絵茶で調子に乗ってオネダリしたイラストに小話付けてみました
ネタ全開です
ネタ全開なのに勿体無いくらい素敵イラストです
やしろさん、
イラストを描いてくださったばかりか、
快い掲載許可及びキャスティング、ありがとうございました!www
女装ネタなので一応下げときます
気が付くと、僕は真っ赤なフード付きケープを着せられていた。 それだけだったら勿論変態だけど、そうでなくても十分変態だ。 何故なら、その下にはピンクのワンピースを着せられていたのだから。 「なっ、なんでこんなスカート短いんですか!?」 おまけに生足だし。 思わずそう叫んでたけど、突っ込むべきはそこじゃなかった。 僕がこんな格好をさせられていることが一番おかしなことだろう。 混乱しつつも、短すぎるスカートの裾を引き伸ばしている僕に、 「何を叫んでるの? 赤ずきんちゃん」 と優しく柔らかな声がかけられた。 この声は聞き間違えようもない。 ぎぎぎ、とロボットなら油を注した方がよさそうな動きで振り向いた僕の目に、眩しいくらいの笑顔を湛えた朝比奈さんの姿が目に入った。 「あ、朝比奈さん…」 「どうしたの? ちゃんとお母さんって呼んでください」 そう悲しそうに目を伏せられて、負けた。 「お、…かあ、さん…」 「はい、なんですか?」 にっこりと微笑む朝比奈さんに、体力とか気力とかを吸い取られるような心持ちがしながら、 「僕…男の子ですよね」 「そうですよ?」 「なのになんでこんな格好してるんですか…!?」 「いつもその格好なのに、今更どうしたの?」 きょとんとした顔で聞く朝比奈さんに頭を殴られたような気分になる。 これは夢だ、絶対夢だ。 こんなのが現実であって堪るものか。 現実だとしても認めない。 夢ならさっさと覚めて欲しい。 もしこれが閉鎖空間ならさっさと神人を倒させて欲しい。 今なら最高新記録を叩き出せる気がする。 キリキリと胃が痛くなってくるのを感じながら、叫びだしたくなる衝動を堪えていると、 「あのね、赤ずきんちゃん、お願いがあるんです」 「お願い、ですか」 僕が赤ずきんだとすると、頼まれごとはまず間違いなくお使いだろう。 そう思った僕に、朝比奈さんは困ったような笑みを浮かべてお願いのポーズだ。 「うん。森の奥におばあちゃんが住んでいるでしょ? おばあちゃんに会いに行って欲しいの」 「会いに行く…だけですか?」 なんだか拍子抜けして聞き返すと、 「はい。おばあちゃん、赤ずきんちゃんに会うのをいつもすっごく楽しみにしてるでしょ? だから、お土産なんて持たせたら赤ずきんちゃんの来るのが遅くなっちゃうから、何も持たせなくっていい、って言われたんです。行ってくれますよね?」 「…分かりました」 こんな珍奇な格好で家から出るかと思うと、目から血の涙だって流せそうな気がしてくるけれど、それでも、行かなければならないのだろう。 これだけリアルな夢だ。 涼宮さんの影響がないとは思えない。 それなら、彼女が望むように話を進めていくべきだろう。 僕はこうして手ブラで家を出た。 「分かってると思いますけど、おばあちゃんの家まではこの道をまーっすぐ行ったら着けますからね」 「…分かりました」 僕は人通りがほとんどなさそうだということだけを幸いに思いながら、重い足を引き摺って道を歩き始めた。 木が生い茂ってはいるものの、森の中には木漏れ日も降り注ぎ、思ったほど暗くはない。 それでも、僕の視界はどんよりと暗く思えた。 尽きないため息を吐きつつ進んでいた僕に、不意に声が掛けられた。 「赤ずきんちゃんっ」 楽しそうな声は、朝比奈さんの声以上に聞き覚えがあった。 「すすす、涼宮さん…!?」 驚いて振り向くと、いつもの制服姿にオオカミの耳と手袋、尻尾を付けた涼宮さんが立っていた。 ただし、腕章に書かれた文字は「オオカミ」だ。 「今日も可愛いわね、赤ずきんちゃん」 にっこにっこと笑顔を振り撒く涼宮さんに、僕は思わず後ずさった。 僕の女装を可愛いと評するなんて、これは本当に涼宮さんなんだろうか。 それよりは、涼宮さんのフリをした別人の可能性の方が高そうだ。 しかし涼宮さんは僕が怯んだのを、別の意味に取ったらしい。 「大丈夫だって。赤ずきんちゃんを取って食ったりするわけないでしょ?」 そう笑って、 「今日もおばあちゃんに会いに行くの? いつもご苦労様ねー」 「お、おばあちゃんの頼みですから…」 そう言いながらも、僕はおばあちゃんは一体誰なんだろうと考えていた。 既に選択肢は二つしかないようなものだ。 どちらにせよ、何か怖いことになりそうな気がする。 お姉さんがおばあちゃんでも、お兄さんがおばあちゃんでも、色んな意味で怖そうだ。 出来れば、出来るだけ無理のない第三者の登場を願いたい。 「ねえ、赤ずきんちゃん」 考えている間に、涼宮さんが目の前にまで近づいていた。 「ななな、なん、ですか…?」 「どもっちゃって、かっわいー」 「か、可愛くなんて…」 「可愛いってば。食べちゃいたいくらい」 「た、食べないでください…!」 すみません、本気で怖いです。 色んな意味で身の危険を感じます。 「あ、あの、涼宮さん、僕、早く行かないと……」 「ちょっとくらい遅れたって大丈夫でしょ。ねえ、古泉くん…」 きらりと爪が光る涼宮さんの手が僕の肩に掛かる。 びくりと竦む僕に、涼宮さんはにやりと笑った。 その唇の間からのぞくのは、イヌ科らしい牙。 「食べちゃわないから味見させて?」 「だ、だめです…!」 「じゃあ、食べちゃっていい?」 「もっとダメです…!!」 誰か助けて、と叫びだしそうになったところで、 「やめんか、この馬鹿犬!」 という声が響き渡った。 誰か、なんて見るまでもない。 お兄さんだ。 この状況で出てきてくれるということはきっと猟師のポジションなんだろう。 期待に胸を弾ませて振り返った僕は、そのまま打ちのめされたような気持ちになった。 「お……おばあ、ちゃん…?」 そこには、頭にぽんぽんのついた可愛らしいキャップを被り、ふわふわしたドレスのようなワンピースを着たお兄さんが、勇ましく仁王立ちしていた。 「ったく、いつまで経っても来ないと思ったら、お前はまたハルヒに捕まってたのか。イエスマンもほどほどにしないと痛い目見るぞ」 この状況でイエスマンもへったくれもないと思います! 「大体、おばあちゃんは寝込んでるか何かじゃ…」 「何言ってんだ? お前」 驚いた顔で言ったお兄さんは、 「俺はぴんぴんしてるぞ。お前に会いに来いってのは、そうじゃないとお前と二人になれないからだろうが」 だーかーらー、一体どうなってんですかこの夢は! ああもう、全力で逃げ出したくなった。 「それよりハルヒ、いい加減うちの可愛い孫に手出しするのはやめてもらおうか」 そう言ってお兄さんが涼宮さんを睨みつけるが、涼宮さんも負けてはいない。 「あんたこそ、孫を溺愛しすぎて気持ち悪いのよ」 「…一度勝負をつけておくべきだとは思っていたが、今がその時か」 そう言って、お兄さんがカンフー映画か何かのように半身を引き、構える。 ていうか、そのドレス姿で蹴りでも入れるつもりなんですか? か、勘弁してもらいたいんですけど。 一方涼宮さんは、 「そうね…。あたしも、今日こそあんたを叩きのめしてやるわ」 と言って爪を構える。 「行くぞ!」 「掛かって来なさいよ!」 ……それからのことは、詳しく話したくない。 お兄さんのスカートがびりびりに破られてたとか、涼宮さんのスカートがいっそ思い切りよくめくれ上がってたとか、そういうことは思い出したくもない。 「か、帰りたい…。帰りたいです……」 しくしくと泣きたくなってきたところに、 「大丈夫?」 と声がかけられた。 「お、お姉さん……」 「違う。私は猟師」 でもそれは、お姉さんだった。 確かに猟銃を担いでいるし、マタギみたいに毛皮を着ているし、どういうわけかもしゃもしゃとたっぷりヒゲを蓄えてもいるけれど、それでも見間違いようもなくお姉さんだった。 そして今、頼れるのはお姉さんだけだ。 「た、助けてください…っ!」 泣きだしそうになりながらお姉さんにすがりつくと、お姉さんは轟音を立てて戦っている二人に目を向けた後、こくりと頷いてくれた。 「任せて」 「お願いします…」 ほっとして、力が抜けたせいだろう。 僕はずるずると地面に座り込んだ。 このまま気を失ってしまいたい。 お姉さんが銃を構え、そう思った僕の頭越しに狙いを定める。 「え? あ、あの……まさか…ちょっと待っ…」 やんわりと止めようとしたのも虚しく、お姉さんが銃の引き金を引いた。 響き渡る、二度の銃声。 思わず振り返った僕は、お兄さんと涼宮さんがばたばたと倒れるのを見てしまった。 「大丈夫。…あれは麻酔銃」 お姉さんはそう言ったけれど、僕の頭にはほとんど届かず、そして、意識がフェードアウトした。 そのショックで目が覚めて、僕はガタガタと震える体を布団の中で縮めながら携帯を掴んだ。 そうして、電話を掛ける。 コール音がしばらく響き、 『…どうした……?』 というお兄さんの寝ぼけた声がした。 「お、お兄さん…っ…!」 『どうした? 何かあったのか?』 「お兄さん、ですよ、ね…? おばあちゃんじゃ、ないですよね…?」 『……はぁ?』 お前はアホかといわれたような気がする声に、ほっとした。 「よかった……」 安堵の息を漏らす僕に、お兄さんは言った。 『………お前の赤ずきんちゃん姿、可愛かったぞ』 心臓が、止まるかと思った。 どういうことかの説明なんて、してもらいたくもない。 |