色々とエロいですよ
















































怨み寝



古泉の携帯が、おそらく最悪と思われるようなタイミングで鳴ったのは、金曜の夜十時頃のことだった。
俺は古泉の部屋に泊まりに来ていて、それまで飯を食ったり話したりテレビをだらだら観たりしていた。
しかし、お決まりのパターンと言うかなんと言うかで、とにかく、俺はシャワーを浴びて、Tシャツだけを着た状態で上がってきたんだが、そこで古泉の携帯が鳴ったわけだ。
「……出ないのか?」
「出なきゃいけないんですけどね」
と古泉は強張った苦笑を浮かべた。
「出たくないんです。…出たら、あなたをおいて出ていかなくてはいけませんから」
「行っていいんだぞ」
俺はそう、嘘に似た言葉を呟く。
「待ってるから、早く済ませて帰って来い」
本当は、行かせたくない。
それが古泉にも分かるんだろう。
古泉は辛そうに顔を歪めながら俺を抱きしめた。
「すみません」
「誰が悪いんでもない」
言ってみたら自然災害みたいなもんだ。
俺はそう言って鳴り続ける携帯を拾い上げ、古泉に渡した。
そうして古泉の声が聞こえないように布団に潜りこみ、頭まで隠れた。
聞きたくない。
古泉が誰とどんなことを話すのかさえ、聞きたくない。
一度見た、機関の人間と話す古泉は、いつもの古泉と違っていて、酷く遠く見えた。
あれは俺が知らない姿。
同時に、古泉が知られたくないと思っているらしい姿だ。
だから俺は見ないでいる。
あれは多分、俺の古泉ではないんだろう。
それだから俺は干渉しないし、出来ないんだ。
ぽんぽんと、布団越しに頭を撫でられた。
布団から顔を出すと、これから激戦地に赴く兵士のような悲愴な表情で古泉が俺を見ていた。
「行ってきます」
「…ああ」
俺は古泉の頭を引き寄せて、頬にキスした。
古泉は小さく笑い、それから俺の唇にキスを落とし、ついでに部屋の明かりも消して出て行った。
ガランとした古泉の部屋に、ひとりになる。
光も音もほとんどない部屋にひとりというのは精神衛生上よくない気がする。
無意味にネガティブな考えばかりが、浮かんでは消えるからだ。
眠ってしまおうかと目を閉じるが、ダメだ。
古泉が危なくなっていたらとそんなことばかり考えてしまう。
あいつにしてみたら、それはもはや日常業務であるらしいのに、そんなことをこうして知っている時だけ思ったって、俺にはどうしようもないのにな。
そうやって眠れないまま薄暗い中でしばらく過ごした。
授業中ならいつだって準備万端で現れるはずの睡魔はいつまで経っても姿を現さない。
それはうだうだと考えてしまうからというよりもむしろ、身体が妙な熱を持っているせいなんだろう。
…仕方ないだろ、久し振りに恋人と二人きりで過ごせると思ったらこうなんだから。
今頃命懸けで戦っているのだろう古泉を思うと胸が痛まないでもなかったが、古泉のことを考えるだけで熱が昂ぶってくる気がする。
俺は自分の腰からするりと手を滑らせ、普段なら触らない場所に指先で触れた。
ぴくりと震えるほどの電撃にも似た感覚が身体を駆け抜ける。
枕からする、古泉の髪の匂い。
今着ているのも古泉のTシャツ。
諸々のことが俺を突き動かす。
「っは…あ、……一樹ぃ…」
滅多に使わない呼称であいつの名前を呼ぶだけで、頭がくらくらしそうなほど快感が高まる。
指で触れているだけでくちゅくちゅと淫らがましい水音が響く。
そこよりも遥かに触れやすく、熱くなっている場所には手を触れる気にさえなれないのは、今の俺が女の気分だからなのかもしれない。
あるいは、肩透かしを食らったせいかも知れないが。
一樹の留守に、一樹の布団の中で、ひとり、恥ずかしいことをしている自分が、信じられない気がする。
俺はそこまであいつが欲しかったんだろうか。
「早く……来いよ…っ……一樹…」
甘ったるくさえ思える声が漏れる。
やけに熱を持った自分の中を恥ずかしげもなく掻き回しながら、脳裏に一樹の姿を描く。
思い起こすのは大抵、見慣れた笑顔ではなく、余裕のない時の素の表情だ。
一樹が見せたくない姿があるのは分かる。
それは俺の方も見たくないと思うものかもしれない。
だが、そうじゃない部分を、もっと見せて欲しいとも思う。
もっと知りたい。
かっこ悪くてもいい。
むしろ、かっこ悪いところが見たい。
いつもかっこつけてばかりのあいつの、人には誇れないようなところを見たい。
その方がずっと安心できる。
取繕った姿だけじゃ、嫌だ。
「…ん、あ、っふあ……!」
快感に頭の中をチカチカと光が舞い飛ぶ。
それでも、足りないと思う自分がいる。
「一樹…っ、欲しい…のに……」
本当に、なんでこう間が悪いんだろう。
俺がやりたくない時にあいつがやる気満々だったりもするのに。
欲しくて欲しくて堪らない時に、なんでいなくならなきゃならないんだ。
ハルヒの馬鹿野郎っ。
「一樹…!」
「呼びましたか?」
ぎょっとして顔を上げると、古泉がいた。
「お、お前…いつの間に……」
「ついさっきです。一応声は掛けたんですけど…」
と古泉は妙な姿勢で布団の中にいる俺へざっと目をやり、
「気がつかなかったみたいですね」
「早かったんだな」
「ええ、小規模なものでしたから。それで、」
ぎしりとベッドをきしませて古泉がベッドに足を掛けた。
「何をしてらしたんです?」
「な、何って……」
「ひとりで、布団の中に隠れて、夢中になって何を?」
分かってて聞いてるなこの野郎。
悔しさに涙が出てきそうだが、泣いてどうなるわけでもない。
と言うわけで俺が取ったのは――いわゆる逆ギレという方法だった。
「うるさい! 余計なことを言ってるような余裕があるんだったら、さっさと脱げこのバカ!!」
「どうせならもう少しソフトに誘っていただきたいところですが、それは高望みというものでしょうね」
一々人の神経を逆撫でする野郎だ。
本当にこいつは俺が好きなのか?
そしてもう一度俺に問いたい。
本当にこいつが好きなのか? と。
しかし、抱きしめられただけでそんな問いはどこかに吹き飛んでしまうのだから、俺も安上がりと言う他はないな、全く。
「あなたが僕の名前を呼びながら自分を慰めてたなんて、僕の方こそ考えるだけでおかしくなってしまいそうですよ」
言いながら一樹がシャツを脱ぐ。
そんな姿も様になるって、どんな生き物なんだお前。
「あなたこそ、何をしていても魅力的に見えて、僕は毎日困ってばかりですよ」
そう笑う手が、俺の被っていた布団を剥ぎ取り、皺になったTシャツをまくりあげる。
立ち上がった乳首を舐められて、思わずのけぞった。
「ここも触ったんですか?」
「んなとこ…触るか…っ」
自分で触ったってどうってこともないからな。
それなのに、なんで、こいつに触られるとこんなに気持ちいいんだ。
頭の中の回線が何本か切れてしまったんじゃないかってくらい、くらくらする。
「では、ここですか?」
俺の唇に今触れたはずの唇が、意地の悪い言葉を呟く。
その手が触れるのは、俺の男の部分だ。
俺は黙って首を振った。
「もう、いいから…ぁ、入、れて…」
声の甘さも、言っていることも恥ずかしくて仕方ない。
けど、しょうがないだろ。
このままじゃおかしくなりそうなんだ。
今ならどんなことでも言ってしまいそうで怖いくらいだ。
だが、一樹はそれ以上無体をするつもりはなかったらしい。
かすかに喉が鳴ったかと思うと、その手が俺の恥ずかしく濡れそぼつ場所に触れた。
「は、ぁ……」
「もう、十分みたいですね」
「だ、から…っ早く…!」
「分かりました」
どこか余裕をなくした声と共に、熱いものが押し当てられる。
それだけでぐずぐずに溶けてしまいそうだ。
ああ、いっそ溶けてしまってもいい。
そうして一樹とひとつになってしまえればいい。
バカみたいな夢想は、ささやかな痛みと、強烈な快感に切り裂かれ、俺は近所中に響き渡るんじゃないかと思うような嬌声を上げた。
熱に浮かされるまま、好きだと、愛してるんだと、何度も繰り返した。
その言葉の一片でも、一樹の耳に届くことを願いながらも、その大半は俺自身の喘ぎに打ち消され、どうなったのか分からない。
ただ、意識が白くはじける寸前に、耳元で囁かれたのだろう言葉だけは、忘れない。
掠れた声で俺の名を呼んで、常体で愛を告げた、あの声だけは、何があっても。