のっけからエロですー

















































不安と誓い



俺をすっぽりと包み込むようにして抱き締めた一樹は、遠慮の欠片もなく、それどころかそれが自らの所有物であることを誇るかのように俺の胸を揉みしだきながら、どこかむっつりと、不機嫌そうに言った。
「…また大きくなったでしょう」
「…微妙にな」
赤面しながら答えた俺だったが、
「…何か文句でもあるのか? 大きいのは好きじゃないとか…」
「胸の大きさや形にこだわりは別にありませんけどね……」
とまだ不満そうな一樹に俺は眉を寄せ、
「じゃあなんだよ? 言っておくが、こんなになったのは俺のせいじゃなくてお前のせいだろ」
夜中にこっそり豊胸マッサージをしていることはあくまで伏せに伏せつつ言えば、一樹はなんとも言い難いような、唸るような声で、
「…本当に、そうでしょうか」
と言いやがった。
お前のせいじゃなかったらなんのせいだっつうんだろうな、この馬鹿は。
「物理的なものより精神的なものが大きいとは考えられませんか? あなたの意識がどんどん女性側に傾いているからこそ、身体面でも変化が起こったのではないかと、僕は考えています。そして、あなたがそうなったのは、涼宮さんたちに自らのことを明かし、女性として過ごしていられる時間が増えたからではないのでしょうか」
むっつりした声のまま長々と述べつつも、その手は動きを止めず、しつこく、かつ、いやらしく俺の胸を揉み続けている。
最初は服の上からだったはずのそれが、気がつけば服の中に入り込み、それどころかブラを緩め、その中まで入り込んで、直接肌に触れていた。
手の平を使って大きく揺らし、揉み、指先で硬く赤くなった先端を挟み、転がしている。
それだけで息が上がっちまいそうになりながら、
「ぁ、…それ、が、嫌なのかよ…っ…」
「あまり面白くはないですね。…僕よりも、他の人の影響の方が大きいようで」
「…ばっか……」
大本の原因はお前だろ。
「そうですか?」
そうだ。
つうか、改めて言わせるなよ…。
「お前が、…っ、好き、だから、お前が、俺のこと、好き、って、言って、こんなこと、してくるから……こんな、なったに、決まってんだろうが…っ」
というか、お前はいつまでそこばっかりいじり続けるつもりだ!?
思わず怒鳴ると、
「すみません」
と笑われた。
この野郎。
「でも、胸だけでもよく感じるようになりましたよね。最初の頃はやっぱり、男性としての性感が勝っていたのに、この頃は前を堰き止めていたって、後ろだけでイケそうじゃありませんか。…ふふ、試してみましょうか」
「や、ぁ…!」
抗うように手をばたつかせる俺の抵抗が甘いのか、一樹は苦もなく俺の脚を割り開くと、硬くなって勃ち上がっている男の部分には触れもせず、女物の下着の下で、はしたなく粘液を滴らせている部分に指を滑り込まされた。
「あっ…、や、……んん…」
「胸を触られただけで、こんなに濡れてますよ。ほら、音がしてるのが聞こえませんか?」
「ひゃ、あ、やああ…!」
わざと空気を含ませるように大きく指を動かされ、そこが猥らがましく音を立てる。
「恥かしくても、気持ちいい? まだどんどん溢れてきますよ」
ほら、と言いながら古泉は、ほとんど力の入らない俺の手を取り、そこへと導いた。
指先を濡らす粘った液体に、羞恥心を煽られる。
「いじ、わる…っ…」
泣きそうになりながら言うと、一樹は困ったような笑い声を耳に吹きかけ、
「すみません。やりすぎましたか? …どうもいけませんね。あなたが可愛らしいから、つい、泣かせてみたくなってしまうんです」
「ばか…」
「それに…あなたが、少しくらいなら許してくれるということも、分かってしまうものですから」
そんなことを言いながら、一樹は俺の肩に優しくキスをした。
それだけで、少しとはいえ確かに苛立ち、ささくれだっていたはずの気持ちが収まるのは、どうしたもんだろうな。
我ながら、さっきまでとは別の意味で、恥かしい。
自分のもので濡れた俺の指先を持ち上げた一樹が、それを口の中に含む。
「っ…やめろって…」
「これくらい、いいでしょう?」
くすりと笑った一樹は、見せつけるように指先を舐め上げる。
視覚の暴力だ。
じゅんと余計に濡れた気がしたのは気のせいだと主張させてもらいたい。

「ずっと考えていたことなんですけれど、」
そう言って、妙に真剣な顔で一樹が俺を見つめてきたのは、後始末も終って俺がぐったりとベッドに体を横たえた時のことだった。
俺はもうとろとろと眠りそうになっていたのだが、一樹がどうやら真面目な話をするつもりだと感じたので、眠い目を無理に見開き、一樹の瞳を見つめ返した。
ところが、だ。
マジな顔をして一樹が言ったのは、
「…僕が結婚出来る年齢になったら、生でしてもいいですか」
というとんでもない問いかけであり、俺は思わず赤面することすら忘れた。
何を言い出すんだこいつは。
ぽかんとしている俺に、いつになく弱気な声と表情で、
「…だめ、ですか?」
と聞いてくる一樹は、どうやら本気で聞いていたらしい。
冗談でも、揶揄するためでもなく。
だとしたら、それはそれでどうなんだと言いたくもなるのだが、俺はとりあえず、
「……本気か」
と確かめた。
「本気ですよ。冗談で言えると思いますか」
「いや……」
つうか、生でしたことくらいあるだろ。
一度きりだが。
「そういうことじゃないんです。僕は、あなたとの子供が欲しいと、そう言ってるつもりなんですよ?」
「…は?」
今度こそ絶句した。
ああ、絶句するしかないだろ。
普段あれだけ無駄なボキャブラリーを誇るこいつが、あんな言葉で以ってそんな心情を表現しようとしていたなんて。
というか、まさかと思うがこれはプロポーズの一種なんだろうか。
…いや、だとしても俺は認めんぞ。
こんな、ベッドの上でお互い下着しか身につけていないような状態でのプロポーズなんて、物心がつく前に父親に奪われたファーストキス同様に、数の内に入れてやるものか。
唖然としている俺に、一樹も流石に言葉の選択を誤ったと気がついたらしい。
「つまりですね、その、僕は、あなたと一生を共にしたいんです。あなたと結婚し、子をなし、それこそ孫やひ孫の顔を見るほど長く、ずっと、あなたと一緒にいたいんです。それに、……不安でも、あるんです」
そう言って一樹はそっと目を伏せた。
どこか泣き出しそうに見える角度で布団を見つめつつ、
「…あなたは、魅力的な人です。それは僕にとってだけではありません。他の男性諸氏にも、…女性にとってだって、魅力的な人です。おまけに、あなたは今まで以上に美しく、綺麗になっていこうとしているでしょう。あなたに見惚れる人がいるたび、あなたに惹かれる人がいるたび、僕は、どうしようもなく不安になるんです。いつかあなたが、僕以外の誰かを好きになってしまうんじゃ、ないか、と…」
苦しげに言葉を途切れさせた一樹は、俺を抱きしめると言うよりもむしろ俺に抱きつくような形で俺の背中に腕を回し、
「…汚いと罵られる覚悟で、言います。…あなたを、束縛させてください。結婚という法的な形と、子供という目に見えるもので」
そう言って黙り込んだということは、俺の返事を待っているということなんだろう。
…が、正直、困る。
どう答えろというんだ。
嬉しくないといえば嘘になる。
俺だって、女だからな。
惚れた男にここまで言われて嬉しくないはずがない。
だが、同時に、女だからこそ思うのだ。
……プロポーズなら、もう少し、そう、もう少しだけでいいから、場所と状況を考えた形と表現でしてくれよ、とな。
それに、普通結婚とか子供で束縛ってのは女の考え方じゃないのか?
少なくとも、どろどろの愛憎劇を描く昼ドラなんかだとそうだろ。
実際、俺だって一度も考えなかったわけじゃねぇしな。
ああ、ゴムに穴でも開けといてやろうかと思ったことくらい、一度や二度ならずあったとも。
流石に思い止まったし、それに似たことを口に出したこともないがな。
なのに、お前が言い出すのかよ。
呆れのあまり、思わずため息を吐けば、俺に抱きついたままの一樹が怯えるようにびくりと身を竦ませた。
そう怖がるなって。
それくらい本気なら余計に、シチュエーションを選んでくれ。
でも……それも出来ないくらい必死なんだとしたら、…悪くない。
だから俺は口を開き、
「…お前なら、絶対、一生大事にしてくれるんだろうな」
「勿論です!」
必死の声で言い、俺を見つめてくる一樹の表情は、外では決して見られないようなものだ。
おそらく、俺にだけ見せてくれる、顔。
それが愛しくて、嬉しい。
「愛してる」
思わずそう囁いて微笑むと、一樹の顔にも喜色が差す。
「じゃあ…」
「だが、それと生で云々は別だ」
つうか、本気でもう少しマシな言い方はなかったのかよ。
「大体、計画性の欠片も経済的保証もなしに子供を産めるような時代じゃないだろ」
「計画性と経済力があればいいんですか」
せがむように言う一樹なんて、本当に珍しい。
口元が笑ってしまいそうになるのを堪えながら、俺は渋面を作り、まず無理だろうと思いながら条件を告げてやる。
「…そうだな。お前が十八を過ぎて、貯金額が一定以上あって、その後の収入もある程度確かだってことになったら、子作りだろうが結婚だろうが、お前が望む通りにしてやるよ」
ロマンの欠片もなければ恥じらいすらないような返事だが、一樹の言い出した言葉が言葉だったんだから仕方ないだろう。
それに、そんなことなど一樹は気にもしなかった。
「本当ですね?」
と俺に言質を求める。
「ああ」
「約束ですよ?」
「分かってる」
そこでやっと、安心出来たんだろう。
「…嬉しいです」
そう言ってふわりと微笑んだ一樹が俺の体を抱き締めなおし、俺にキスをした。
優しく触れるだけのキスは誓いのキスに似ているように思えた。
「…僕も、本当なら結婚が先だということくらい、分かっているんです。…でも、結婚には準備も手間もかかるでしょう? それすら、待てないんです。それくらい、不安で、…それ以上に、あなたに夢中で……あなたを、放したくない…」
独り言のような言葉、敬語ではない言葉に胸が高鳴る。
それくらいには、俺もやっぱりこいつが好きで仕方ないようだ。
「…放したくないのは、俺も同じだ」
そう囁いて、今度は俺から口付ける。
さっき、無理だろうと思った条件を、一樹が早く、それこそ一日でも早く満たしてくれないかとさえ思いながら。