エロです
でもちょっと寸止めな感じがするかもしれませんので
過度な期待はしないでください←
夏休みを前にして、どことなく、浮き足立った人間が増えてきているのは多分気のせいじゃない。 まあ、人が解放的な気分になるのが夏だし、夏休みともなればさらにそうなることだろうから、その気持ちも分からないじゃないけれど、だからと言って急に彼女が欲しくなったり彼氏を作ろうとしたりするのもどうなんだろうか。 僕がぶつぶつ言うのは当然、兄さんが告白される頻度が高くなってしまっているからである。 ところが、これまでとは違うことがひとつだけあった。 兄さんが、迷うことなく告白してきた子を振るばかりか、その理由として、 「悪い、俺、今好きな子がいるんだ」 と答えるようになったというのだ。 勿論、僕は兄さんに告白なんてしていないし、その気もないので、実際そう言われたというわけではないのだが、振られた奴やその友人、ないしは取り巻きのお仲間が、兄さんではなく僕の方を問い詰めやすいと見てか、やってくるのだ。 質問はいつも決まっている。 ――好きな子ってのは誰? …そんなもの、僕が知りたい。 知ったら、相手がどんな子か調べて、場合によってはどうにかすることだって出来るのに、知らないから出来ない。 聞いても兄さんは教えてくれないし、それ以前に、聞こうとするだけですこぶる機嫌が悪くなるので、手出しすら出来ない状態なのだ。 僕が、その子に何かすると分かってるんだろうか。 ……そこまで理解していてくれてるなら嬉しいけど、でも、嬉しくない。 「……はぁ」 勝手にため息が出た。 …ため息だって出たくなるだろう。 今度こそ、兄さんは本気で好きな相手が出来たようだし、そうなったら僕は今度こそ兄さんを取られてしまうんだから。 取られてたくなんて、ない。 でも、僕には何も出来ない。 母さん譲りの意思の固さを持った兄さんに、ヘタに意見するなんてそれだけで墓穴ものだし、大体、僕はそんな余計な真似をして、兄さんに嫌われてしまうことの方がよっぽど怖いのだ。 他の女の子たちと違って、僕は恵まれているのだと思う。 弟というだけで、兄さんとの付き合いが一生続いていくことは約束されているのだから。 それなら、それを失わないように、守るしかないだろう。 そう思いながらも、胸は痛んだ。 本当は僕だって、ずっと前に気がついていたんだ。 兄さんを独占したいと思う、この気持ちの正体が、ただの弟としてのそれではないことなんて、とっくの昔に。 でも、気付かないふりをしていた。 そうするのが一番だと知っていた。 こんな風に、直視するしかない時がやってくるなんて、思ってもみなかったんだ。 兄さんが誰かと寄り添う姿を想像するだけで泣きたくなるほど、強い気持ちを抱いていたなんて。 ……気付きたくも、なかった。 そんなことに頭を悩ませていたから、とうとう夏休みが始った頃には僕の状態は最悪だったと思う。 というか、その前から最悪で、少しとはいえ落ち込んだ成績を担任に心配され、三者面談では特にそこを言及されてしまったくらいだった。 幸か不幸か我が母上は、高校時代の成績が僕よりはるかに低空飛行だったそうで、 「あんな高い点を取ってんのに心配されるのか? 優等生ってのも大変だな、おい」 と心底呆れたコメントをくれたわけだけど。 しかし、勉強以外でも僕の様子がおかしいことにはとっくに気付いていたようで、 「…悩みがあるなら、俺にでも一樹にでもいいから言えよ」 と心配そうに抱き締めてくれた。 でも、打ち明けられるはずがなかった。 兄さんが好きなんだなんて、言えるわけない。 けれども、黙っているのもきっと限界だったんだと思う。 酷い暑さが夜になっても残っていて、きつめにクーラーをかけたその夜、僕は兄さんの布団ににじり寄って、 「…兄さん」 と声を掛けた。 兄さんは薄く閉じていた目をぱちりと開いた。 よかった、まだ本気で眠ってはなかったみたいだ。 「どうした?」 「…ん、ちょっと、なんか分かんないけど、寂しくて、眠れないんだ…。兄さんと、一緒に寝て、いい?」 兄さんは一瞬眉を寄せた。 「あの、やっぱり迷惑だった…」 「ばか」 布団から伸びてきた手が、ぐいと僕の手首を引っ張り、布団の中に引きずり込む。 「弟のくせに遠慮してんじゃない」 「……うん、ありがと、兄さん」 暑い季節なのに、兄さんの暖かさを心地好く感じた。 僕と同じ体温。 僕とそっくり同じに脈を打つ心臓。 重なる呼吸。 全てが心地好かった。 「…眠れないなら、少し話でもしてるか?」 「……うん」 「よし、」 優しく笑った兄さんは、僕と兄さんが小さかった頃の思い出話を始めた。 僕がどうしても有希姉さんに懐かなくて困ったという話とか、どこに行くのも僕が兄さんに張り付いてたという話とか、色々だ。 しばらく話しても、まだ話の種が尽きないくらい、僕たちは一緒にいた。 でも、これから先はきっと、これまでみたいにずっと一緒でなんていられない。 そう思うと、これまでずっと堪えてきた涙が溢れてきた。 冷え切った心の中で氷塊と化していたそれが、兄さんの暖かさで融け出てきてしまったかのように。 「…何泣いてんだよ」 心配してくれてるくせに、兄さんはあくまでぶっきらぼうに言った。 僕の髪を優しく撫でてくれながら。 「…っ、だ、って、兄さんが……」 「俺が?」 「…兄さんと、もう、ずっと一緒になんて、いられないのかって、おも、った、ら……」 幼子のようにしゃくり上げて泣く僕に、兄さんは呆れもせず、 「…なんでだよ。お前と俺はずっと一緒だろ?」 「でも、…に…、さん、は…好きな子が、いるんでしょ…?」 「……」 答えてくれないのが、何よりの返事だと思った。 「…その子に、兄さんを、あげ、なきゃ…兄さんが、嫌われてしまうから、僕は……」 「…ばか。弟のくせに遠慮するなって言っただろ」 兄さんはそう言って僕をきつく抱きしめる。 「どうなったって、俺はお前の兄貴として、お前と一緒にいるから。……お前こそ、いなくなったりするなよ」 「そんな、こと、出来ないよ…」 「俺のことを遠ざけたりするくせに」 拗ねるようなことを言いながら、兄さんは悪戯っぽく笑った。 その笑顔も、優しさも、全部含めて、 「兄さんが、好きだ……」 「……俺も、お前が好きだよ」 「ちがっ、う、…そ、うじゃ、なくて…」 「うん?」 「兄さんが、好きなんだ…」 我慢出来なかった。 もう限界だったんだ。 だから僕は、兄さんにのしかかるような形で、兄さんに口づけた。 驚く兄さんを抱きしめて、 「好き…」 と繰り返す。 重ねる唇の感触も気持ち良くて、愛しくて、止められない。 いつ兄さんに突き飛ばされ、今度こそ絶交を言い渡されるかと思うと、気が狂いそうなほどなのに、それでも僕はその温もりも気持ちよさも放せなかった。 数え切れないほどキスをして、夢中になって貪った。 兄さんの唇を舐めて、舌を誘い出そうとしたところで、急に世界が反転した。 「え」 声を上げた時には、僕はベッドの上で兄さんに組み伏せられていた。 「に…さん……?」 驚いて目を瞬たたかせた僕に、兄さんは見たことのないようなぎらついた目で僕を見つめていた。 「お前が誘ったんだからな」 「兄さん…?」 「俺は、我慢した」 そう言い切るなり、兄さんは僕の唇を奪った。 「んっ……!」 戸惑う僕の油断をついて、唇を割った滑らかな舌が、僕の舌を絡め取り、口内を犯す。 その思いも寄らない荒っぽさと熱に、体の芯まで焼かれるような気がした。 「ふっ、ぁ…あぁ……」 びくんと体が震えた。 ただの快楽にでなく、歓喜に。 でも、されるばかりは悔しくて、自分からも舌を求めた。 それだけじゃなくて、もう一度位置を逆転させようと試みもしたのに、どうしても押し切れなかった。 やっぱり体格差が大きいらしい。 「はぁっ……あ…、もう…っ」 僕が観念したと分かったのだろう。 兄さんはにやりと悪っぽく笑って、 「こういう時だけは、親父に似たことに感謝、だな」 「……僕が上のつもりだったんだけど」 これはこれで別にいいか、と思いかけたところで、 「そういうのがいいなら、後でいくらでも乗ればいいだろ」 ちょっと待って。 「兄さんって、そういうキャラだったっけ…?」 戸惑いながら問えば、兄さんはかすかにむっとした顔で、 「…むっつりだとはよく言われる」 「誰だそんなことを言ったのさ」 場合によっては報復してやる、と思いながら聞くと、 「親父と俺の友達」 と言われ、 「そんなことより…」 薄く笑った兄さんの唇が僕の喉を舐め上げた。 「んっ……ぁ…」 やけに手際よく僕の服を乱した兄さんは、 「お前の裸を見るのもいつ以来だっけな…」 と父さん譲りのぞくりと来るような声で囁いた。 「あ、っは……」 兄さんの指が僕の肌を撫でる。 「お前、全然気付いてなかっただろ。……俺がお前と一緒に風呂に入らなくなったのがどうしてかってことも、お前と二人きりにならないようにした理由も」 「う……ごめん…」 「もう、分かったか?」 「……こういうことを、したくなる、から…?」 「当たり、だ」 にやりと笑った兄さんは、 「これはご褒美、な」 と言うなり、僕の胸の尖りに口づけた。 ぬ、と舐められ、舌を絡められて、 「ひぁっ、ぁ、んん…!」 「やらしい声だな。…他の誰にも聞かせるなよ?」 「聞かせる、わけ、ない…っ……」 「だろうな」 楽しそうに笑いながら、兄さんは濡れたそれに息を吹き掛ける。 ひやりとした感覚に、腰が揺れた。 「痕を残すには惜しいくらい、綺麗な肌だな」 そう言いながら、兄さんは僕の尖りを苛めるように押し潰し、抓り、甘がみする。 それだけで、腰が砕けそうなほどに感じるのに、兄さんはこれくらいでは済ませてくれる気などなかったらしい。 「ひ、ぁ、やぁ……っ!」 「嫌じゃないだろ。もうこんなになってるくせに」 言いながら、僕の股間を押さえてくすりと笑った兄さんの顔は、呆れるほど父さんによく似ていた。 「に、いさん……っ」 「お前が好きだ。…他の子と付き合って分かったってのが、情けないがな」 だから、と言われて僕が勝てるはずもなくて。 結局僕は、兄さんにしっかりいただかれてしまったのだった。 予想外だけれど、これはこれでよかったのかな? |