微エロです
























































家庭の事情



ちょっとコンビニに行って来る、と言って俺は一人で部屋を出た。
兄ちゃんは、一緒に暮らし始めて以来、前より酷くなった過保護っぷりを発揮して、
「僕も一緒に行くよ」
と言ったのだが、
「買う物でもあるのか?」
「え? いや、別にないけど……」
「だったらいい。コンビニくらい一人で行く」
呆れながらそう言えば、兄ちゃんはなにやらしょげた顔になって、
「…鬱陶しかった?」
と聞いてきたが、
「んなわけないだろ」
と今度こそ俺は笑うほどに呆れた。
「ついて来てくれるのは嬉しいけど、兄ちゃん、課題が多くて大変なんだろ? 俺がいない間に集中してさっさと終わらせて、それから……その、なんだ、もうちょっと楽しいことでもしたら、いいだろ?」
「…そうだね」
嬉しそうに笑った兄ちゃんの顔は、人によっては脂下がったとでも言うかもしれないが、俺としてはそんな兄ちゃんの顔も決して嫌いではないどころか、割と好きなので構わない。
「じゃ、ちょっと行って来るからな」
「ん、気をつけてね」
気をつけるも何も、アパートから100メートルばかり歩いた先にあるコンビニである。
迷うはずもなければ交通事故に遭う危険性も低い。
道は明るいし、交通量はそこそこだが、その分ドライバーの気もそれてないだろうからな。
コンビニの前に柄の悪い連中がたむろしているということも滅多になく、今日もやはりいつも通り、静かなもんだった。
決まった雑誌を引っ掴み、夜食として軽いお菓子を手に取る。
それから、脳内で在庫の確認をして、使うか使うまいかという逡巡をしばらく続けた後、おそらく日本では最もポピュラーなゴム製避妊具を何気ない顔で荷物に紛れ込ませ、レジに向かった。
それから、散歩気分でゆっくり歩いて部屋に帰ると、どういうわけか、兄ちゃんの険しい声が聞こえてきた。
「だから、あなたには関係ありませんと何度も言っているでしょう?」
険のある声に思わず竦みあがったが、兄ちゃんは俺の姿を確認すると、柔らかく笑ってくれた。
しかし、その顔がすぐに厳しいものになる。
「これ以上話したところで無駄でしょう。僕はそちらへ行くつもりなどありません」
相手の返事は興奮しているせいかよく聞き取れない。
しかし、耳障りな怒鳴り声には覚えがあった。
俺まで顔を歪めながら、口の中で吐き捨てた。
父親か、と。
兄ちゃんと同棲生活を始めるにあたって、俺たちは両親にもちゃんとカミングアウトをしていた。
兄ちゃんが好きだと言うことも、二人の仲がどれくらいのものであるのかということも、その上で、二人一緒に暮らしたいのだと言うと、お袋は俺たちの幼少時代の有様をよく覚えていたようで、半ば諦観気味ながらも認めてくれた。
義父も同様で、というか、お袋がいいならそれで、って感じだった気もするが、悪い人じゃあないんだ。
実の父親以上に優しいし、兄ちゃんにもよくしてくれたくらいだからな。
ただ、ちょっとばかり戸惑ってるからあんな反応だったのだろうと思う。
ついでに、俺たちは実の父親にも本格的に絶縁状を叩きつけていた。
勿論、カミングアウトを含んだ絶縁状だ。
それで、あの嫌気が差すほどに保守的で、世間体にとらわれた父親も俺たちのことなぞなかったことにしてくれるだろうと思っていたのだが、どうやらその認識は甘いものだったらしい。
聞こえてくる声からして、兄ちゃんに戻って来いとでも言っているのだろう。
おそらくずっと同じ話を繰り返しているはずの兄ちゃんは、厳しい顔からもはやうんざりしきった顔に変わっている。
あの暴君め。
「とにかく、僕はあなたのところになんて戻りません。あなたのところが戻る場所だなんて認識すらしていません。母の旦那さんの方が、あなたよりずっといい父親ですしね。迷惑なので、金輪際電話もしないでください」
皮肉っぽくそんなことを言って、兄ちゃんは一方的に電話を切った。
ついでとばかりに電源を落とし、携帯を床に投げ出す。
俺は、
「…大丈夫か?」
と声を掛けながら、兄ちゃんを慰めるべく、兄ちゃんに近づいた。
兄ちゃんは力なく笑いながら俺を抱きしめてきた。
……お疲れさん。
「ん……ほんっと、疲れるよ…」
「…慰めて、やろうか?」
俺が言うと、兄ちゃんはぽかんとした顔をした。
「え?」
「慰めて、やるから」
俺は兄ちゃんの手を解き、兄ちゃんの腰の辺りに抱きつくような格好で膝をついた。
「キョン…?」
まだ訳が分かってないらしい兄ちゃんに見せ付けるように、俺は舌先で探り当てたファスナーを歯に挟んだ。
「ちょっ…! キョン!?」
兄ちゃんの驚く声と、ファスナーを下ろす音が重なり、俺は小さく笑った。
楽しいとか面白いとかいうのに加えて、ちょっとばかり優越感を感じて。
ボタンは流石に手で外したものの、たったそれだけのことでも兄ちゃんは興奮するらしい。
まだろくに触ってもいないものが熱を帯び、硬くなりかかっているのが分かった。
「よかった。嫌じゃないんだな?」
下着の上から指で撫でながらそう聞けば、兄ちゃんは赤い顔をして、
「い、嫌なわけないだろ…」
と言ってくれる。
そのくせ、申し訳なさそうな顔をしているから、
「俺も、嫌じゃないから、出来るんだって」
と言えば、兄ちゃんは小さく笑ってくれた。
「大好きだよ、キョン」
言いながら、俺の頭を撫でてくれる手が優しい。
愛しい。
俺の方が我慢出来ないような気持ちになりながら、下着をずり下ろし、緩く立ち上がりかけているものを目の前に取り出す。
うっとりとそれを見つめるだけで、それは反応を示した。
そんなことすら嬉しくて、感激しながら先端に口付けると、兄ちゃんがびくりと震えた。
いくらか苦くてしょっぱい味を確かめるように、ゆっくり全体に舌を這わせる。
膨らんだボールも口に含んで、反対側を指で弄ぶ。
裏筋を舌でなぞって、含めるだけ口に含んで、くわえて、と面白がるようにしているうちに、それは完全に硬く、大きくなっていた。
「…おっきくなった、な」
先端を舐めて俺が言うと、兄ちゃんは顔を真っ赤にして、
「キョンっ、あんまり誘わないでって……」
「誘われてるって分かってんなら、乗ってくれたっていいだろ」
忙しいのかもしれんが、嫌なことがあってへこんだ時くらい、こうやって慰めあったっていいじゃないか。
「……ええと、もしかして実は結構気にしてたの? このところ、忙しくてあんまりしてなかったこと…」
「…多少は、な」
本当に忙しいって分かってたから、浮気や心変わりを疑うことはなかった分、マシだったと言えばその通りなんだが、それにしたって寂しかった。
一緒の布団で寝てるってのに一人自分を慰めるなんて虚しいことをする気にもなれず、つまりは俺も溜まっていると言うことだ。
「だから…兄ちゃん、して?」
精一杯の媚態を作り、上目遣いに媚びたところで、世界が反転した。
見えるのは天井と、苦笑混じりながらも興奮を滲ませた兄ちゃんの顔だ。
うまくいったことに笑みを漏らせば、
「小悪魔なんだから」
と文句を言われ、ついでに尖らせた唇でキスされた。
触れるだけのそれじゃ足りなくて、俺から兄ちゃんの背に手を回し、もう一回とキスをねだる。
ゆっくりと味わうために触れ合う唇も、熱っぽい舌も、気持ちいい。
「にぃ、ちゃ…っ…もっと、…」
はしたなくねだっても、兄ちゃんは呆れもせず、愛しげにキスをくれる。
頭の芯までとろかされ、ぼんやりしていくのを感じながら、俺は兄ちゃんに全てを委ねた。

シャワーを浴びて、身支度を整えて、ついでに買ってきた菓子をかじりつつ、使われなかったゴムを寝室の方へと蹴遣る。
そうしておいて、
「あいつも、相変わらず、みたいだな」
とため息を吐けば、眉の寄った俺の眉間にキスを落としながら、兄ちゃんは苦笑する。
「あの人も、可哀想といえば可哀想な人なんだけどね」
「…まあな」
どういう育ち方をするとあそこまで歪むんだか全く分からん。
兄ちゃんも俺も、あいつに性格が似なくてよかったと心の底から思う。
「元々、超能力に目覚めた頃に、絶縁状態にはなったんだけどね。何年も経って、あの人も焦りが出てきたんじゃない? あの人、他に子供がないはずだから」
「あいつの遺伝子がばら撒かれなくて何よりだ」
と吐き捨てれば、兄ちゃんは困ったような顔をして、
「キョンは本当にあの人が嫌いだね」
「大っ嫌いだ」
「僕も好きじゃないけど……キョンなんて、そんなに長い間一緒に暮らしたわけでもないのにな、と思って」
それは確かにそうなんだがな。
幼心にも嫌なやつだと記憶されるくらいには、あいつは嫌なやつだと思ったぞ。
「うん…否定は出来ないな」
苦笑した兄ちゃんだったが、
「でも、やっぱり思うんだよね。あんな風になってしまったのは、あの人の責任ばかりじゃないんだって」
「…兄ちゃんは優しいな」
「ただ単に、長く二人で暮らしてたせいだと思うよ」
情が湧いたというやつか。
「そうかもね。…まあ、だからって戻ってあげる気はさらさらないんだけど」
「当たり前だ。…あっちに行くなんて言ったら、今度こそ泣いてすがってでも引き止めるからな」
「分かってるよ」
そう優しく笑って、兄ちゃんは俺を抱きしめてくれる。
抱き寄せられるまま床に座って、俺は兄ちゃんに抱えられるような形になりながら、兄ちゃんにキスをする。
「あの人と話したりするたびに、あの人みたいに悲しいことにならなくて、よかったって思うよ。……僕とキョンは幸せだね」
「当たり前だろ」
俺は笑って兄ちゃんの首へと腕を絡める。
そうして、至近距離から兄ちゃんの綺麗な瞳を覗き込みながら、
「幸せって言うなら、そんじょそこらの奴には負けない自信がある。なんせ、兄ちゃんと一緒にいられるんだからな」
俺が胸を張ると、兄ちゃんは明るく笑ってくれた。