これは、本編がヤンデレルートに入らないために書かれたヤンデレエンド作です
よって、思いっきりバッドエンド(一部の人にはハッピーエンド?)です
キョンが病み過ぎてキモイ怖いヤバイの三拍子揃ってます
流血グロ表現ありで結構痛いです
以上、お確かめの上、「ヤンデレバッチ来い!」という方のみ、お進みくださいませ
それ以外の方はバックプリーズ
というか、番外編なので正直読まなくても無問題ですよ
いつもよりちょっと多めに下げときます
兄ちゃんは、絶対に俺のものにはならない。 そんなことはずっと前から分かっていたはずだって言うのに、俺はどうしても兄ちゃんを思うことを止められなかった。 気が付くと目が兄ちゃんを追い、兄ちゃんを見るだけで胸が苦しくなった。 締め付けられるような痛みに慣れ、それを意識しなくなった頃には、その代償のように俺はおかしくなっていた。 うまく、笑えないのだ。 「古泉」と違って四六時中笑顔を保たなければならないわけではないのだが、それでも、俺の笑みが強張り、しまいには表情筋を使うことさえ放棄してしまうようになったところで、とうとうハルヒに聞かれた。 「あんた、どうかしたの?」 「いや、なんでもない」 答えながら、胸のうちに湧き上がるのは明確な殺意。 ハルヒさえいなければよかったのに。 ハルヒが妙な力を持ってなければよかった。 俺を好きでなければいい。 ハルヒなんて――死ねばいい。 「キョン?」 怪訝そうな顔をしたハルヒに呼ばれ、慌てて表情を整えた。 そうは言ってもまだぎこちないんだろう。 「…あたしでよかったら、相談に乗るけど……あたしじゃ話し辛いことみたいね。古泉くんに…」 「あいつに話すことなんてない」 ガラス以上に硬質な声に、ハルヒは目を見開いた。 それでも俺は苛立ちに顔を歪めながら、 「……悪い、やっぱり疲れてるみたいだな」 「…そうね。今日はさっさと帰りなさいよ」 頷きながら、俺はハルヒに背を向けた。 ハルヒは悪くない。 悪いのは、兄ちゃんを好きになってしまった俺だ。 弟として可愛がられるだけで満足出来ない俺が、悪い。 兄ちゃんを独占したいと考える俺が。 今も、また、だめだと思いながら、つい、兄ちゃんの部屋へと足を向ける。 兄ちゃんは放課後、下校時間まできっかりと部室で過ごすだろうから、当分帰ってこない。 兄ちゃんの部屋の鍵を、随分前に渡されていた合鍵で開ける。 ふわりと香る、兄ちゃんの匂い。 夢遊病患者のような足取りでふらふらと兄ちゃんの寝室に入り、ぼさりと兄ちゃんのベッドに倒れこむ。 ブレザーが皺になるとか、そんなことももうどうでもよくて、兄ちゃんの匂いを吸い込んだ。 「……変態」 呟いた言葉が自分を我に返らせるためのものなのか、それとも更に興奮させるためのものなのかさえ、分からない。 ただ兄ちゃんが好きで、好きで、好きで。 人を愛することが世界規模の犯罪になり得るなんて、俺は知らなかった。 人を愛する気持ちが、こんなにも醜悪だなんて、知りたくもなかった。 愛を素晴らしいと謳う奴等は皆死んでしまえ。 愛なんて、醜くて、どうしようもなく扱い辛いもの、この世から消えてしまえばいいんだ。 兄ちゃんの布団に潜りこみ、兄ちゃんの枕を抱きしめて、俺は目を閉じた。 もうずっとまともに眠れていなかったのに、兄ちゃんの匂いだけで俺は安らかに眠れた。 このまま目覚めなければいいのにと思うほど、穏やかに。 兄ちゃんの匂いに包まれて、眠ったまま死ねたら、どんなによかっただろう。 でも、この時目覚めなければ、俺はきっと、兄ちゃんを自分のものにすることは出来なかった。 一生かけても、絶対。 「おはよう、キョン。よく寝てたね」 目を開け、体を起こすと、兄ちゃんの笑顔が見えた。 「ん……悪い…」 「体調が悪そうだったって涼宮さんに聞いて心配してたんだよ。うちで寝てたのにはビックリしたけど、確かに、家に帰るよりは近いからね。もう大丈夫?」 「…ああ」 答える声がなおざりになったのは、兄ちゃんがハルヒの名前を出したからだ。 兄ちゃんが他の人間のことを言うだけで苛立つ俺もどうかしている。 それでも、感情は止められない。 「……まだ少し、具合が悪そうだね」 そう言った兄ちゃんの手が、俺の額に触れる。 振り払わなければと思うのに手が動かない。 俺の大好きな兄ちゃんの、大好きな手。 それが優しく俺の髪をかき上げ、額に触れた。 冷たいのか暖かいのかも分からない。 それだけで、ぼろぼろと涙がこぼれた。 「きょ、キョン!?」 驚きの声を上げる兄ちゃんに、俺はただ縋りついた。 兄ちゃんの制服をぎゅっと握り、兄ちゃんの胸に顔を押し付けると、兄ちゃんの匂いがする。 俺は声を上げることも出来ずに、涙を流し続けた。 兄ちゃんは戸惑いながらも俺のことを慰めるように抱きしめてくれたが、それがかえって辛かった。 「…そんなに疲れさせて、ごめんね」 兄ちゃんが優しい声で言った。 兄ちゃんの言葉なら一言も聞き逃したくない、と顔を上げた俺に、兄ちゃんは寂しげに笑って言った。 「もう、無理はしなくていいから」 「……何…?」 どういうことだ。 無理をしなくていいと言いながら、どうして兄ちゃんがこんなにも哀しげな顔をするのかが分からなかった。 それに、俺が無理をしているということが兄ちゃんにばれていたことも、驚きだった。 「分かるよ。キョンのことだから」 兄ちゃんの、俺の背中を撫でる手は、優しいのに。 「…機関に頼んだから。僕を転校させてくれるように」 兄ちゃんの言葉が、信じられないほど、痛かった。 「な…んで…」 驚きに涙さえ止めた俺に、兄ちゃんは苦い笑いを浮かべた。 「僕が近くにいるから苦しいんだろう? なんでもないんだって、演技をしなければならないから。だから、離れよう」 「…ゃ、だ…!」 子供が駄々を捏ねるように、俺は声を上げた。 一瞬止まったはずの涙が、また情けなくこぼれだす。 「いやだ、兄ちゃんと離れるなんて、そんなの、絶対に嫌だ!」 「一緒にいる方が辛いだろう?」 それは確かにそうかもしれない。 だが、それでも離れたくない。 「兄ちゃんと、一緒にいたい。兄ちゃんがいないなんて、もう嫌だ…!」 フラッシュバックするのは、改変された世界での嫌な記憶だ。 俺に兄がいないということになってしまっていたあの世界で味わった絶望。 兄ちゃんではない「古泉」が俺に向けた、不審の目。 兄ちゃんは俺のものではないけれど、兄ちゃんが俺の兄ちゃんですらなかった。 恐怖に頭を抱えこむ俺を、兄ちゃんは優しく撫でる。 「落ち着いて、キョン。別に、一生会えなくなるわけじゃないんだから……」 「それでも、今みたいに会うことも出来なくなるんだろ! そんなの嫌だっ!!」 「キョン……」 「兄ちゃんは、それでいいのかよ」 睨みあげるようにして問うと、兄ちゃんは一瞬の躊躇いの後、静かに頷いた。 「それが最善だと思うからこそ、頼んだんだよ」 「…っ」 息が苦しい。 呼吸さえまともに出来ない。 「……キョン?」 意識が遠のく。 今、手を放したら、兄ちゃんはいなくなってしまうかも知れないのに。 「キョン!」 目の前が、真っ暗になった。 行かないでくれ。 俺の前からいなくならないでくれ。 兄ちゃんがいなかったら、俺はまともに生きていくことすら出来ないから。 息をすることだって出来なくなってしまうから。 そんな風に倒れたことさえ、兄ちゃんを引き止めるためにしたことに思えた。 穢い自分。 どこまでも打算的な自分。 何もかもが嫌いで、――壊れてしまえと思った。 それでも、俺の意識が消失したのは一瞬で、目を開けるとまだ兄ちゃんの動転した顔が見えた。 「キョン、大丈夫? 病院に行った方がいいんじゃ…」 「いい。兄ちゃんさえいてくれれば、大丈夫だ…」 「…キョン……」 そんな困った顔をしないでくれよ。 もう俺には、どうすればいいのか分からなかった。 どうすれば、兄ちゃんを引き止められるのか分からなくて、このまま離れ離れになることが嫌で。 だから、言っちまったんだろう。 「……俺、…兄ちゃんが好きなんだ…」 「…キョン? いきなり何を…」 「兄ちゃんのことが、好きなんだよ。兄弟としてじゃなく、恋愛感情で、好きなんだ」 兄ちゃんの顔が硬直した。 凍りついたと形容してもいいかもしれない。 「僕は……」 「言わなくていい」 言葉なんかより、その反応が何よりも如実に答えを示していた。 絶対的な拒絶だ。 俺は既にガタが来ている表情筋に無理を言わせて、笑みの形を作った。 「ごめんな。兄ちゃん。いきなり変なこと言って……。忘れて、いいから」 涙が頬を伝ってく。 引き止めるどころか、兄ちゃんを余計にい辛くさせるようなことを言っちまうなんて、本当にどうかしていた。 そして、一度出した言葉は消せない。 冗談だと訂正することは出来たかもしれない。 そうすれば兄ちゃんも、笑ってなかったことにしてくれたかもしれない。 でも、嫌だった。 そんなことさえ、嫌だったんだ。 それくらい、兄ちゃんが好きで、好きで、好きで…。 「ごめんね、キョン。ごめん…」 囁かれる兄ちゃんの言葉が耳に痛かった。 抱きしめてくる兄ちゃんの腕の暖かさが、苦しかった。 兄ちゃんが欲しい。 兄ちゃんを俺だけのものにしたい。 それなのに、出来ない。 出来ないから苦しい。 でも――本当に、出来ないのか? 自分の考えたことにぞっとした。 怖気が走った。 びくりと身を竦ませた俺に、兄ちゃんが訝しむ声を上げた。 「キョン? どうかした?」 「なんでもない」 言いながら俺は兄ちゃんを見つめ、 「……なぁ、今日、泊まってっても、いいか?」 「……」 困ったように黙り込んだ兄ちゃんに傷つきながら言い募る。 「……警戒しなくても、変なこととかするつもりもないし、掃除とかして行きたいだけだから。それに、もう動くのもだるいんだ。本格的に調子が悪くなっちまったみたいで」 兄ちゃんはしばらく考え込んだ後、 「…そうだね。一人で帰らせるのは心配だし、いいよ。泊まっていって」 「…ありがとな」 そうして、ぎこちないまま兄ちゃんと食事をし、風呂に入って、兄ちゃんと一緒に寝た。 俺も、ちゃんと眠ったはずだった。 それなのに、 「……あれ…?」 気が付くと、キッチンにいた。 手に持っているのは、銀色に光る、やけに手入れのいい兄ちゃんの包丁。 兄ちゃんは掃除は苦手なくせに、調理器具の手入れについては手間を惜しまないらしい。 刃こぼれもなく、良く切れそうな包丁だ。 朝倉に二度もナイフで襲われ、一度は腹を刺されて以来、理由もなく刃物など持ちたくもなかったはずなのだが、何で俺はこんなものを持ってるんだろうな。 そう、平静を取り戻そうとした。 包丁を元の場所へ戻そうとした。 それでも体は言うことを聞かない。 だって、仕方ないだろ。 俺は兄ちゃんが欲しいんだ。 俺だけの、兄ちゃんが。 兄ちゃんを独り占めしたい。 これ以上、俺以外の何も見ないで欲しい。 俺のこと以外、何も考えないで欲しい。 そうするには、方法はひとつしかないよな? 包丁を手に、寝室へ戻る。 穏やかに眠っている兄ちゃんへ、俺は思わず笑みを零し、布団をそっと剥がした。 部屋の中は暖かく、布団を取られても兄ちゃんは特に反応しなかった。 鈍い、と兄ちゃんを憎らしく思うのは、兄ちゃんの鈍さゆえにここまで苦しめられたからだろう。 いっそ兄ちゃんがさっさと気付いてくれればよかったのに。 取り返しがつくうちに、対処してくれていればよかったのに。 俺は包丁を振り上げ、兄ちゃんの腹へと、迷うことなく突きたてた。 「…っうあ…!?」 目を開けた兄ちゃんが、信じられないといわんばかりの目で俺を見つめていた。 「キョン…!?」 ――ああ、これでもういい。 満足だ。 兄ちゃんが最後に呼ぶ名前は俺の名前でいい。 俺は答えもせずに包丁を何度も振り下ろした。 兄ちゃんの腹へ、兄ちゃんの胸へ、兄ちゃんの喉へ。 包丁を引き抜くたびに迸る、兄ちゃんの血の赤さに、兄ちゃんの匂いに、酔いながら。 「兄ちゃんの血は温かいな」 そんなことを呟きながら、体中に兄ちゃんの血を浴びて。 しばらくまともに浮かべることも出来なかったはずの笑みを、顔いっぱいに浮かべて。 兄ちゃんは抵抗どころか、逃げようとさえしなかった。 動かなくなったその時に、兄ちゃんが浮かべていた表情は、俺の大好きな、あの穏やかな笑みで。 俺は兄ちゃんの首を切り落とすと、ボロボロになった包丁を床に捨てた。 真っ赤に染まった手で、兄ちゃんの頭を持ち上げる。 それを自分の顔の高さまで掲げて、兄ちゃんの赤い唇に口付けた。 「…やっと、俺のものになってくれたんだな」 大好きな兄ちゃん。 何よりも愛しい兄ちゃん。 俺だけの兄ちゃん。 舐め取った兄ちゃんの血は、甘かった。 |