エロですよー
甘いですよー
…いつもそんな感じでごめんなさい






























好き事



2月15日。
未来からの介入や宝探しその他の問題を一応一通りクリアーした俺は、やっとの思いで兄ちゃんの部屋に上がりこんでいた。
何しろ、この一週間と来たらとんでもなく忙しかったからな。
古泉と二人になる時間はあっても兄ちゃんと二人きりになれる時間なんざ取れもしなかった。
だから俺は思いっきり兄ちゃんに甘えていた。
カーペットの上に、足を伸ばして座った兄ちゃんの膝に頭を載せた状態で、髪を撫でられ、首筋をくすぐられる感触を楽しみながら、
「色々、内緒にしててごめんな」
と俺が謝ると、
「いいんだよ。内緒にしてると言えば、僕も色々秘密にしてるんだし」
「そりゃ、兄ちゃんは仕方ないだろ」
「それなら、キョンだって仕方なかったんだろ? だから、気にしなくていいんだよ」
「……ありがと」
兄ちゃんのこの優しさが嬉しい。
「兄ちゃん」
「うん?」
「…大好き」
「僕も、キョンが大好きだよ」
キスしたさに体を起こそうとして、俺は顔を顰めた。
「どうかした?」
心配そうに聞いてくる兄ちゃんには悪いが、大したことじゃない。
ただ、筋肉痛が酷いだけで。
「筋肉痛? ……ああ」
兄ちゃんが小さく笑い、
「穴掘りが堪えた? それとも、朝比奈さんと奔走してたせいかな」
「両方だと思う」
本当に疲れた、とため息を吐くと、
「ご苦労様」
と頭を撫でられた。
もっと、と思ったところで、
「…あ、よかったら腰、揉んであげようか?」
意外なことを言われ、唖然とした俺に、
「そこまで驚かなくていいんじゃない?」
と笑われた。
「いや、予想してなかったから…」
「キョンが苦しいなら、少しでもそれを和らげてあげたいって思うのは当然のことだろ?」
そう言われると返す言葉もない。
「ほら、うつ伏せになって」
言われるまま、大人しく従うと、兄ちゃんが俺の体をまたぐようにして、俺の腰に手をついた。
「行くよ?」
と声を掛けた兄ちゃんが、手に力を込めた。
腰を押されて、
「う、ひゃっ…!」
と、妙な声が漏れた。
「……キョン?」
「や、やっぱりいい!」
跳ね起きようとしたのだが、兄ちゃんが上に乗っているため動けない。
「場所が悪かったかな」
独り言のように言いながら手の位置をずらし、兄ちゃんがもう一度力を加えた。
声を上げないよう堪えたが、やっぱりくすぐったい。
びくっと体を震わせる俺に気付いているのかいないのか、兄ちゃんの手がリズミカルに俺の腰を押す。
それだけでどうしようもなくぞくぞくした。
くすぐったいと言うより、これはむしろ別のものに近い気がする。
「に、ぃちゃん…っ、や、やっぱり、いいって…!」
「でも、大分硬くなってるよ? 多少解した方が楽になるんじゃ…」
むしろ別のところが硬くなってる気がする。
カーペットに爪を立てて堪えるが、どうしようもない。
「兄ちゃん! も、やだ…っ!」
「……キョン?」
俺の顔をのぞきこんだ兄ちゃんが、小さく笑った。
少しばかり意地の悪い笑みだ。
「もしかして、感じてる?」
「なっ…」
「顔が赤くなってるし、気持ち良さそうな顔してる」
そんなことで気付かれるなんて、勃ってると気付かれるよりよっぽど恥ずかしい気がする。
「キョンは背中とか弱いよね」
言いながら、兄ちゃんの手が服の下へ滑り込み、背筋をなぞる。
「ひあぁ…っ」
「可愛い」
笑いを帯びた声で言いながら、兄ちゃんが背中に唇を落としたのが分かった。
「んあっ、に、兄ちゃん!」
「ごめん、我慢出来ないんだ」
ぺろりと背中を舐められる。
「ひ、…や、ぁ…!」
くすぐったさがまるで拷問だ。
俺はそれに耐えかねて、
「どうせ触るなら、別のところのがいい…っ」
ととんでもないことを口走っていた。
兄ちゃんがそれに頷かないはずはない、と言えるほど兄ちゃんのことを知ったのはほんの少し前のことだった。
兄ちゃんが、俺が思っていたよりずっと、性的なことに関して我慢が効かないと知って、呆れるより前に驚いた。
何しろ兄ちゃんときたら、初めて俺としたあの時まで、本当に我慢してくれたからな。
俺の方が焦れるくらい。
それなのに、本当はそうじゃなかったことに、性急に求められたことに驚いた俺に、兄ちゃんは困ったような顔をして、繰り返し謝っていた。
だが、謝るようなことじゃないし、むしろ嬉しいことと思ってもいいところだろう。
兄ちゃんに、本当に求められて嬉しい。
兄ちゃんのことを知ることが出来て嬉しい。
だから俺は、抵抗も出来ないんだろうな。
「キョン、大好きだよ」
言葉を惜しみもせずに、兄ちゃんがそう囁きながら俺の首筋へ口付ける。
背中をまさぐっていた手は、脚の間へ滑り落ち、不穏な動きを見せているが、そっちの方が慣れてる分マシだ。
訳も分からなくくすぐったいよりはずっといい。
「俺も、兄ちゃんが好きだから…」
だからもっと兄ちゃんの側にいたい。
だからもっと兄ちゃんを知りたい。
もっと自分を知って欲しい。
もっと甘やかして欲しい。
もっと愛して欲しい。
もっともっともっと…。
「わがままで、ごめん…」
呟くようにそう言うと、
「キョンは全然わがままじゃないよ」
「そんなことないだろ」
自分でも呆れるくらいわがままで自分勝手だ。
「でも、それ以上に僕の方が身勝手だよ。利己的と言ってもいいくらい」
「そんなことない!」
思わず力を込めて否定すると、兄ちゃんが小さく笑った。
「ありがとう。…でもキョンは、もっとわがまま言っていいんだからね? 僕に出来るだけのことはいくらでもするから。むしろ、もっとわがままを言って、僕を頼って欲しいくらいだよ」
「……兄ちゃんもな」
「そうだね」
優しく微笑んだ兄ちゃんの指が、俺の中をゆっくりと掻き回す。
「ふあ…っ」
「じゃあ、ひとつわがまま言わせて?」
「ん、あ、な、何…?」
「もっと、声を聞かせて」
「もっと、って……」
「キョンの感じてる声、聞きたいな。いつも、我慢しちゃってるだろ」
「だ、って……」
堪えられずに声を上げてしまうことさえ恥ずかしいのに、我慢することさえやめろと言われても、困る。
「そんな、…もん……っ、聞いたって、しょうが、ないだろ…ぉ…」
「どうして? キョンの声だから聞きたいのに。それに、声を上げた方が楽なんだよ?」
「…んなこと、言われても…」
「出来るだけでいいから。ね?」
首を傾げながらそういう兄ちゃんは結構ずるいと思う。
俺は諦めて頷いた。
だが、我慢するなと言われてもなぁ…。
思わず眉を寄せると、中の弱い部分を擦り上げられた。
「ひっ…」
「口を閉じないで」
言いながら兄ちゃんが俺の口の中へ空いている指を入れた。
「ふあ、あ、っあ、ひう…っ」
兄ちゃんの指が口腔をくすぐる上に、歯を食いしばって耐えることが出来なくなり、口からあられもない声が飛び出す。
羞恥心で人は死ねるんじゃないかと思うくらい、恥ずかしい。
それなのに、兄ちゃんはこの上なく愛しげに、
「可愛いよ」
と囁くのだ。
「あ、ふっ、やら…っ、あぁっ…」
ぐちゃぐちゃと音を立てる部分がいつもより一箇所多いだけで、なんだこの羞恥心は。
口から飛び出して止まらない、アダルトビデオ紛いの喘ぎ声がまずいのか。
それとも兄ちゃんが悪いのか。
……ああ、もういい。
兄ちゃんのせいにしてしまえ。
俺がおかしいのも、どうしようもないのも全部ひっくるめて、兄ちゃんのせいだ。
言葉でねだる代わりに、口の中で悪戯を繰り返す指に吸い付いて先をねだる。
舌を絡めて、軽く歯を立てて、兄ちゃんを煽る。
「全くもう…」
兄ちゃんの困惑するような声がした。
「どこでそういうことを覚えてくるのかな」
分かってて聞いてんだろうな?
そうじゃなかったらこの指噛み切るぞ。
「全部、兄ちゃんのせいだろ」
兄ちゃんのせいで覚えるんだ。
「そうだね。……もう、入れていい?」
待っていた問いかけに、こくこくと頷くと、口から指が引き抜かれた。
熱くて硬いそれに、どうしようもなく欲情する。
「兄ちゃん…っ」
早く、とねだろうとしたところを、貫かれた。
「ひっ、あ、あああ……っ!」
隣近所に響き渡ったんじゃないかと思うくらい、声が出た。
恥ずかしい。
というかほぼ確実に聞かれただろう、今のは。
羞恥で真っ赤になった俺に、兄ちゃんは楽しげに笑いながら、
「大丈夫だよ。気にしなくても」
「んなっ、こと、…っあ、言われ、たって…!」
「兄ちゃんを信じて。ね?」
何をどう信じろって言うんだ。
と問うより早く、体を揺さぶられる。
「あ、兄ちゃん…っ、にいちゃ、あぁ…っ」
後はもう、思考を放棄して堕ちるだけだ。
男の喘ぎ声なんてもんを耳にしちまった可哀相な人々の中に子供が含まれないことを祈った。

コトを終えた後はいつも、俺だけぐったりしていて、兄ちゃんは平然としているってのは体に掛かる負担の違いなのか。
それとも俺に体力がないということなのか。
そんなことを俺が考えているとも知らずに、兄ちゃんは俺に布団を掛けて、寝室を出て行った。
リビングから移動しただけならここまで疲労困憊したりしない。
歯止めの効かない兄ちゃんと、歯止めをかけることさえ出来ない俺が悪いんだろう。
ふぅ、とため息を吐くと、
「疲れさせてごめんね」
と言いながら、兄ちゃんが戻ってきた。
「…別に、大丈夫だ」
「そう?」
疑うような眼差しを向けても、それ以上問い詰めたりはしないらしい。
兄ちゃんは俺の顔をのぞきこむと、笑顔で言った。
「口、開けてくれる?」
「ん?」
首を傾げながら口を開けると、丸いものが口に放り込まれた。
ほろ苦いのに甘い。
「……チョコレートか」
「そう。一日遅れどころか、もう二日遅れになっちゃったけど、バレンタインチョコのつもりだよ」
「…ありがとな」
「どういたしまして」
「…俺は何も用意してないんだが」
ホワイトデーに三倍返しか?
「いいんだよ、そんなの。僕がキョンに食べさせたくて作ったんだし。それに僕はキョンを食べさせてもらったし」
にやにやと笑いながら言った兄ちゃんに、
「……エロ親父みたいなこと言うなよな」
呆れながら呟くと、兄ちゃんは苦笑した。
「ごめんね。キョンを見てるとどうしてもだめなんだ」
「…それも嬉しいから別にいいけど」
「ありがとう」
そう笑った兄ちゃんの笑顔は、口中に広がる甘さよりずっと甘ったるいと思った。