ある意味ちょっと特殊展開です
苦手な方はバックプリーズ
キーワードは、
「一夫多妻的」
「非常識キョン」
「古泉くんは後で校舎裏にひとりで来なさい(リンチ的な意味で」
…な感じです(何
嫌な予感がしたら帰りましょう
特殊なのでエロくないけど下げ
いっちゃんと幸せな気持ちで家に帰って、キョンくんの冷たい視線にもめげずに、 「いっちゃんに告白されたから、OKしたよ」 という趣旨のことを言ったら、キョンくんは煮え滾った油を鼻から飲まされたみたいな凄い顔をした。 ええと……、 「だめだった、かな?」 「…っ、だめ、じゃ、ない…が……」 キョンくんの声が震えてる。 …もしかして、泣きそう? 「キョンくん? どうしたの? どうして、そんな…」 「…ゃ、だ……」 小さな、本当に本当に小さな声でキョンくんが呟いた瞬間、その目からぽろっと涙が零れた。 大きな涙。 とても切ない涙。 「きょ、キョンくん…!?」 いっちゃんもびっくりしてキョンくんを見てる。 「どうなさったんですか」 「やだって、っ、言った…!」 しゃくり上げて泣くキョンくんなんて、いつ以来だろう。 「ごめん、ごめんね、そんなに嫌だったなんて、気付いてなくて……。ううん、……そんなこと思ってたなんて、気付けなくて…ごめんね…」 どうして、なんて聞く必要はもう無かった。 だって、私はキョンくんのお姉ちゃんで、キョンくんとは生まれてからずっと側にいる。 キョンくんのことは誰よりもよく分かってるつもりだし、キョンくんだって私のことを誰よりも分かってくれてるはずだ。 だから、分かった。 「…キョンくんも、いっちゃんのことが好きだったんだね……」 え、と驚くいっちゃんは見ないことにして、私はキョンくんを抱き締める。 「ごめんね、キョンくん…っ」 「姉さんの、せいじゃ、ない…」 でも涙は止まらない。 キョンくんの苦しい気持ちが伝わってきて、私も苦しくなる。 「だって、仕方ない…だろ。古泉は男で、俺も、男で、…でも、姉さんは女なんだから……俺に、勝ち目なんて、最初から、っく、なく、って……ぇ…」 「…そんなの、分かんないよ?」 よしよしとキョンくんの背中を撫でながら、私は言う。 「キョンくんは私よりずっと優しくて気が利いて、魅力のある子だもん。そんなキョンくんにこんなに熱烈に思われたら、いっちゃんだって気が変わるんじゃないかな?」 「…っ、何、言って……」 びっくりした顔で私を見るキョンくんに、私はにこっと笑った。 「私はね、いっちゃんよりキョンくんが好きなんだ。だから、キョンくんに反対されるなら最初からいっちゃんと付き合うつもりもなかったんだよ。反対されるどころか、キョンくんに泣かれたんだもん、このまま付き合ったりなんて出来ないよ。…だって、私は、キョンくんに笑ってて欲しいし、それに、キョンくんになら、いっちゃんを任せて大丈夫だと思うんだ」 だから、と私は状況がよく飲み込めてないみたいな様子のいっちゃんに、 「ごめんね、いっちゃん。いっちゃんとのお付き合いはお断りさせてください。代わりに…って言うと変だけど、キョンくんのこと、考えてみてくれないかな」 「…え……」 「姉の私が言うのもなんだけど、キョンくんは本当に優しくて、我慢強い子なんだ。だから、こんな風に我慢出来なくなっちゃうのなんて、凄く珍しいことなんだよ。キョンくんにここまで思われる人なんて、これまできっといなかったと思う。……男同士ってことで、引っかかることもあるかもしれない。でも、キョンくんのこと、考えてもらえないかな…?」 「そんな……」 戸惑ういっちゃんが、キョンくんを傷つけるようなことを口走ってしまわないよう祈りながら、私は矢継ぎ早にまくし立てる。 「それに、ほら、私はいっちゃんに好きって言ってもらえたから自分も好きかもって思っちゃっただけだと思うんだ。本当は違ったのかもしれない。だから……そんな私より、これだけ好きって思ってくれてるキョンくんとの方が幸せになれるって、思わない?」 「何を…」 と声を上げようとしたいっちゃんより強く、 「だめだ…!」 って叫んだのはキョンくんだった。 まだ涙が止まらないのに、私を見つめて、 「姉さんの、嘘吐き…っ、本当は、全然平気じゃないんだろ…!? ちゃんと、古泉のこと、好きなくせに……」 「……困っちゃうなぁ」 双子だからかな? こういうことまでちゃんと分かっちゃうのは困りものだよね。 でも、 「キョンくんの方が、いっちゃんのことを好きだろ?」 お姉ちゃんには分かるんだよ。 「だけど…!」 「…困っちゃうねぇ」 そういえば、以前にもこんなことがなかったっけ? キョンくんが憧れてた親戚のお姉ちゃんがいた頃、私もその同じお姉ちゃんがとっても好きだったっけ。 どちらかがどちらかの感情に引き摺られてって言うんじゃない。 たまたま、私たちが惹かれてしまうタイプがそっくり同じなだけなんだろう。 「どうせなら、同じ双子を好きになれたらいいのにね」 困ったな、ってもう一つ呟いた私の目からも涙がぽろり。 ああ、だめだな。 我慢しようって思ったのに。 「私はね、いいよ、恋人になれなくても。…ただ、私が苦しい時、いっちゃんをちょっとだけでもいいから貸してくれる? そしたら、きっと、平気だし、いつかはきっと、いっちゃんくらい素敵な人にも出会えると思うんだ」 「だからっ、姉さんが譲る必要なんか……」 「何言ってんの」 つんっと私はキョンくんのおでこをつっついて、 「我慢出来ないくらい、いっちゃんのことが好きなんだろ? だったら、譲ってもらえてラッキー、くらいに思いなよ」 「俺、だって…」 ひくんと体が震えるほどにしゃくり上げながら、キョンくんは涙を流す。 「…姉さんを、悲しませ、ったく、ない、くらいには、姉さんが好きだ…っ」 「うん、ありがとね。それだけで、お姉ちゃんは幸せだよ」 「……どうして、なんだ…」 「どうしておんなじ人を好きになっちゃうんだろうねぇ」 いっそのこと、好きになった人が器用にも、いっぺんに二人くらい愛せるような人ならよかったのにね。 ――って、私は冗談というか、ありえないこととして、呟いたつもりだったんだよ? そんな日本人らしからぬ倫理観は持ち合わせてないもん。 なのにキョンくんと来たら、 「……その手があったか」 って、物凄く納得行ったみたいな顔と声で呟いた。 あまりのことに、私の目も点になる。 「…え」 「流石は姉さん、頭がいいな」 って笑うキョンくんは可愛いけど、ちょっとちょっと、何言い出すのさ? 「まさかそんな無茶を言うつもりじゃないよね…?」 「……だめか?」 うっわーい! キョンくんってばすっごいやね! もっと常識的な子だと思ってたのに、何その柔軟性溢れるおつむ! あはははは、お姉ちゃん、もう乾いた笑いしか出て来ないぞー? 「姉さんの発案だろ。俺が非常識みたいじゃないか」 ってふて腐れないでよ。 「事実非常識だと思うよ!? いくら私でも、本気であんなこと言うわけないでしょ!?」 「だが、名案だと思わないか? ……他の誰かなら死んでも嫌だが、姉さんとなら、シェアしてもいい」 「シェアって、そんな、部屋か仕事の話みたいに言わないでよ…!」 どうしよう、流石過ぎるよキョンくん……。 そんな考え方が出来るから、ハルちゃんとも気が合うんだね…。 さっき、誰よりもよく分かると思ったはずの弟が急に未知の生物に思えてきて、思わずうなだれる姉をさらっと無視して、キョンくんはいっちゃんに忍び寄り、その肩を掴んだ。 「どうだ? 古泉」 言い逃れやごまかしを許さないって顔で、至近距離からいっちゃんを見つめる。 問い詰められてるいっちゃんは、状況が把握しきれているのかいるのかいないのか、 「どう…って……」 と声を上げる。 「俺と姉さん、二人同時に愛せるか?」 いっちゃんは大きく目を見開いて、 「ほ、本気ですか!?」 「冗談を言ってるように見えるか?」 見えないから恐いんだよキョンくん…! 「そんな……」 「将来結婚するにしても、どうせ姉さんとだけしか出来んが、書類上のことはどうでもいい。肝心なのは、お前が事実それを出来るかどうかだけだ」 「その前に、確認させてください」 いっちゃんは困惑丸出しの顔でキョンくんを見つめた。 「…その……本当に、あなたが僕を……?」 「……ああ」 恥ずかしがって足掻くかと思いきや、キョンくんは意外とあっさり頷いた。 多分、もう開き直ってるんだと思う。 そして、開き直ったキョンくんに怖いものなんて何もない。 「お前が好きだ」 「……ありがとうございます」 困ったように、でも嬉しそうに、いっちゃんはそう言った。 キョンくんにもそれが分かったみたいで、ほっとした顔をしてた。 「それから、ええと、お姉さんは……どうなんですか?」 不安がるみたいに聞いてきたいっちゃんに、私は軽く目を瞬かせて、問い返す。 「どうって?」 「その、…シェア……とかなんとか…」 「あー……」 どう答えたものかなと思いながら、私は軽く頭を掻いた。 「…今はちょっとびっくりしてるけど、受け入れられない訳じゃないと思うよ? 世界には一夫多妻制って案外あるらしいし、それに、……ええと、いっちゃんには呆れられそうだけど、キョンくんとならってのは、私も思うな」 「そうですか…」 「それにさ、」 と私は苦笑して、それでも正直に言った。 隠したってしょうがない。 「大好きないっちゃんと、大好きなキョンくんと、一緒にいられたら、私は凄く嬉しいし、幸せだよ」 いっちゃんの肩を掴んでいた手を離して、キョンくんは私に飛びついてきた。 「俺もだ」 と言ってくれるのが、くすぐったくて嬉しい。 ていうか、こんな素直に甘えてくれるキョンくんなんていつ以来だろう。 「もうひとつだけ、聞かせてください」 私と同じくらい、くすぐったそうな顔でいっちゃんが言った。 「どうあっても、どちらか一方とのお付き合いは認めていただけないんですね?」 うん、ごめんね。 私はキョンくんを悲しませてまでいっちゃんと付き合える自信はないし、キョンくんも同じだと思う。 たとえ付き合えても、すぐに別れることになっちゃうだろう。 「ああ。……姉さんには嫌でも俺がおまけに付くとでも思ってくれ」 「贅沢なおまけもあったもんだね」 と笑った私に、 「全くです」 と同意の言葉が掛けられて、びっくりした。 更に、そのままいっちゃんに抱き締められる。 当然私の腕の中にいるキョンくんも一緒に、だ。 「いっちゃん……?」 「古泉?」 キョンくんもびっくりしてる。 私たちを驚かせた張本人だけはにっこりと微笑んで、 「不実な男だと罵られる覚悟で言いますが、」 とキョンくんを見て、 「あなたにあんなにも熱烈に告白されて、正直、心が揺れました」 でも、と今度は私を見つめる。 「あなたを好きな気持ちも確かなんです」 つまり? 「……僕と付き合ってくださいますか?」 その言葉は間違いなく、私たち二人に向けられた。 「本当にいいの?」 「あなた方が嫌でなければ」 笑ういっちゃんに、キョンくんも確かめる。 「ひとりだけ返品なんてのは許さんぞ? 捨てる時は二人いっぺんにしろ」 「捨てたりしませんよ」 そう言って、いっちゃんは優しく微笑む。 「それで、返事はどうでしょう?」 そんなもの、決まりきってて言うまでもないよ! 私とキョンくんが同時にいっちゃんに抱き着いて、いっちゃんが転びそうになった。 なんとかバランスを保ったいっちゃんに、キョンくんは意地悪く、 「偉そうに言ったんだから、二人いっぺんに抱き留められるようにしとけよ」 なんて言うから私は、 「転ばなくてよかった、って素直に言えばいいのに」 「無理言うな」 何が無理なんだか。 くすくす笑う私にむっと眉を寄せながら、キョンくんはいっちゃんを試すようなことを言う。 「けど、本当に俺のことも愛してくれるのか?」 「信じられませんか?」 「当たり前だ」 「困りましたね、どうしましょうか?」 助けを求めるように私を見るいっちゃんに、私は笑顔で答えをあげる。 「キスしてあげたらいいんじゃない? 私にもしてくれたんだし」 「なるほど。それでどうです?」 キョンくんはかすかに頬を赤くしながら、 「…出来るか?」 答えのかわりに実行した辺り、いっちゃんも頑張ったね。 私の目の前で、二人の唇が重なる。 触れるだけでも気持ちいいのは私も知ってる通りだ。 キョンくんもきっと同じように感じてるんだと思う。 とろんとしたように体から力が抜けたから。 見てたら私も羨ましくなっちゃった。 だから、 「私もまぜて?」 って、重なった唇に自分のそれを触れさせる。 いっちゃんの唇とキョンくんの唇。 どっちもなんだか感触が違って面白いな。 でも、 「キョンくん、今度リップクリーム貸してあげるから、ちゃんとつけなさい」 「う、…分かった……」 唇ががさがさなのは嫌だって思ったからだろう。 いつになく素直に頷いたキョンくんに、私は声を上げて笑った。 そのまま、いっちゃんにキスをして、柔らかな気持ち良さにとろんとなりながら、 「ねえいっちゃん、今度デートしようね」 言うまでもなく、三人で。 「ええ、喜んで」 「それから、いっちゃんのことで私が知ってて、キョンくんは知らないことを教えてあげてもいいかな? それとも、いっちゃんが自分で言う?」 「どちらでも、お任せしますよ」 「分かった」 俺の知らないことだと、って眉を寄せるキョンくんを抱き寄せて、私はいっちゃんに囁く。 「好きだよ、いっちゃん」 そうしていっちゃんの頬っぺたに軽くキスしたら、 「俺も好きだからな」 って反対側の頬っぺたにキョンくんがキスをする。 いっちゃんはくすぐったそうに笑って、 「僕も、好きですよ」 と私とキョンくんの唇にキスをしてくれた。 ああ、どうしようか。 すっごくインモラルだって私の中の常識は警告してる。 でも、私はこの状態で凄く幸せで堪らない。 困ったなぁ、って口先だけで呟いたら、 「言うほど困ってませんよね?」 「どう見ても面白がってるな」 ってダブルで指摘されたけど、否定も肯定もしないでおくよ。 |