設定からしてアブノーマルですがエッチいですよ。
いつもは賑々しい文芸部室が、その日は若干静かだった。 人はいる。 話し声もする。 しかしどこか奇妙な緊張感が張り詰めていた。 とうの昔に退校チャイムは鳴り、部屋の中も外も夜の闇が忍びよろうとしている。 それでも何故か、オセロ盤を間に挟んだまま、じっと話しこんでいる二人がいた。 ぱちんぱちんと駒を返す音は心地よく響く。 だが、いつもなら圧勝するはずのキョンの調子が、今日は悪いようだった。 「どうかしたんですか?」 古泉が尋ねても、キョンは適当に誤魔化すだけだ。 古泉はいつもの気障ったらしい仕草で肩を竦め、 「まあ、あなたが僕のことを信頼したくないのも分かりますけどね。一応、仲間なんですから。それに、この団の中で、たった二人の男子でしょう。悩みくらいなら、うかがいますよ」 「何が仲間だ」 キョンは、彼にしては珍しく、どこか噛み付くような調子で言った。 「お前はまず『機関』の任務があって、ここにいるんだろ」 「あなたは……それが、気に入らないのですか?」 「……はぁ?」 呆れた様子でキョンは言ったが、古泉は気にせず、 「あなたは僕に対して気に入らないと思っているように見えます。それは僕の被害妄想でしょうか? それとも僕はいっそ消えた方がいいのでしょうか?」 「消えた方がってなんだよ」 「そろそろ、謎の転校生という属性もなくなりそうですよね」 関係のないことに聞こえる古泉の言葉に、キョンが凍りついた。 「涼宮さんは僕が中途半端な時期に転校して来た、彼女曰く、『謎の転校生』だからこそ、この団に勧誘されました。しかし、これだけ時が経った上、学年が変わってしまえば、彼女は僕に対する興味を失うでしょう。それでもし、任務に支障をきたすようなことがあれば、僕は再び転校して別の任務に変わるかどうかしなくてはならないでしょう」 「…そんな話が出てきているのか?」 絞り出すような声で、キョンが言った。 古泉は、多少やり過ぎたと思ったのだろう、ちょっと慌てたように苦笑を作った。 「今のところはまだ」 「出てきても不思議はないんだな?」 「…ええ」 沈黙が、薄暗くなった室内に落ちた。 流石に居心地が悪くなったのだろう。 古泉がオセロを片付けながら立ち上がった。 「いい加減、帰りますか」 まるでその言葉を合図にするように、キョンが古泉の手を掴んだ。 驚いて古泉がキョンを見るも、照明が余りに暗く、表情までは読み取れなかった。 「……えぇと…」 戸惑う古泉の手を押さえたまま、キョンも立ち上がり、古泉の顔を覗きこんだ。 酷く真剣な顔が、至近距離に見えた。 「前に、何かの時に言ってたよな。俺も監視対象に含まれているようなことを」 「ええ、言ったような気がしますが…」 「そしてお前はことある毎に、俺がハルヒとくっつけばいいようなことを言ってる。……俺があいつの思うままになってれば、あいつが安定するから」 「それは……否定はしません。でも、」 あなたもこの世界がなくなるのは嫌でしょう? と、いつものように続けられるはずだった言葉は、キョンの言葉に阻まれ、途切れた。 「なら、」 キョンが、言い辛そうにしながらも、言った。 「お前等の言うことをきいてやってもいい。だから、……だから、」 声がどんどん小さくなる。 一言たりとも聞き逃してはならないと古泉が耳に意識を集中させた瞬間、 「…だから、いなくなるんじゃない……」 心細そうな言葉が、耳をついた。 驚愕の余り、古泉の、笑顔で凝り固まったポーカーフェイスが崩れた。 「…それは、どうしてですか?」 「お前も仲間だって、言っただろ。だからだ」 体をそむけようとしたキョンの肩を、古泉が押さえる。 「本当に、そうですか?」 「…他に何がある」 「あなた自身が嫌がっているように見えますが」 キョンの顔が、羞恥の色に染まった。 「なっ……」 「正直に、自分を偽ることなく、腹を割って話しましょうか」 古泉は、キョンに押さえつけられているのとは反対の手で、キョンの手を掴んだ。 「僕は、恋愛対象として、あなたが好きです」 キョンの目が見開かれる。 古泉は、臆することもなく続けた。 「そして、僕の目に狂いがなければ、あなたも僕に、そんな感情を抱いている」 「っ……」 逃げ出そうとしてか、キョンが掴んでいた手を離し、暴れだそうとした。 しかしそれを悠々と押さえ込んで、古泉は微笑んだ。 その笑みに胡散臭さはなく、ひたすら、喜びの感情があった。 それに怯んだのだろう、キョンの抵抗が弱まった時、古泉はキョンの顎に手を添え、その唇にさらりと口付けた。 触れるだけのそれでも、キョンには十分過ぎるショックだったのだろう。 自分の口を押さえ込み、へたり込んだキョンに、古泉が近寄る。 「来るな…っ」 今にも泣き出しそうな声が、キョンの口から漏れ、古泉は一瞬躊躇った。 だが、一瞬だけだった。 古泉はキョンを抱きしめるとゆっくりと口付けた。 呆然と開かれたまま唇から分け入り、歯列をなぞり、舌を絡めると、鼻を鳴らすような声が漏れる。 透明な糸を引きながら、古泉が唇を離すと、キョンの目から涙が零れていた。 「……嫌でしたか?」 応えはない。 しかし古泉はもとよりそんなものを必要としていなかった。 もう一度、もう一度と繰り返され、受け入れられる口付けが、そして、どんどん弱弱しくなっていく抵抗が、十分な答えだった。 ここがどこかなんてことも、どこかに移動するなんてことも、頭に浮かばなかったのだろう。 気がつけば、キョンは文芸部室の床の上に押し倒され、シャツは完全に肌蹴られていた。 キスは唇のみならず、首筋や胸にも降り注ぎ、キョンはすっかり抵抗する術を失っているように見えた。 古泉の手が、キョンのズボンのベルトを外し、ズボンに掛かる。 「ゃ、やめろ!」 不意に、キョンが叫んだ。 「やめろ! 見るなっ…!!」 「どうしてですか?」 「いいから、見るなっ!」 必死の形相で脚を閉じ、ズボンを押さえるキョンに、古泉は言った。 「やっぱり、嫌ですか?」 「嫌だって、言ってるだろが!」 「でも、さっきまでのあなたは僕に任せていてくれた。それはつまり……そういうことでしょう?」 「うるさい!」 「だけど、あなたも欲しがっているはずです」 古泉の手が、キョンの硬くなった部分をやんわりと触る。 「っ…!」 「このままじゃ苦しいでしょう?」 親切めかして言う自分を睨みつけるキョンに、古泉は言った。 「あなたが嫌なら、この場で最後までことに及ぶようなことはしません。ただ、このままだと…辛いでしょう? 僕も辛いです。だから、せめてこれを鎮めてから、落ち着いて話しませんか?」 キョンの瞳が揺らぐ。 そうして首が縦に振られた。 古泉は微笑み、キョンのズボンを下着ごと脱がせた。 露わになった花芯を、古泉が愛撫を始める。 それでも何故か、キョンは脚を閉じたままだった。 何かある、と古泉は思った。 いや、古泉でなくとも思うだろう。 同時に、それをそのまま口にするほど、古泉は単純ではなかった。 手と口で愛撫をしながら、古泉はゆるゆると手を脚の間に向かわせる。 「ぁ、…こい…ず、み……」 キョンを昂ぶらせながら、その甘やかな声を心地よく聞きながら、キョンが隠そうとする何かを探ろうとするのだから、古泉の知的欲求も罪なものだ。 そうしてその指が、信じられないものを探り当てた。 粘液を滴らさんばかりに溢れさせる、それを。 思わずハッとした古泉と同時に、キョンもそれに気付いたのだろう。 キョンは転がるようにして逃げ、部屋の隅でそれを隠すように、膝を抱えた。 古泉は言葉もなくキョンを見つめ、やっとのことで、呟いた。 「……あなたは…もしかして…」 キョンの顔がくしゃりと歪んだかと思うと、大粒の涙がぼろぼろと零れ始めた。 小さく泣きじゃくる声もする。 どうすればいいのかと混乱しながら、古泉はブレザーを脱ぎ、そっとキョンの膝にかけた。 よくよく考えてみれば、先程触れた胸も男にしては若干柔らかく、敏感だった。 しかし、股間で硬くなっていた物の存在も、幻ではない。 ――アンドロギュヌス、半陰陽、両性具有という言葉が、古泉の頭の中で瞬いた。 泣き声が小さくなってきた。 古泉は、意を決して――しかし、少なからず弱い声音で尋ねた。 「…聞いても……よろしいでしょうか…」 キョンはたっぷり悩んだ挙句、小さく頷いた。 それからキョンが語ったのは、おおよそ次のような内容だった。 古泉の察した通り、キョンは半陰陽だった。 それも、染色体異常によるもので、どちらの性でもある、珍しいタイプである。 どちらでもある、ということは体に限らず、心にも言えることであり、だからこそ、手術で早いうちにどちらかの性に確定しないまま、一応男として生きてきた。 それは体の特徴が男に近かったこともあるし、思春期まではほとんど普通の男子と変わらなかったためでもあった。 しかし今では心身ともに発達し、男でもあり、女でもあるということが心身両面において強まって来ていた。 そのために生じる葛藤のことが、特に苦しみをもたらしていたらしい。 例えば、男としては朝比奈を可愛いと思うし、長門のことを気にかけもし、ハルヒのことを心配して、暴走を止めようともする。 そういう時は古泉のことを邪魔に思ったり、胡散臭く思ったりするくせに、女としての部分がそれを打ち消す。 朝比奈の女らしい体や言動に嫉妬し、ハルヒの自信満々な様子に羨望を覚え、古泉に惹かれた。 男としてはハルヒが自分に並々ならぬ感情を抱いていることを疑いつつも嬉しく思うくせに、それを指摘されたり、ハルヒの機嫌を取るように言われたりすると、女としての部分が反発し、傷ついた。 そんなことを、嗚咽に紛れながらも、キョンははっきりと言った。 「一番、嫌だったのは…お、お前から、ハルヒは俺が、自分以外と親しくなるのが、嫌みたいに言われるしっ、ハルヒの、機嫌をとらないと…世界がなくなるとか、言うしで…それが……!!」 「すみません」 「俺だって、なくっ、なるのは…嫌だけど、嫌だけど…っ、なくなったって、いいとも、思いそうになる…!」 「ごめんなさい」 言いながら、古泉はキョンの上着をキョンの肩に掛けた。 まだ春は遠く、とっくに日が暮れた今はかなり冷え込んできている。 風邪を引かないようにとの配慮が、余計にキョンのヒステリーを煽ったらしい。 「お前だって、そうなんだろっ!? 俺が、こんな、こんな、普通じゃ、ない、から…っ、だから、見るなって、見るなって言ったのに…!」 自分が半陰陽だから嫌いになったのだろうと、いいたかったらしい。 もはや、支離滅裂になってきた言葉をちゃんと聞きながら、古泉は慌てて言った。 「違います。ただ、そのままだと風邪を引きますし、それに、泣いている女性に乱暴はしたくありません。いや、男なら乱暴していいって訳でもないんですけど」 「乱暴じゃ、ない」 まだしゃくり上げながら、キョンが言う。 「乱暴にしないなら、…お前の言葉が、嘘じゃなくて、本当に、俺のこと、好きだって、言うっ、なら、…乱暴じゃ、ない…」 そうして手を伸ばし、古泉の頭を引き寄せ、…初めて、キョンの方からキスをした。 唇を離し、古泉は確認した。 「本当に、いいんですか?」 「お前が…いいなら」 「そうですね…。僕としては、もっと清潔で、思い出にしていい場所がいいんですが、据え膳食わぬはなんとやらと言いますし、後でと言って別れて、後になってしらを切られても嫌ですから…」 「はっきり言え」 「後悔は……させません」 にっこりと古泉は微笑んだ。 それに、キョンも笑みを返す。 涙でがさがさに強張った頬を潤すように、キスが降り注ぐ。 滑らかな舌の感覚が甘いもののように感じられる。 「くすぐったいって」 苦情を漏らすキョンに古泉が向けるのは優しい笑みだ。 安心させるようなそれにつられるように、キョンは言った。 「お前って、絶対笑顔だけで百面相出来るよな」 「そうですか?」 「俺が保証してやるよ。優しそうな笑みとか、疲れた笑みとか、労わるような笑みとか、色々あって面白いし」 「僕としては、それがあなたに伝わっていれば、それだけでも満足なんですけどね」 「…なぁ、敬語は止められないか?」 「……」 沈黙しつつも、古泉の手は止まらない。 キョンの胸を、秘所を、弄り続ける。 キョンは鼻にかかった甘い声を漏らしながら言った。 「無理なら、ンッ…それで、いいさ。いつか、完全に素になったお前を見るのが、っ、楽しみな…だけ…」 「……本当ですか?」 「疑ってばっかりだな。でもって俺は苦笑してばっかりだ。笑顔はお前の専売特許じゃなかったのか?」 「あなたの笑顔の方がずっと素敵ですよ」 「…ありがと、ぅっ…! ゃ、そこは…っ」 濡れそぼったそこを舌が這う感触に、キョンの顔から余裕が消えた。 「ぁ、あ、っん…! やめ、恥ずかしいっ……」 「でも、ちゃんとほぐさないと、物凄く痛むそうですよ」 「ひぁっ、しゃ、喋んなッ! ばかっ!」 ビクビクと体を震わせるキョンは半端でなく色っぽかった。 古泉は一瞬、笑顔で硬直したかと思うと、すぐに言った。 「すみません」 「ふあっ?」 「我慢、出来そうにないんですけど」 キョンの体がかぁっと赤く染まる。 「な、ななっ、な…」 「乱暴にはしたくないんです。したくはないんですけど……」 いつの間に取り出されたのか、顔にそぐわぬ大きなモノがキョンのそれに摺り寄せられる。 「っでか! お前、ついてませんみたいな顔してこれかよ!」 思わず男に戻った感覚でキョンが言い、それを掴んだ。 「っ! キョン君、乱暴にしないでくださいよ」 「いや、だってこれ……なぁ?」 「なぁじゃありませんって。離してください」 「……」 キョンは答えず、それを自分のと比べるようにしげしげと見ていたが、 「なぁ…フェラするのってどんな感じがするんだ?」 ととんでもないことを口走った。 「……それは、僕にもう一度しろって意味ですか?」 「いや、どっちかって言うとさせろって意味」 「なっ……」 「お前が絶句するのも珍しいな」 「そう言うことじゃないでしょう!?」 「フェラされたく、ないか? 俺ならされたいけど」 「っ……されたくない、わけないじゃないですかっ」 「ならいいだろ」 そう言って、キョンは躊躇いもせずにそれを口に含んだ。 「っ、あなたも、変わった人ですね…」 「ほうふぁ?」 「そうですよ。普通、っ、いきなりこんなことしますか? 初めて…なんでしょう?」 「れも、おとこのかららははじめてじゃなひし」 「自分にもついてるからこそ、舐めたいと思わないものだと思いますけどね…っ!」 「いい?」 「…イイですよ。どうにかなりそうなくらいだ」 「……」 古泉の目には、キョンがにぃっと笑ったように見えた。 「らして、いいぉ」 「出してって……」 「このまま」 言いながら、キョンは愛撫の手を強めた。 おそらく自分が気持ちよく感じる部位なのだろう部分を楽しげに刺激しているその姿が酷く扇情的で。 愛撫よりもむしろ、そっちの方が、古泉にはよっぽどキた。 「っ、出ます、よっ……」 「ん。…ふ、っくぅ…ん…」 白く粘る液体を口中に受けて、しかもそれを嚥下したキョンの姿に煽られるように、古泉はキョンを押し倒していた。 「ん、焦るなって……」 「あなたの方こそ、限界でしょう?」 「っ、うぅ…」 張り詰めたそれを軽く撫でられ、キョンが苦しげな声を漏らす。 「違いますか?」 「…違わ、ないっ…も、いいから、キてっ……」 「かしこまりました」 おどけるように言って、古泉はすっかり濡れて、準備の整ったキョンのそこへ押し入った。 その動きは緩慢と言っていいほどゆっくりしたもので、キョンはいくらか体を固くしただけだった。 「入りましたよ」 「ふ、え…? ほ、本当に…?」 「ええ」 「…全然、痛くなかったぞ」 「それは個人差もあるということですし、準備も出来てましたから」 古泉の言葉に、キョンは恥ずかしがって顔を逸らした。 「ところで、もう動いてもよろしいですか?」 「っ、好きに、しろよ…!」 「じゃあ好きにします」 言うなり、古泉はいっそ乱暴に思えるような動きで腰を打ちつけ始めた。 「ひゃっ、ん、や、っやぁっ…!」 悲鳴にも似た、しかし艶を帯びた嬌声が、キョンの口から漏れる。 「本当はいいんでしょう? これが。こっちはこっちでイキっぱなしじゃありませんか」 と白濁を吐き続けるキョンのそれを軽く弾く。 「っ、や、これっ、変だって、んぁっ、あっ」 「女性が性交によって得る快感は男のそれの何十倍にもなるという説を聞いたことがありますが……どうですか?」 「どうもなにもっ、頭、おかしくなりそう、でっ…!」 「しかしながら女性が初めから快感を得られるというのはなかなかないことだそうですので、あなたは珍しいパターンのようですね」 「というかっ、ア、ああっ、…んっ、なんで、お前、そんな、口数が、アッ、多いっ…?」 「こう見えて必死なんです。こうやって話してないとすぐにでもイってしまいそうで、嫌なんですよ。少しでも、あなたの中にいたくてたまらないんです。でも、中出しは流石に危ないでしょう?」 「入れたら、も、同じだって…っ! それに、今日は、あ、あっ、大丈夫…っ」 「凉宮さんのことを考えなくていいなら、これ以上はないってくらい注ぎ込んで、孕ませるんですけどね」 「危ない、奴っ…」 「あなたにだけですよ」 そう言って、古泉はキョンにキスをした。 まだ汗の滲む体で床に寝転がっていたキョンは体を起こして言った。 「これからどうする?」 「そうですね…。とりあえず後始末をして帰りましょうか。体の具合はどうです?」 「…大丈夫だけど、そうじゃなくて」 「これから、ですか」 古泉は少し考え込んだかと思うと言った。 「僕はあなたのことが好きです。だから、離したくない…」 「だけど、ハルヒにばれたらどうなるか分からないよな」 キョンはため息をつき、 「俺も、これでお前のいない世界になっちまうのは嫌だし」 だから、とキョンは言う。 「女としての俺は、お前の…その、」 「彼女ですね」 嬉しそうに言った古泉をキョンは軽く叩きながら、 「うるさい。嬉しがるな」 「すみません。つい。…嬉しいものですから」 「…俺は今から酷いことを言おうとしてるんだぞ」 「大体見当はついてます。――男としては、涼宮さんのことをそれなりに好きなんでしょう?」 「……多分な。だから俺は、ハルヒの機嫌を取れというなら今と変わらない範囲で取ってやるさ。結果としてお前を顧みないことになるかもしれないけど、世界のためだからな。だから、お前への態度も、これまで通りだ。でも……時々で、いい。女として、お前に会いに行って…いいか?」 「もちろん、喜んで」 古泉が微笑んだ。 「……ありがとう」 つられたように、キョンも笑う。 「誰にも秘密ですね」 「ああ」 「とりあえず、涼宮さんには絶対にばれないようにしなければいけませんね」 「心配するなって。演技は得意だ。もうずっと、騙しおおせてきたんだしな」 「そうですね。『機関』が涼宮さんとその周辺人物について調査した時も、分からなかったくらいですから」 「口が固い人間しか知らないからな」 そう、キョンは得意がるように笑って見せた。 「ところで、今日は結局どうして悩んでいるような様子だったんです?」 帰る道すがら、尋ねてきた古泉に、キョンは苦笑しつつ答えた。 「悩んでたっていうよりは、ただ単に精神状態が不安定だったんだよ。生理が終ったところだったから」 「生理……」 妙に生々しい言葉に、古泉が絶句する。 「あったらおかしいか?」 「いいえ。大変そうだと思いまして」 「大変だぞ。突然始まっても人にナプキンは借りれないし、買いに行くのも恥ずかしいし」 「……」 居心地悪そうに、古泉の表情が強張る。 それを見たキョンは、 「あ、悪い。初めて同年代の奴に話せるから、ちょっとハイになってるみたいだ」 と面白がるように笑ったのだった。 |