「ふと思ったんだが」 俺は行為の後独特の倦怠感に身を任せながら、ベッドで仰向けになっていた。 傍らには当然、一樹がいる。 まだ物足りないとでも言うのか、はたまたスキンシップが好きなだけなのか、俺のことを抱きしめながら、その片方の手がふらふらと俺の体をさ迷っている。 それを押さえて止めながら、俺は言った。 「もしかして、俺はお前に甘くないか?」 「そうですか?」 甘いだろう。 なんのかんの言って、お前に言われるままここにきて、言われるままにヤって、言われるまま泊まろうとしてるんだぞ。 本当ならさっさと帰って飯を食いたいってくらい腹が減ってたってのに、来てやってるんだし。 「そうですね。でも、普段は冷たいですよ。キョンくんは」 キョンくんって呼ぶな。 お前が呼ぶとなんかキモイから。 「酷いですねぇ」 全然堪えてない顔で言うな。 「堪えてますよ。大切な人に罵られて喜ぶほど、変態じゃありません」 どうだか。 俺はごろりと寝返りを打ち、一樹に背を向けた。 「機嫌が悪いみたいですね」 理由も分からないのにお前を甘やかしてしまっている自分にちょっと苛立ってるだけだ。 そう言うと一樹は苦笑しつつ言った。 「僕も、あなたには甘いと思いますよ」 そうか? 十分ワガママを言っているくせに。 「あなただって言っているでしょう。普通は受け付けませんよ。人目を忍んで会うことしか出来なくて、当然、世間におおっぴらにも出来ない。その上、あなたが涼宮さんと結婚してしまう可能性は十分過ぎるほどある。そしてその時、僕には何も言えないのです。これ以上のワガママがありますか?」 否定は出来ない。 だが、あえて言わせてもらうなら、俺がハルヒとくっつくなんてことはありえないと思うぞ。 「そうですか? 涼宮さんはあなたに好意を抱いているように見えますが」 たとえそれが本当でも、あいつの好意を受け入れられる自信はない。 普通の人間の男なんて必要ないと豪語するような奴だしな。 あいつにぴったりな異世界人でも来てくれないものかと俺は切に願っている。 「それはどうでしょうね。異世界に涼宮さんを連れて行かれたりした時には、この世界がどうなるか予想もできません。出来ればそれは避けたいところです」 なら、非凡じゃない男でも探せばいい。 能力や肩書きなんかが普通の人間でも、性格や発想が少しなりとも平凡じゃなく、没個性的でなければ、それであいつはいいはずだろ。 そうでもなけりゃ、俺を気に入るはずもない。 俺は至って平凡な人間だからな。 「あなたも十分非凡だと思いますけどね」 体のことなら受け付けないぞ。 少ないとはいえ、俺以外にもいるんだからな。 「そうではなくて、この非日常の世界に慣れ切ってしまえるという点が、非凡だと思うだけです」 うるさい。 「もし……あなたが涼宮さんと付き合い、結婚することになった時には、正直に言ってくださいね。僕はあなたの選択に任せますから」 理屈を捏ね回すのが好きで、よくよく生産性のないやつだとは思っていたが、これほどとは思わなかった。 まだ起こってもいない、実現するかも分からないことを今から考えてどうすると言うんだ? 別な方向で考えるなら、たとえハルヒとどうこうなったとしても、その時に俺とお前が別れていないと何故分かる? 人生、一寸先は闇だと、俺はここ一年で痛いほど学んだんだ。 背後で、小さく笑うような声がした。 一樹の手が、俺の体を抱きしめる。 「実現するかもしれないと考えただけでも、辛いんですよ」 なんと言うか……お前の方がよっぽど女みたいな思考回路だな。 湿っぽい。 「……あなたはさばさばしすぎです」 怒るなよ。 俺は笑いながら振り返り、軽く触れるだけのキスをした。 「意外とキスがお好きですよね」 お前は嫌いなのか? 「まさか」 笑顔と共にキスされた。 深い、惜しむようなキス。 俺は笑いながらそれを受け止め、同時に動き始めた一樹の手を、今度は止めなかった。 …ほら、やっぱり俺はお前に甘いんだ。 |