僕を見て、気色悪いと言って顔を顰める彼。 僕を見つめて、嬉しそうに微笑む彼。 どちらも本当の彼。 理解しているはずなのに、釈然としないのは例えば、そう、こんな時――。 「古泉、お前、あそこにいる可愛い子ナンパして来いよ」 ……すみません。 ひとつお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか。 「何だ? 早くしろよ」 僕たち、今デートの真っ最中じゃありませんでしたっけ? 「だーかーら、昨日はそのつもりでいたけど、今日起きたら男としての意識の方が強かったんだからしょうがないだろ」 バイオリズムの関係なのか、はたまた単純に気分の問題なのか、彼は日によって男らしくも女っぽくもなってしまう。 ああ、ちなみに僕がずっと「彼」と言っているのはそれが彼の希望だからだ。 僕は少なからず恨めしく思いながら彼を睨んだ。 「それにしても、ナンパして来いなんて言うことはないでしょう。大体、あなた、ナンパとかしない人じゃなかったんですか?」 「谷口に誘われて乗る奴はいないだろう。あいつの成功率なんか1%にも満たないぞ。多分」 その点、と彼は笑い、 「お前なら絶対100%いける!」 「たとえそうだとしても嫌です。デートの気分じゃないにしても、恋人にそんなことを言う必要はないでしょうに……意地悪ですね」 「恨みがましく意地悪とか言うな。気色悪い」 僕は嘆息しながら言った。 「とにかく、ナンパはしません。デートじゃなくてただ単に友人として遊ぶだけでいいですから、せめて他の人に目を向けるのだけはやめてください」 「しょうがないな」 憮然としながらでも彼が頷いてくれたことで僕はほっとした。 その日は結局、ゲームセンターや書店などに行って過ごしたが、それはそれで楽しかったのは幸いだったのかもしれない。 その次の日。 「よう」 僕が部室にいると彼が来た。 機嫌がいいように見えるが、何かあったのだろうか。 と思っている間に、彼が僕の正面に座った。 「あー……」 顔はこちらに向けないまま、彼は言う。 「昨日は悪かったな」 「いえ…」 「……怒ってるだろ」 「そんなことはありませんよ」 怒っているように見えるとしたらそれは、あなたが良心の呵責を感じているからだと思いますよ。 「…かもな」 そう笑って彼は椅子から腰を浮かした。 「ごめん」 言葉と共に唇に触れたのは彼の唇に間違いない。 我知らず唇が緩んでくるのを、 「にやけるな、ばか」 と叱られた。 「にやけずにいられるはずないでしょう。昨日つれなくされた後ですから、余計に嬉しいんです」 「だから、昨日は悪かったって言ってるだろ」 「嬉しいと言ってるだけですから、気にしないでください」 彼は拗ねたように唇を尖らせ、僕から目を逸らしたのだった。 気色悪いと言われても、理不尽なことを言われても、嫌いになれない。 嫌がられた次の日に甘えられても。 ギャップさえもかわいくて、愛おしくて堪らなくなるのは、僕が彼に夢中になっているからなのでしょうか? |