今度はみくるちゃんのキャラ崩壊注意です
どこまで壊せば気が済むのかとかは言わないでやってください

















仕掛け事



人をそういう意味で好きになったのは生まれて初めてのことで、大きすぎる思いは俺の手に余るものとしか思えなかった。
普通なら、兄弟がいれば兄弟に相談も出来たんだろう。
でも俺は、その兄弟である兄ちゃんが恋愛対象であり、しかも悩みの種なのだ。
相談なんて出来るはずがない。
それは、兄ちゃん以外の人間でも同じことだ。
兄ちゃんのことを相談したくても、俺に兄弟がいることを知っている人間は一握りしかいないし、その中には俺が簡単に相談できるような人間はいない。
そう言えば、長門がいるじゃないかと思われるかもしれない。
しかし――長門には悪いとは思うが――、少なくとも今は無理だ。
兄弟だということを明かさずに相談するというのも難しい。
何故なら、俺がここまで強く、醜い独占欲を持つに至った理由は、兄ちゃんと離れ離れにされたことがあるからに他ならないからだ。
それを説明せずにこの状況を分かってもらうことは出来ないだろう。
だから俺は口をつぐみ、悩みを胸の中に溜め込むしかない。
それが危険なのだと、分かっていながらも。

「キョンくん」
と呼び止められたのは、土曜日の朝、俺が兄ちゃんの部屋へと向かっている途中のことだった。
呼び止めた声はやわらかく優しい、天使の如きお声――と言えば誰のものか分かるだろう。
しかし、振り返った先に立っていたのは、俺のよく知る朝比奈さんではなく、更に未来から来た朝比奈さん(大)の方だった。
「朝比奈さん、また何かあったんですか?」
朝比奈さん(大)が出てきたということは何かまた問題が生じたに違いないと警戒しながら俺が聞くと、朝比奈さんは困ったように小さく微笑んだ。
困ったように、とは言うものの、その様子は至って穏やかだ。
世界がどうとか言った重大な問題を抱えているようには見えない。
むしろ、子供の悪戯に、半分怒りながら半分楽しんでいる母のような表情に近く思えた。
「あったといえばそうなんだけど……」
言いながら俺との距離を詰めた朝比奈さんは、俺の顔をのぞきこむように顔を近づけて、小さな声で囁いた。
「…キョンくん、今、古泉くんとのことで悩んでいるでしょう?」
「……っ…」
俺のこんな悩みに未来人がわざわざ介入してくるのか、と驚き焦る俺に、朝比奈さんは申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「ごめんなさい。でも、重要なことなの」
「重要って……」
俺個人の問題がどうして。
「詳しいことは禁則事項だから言えないんだけど、キョンくんをこのまま放ってはおけないと言ったら分かってはもらえないでしょうか」
黙り込んだ俺に、朝比奈さんは優しく笑って、
「私と少し、お話しませんか?」
俺は言葉を見つけられないまま頷き返した。
朝比奈さんに連れて行かれた先は、近くのちょっとした喫茶店だった。
まだ寒いと言っていいくらいの季節なのだが、朝比奈さんたっての希望で、寒風吹きすさぶオープンスペースに席を取り、手の中のコーヒーカップで暖を取る。
朝比奈さんは寒さを感じていないのか、いつものような調子で、
「えぇと、どこからお話しましょうか」
と独り言を言って、しばらく考え込んでいたが、コーヒーが半分近くにまで減ったところで顔を上げ、
「今のキョンくんは不本意に感じるかもしれないけど、キョンくんが古泉くんと兄弟だってことも、ふたりが付き合ってるってことも、あたしは知っているんです」
その可能性は考えなかったわけじゃない。
朝比奈さんが未来から来た以上、俺と兄ちゃんについて調べることはいくらでも出来ただろう。
あるいは、未来の俺が話したという可能性もある。
俺のそんな推測は当たっていたらしい。
朝比奈さんは、俺のマジな表情に慌てた様子で、
「あの、でも、あたしが調べたとか、上司から聞かされたっていうわけじゃないんです。あたしがまだこの時間平面上にいた頃に、キョンくんが教えてくれたの」
「ああ、そうでしたか」
少しほっとしたのは、妙なことまで調べられていたらと思いかけていたためだ。
そうでないのなら何よりだ。
朝比奈さんも、俺にちゃんと通じたと分かったからか、安堵の笑みを見せ、
「本当は、今日、こうしてあたしがここに来たのも、半分くらいは、未来のキョンくんの頼みだからなんです」
「どういうことですか?」
驚いて俺が聞くと、朝比奈さんはあっさりと、
「あたしが来なかったら、きっともっと悪いことになっていたと思うから、なんとしてでも会いに来てくださいって、お願いされたの」
「もっと悪いこと……?」
一体どんなことになるって言うんだ?
抽象的過ぎて掴めない。
「あたしたちにとっても、それは悪いことだったの。だから、あたしはここに来て、あなたと接触することを許されました。――ううん、これも規定事項なの。あなたをこのまま放っておくことは出来ないから」
「……朝比奈さんは、」
俺は顔を歪めないように気をつけながら言った。
「それが規定事項だったから、来てくれたんですか?」
口にしてから、後悔した。
拗ねた物言いは、まるきり子供のそれみたいじゃないか。
情けない。
思わず俯いた俺の頭を、朝比奈さんが優しく撫でた。
「キョンくんが心配だったからに決まってるじゃないですか。それに、あたしでもキョンくんのお役に立てるのが嬉しいんです。あたしはいつもキョンくんのお世話になってばかりだったから」
「朝比奈さん……」
「だから、あたしを信じてください。あたしはあたしとして、キョンくんの助けになりたいんです」
「……ありがとう、ございます」
俺は深く頭を下げた。
嬉しさがこみ上げてくるのは言うまでもないが、酷く穏やかな気持ちにもなり、戸惑った。
どうしてここまで、と思った俺に、朝比奈さんは明確な答えをくれた。
「キョンくんに必要なのは、何でも話せる相手を作ることだと思うんです。絶対に信じることが出来て、裏切らない相手を。今みたいに、誰にも相談したりせず、ひとりで抱え込んでると、いつかパンクしちゃいますよ?」
それならこの安堵感は、そう出来る相手を見つけることが出来たがための安堵感なんだと感じた。
「それが、あたしの伝えたかったこと。キョンくんがよければ、あたしがお話を聞いてもいいんですけど、それは多分、この時間平面上のあたしの役割よね?」
そう言った朝比奈さんは、俺がもう大丈夫だと感じたのだろう。
「だから、あたしはこれで帰りますね。小さいあたしのことも、信じてあげてください」
と立ち上がった。
「ええ、言われるまでもありません」
きっぱりと答えると、朝比奈さんはにっこりと微笑み、
「ありがとう、キョンくん」
と俺を軽く抱きしめた。
「あ、朝比奈さん!?」
「…本当に、キョンくんはいい子ね」
「俺は、別に…」
「ううん、いい子です。…そんな風に、無理しなくていいんですよ。古泉くんも、キョンくんに無理をして欲しいなんてことは思ってないと思います。ううん、絶対にそう。だから、キョンくん、わがまま言うことも、覚えてくださいね」
そう言った朝比奈さんが二人分のお茶代を置いて立ち去った後、俺は小さくため息を吐いた。
何をやっているんだろう、と。
兄ちゃんが俺以外の前で兄ちゃんになってしまい、「古泉」でなくなるのをあんなに嫌がっていたくせに、今の俺はどう考えても、いつもの俺ではなく、頼りない弟の俺として朝比奈さんと話していた。
それでいけないということはないのかもしれないが、兄ちゃんに対してあんなことを思っておいて、自分の方こそそんなことをしてしまうのは、なんとなく申し訳ない気持ちになった。
それとも、……そうした方がいいんだろうか。
朝比奈さんは、無理をしなくていいと言った。
俺がしている無理と言えば、兄ちゃん以外の前で兄ちゃんに頼ってしまう弟としての自分を出さないようにすることと、兄ちゃんに対して抱いている醜悪なまでの感情を表さないようにすることくらいのものだ。
それをやめなければ、もっと悪いことになるんだとしたら、俺は兄ちゃん以外の前でも弟としての自分を出すべきなんだろうか。
考え込んでいると、
「あれ、キョンくん…」
と声を掛けられた。
驚いて顔を上げると、朝比奈さん(小)が立っていた。
「キョンくんがお茶してるなんて珍しいですね。誰かと一緒だったんですか?」
「え、ええ、まあ、ちょっと…」
答えながら、そのためにわざわざこんな寒い場所を朝比奈さん(大)は選んだのかと納得した。
ここを朝比奈さん(小)が通るから。
今このタイミングで、明かしてしまえということなんだろう。
「あの、朝比奈さん」
「はい?」
何も知らない朝比奈さんは純真無垢を絵に描いたようなあどけない表情をしている。
そんな彼女に自分のどうしようもない感情をぶちまけるのは、はっきり言って胸が痛んだが、朝比奈さんを信じると約束したのは俺だ。
「…少し、相談に乗ってもらえませんか?」
「相談…ですか? あたしで、いいの? 古泉くんとか、長門さんの方がいいんじゃ……」
「朝比奈さんじゃないと、だめなんです。お願いします」
戸惑う朝比奈さんにそう言って頭を下げると、朝比奈さんが余計に慌てだすのが分かった。
「キョンくん、顔を上げてください。その、あたしでよければいくらでもお話をうかがいますから」
「ありがとうございます、朝比奈さん」
俺は空になったカップを下げてもらい、自分と朝比奈さんの分を注文しながら、どう切り出すべきかと考えていた。
まずは俺と兄ちゃんのことを明かせばいいんだろうか。
実の兄弟で、そのくせ付き合っているなんて話を、朝比奈さんはちゃんと理解してくれるだろうか。
唸りながら考え込む俺の前に座った朝比奈さんは、居心地悪そうにするというよりもむしろ、俺を案じるような顔をしていた。
「キョンくん、本当に大丈夫ですか?」
「え、大丈夫って…」
「凄く、辛そうな顔をしてるから……。あの、やっぱりあたしなんかじゃ役に立てないくらい、深刻な悩みなんじゃ…」
「そんなことはありませんよ。…朝比奈さんにしか、聞いてもらえない話なんです。朝比奈さんを困らせてしまうと思いますが、それでも…聞いてもらえませんか?」
「ううん、あたしで力になれるならなんだってします。でもどうして、あたしじゃなきゃだめなんですか?」
「古泉にも長門にも、話せないからです」
「古泉くんにも長門さんにも話せなくて、あたしには話せること…?」
と朝比奈さんが首を傾げた時、俺の携帯が鳴った。
サブウィンドウに表示された名前は、「古泉一樹」。
俺は慌てて携帯を開き、
「もしもし、兄ちゃん?」
『そうだよ。ゆきりんだとでも思った?』
「いや、そういうわけじゃねぇけど…」
ただ、このタイミングでの電話は心臓に悪い。
『今日、来るんじゃなかったっけ? まだ来ないみたいだけど、何かあった?』
「ん、ちょっと中学時代の知り合いにばったり会ったんで、今ちょっと話してるんだ。終ったら、兄ちゃんのところに行くから、待っててくれるか?」
嘘を吐くことに胸が痛んだが、今の最優先事項は朝比奈さんと話すことだ。
それが兄ちゃんとの関係を続けていくことにも繋がるなら、余計に。
朝比奈さんと話していると正直に告げて、誤解されたくもなかった。
『分かった。…お昼はうちで食べるんだろ?』
「あー…うん、多分。一応、兄ちゃんの部屋に行く前に連絡入れるから」
『待ってるよ』
「…ん。それじゃ」
俺は電話を切り、ぽかんとしている朝比奈さんに視線を戻した。
「キョンくんって、お兄さんがいたんですか?」
「…ええ」
少し話しやすくなったかもしれない。
そう思いながら俺は兄ちゃんに感謝し、話し始めた。
うちの親は再婚で、俺と妹は異父兄妹、親父と俺は血が繋がっていないこと。
母親が離婚する時に俺を引き取り、父親が兄を引き取ったこと。
その兄と、高校に入学して再会したこと。
「俺の旧姓は古泉で、兄の名前は、一樹と言います」
俺がそう言うと、朝比奈さんはただでさえ大きな目を更に大きく見開いた。
目が顔から零れ落ちそうだ。
「キョンくんと古泉くんが兄弟だったなんて…」
「それを知られると、年上であるはずの兄が同じ学年にいる不自然さから、機関のことや何かがばれかねないので、秘密にしているんです。だから俺も、人目があるところではただの同級生として振舞ってるんですが…」
「あたし、全然気がつきませんでした。仲がいいなと思う時もありましたけど、最初の頃はキョンくんも古泉くんが苦手みたいな感じだったでしょう?」
それは、他人行儀にする加減が分からなくて、過剰になっていたため、そう見えていたんだろう。
「でも、本当は仲良しだったんですね。よかったぁ」
と微笑む天使のような朝比奈さんに、俺は本当に言っちまっていいんだろうか。
仲良しどころかベッドの中でくんずほぐれつするような仲なんですと。
ここまで言っておいてそれを言わなければ、説明した意味がない。
相談したいのは、その先なんだから。
「あたしに相談したいことって言うのは、古泉くんとのことを隠しているのが大変だから協力して欲しいってことですか? でも、それだとしたらあたしじゃなきゃいけない理由にはなりませんよね?」
「ええ。……その、…こんなこと、朝比奈さんに言っていいのか分からないんですが、」
俺は羞恥に顔を赤くしながら言った。
「…兄と、付き合っているんです。その…非常に不健全な意味で」
「え……」
絶句した朝比奈さんがまじまじと俺を見つめた。
あんまり見ないでやってください。
羞恥心で死にそうになる。
「付き合ってって、え、…えぇ!?」
「妙な話を聞かせてすみません。ホモで近親相姦なんて救いようがないですよね…」
「そんな、むしろ大好物ですっ」
……は?
「…あ、やだ、あたしったら…」
ぽっと頬を赤くする朝比奈さんは非常に愛らしいのだが、聞き捨てならない言葉を言われた気がする。
「あの、朝比奈さん…?」
「……えっと、涼宮さんとか古泉くんには、内緒にしてくださいね?」
こっそりと言った朝比奈さんは、
「腐女子って言えば、キョンくんには通じますか?」
……目眩がした。
マジですか、朝比奈さん。
「腐っちゃっててごめんなさい。実はキョンくんと古泉くんであれこれ妄想したこともあったりして……。本当にごめんなさい」
頭痛を感じて頭を押さえた俺に、
「あのでも、そんな感じですから、偏見とかはありませんよ? 色々聞いてみたいなぁとかは思いますけど、キョンくんが嫌なことはしたくありませんし、我慢しますから」
慌ててそう言った朝比奈さんに悪気は本当にないのだろう。
むしろ、これでよかったのかもしれない。
具体的に話していった時、引かれることはないだろう。
…ネタにされる危険性はあるが。
俺はため息を吐き、苦笑しながら、
「むしろ、聞いてください。兄ちゃんとのことを相談出来る相手がいなくて、困ってたんです。このまま自分の中で溜め込んでると、自分がおかしくなりそうで、怖かったんですよ」
「キョンくんがそんな風になるの?」
驚いて目を見開いた朝比奈さんに、
「一時期は自分の頭がおかしくなったんじゃないかと思ったくらいですからね。それは兄ちゃんを好きになりすぎて、それを隠すのに疲れたせいだったんですけど」
本当にあの時の状態からすると、兄ちゃんを殺して自分も死にかねない状況だったからな。
「だ、だめですよ! ヤンデレは二次元だから萌えるんですっ! 現実でやったらただの犯罪です!」
…朝比奈さん、そういう専門用語も辛うじて分かりますけど、一応公共の場なんでもう少し自重してください。
「ご、ごめんなさい。男の人とこんな話することなんて絶対にないと思ってたから、ちょっと興奮しちゃってるみたいで…」
顔を赤らめる朝比奈さんはいつものように可愛い。
そんな可愛い女性まで腐属性とは、この国はどこにいくんだろうなぁと漠然と思った。

それから、あれやこれやと話し込んだ。
一番相談したかった、兄ちゃんに対してどうすればいいのかということについては、朝比奈さんはむしろ憤然と、
「キョンくんがそうやって我慢したり、自分の中で溜め込む必要はないと思います。したくないならしたくないって言っていいと思いますし、それでキョンくんを捨てるような古泉くんじゃないでしょう?」
「…そうでしょうか」
俺は未だに、あの完璧と言っていいような兄ちゃんが俺みたいな平々凡々とした人間と、それも弟でしかない俺と、付き合ってくれていることが信じられない。
それだけに、いつか誰かに奪われるんじゃないかと不安になるのだ。
兄ちゃんが無理をしているんじゃないかと。
本当は俺のことが好きじゃないのに、好きって言っているんじゃないかと。
「そんなこと、絶対にあり得ません」
きっぱりと朝比奈さんは言った。
「義務感や同情で体の関係に至ると思うんですか? それに、古泉くんの方から求めてくるんでしょう? それなら、ちゃんとキョンくんが好きってことに決まってます」
「体だけかも、知れないし」
「キョンくんは、どうなの?」
「どうって…」
「好きだから、最後までしたいって思ったんですよね? 古泉くんだって、同じだと思います。それに多分……」
と朝比奈さんは考え込み、
「キョンくんって、普段は表情の変化も乏しいですよね」
「そう…ですかね」
「うん、いっつもしかめっ面してると思ってたの。古泉くんとのことを隠さなくちゃいけなくて緊張してるせいかも知れないけど。でも、今話してるといつもよりずっとよく表情が変わるから、あたしでも、可愛いなぁって思うもの。きっと、古泉くんの前だと、もっとくるくる表情を変えて、もっと可愛いんだろうなぁ」
「か、可愛いだなんてそんなことは…」
「可愛いですよ」
朝比奈さんの方がよっぽど可愛らしい笑顔を見せて言った。
「キョンくんはとても可愛いです。それに優しくて、頼りになって。――平々凡々だなんて、悪い意味では言わないでください。キョンくんがキョンくんだから、あたしたちはSOS団としてやっていけるんだし、古泉くんもキョンくんを好きなんでしょうから」
そう言った朝比奈さんは、
「あ、話を元に戻しますね。えっと、キョンくんの表情の変化が普段は乏しい分、そうじゃない時に見られる表情が凄く可愛くて希少に見えるんです。だから、古泉くんが強引なくらいにキョンくんを求めるのも、キョンくんのいろんな顔が見たいからなんじゃないかなって、思うんです」
「…そんなもんですかね」
「だと思います。……そんなに、古泉くんが信じられない?」
「信じられないのは…俺が自分に自信がないからだと思います。兄ちゃんが悪いんじゃなくて…」
「ううん、古泉くんが悪いのよ」
と朝比奈さんは俺が思わず面食らうようなことをきっぱりと断言した。
「キョンくんを不安にさせる古泉くんが悪いの。キョンくんは全然悪くありません。だから仕返しに、」
朝比奈さんはにこっと微笑んだ。
こんな時でもニヤリとかニヤッという擬態語で表現される笑みにならないのが朝比奈さんらしい。
「古泉くんを、妬かせてあげませんか?」