一応エロですよ
ご注意ください
「やだ」 と俺は、抵抗というおそらく初めての行動に出た。 「どうして?」 聞いてくる兄ちゃんは本気で不思議そうだ。 まさか、本当に分かってないのか? 俺は顔を少し赤らめながら、 「だって、…長門に、見られてるかもしれないんだろ」 「大丈夫だよ。それくらいは一応ちゃんと自重してくれてるらしいから。それに、たとえそうだとしても、今更だろ」 その言葉に、俺は真っ赤になった。 確かに、兄ちゃんと繰り返し何度も体を重ねてしまった今となっては、今更と言うしかない。 だがそれでも、知らなかった時と、知ってしまった今とでは違うと思う俺が、特異な精神構造をしているというわけではないはずだ。 「ねぇ、キョン」 兄ちゃんが甘ったるい声で囁きながら俺のことを抱き竦める。 それだけのことで体がびくりと震えた。 「見られるのが、そんなに嫌?」 「嫌に、決まってんだろ…」 「どうして?」 「どうしてって……」 一体何を言い出すんだ兄ちゃんは。 「見られたって、いいじゃない。キョンが僕の大事な存在なんだって示せるなら、僕は誰に見られたっていいよ。キョンの、感じてる時の色っぽい顔を人に見せるのは少し癪だけど、それでも、そうやってキョンを喜ばせられるのも僕なんだって言えるなら、僕は構わない」 「なっ…」 恥ずかしさに余計に赤くなる俺に、兄ちゃんはとびきりの優しい笑顔で、 「出来ることならね、キョン、僕は涼宮さんにだって言ってしまいたいくらいなんだよ? キョンは僕の可愛い弟で、それ以上に愛しくて大切な恋人なんだって」 「……俺、だって…」 そんなことが出来るのならばそうしてしまいたい。 兄ちゃんのことがどんなに好きか。 兄ちゃんといられるだけでどんなに幸せか。 …兄ちゃんとシて、どんなに気持ちいいかだって、言ったっていい。 でも、 「…恥ずかしいもんは、恥ずかしいんだ…!」 搾り出すように言った俺に、兄ちゃんはやれやれと肩を竦めると、 「仕方ないね。――じゃあ」 諦めてくれるのか、と思った俺は、まだ兄ちゃんのことをよく分かっていなかったと言うしかない。 ほっとして力を抜いた瞬間、床に押し倒され、両手を一まとめにして床に留められた。 「兄ちゃん!?」 痛いくらいの拘束に俺が声を上げると、兄ちゃんは薄く笑って、 「痛かった? ごめんね。でもまあ、これなら、ゆきりんに何か言われても平気だろ? 俺は嫌がったのに兄ちゃんが無理矢理って言っちゃって構わないから」 「そういう問題じゃな…っ! ひ、あぁっ」 声が上がったのは、兄ちゃんが乱暴に乳首を押し潰したせいだ。 痛いくらいのそれがもたらすのは痛みだけじゃない。 それは確かだ。 でも、それでも、乱暴な行為は怖くて、思わず足をばたつかせ、逃げ出そうと体をよじると、馬乗りになるような形で、兄ちゃんが俺を押さえ込んだ。 「まるで強姦みたいだね。強姦にしては、キョンの反応が良過ぎるけど」 意地悪に言った兄ちゃんが、興奮に硬くなった自分のモノを、同じく反応し始めている俺のそれへグリッと押し付けた。 その硬さに、 「ひっ…」 と息を呑む。 感じているのが恐怖なのか、それとも期待なのかさえ、分からなくなってくる。 「キョンだって、したかったくせに」 揶揄するように笑いながら、兄ちゃんが俺の腕を放し、自由になった手で俺の服を脱がせにかかる。 「やっ、やだって、兄ちゃん!」 「本当に嫌なら、本気で抵抗してごらん? 蹴るなり叩くなり引っ掻くなり、好きにしていいよ?」 蹴るってのは不可能だろう、この体勢じゃ。 と突っ込むことも出来ん。 兄ちゃんのことだ。 俺が兄ちゃんを本気で叩いたり出来ないと分かっていての発言に違いない。 自らの優位性をきちんと弁えた人間というものを相手にするということは、本当にやり辛いものだが、兄ちゃんはその典型じゃないだろうか。 露わになった胸へ、兄ちゃんが痛いくらいに噛み付く。 「痛…っ、嫌だ、兄ちゃん…っ、やめろよ…!」 「無理」 単語で答え、兄ちゃんは勃ち上がった乳首をぎゅっと引っ張った。 「っ…!」 「痛い? でも、気持ちよくもあるみたいだね」 「だ、って…」 痛くても嫌でも、相手が兄ちゃんだと思うだけで、俺の体はどうしても快感に引き摺られてしまうのだ。 そうなるようにしたのは兄ちゃんだと言うのに、 「本当に、キョンを一人にしておくのは心配だね。他の誰かに襲われても、こうなったりしないだろうね?」 「するわ、け、ない…!」 兄ちゃんの唇が痕を残しながら体の上を伝い下りる。 「ふあっ、あ、兄ちゃん…っ、」 「何?」 笑いを帯びた声が耳を刺す。 「どうして欲しいか言ったら、その通りにしてあげるよ?」 言いながら、兄ちゃんはやんわりとした刺激をそこに加えた。 服の上からかすかに触れるだけなんて、まどろっこしすぎる。 「……っ、兄ちゃんの、意地悪…」 なけなしの矜持でそう言うと、兄ちゃんは楽しげに笑い、 「キョンの方が意地悪だろ。ゆきりんのことだけで、何日お預け食らわせてくれたと思ってるんだい?」 「んなの、一週間くらいだろ…」 「十三日だよ。もう少しで二週間だ」 そのくらいでそこまで盛るのか。 「キョンのことが好きなんだから、しょうがないだろ」 「…好きって、言うなら……」 俺はぎゅっと目を閉じながら言った。 「もっと、優しくしろよ…っ」 「……そうだね。キョンもヤル気になってくれたみたいだし」 兄ちゃんは俺の上から退くと、俺の服を脱がせた。 俺に見せつけるように指にローションを絡ませる兄ちゃんに、俺は小さなため息をひとつ吐き、 「…兄ちゃん以外には見せたくないって気持ちも分かってくれよ」 と呟いた。 その言葉に、兄ちゃんがぴくっと反応し、じっと俺を見た。 俺は苦笑しながら、 「兄ちゃんだから、我慢出来るんだからな」 「我慢、ね」 悪戯っぽく笑った兄ちゃんはローションのせいで冷たい指を俺の中に押し入れた。 「んっ…ぁ」 「恥ずかしいことも好きなくせに、我慢なんて言うんだね」 「好きじゃ、なぁ…っい…」 「好きだろ」 決め付けるように言った兄ちゃんが、自分の肩に俺の脚を載せるようにして、腿の内側を舐め上げた。 「はっ……ぁ…」 同時に中に入れられた指がそこを広げようと動き出し、びくりと脚が震えた。 「可愛いよ」 そう笑った兄ちゃんが性急に指を増やす。 「やっ……兄ちゃん、早いって…」 「ごめん」 謝るだけかよ。 「限界なんだって。痛かったらごめんね」 そう言いながらも間隙なく与えられる愛撫に、俺はもう意味のない声しか上げられなくなり、兄ちゃんの胸に縋りついた。 キスなんて軽い響きの言葉では済まされないほど熱く唇を重ねられ、舌を絡め取られる。 ふらつく視線の先にいる兄ちゃんは笑顔だ。 その笑みが確かに兄ちゃんのものでなければ、俺ももっと抵抗出来るものを、兄ちゃんは普段隠している分もと言わんばかりに、「古泉」なら浮かべないような笑みを見せる。 少し意地悪で、この上なく楽しそうな、笑み。 その笑みも、怖いほどに性急な行為も、嫌いになれない。 それくらい俺は兄ちゃんが好きで、どうしようもないくらい兄ちゃんを独り占めしたくて仕方ない。 そう考えて、俺は気がついた。 どうして長門に見られているかも知れないからと兄ちゃんを拒んだのか、その理由に。 兄ちゃんが「古泉」らしくなくなる、その最たる例がこうしている時であり、そんな兄ちゃんを見られたくなかったのだ。 本当は、兄ちゃんが兄ちゃんとして、つまりは砕けた口調で長門と話すのも嫌だ。 あだ名で呼び合っているのも、親密さが透けて見える以上に、兄ちゃんが兄ちゃんになってしまい、「古泉」でなくなるから嫌なんだろう。 兄ちゃんに、いつまででも、俺だけの兄ちゃんでいて欲しかったんだ。 醜悪なまでの独占欲に泣きそうになる。 「キョン? どうかした?」 心配そうに顔をのぞきこんできた兄ちゃんに、なんでもないと首を振る。 「もっと、して…」 そうねだれば、兄ちゃんは怪訝な顔をしながらも、 「いいよ」 と嬉しそうに答え、胸の突起を口に含んだ。 兄ちゃんがいつまでも俺の兄ちゃんでいてくれるなら、このままの関係を続けてくれるなら、他に欲しいものなんてない。 だから俺はそれっきりで抵抗をやめた。 それでいいのかは、分からないままだったが、他に方法があるとも思えずに。 |