オリキャラ注意!
…というか、オリキャラメインの話です←
それでよければどうぞー
高校に入学すると共に、僕と兄さんとそれからもちろん母さんも、古泉を名乗ることになった。 とうとう日本でも同性婚が認められることになったためだ。 他の先進諸国に比べるとずっと遅くはなったが、なかなかの快挙なんだろうとは思う。 浮かれまくった父さんは恥ずかしげもなく、この辺りでのとはいえ、婚姻届を提出する第一号を見事に飾り、好奇の塊であるマスコミ相手に惚気でしかない発言をし、テレビを見た母さんに後で思い切り殴られていたが、少しも堪えていなかったことは言うまでもない。 普通、そんな風に苗字が変わったり、父親が同性愛者として堂々とテレビに出たりしたら、それなりに好奇の目を向けられるとか白眼視されるとかいうことがあるものなんだろうけれども、僕たちの場合はそうならなかった。 何せ、うちの両親はある意味酷く開き直っていたので、男カップルで一緒に暮らしていることも、僕と兄さんという子供がいることも、すっかりオープンにしていたのだ。 それこそ、ニュースを見た近所のおばちゃんたちに、 「おめでとう」 「よかったわね」 なんて言葉を、当人達どころか僕たちにまで掛けられたくらいには、普通にご近所付き合いもある。 苗字が変わったほかに何も変わりはない。 父さんがでれでれするのも前からだし、あれこれ文句を言いながらも母さんが父さんに甘いのも相変わらずだ。 僕と兄さんは呆れながらも、夫婦仲円満で何よりだと諦めるしかない。 さて、それはともかくとして、高校生になったということで、いくらか変化が生じていた。 中学の頃からその片鱗はあったものの、やはりまだ子供だったということなのか、はたまた受験で忙しかったからなのか、中学校の頃はそれほどでもなかったってのに、高校になるなり色気づいてくる人間が急増した。 それに比例するように兄さんが秋波を送られたりする割合も上がって、僕としては面白くないことこの上ない。 兄さんがもてるのは仕方がないことだと思う。 何せ兄さんは父さん譲りの美貌と、母さん譲りの優しい性格の持ち主だ。 これで参らない女の子がいたら男に興味がないとかすでに彼氏がいるとかそういうことだろう。 高校生になって、兄さんは更に父さんに似た美形になっていた。 うっかり母さんが、 「昔の一樹を思い出すな」 などと言いながら見とれて、父さんがやかましく騒ぐくらいなので、どれほどのものかは察してもらいたい。 ちなみに俺に関しては、 「…本当に、あの頃の母さんそっくりですね」 と父さんがしみじみと呟く程度であると分かってもらいたい。 しかし、母さんに言わせると、 「俺はこいつほど愛想よくしてなかっただろ」 とのことだし、これについては父さんも同意を示した。 「そうですね。あなたがにこにこと笑顔を振りまいてくださるのなんて、朝比奈さんとか長門さんに対してだけで、僕にはいつだってしかめっ面で……」 「いつだってじゃないだろうが。被害妄想もいい加減にしろ」 と父さんが殴られていた。 そんな、良くも悪くも両親にそっくりの僕たちが通うのが、両親の母校であり、出会いの場であったと酒の入るたびに父さんが熱っぽく語る、北高であるというのも、なにやら因縁めいたものを感じる。 といっても、自分たちで選んだ結果なのだけれど。 高校の入学式が終わってすぐ、僕たちは父さんと母さんを連れて部室棟に向かった。 老朽化が激しいなりに、まだ活用されているらしいとても古めかしいその建物は、近々建て直されるとかいう話が出ているそうだ。 「懐かしいな」 と母さんが呟けば、父さんも目を細めながら頷いた。 文芸部もSOS団ももうない部室棟のその部屋は、鍵がかかっていて入れはしなかったけれど、いずれ機会を見つけてもぐりこみたいと思った。 それくらい、父さんや母さんや姉さんや、あるいはハルヒ姉さん、朝比奈さんから聞く話は魅力的だったから、僕たちもまたこの高校を選んだのだ。 制服のデザインも変わってしまっているけれど、それでもここで母さんたちが過ごしたことに変わりはないから。 僕もまた、兄さんと一緒に楽しく過ごしたいと、そう思ったってのに。 「…なんでこうなるんでしょうね」 呟きながら坂道を一人で下る。 どうして一人かというと、兄さんがいてくれないからだ。 で、兄さんがいない理由は何かというと、 「ちょっと先約があるから、先に帰ってくれ」 ということしか言われなかったのでよく分からない、ということにしてしまいたいのだけれど、残念ながら、僕はその理由を知っていた。 兄さんに、彼女が出来たのだ。 情報収集はほとんど趣味のようなものだけれど、それでこんなことを知ってしまうのも悲しいものがあった。 思わず、父さん譲りの陰謀癖をなんとかして捨ててしまおうかと思ったくらいに。 思いとどまったのはひとえに、そうなったらどうやって兄さんを守ればいいのか分からないからだ。 別に、体力がないわけじゃないし、それなりに鍛えたりもしているから、武力行使だって出来ないわけじゃない。 だけど、そんな風に力を使って、兄さんに怒られたり嫌われたりするのは嫌だから、その手は自分が何かされた時でもなければ使えやしない。 だから、僕は父さん譲りのそれしか、兄さんを守る術を知らない。 それにしても、苦しいのは、兄さんの一番でなくなるということだ。 「覚悟は…してたんですけどね……」 ふぅ、とため息を吐くとそのまま沈みこんでいくような気がした。 僕だって、いつまでの兄さんと一緒にいられるなんて思っていたわけじゃない。 あの姉さんすら、結婚してうちを出て行ったように、兄さんだっていつかは僕より大事な人が出来て、僕と一緒にいてくれることがなくなるんだろうと分かっていた。 ただ、これがこんなに早いとは思わなかったから、ショックなだけで。 もうひとつため息が出るのは、急いで調べた兄さんの彼女とやらが、文句のつけようがない相手であるせいだ。 評判もいいし、顔もそこそこ可愛い、反対のしようもなければ反対の必要もないという相手。 弟として、兄さんにとうとう彼女が出来たことを一緒に喜んであげるべきだとは思う。 思うんだけれども、……寂しい。 家に帰ってから、母さんに、 「兄さんに彼女が出来たらしいんです」 と愚痴るような調子で言うと、母さんは短く、 「へえ」 と呟いた。 「まあ、そういうこともあるだろうな」 と。 「心配とか、ないんですか」 「あいつなら大丈夫だろ。お人好しなところがあるから、騙されないかってことだけは、心配と言えば心配だが」 「ああ、その心配はなさそうですよ。校内でも評判の、気立てのいいお嬢さんだそうですから。凄いですよねぇ、女生徒にさえ人気が高いなんて」 胡散臭いと言いたいくらいだけど残念ながら本当に非の打ち所がないらしい、と胸の中で付け足せば、母さんは困ったように笑って、 「不満そうだな」 「…やっぱり、寂しいですから」 「お前は本当に兄さんが大好きだからなぁ」 呆れとも諦めともつかないことを呟いた母さんに、僕はため息を吐きながら、 「兄離れをするいい機会だとは思うんですけどね…」 「兄離れ、ねえ?」 意味深に呟いた母さんに、僕は思わず眉を上げ、 「……何か言いたいことでもあるんですか?」 「いや? お前がそれでいいなら、別にいいんだが。……変に悩みすぎて、抱え込んだりするなよ? 兄さんには言い辛くても、母さんも父さんもいるんだからな」 「…はい」 頷きながら、全く僕らしくないと思いつつ、母さんにもたれかかると、母さんは僕の頭を優しく撫でてくれた。 兄さんの撫で方と同じなのは、兄さんが母さんと同じようにしてくれるからだと分かっている。 それなのに、僕にとってはどうやら兄さんの方が強い印象を持っているらしくて、兄さんと同じだと思うと泣きそうになった。 それに、と僕は自分に言い聞かせるように考える。 兄さんにとって一番でなくなっても、僕が兄さんの弟で、兄さんが僕の一人きりの兄であることに変わりはないんだから。 この絆は、どうあっても断ち切れはしない。 どうあっても、変わることのないつながりだ。 そんなつながりがあることに感謝しながら、兄さんにまとわりつくのはやめようと、そう、断腸の思いで決心したってのに。 数日後、一人で帰ろうとしたところで、 「こら、置いてくなよ」 と兄さんに頭を小突かれて驚いた。 「兄さん…彼女と一緒に帰るんじゃ…」 お節介かと思いつつそう言うと、兄さんはきょとんとした顔で、 「は?」 と言ったかと思うと、ややあって、 「……ああ、知ってたのか」 と笑い、その上で、 「もう別れた」 とあっけらかんと答えられてしまった。 「……はい?」 「だから、別れたんだって。いいから帰るぞ」 そう言って兄さんは僕の手を引っ掴み、歩き出す。 振られたのか振ったのか知らないけど、その足取りは軽く、未練も悔恨も何も見て取ることが出来ない。 いたっていつも通りである。 今まで知らずにいた兄さんの一面に度肝を抜かれつつ、僕は心の中で盛大に叫んだ。 叫ばずにはいられなかった。 僕の決心は一体どうなるんですか!? と。 |