あくまでも友人関係の古+キョンシリーズですが、
いつもと違って友人から一歩踏み出しちゃった系の話になります
うちのサイトに来てる時点でいないとは思いますが、
ホモはいや!という真っ白いお嬢様は引き返してくださいませ
一応下げてありますが、エロはないです
たまたま通りかかった9組の教室をのぞくと、古泉が女子と談笑しているのが見えた。 古泉は、いくらか違和感はあるものの、至って自然な笑みを浮かべている。 珍しい、と思った俺は別におかしくはないはずだ。 ただなんとなく、むっとしたのは、その女子がそこそこ可愛かったからだと思おう。 谷口あたりならAマイナーやBプラスくらいの評価を与えているんじゃないだろうか。 Aマイナーと言えば、長門をそう評価するのはどういうことだろうな。 長門は朝倉よりよっぽど可愛いと思うんだが。 俺は誘うつもりだった古泉を放って、部室へ向かった。 気分がすっきりとしないまま、部室の指定席へ座り、机に突っ伏す。 一眠りしてしまおうか。 そう考えながら目を閉じるが、胸の内が奇妙なほど重く、霧がかかっているかのように気持ちが悪く感じられて、眠れない。 それでも、目を閉じていたのは、それからしばらくしてやってきた古泉と話したくなかったからだ。 俺が起きていることには気がついているだろうに、古泉はあえて俺に話しかけようとはせず、黙ってチェスを並べはじめた。 一人で遊ぶことにしたらしい。 その態度に、まったくもって理不尽だと俺も思うのだが、何故か、イラついた。 放っておいてくれと思っていたはずなのに、話し掛けられなかったことにイラつくって、……本当に、どうかしている。 居心地の悪いまま時間が過ぎ、長門が本を閉じる音がするまで、俺は顔を伏せ続けた。 やっと顔を上げた俺の寝たフリを咎めもせず、古泉はいつものように笑い、何事もないように言った。 「明日、あなたの家へお邪魔してもよろしいですか?」 明日は土曜で何の予定もない。 古泉が来れば妹も喜ぶだろう。 おそらく、古泉自身も。 だが、俺の口から出たのは全く違う言葉だった。 「悪い、明日はちょっと都合が悪いんだ」 「…そうですか」 残念です、と苦笑した古泉へ注意を払う余裕はなかった。 ただ、吐いた嘘がばれないかだけが心配だった。 食欲がない、と夕食を残した俺を妹は、 「キョンくんなんかへーん」 と言っていたが、俺もそう思う。 なんでここまでぐだぐだになってんだろうな。 古泉が女子と話してるだけで気に食わないって……古泉のことを言えないくらい、執着しちまってる。 しかもかなり八つ当たりに等しいことまでして、あの子供みたいに傷つきやすい奴は、今頃どれだけへこんでいるんだろう。 それを考えるだけで、胸が痛む。 俺は自分に呆れながら、携帯へ手を伸ばし、古泉へ掛けた。 どこかのオフィスに掛けたわけでもないのに、三回もコール音が鳴らないうちに、古泉が出た。 『はい、僕ですが……どうかしたんですか?』 何かあったのかと本当に心配している声に、俺は自嘲の笑みを浮かべた。 「明日のことなんだが…」 『何かありましたか?』 「…まだ、予定は空いてるのか?」 『ええ、空いてますよ。都合がよくなったんですか?』 「……悪い、あれ、嘘だったんだ」 『やっぱり』 と古泉の笑う声がした。 『あなたの様子がおかしいので、そうじゃないかとは思っていたんです』 「なら、そう言えばよかったのに」 『あなたが僕に嘘を吐いてまで明日の予定を誤魔化すというのはどういう状況か、図りかねまして』 「お前といられないような気分だったんだよ」 『それはまたどうしてです?』 「……古泉、お前、今日、教室で女子と楽しそうに話してただろ?」 『ええ、そうですが…ご覧になったんですか?』 「通りすがりにちょっとな」 その時に、と俺は電話で話していてよかったと思いながら言った。 顔が熱い。 「…お前にあんな表情をさせられる子がいるってことに、イライラしたんだ」 『……どういう意味です?』 探るように言った古泉に、俺の頬は余計に熱を持って赤くなる。 「お前のことを責められないくらい、俺もお前の交友関係に嫉妬するみたいだ」 『嬉しいですね』 弾むような声でそう言った古泉だが、しかし、と付け足した。 『あなたがそんなことを仰るとは思いませんでした。てっきり、僕にあなた以外の友人が出来たことを喜んでくれるものだとばかり思っていましたから』 言われてみればその通りだ。 俺は古泉に、他の友人を作って、俺にばかり依存しないようにしろと言っていたし、それは本心からそう思ってのことだったはずだ。 『最近、同じ超能力者の仲間ともいくらか話すようにしているんです。共に戦っているのですから、友人にはなりやすいだろうと思いまして』 「そりゃ、いいんじゃないか?」 言いながら、胸が締め付けられるように痛んだ。 どうしてだ。 半分以上気の抜けた会話の後、 「また明日」 と電話を切った俺は、ぼんやりと天井を見上げながら考え込んだ。 いつだったかの古泉を笑うことも出来ないような、独占欲、嫉妬心が渦巻いているのは、どうしてなんだと。 古泉が嫉妬した時、俺はそれを、古泉が他に友人がおらず、家族にも頼れないため、俺にのみ依存しているからだと言った。 それは俺には当てはまらない。 俺には他にも友人がいるし、それなりに頼れる家族もいる。 それなのに、どうして。 嫉妬を感じたのはどんな時だ? 古泉が俺以外の人間と談笑していた時と、友人が出来たらしいことを言った時だ。 談笑していた時に思ったのは……俺しか知らないと思っていた、古泉の作り物じゃない笑顔を他のやつに見られて、嫌だということ。 古泉に友人が出来たなら、喜んでやるべきだ。 だが俺は喜べずにいる。 子離れされた親というのは、こんな気分になるんだろうか。 そう思おうとしたが、違うと頭の中で何かが告げる。 親ならこんなにも激しく、独占したいと思うものか。 古泉の中に俺の知らない、だが他の奴は知っている姿が増えると思うと、無性に苦しく思えた。 ――これは……友人としての感情じゃ、ないんじゃないか? 気がついた瞬間、頬どころか顔中が真っ赤になるのを感じた。 ヘテロタイプだなんだと偉そうに断言しておきながら、結局違ったのか? 嘘だろう。 否定したいと思う以上に、自覚した気持ちは余計に強まってくる。 俺は、多分、古泉が、好き、なんだろう。 それも、友人としてでは我慢出来ないほど。 「好き……」 ありえない、と笑ってしまおうと呟いたはずの言葉が、自分の耳にむず痒い。 のた打ち回ってやりたくなる。 そうしなかったのは、同時に気がついてしまったからだ。 古泉をあんなにも甘やかしていた理由に。 醜く、汚い、下心だ。 古泉が他の誰のところへもいかないように、俺に頼り続けるように、俺はあいつを甘やかしていたんだ。 離れろとか他の友人を作れとか、好き勝手なことを言いながら、その実あいつを縛り付けていたのは、俺だったなんて、笑えもしない。 身勝手すぎる。 エゴと自己嫌悪の余り、吐きそうだ。 もし、これを白状したとしても、あいつは嫌な顔なんか見せもしないんだろう。 喜びさえするかもしれない。 これで堂々と俺を独占できるとでも言って。 でもそれは、本当にあいつの本心なんだろうか。 俺に依存しているあいつが、俺から離れないでいるためだけに、俺に応える可能性もある。 あいつなら、嘘を吐くとまでは行かなくても、本当は友情でしかないものを、恋愛感情だと主張しても不思議じゃない。 そんな風に、あいつにも気付かせないうちに、あいつの気持ちを歪めたくはない。 だから、俺はこれを言えないし、たとえあいつが俺の中で渦巻いているこの不可解な感情を察して、俺を好きだと言ってくれたとしても、受け入れられない。 何があっても、絶対。 おそらく、この苦しみに耐えることが、俺に科せられた罰なんだろう。 それにしても、と俺は嘆息する。 ――明日、どんな顔をして古泉に会えばいいんだ? 翌日、寝不足の顔で迎えた俺へ、古泉はいたわるように言った。 「調子が悪いのでしたら、帰りましょうか」 そこで頷けばいいものを、頷けなかったのは、古泉といたいと身勝手にも思ってしまったからに相違ない。 古泉へまとわりつこうとする妹を追い払って、いつものようにだらだらとゲームなんかしながらも、俺が考えているのは古泉とのことばかりだった。 会話もほとんど出来ず、古泉の気まずそうな顔を見ると苦しかった。 いっそ、帰らせてやった方が親切だったかもしれない。 そうしたくないと思ってしまう自分にまた嫌悪感が募る。 まともに会話もせず、ため息ばかり吐いている俺を、流石に訝しんだのだろう。 古泉は俺の顔をのぞき込み、 「本当に、大丈夫なんですか?」 「…っ、顔が近い!」 この状況は、今の俺には辛い。 自分でも驚くくらい、顔が赤くなるのが分かる。 古泉は意外そうに目を見開いたきり何も言わないが気付かれたことだけは確実に分かった。 自分で口を滑らすとかならまだしも、顔を近づけられて赤くなってばれるとかどんなだ。 それも古泉が悪い。 あの綺麗過ぎる顔が悪いんだと主張するくらい、許してくれ。 穴があったら入りたい、むしろ、俺の墓穴はどこだ? 誰か掘ってくれないか。 必死に顔を逸らす俺に、古泉は唐突に言った。 「…どうして僕が、あなた以外の友人を作ろうとしているのか、分かりますか?」 そんなもん知るか! 「あなた一人に、依存しないためです」 ……やばい。 胸が心臓病を疑いたくなるくらい痛んだ。 古泉に離れられるのが怖い。 あの時、大泣きしていたあいつより、今俺が感じている恐怖の方が、下手をすると強いんじゃないだろうか。 少し考えるだけで死にそうだ。 そうなるなら、いっそ死にたい。 そう思った俺に、古泉は綺麗な笑みを見せて、 「今の状態だと、あなたに思いを告げることも出来ませんから」 「……どういう意味だよ」 「真剣な思いを、ただの友情だと言われてかわされるのは嫌ですからね。友情とは違うってことを、証明したいんです」 それって、と問いたくなる俺をウィンクで制して、古泉は言った。 「だから、もう少しだけ、待ってください。今の僕ではダメでしょうから」 「……すまん」 小声で呟くようにそう言うのが精一杯だった。 |
たまたま通りかかった9組の教室をのぞくと、古泉が女子と談笑しているのが見えた。 古泉は、いくらか違和感はあるものの、至って自然な笑みを浮かべている。 珍しい、と思った俺は別におかしくはないはずだ。 何しろ、古泉ときたらたまにSOS団以外の人間と話していると思ったら、見るからに不機嫌だったり、あからさまなまでに壁を作ってたりするからな。 友人が出来るのはいいことだ。 しかし、一抹の寂しさがないかと言うと嘘になるな。 よし、と俺は教室に足を踏み入れた。 「古泉」 「わ」 驚いたように顔を上げた古泉へ笑みを向け、話していた女子へ目を向ける。 俺はニヤニヤと表現した方がいいような笑みで古泉に言った。 「彼女か?」 「ち、違いますよ!」 慌てて否定する古泉に笑い、 「言ってみただけだろ?」 「そうよね」 と笑ったのは古泉と話していた彼女だった。 「古泉くんに彼氏がいるって知ってるのに、彼女になりたいなんて思わないわ。ただのお友達、ね!」 えーと、お嬢さん、その彼氏ってのは俺のことだったりするんでしょうか、…するんでしょうね。 どうして俺がこいつの彼氏呼ばわりされなければならないんだ。 面と向かってホモ扱いとかも勘弁してくれ。 というか、照れてんじゃねえよ古泉! 言いたいことはまだある。 いくらでもある。 だがそれを言うには教室という場所は人目もあり、またやっと出来た古泉の友達にも悪いだろう。 だから俺は親指を立てると、それを思いっきり下に向け、 「くたばれ、古泉」 と言い残して教室を出た。 言いたかったことを全て、その一言に詰め込んで。 |