぇと……」
「何も言うな」
せめて中身を見てからコメントしろ。
俺はげんなりしながら中身を引きずり出し、床にばら撒く。
ピンクのスカート。
装飾的な意味しか持たないガーターベルト。
猫耳。
それとは別に、ベージュのブレザーと暖色系のチェックのスカート、白いシャツと緑のネクタイなんかもある。
沈黙している古泉に、俺は言った。
「……俺だってな、単純にバニーだとかメイド服だとかならまだ、いいと思うんだ。そういうもので興奮する手合いがいることは認めるし、朝比奈さんが色々な衣装を着せられているのを見ると、華やかでいいとも思う。だがな、こういうのは許容範囲外だ」
版権物のコスプレなんて勘弁してくれ。
「あの……それじゃあなんで持ってらっしゃるんですか?」
「……貰ったんだ」
「…貰ったって、誰に……」
「……アニメグッズ販売店経営者…」
「…あなたって変なところで顔が広いんですよね。なんでまたそんな人に物を貰うんですか」
「それは……」
ここで俺が躊躇った理由は単純だ。
その経営者のおっさんが、昔の男だからである。
体の関係はほぼなかった。
…そりゃ、触るくらいはしたから、全くやましくないとは言いかねるんだが、それでも今現在どうってんじゃないんだから、言っても大丈夫だろうか。
俺が葛藤していると、古泉が小さくため息を吐いて、口を開いた。
「……もしかして、昔お付き合いをされてた人……ですか?」
その時の俺の気持ちを表すとしたら、庭で遊んでいるスズメを捕らえようと狙っていたところを背後から見知らぬ他人に抱え上げられた猫のような気持ちとでも言えば分かってもらえるだろうか。
予想外で、どうすればいいのか分からず、パニックに陥った。
青褪めて口をぱくつかせる俺に、古泉は意外にも笑った。
明るく、かつ優しく。
「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。…ただの、昔の男、なんでしょう? あなたがまだ未練を持っているとかなら僕だって怒るかどうかしたでしょうけど、そうじゃないんですよね? もしそうなら、あなたはかえって物を貰ったりはしないでしょうから」
言いながら、古泉が俺をそっと抱きしめる。
「あなたが今好きなのは、僕だけ、ですよね?」
…どうせなら、自信満々に言えよ。
声を震わせるな。
そんなだから俺の加虐心が煽られるんだろう。
俺は悪辣な笑みを浮かべると、
「違うな」
「え」
信じられないとばかりに凍りつく古泉の唇に、軽く口付け、
「愛してるのは、だろ」
「……もう」
拗ねたように、それでも嬉しそうに古泉は笑った。
「あなたって人は、本当に意地悪なんですね。僕をからかって、そんなに楽しいですか?」
楽しいとも。
「酷いですよ」
好きな子ほど、ってやつだから、諦めてくれ。
「そういうことを仰るんですか」
呆れたように言った古泉が、薄く笑った。
なんだか妙な予感がする。
「古泉?」
「…ねえ、それなら僕があなたをいじめても、文句は言えませんよね?」
ちょっと待て、何をするつもりだ。
「心配しなくても、あなたほど酷くはありませんよ。ええ、縄も道具も使いません。ただ、」
ただ?
「…その服、着てもらえませんか?」
「――古泉」
「はい?」
「その服というのは、お前が指差しているピンクのそれか」
「ええ」
なんでよりによってそっちなんだ。
制服タイプならまだマシだったのに。
「羞恥心を感じているあなたを見たいんですから、そちらの方が適切でしょう?」
笑顔で言うな、笑顔で。
「ねぇ、着てくれますよね?」
……その笑顔に、勝てないんだから。

「着替えてやったぞ」
不機嫌なのを隠しもしないで俺が言うと、振り向いた古泉は、
「か…」
と呟いたきり絶句した。
そんなに酷かったか?
しかし衣装を指定したのはお前だぞ。
俺がぎゅっと眉を顰めたところで、古泉がやっと続きを言った。
「可愛いです!」
「……」
アホだコイツ。
「お前、頭は大丈夫か?」
「あなたのことでいっぱいですけど、いたって正常だと思いますよ?」
いや、確実に何かに蝕まれてるな。
俺が呆れ返っている間に、古泉はソファから立ち上がり、俺を抱きしめた。
「本当に、可愛いですよ。特に猫耳が似合いますね。あなたのご友人に感謝すべきかもしれません」
「やめろ」
流石に鳥肌が立ちそうだ。
「どうしてです?」
「自分でも似合うとは思えんものを褒められたら、誰だって総毛立つだろう」
「似合いますよ。嘘じゃありません」
「……お前、目がおかしいんじゃないのか?」
「酷いですね。しかしながら、恋は盲目といいますからしょうがないのかも知れません」
…もういい、黙ってろ。
視線を伏せた俺の目に、床に放り出したままの服が見えた。
……着せてやれ。
「古泉!」
「うわっ!?」
タックルをするように、古泉をソファの上に押し倒す。
「な、なんですか!?」
「お前も着ろ」
「……え、えええ!?」
「着ろ。俺にだけ恥ずかしい格好をさせるのはフェアじゃないだろう」
「だからって、ちょ、待ってくださ…!」
「聞けん」
ぎゃーだかわーだか分からん古泉の声が響き渡った。
……出来上がった古泉については多くを語るまい。
言えることがあるとしたら簡単だ。
「…意外と似合わないな」
俺が呟くと、古泉は今にもしくしくと泣きだしそうな声で、
「き、着せるだけ着せておいて酷いですよ…」
だからと言って似合わんものを似合うという方が酷いだろう。
「それは、そうですけど…」
どうでもいいから、もう少ししゃきっとしろ。
茹でたほうれん草よりふにゃふにゃで情けないぞ。
「どういうたとえですか」
適当だ。
そんなもんにまで一々突っ込むんじゃない。
言いながら、俺はもう一度、古泉を押し倒した。
「こ、今度はなんですか!?」
「似合わんから脱がせてやろうと思っただけだ」
それでなんで押し倒す必要が…なんて古泉の言葉は無視だ。
脱いですることなんて決まりきってるだろう。
細かな模様の入ったボタンを外し、ブレザーの前を開き、ネクタイを引き抜く。
シャツを寛げてやったところで、古泉もいくらか調子を取り戻したらしい。
「なんだか、凄い光景ですよね」
とよく分からんことを呟いた。
「何が?」
「だって、女の子に押し倒されてるみたいじゃないですか」
……そういえば俺はまだあの間抜けな服装だったんだな。
先に脱ぐか。
「だめですよ。勿体無い。せっかく女の子みたいで可愛いのに」
そう笑った古泉に、俺は渋面を作った。
「…女にこんなもんはついてないぞ」
言いながら、熱くなってきたそこを古泉の膝へ押し当てると、小さな笑い声が返ってきた。
「そうですね。でも、十分女の子に見えますよ」
「というか、お前、女嫌いじゃなかったか?」
「女性は苦手ですよ。でも、あなたはあなたじゃないですか」
言いながら、古泉は俺の腰を引き寄せた。
自然に、俺は古泉の胸へと倒れこむ。
「…っあ、古泉……」
「あなた、腰を触られるのも好きですよね。胸も。でも今日は、我慢してください」
…なんだと?
思わず古泉を睨みつけると、柔らかい笑みを返された。
「この服、腰から上に手が入れられないんです」
「……まさか、脱がせずにするつもりか」
「いけませんか? この服は借り物じゃなくて貰い物なんでしょう?」
「それはそうだ、が…っ、ん…!」
スカートの中に入り込んできた手が、下着をずり下ろす。
「それに、あなたも我慢出来ないんじゃないですか? こんなにも、欲しそうにして…」
「は、…っあん……、こい、ずみ…」
「はい?」
「……あとで、…ふっ…! …おぼえ、てろ…」
絶対何か仕返ししてやる、と誓う俺に、古泉は妙に艶かしく微笑み、
「後で、ですね」
といわなくていいことを言いやがったのだった。