SM…? です
エロです
死ぬほど温いので期待しないでください
後ろめたいことをしている自覚があるので、つい、部屋の中を薄暗くしていた。 カーテンを締め切り、ドアも窓もきっちり閉めて、照明も落とす。 明るいのはただ、パソコンのディスプレイだけだ。 鮮やかを通り越してドキツイまでの色彩と、グロテスクな形状の物が並ぶ画面を隅々まで見つめ、検討に検討を重ねた上で、彼に似合いそうなものだけを選ぶ。 もっとも、彼にはどんなものだって似合ってしまうのだろうけれど。 でも、ただ似合うだけではだめだ。 似合って、しかも彼に負担を掛けすぎないようなものがいい。 僕のわがままに付き合ってもらうのだから。 だから、安物なんて買わないし、出来るだけ国産で安全性が保証されているものを選ぶ。 こんなものを選ぶ時にもそんな基準で選ぶことになるなんて変な気分だと思いながら、気がつけば送料が無料になるほど買い込んでいた自分に笑った。 届くのは今度の土曜日になるよう指定する。 そうすれば、届いたばかりのそれを二人で開けて、楽しめるだろうから。 「嬉しそうだな」 と彼に言われたのは、金曜の帰り道だった。 涼宮さんたちに変に思われないよう気をつけながら、こっそりと言われた言葉に僕も小声で返す。 「ええ。…待っていた荷物が明日届くものですから。あなたも、楽しみじゃありませんか?」 「あー……」 彼は困ったように考え込みながら顔を背けたが、その耳は真っ赤だ。 「…ま、お前が楽しみにしてるなら、それでいいんじゃないのか?」 「ふふ、ありがとうございます。…来てくれますよね?」 「分かってるっつうの。……俺が行かなきゃ、意味がないんだろ」 「ええ、その通りです」 彼はため息を吐いたが、それが人前ゆえのポーズだということを知っている僕としてはにやける他ない。 こういう時は、いつも笑っているというキャラクター設定も役に立つものだと思いながら、僕は念を押すように、 「待ってますね」 と言っておいた。 そうして実際、彼は約束通り来てくれた。 「荷物は?」 開口一番にそう言った彼に苦笑しながら、 「まだですよ。でも、午前中には届けてもらえるはずです」 「今度は何を頼んだんだ?」 興味津々と言った様子を隠しもしない彼に口付けて唇を封じ、 「届いてからのお楽しみ、ですよ」 と笑いかけると、 「なら、届くまで退屈させるなよ」 との言葉と共に、足りないとばかりにキスされた。 頭を引き寄せられ、唇を噛み合わせるようにしてぴったりと合わせる。 縦横無尽に動く舌も、滑らかな歯列も愛おしくて、くちゅくちゅと猥らがましい粘着質な音を立てながら貪りあう。 時折、抑えられなかったのか、彼の唇からかすかに、熱っぽい声が漏れる。 それは吐息にも似て甘く響き、僕を余計に昂ぶらせてくれる。 「…っ、ふ…」 という響きはおそらく、笑い声だろう。 それが間違っていないと証明するように、彼は艶かしい笑みを僕に見せてくれた。 「お前、本当に巧くなったよな…」 「あなたのご指導がいいものですから」 「んなこと言って、他の奴で練習なんて、してないだろうな?」 そう聞きながらも目が笑っているということは、本気でそう疑っているというわけではないのだろう。 「してませんよ。するわけないでしょう? 僕がこんなことをしたいと思うのは、あなただけなんですから」 「ふふ、」 と彼はもう一度鼻に掛かった笑い声を漏らす。 普段ならしないような笑い方、どこか僕のそれを真似たような笑い方に僕も釣られて笑う。 さざめくような笑いは、これからの秘め事にはぴったりかもしれない。 「古泉…」 とろりと蕩けてしまいそうな声で彼が僕を呼ぶ。 お返しをするように彼の名前を耳元で囁けば、彼も嬉しそうに笑った。 このまま一度してしまおうか、と思いそうになるけれど、ここでぐっと我慢だ。 高めるだけで決定打には絶対になり得ないような、甘い空気を楽しみつつ、荷物が届くのを待っていると、昼近くになってやっとそれが届けられた。 一抱えの、品物に対してやや大きめな箱を受け取り、ドアにきちんと鍵を掛けて部屋に戻ると、彼が眉を寄せながらこちらを見ていた。 「またでかい箱だな…」 「そうですね。中身はそう多くもないはずなのですが」 僕は箱を彼に渡して、 「寝室まで運んでおいてください」 と頼んで、自分ははさみを取りにいく。 彼は箱が見た目ほど重くないのでほっとしたような、それとも残念がっているような、曖昧な表情をしながら、僕が言った通り寝室まで運んでくれる。 さっきまでの戯れのせいで、彼も我慢出来なくなっているのだろう。 いつも性的なことに対して抵抗が少なく、奔放な彼だけれど、それにしてもいつも以上に素直になっている気がした。 やっぱり、期待しているんだろう。 にやにやしてくる口元を押さえつつ、僕は彼に続いて寝室に入った。 ドアを閉めて、 「カーテンや灯りはどうします? 窓は……閉めない方がいいですかねぇ?」 僕が言うと、彼は一気に顔を赤く染めて、 「し、閉めろよ! 隣近所に響いたらどうする!」 「おや、それは響き渡るほど声を聞かせてくださるということですよね?」 にたりと笑った僕とは対照的に、彼は口を手で押さえた。 しまった、と呟いたのが丸分かりだ。 「それなら、いいですよ。あなたの艶っぽい声をほかの人にまで聞かせてあげる必要はありませんからね。その分、僕にはたっぷり聞かせてくださいね」 「…ち、くしょ……」 悔しげにわなわなと震える彼に僕は極力優しく見えるように微笑みかけると、はさみを彼に渡した。 「開けてください。僕からあなたへのプレゼントなんですから、ね」 「うー……」 僕を睨みながらも興味と性欲には勝てないらしい彼が、受け取ったはさみで段ボール箱のガムテープを切って箱を開く。 その時、さっと納品書を取り上げることは忘れない。 黒いビニールで包まれた本体を取り出すべく、彼がビニールをはさみで破く。 そうして、出てきたものに視線を注いだまま、しばし絶句した。 「お気に召しましたか?」 僕が聞くと、彼は顔を赤くして、 「…お前…、こんなもん、本気で使うつもりなのか…?」 と聞いてくる。 期待しきってるくせに、何を言ってるんだか。 クスリと笑えば、彼が不機嫌に眉を寄せる。 「あなたの方がお好きなんじゃないですか? ああ、それとも……もう少し、ハードな物の方がよかったでしょうか」 「あほかっ!」 赤くなりながら彼は荷物を放り出した。 計算しているのかと思うほど可愛いし、こちらとしてもやりやすい。 「ダメですよ、せっかくのプレゼントなんですから大事にしてください。そうじゃないと、お仕置きしちゃいますよ?」 言いながら空手になった彼をベッドに押し倒す。 「っ…! ま、てって…」 「待てません。あなただって、もうこれ以上待てやしないでしょう?」 そう言って既に硬くなって来ている彼の中心を押さえれば、彼がびくんと体を震わせて、 「ひぅ…!」 と甘い声を立てた。 「ぁ、あ…っ、ん、こい、ずみ…!」 「大体、SMがしたいって最初に言い出したのは誰でしたっけ? 何も知らなかった僕にそれを覚えさせたのは?」 こう言えば彼が言葉を失い、抵抗しなくなることをよく知っているので、僕は既にお決まりになっているその台詞を口にした。 今日もやはり、彼はぐっと言葉に詰まり、抵抗しなくなる。 だから僕は悠々と彼の服を脱がせることが出来た。 下着すら残さず、完全に服を脱がせてしまえば、彼は恥かしそうに身を捩る。 カーテンを開け放したままの明るい室内で、自分の体を露わにされることが恥かしいのだろうか。 でも、それ以上に彼が興奮していることが分かる。 「本当に、好きですよね。いやらしいことも、恥かしいことも…」 「す、好きなんかじゃ…な…っ」 恥かしそうにすればするほど肌に赤味が増し、艶かしさに磨きがかかる。 その肌に直接口付けたくなるのを堪えながら、僕は箱の中に手を入れて、お目当ての品を引っ張り出した。 「ふふっ、これ、可愛らしいでしょう?」 言いながら彼の目の前にピンク色をしたボンデージテープを見せ付けると、 「な、んで…そんな色なんだよ…!」 「可愛いからですよ。期間限定品だそうです。まるでラッピング用のリボンみたいじゃありませんか?」 「悪趣味だろ…っ、んなもん、男の俺に似合わん…」 「似合いますよ。…ああでも、そうですね。本当なら真っ赤なテープがあればよかったんですけど」 そう言って、彼が軽く眉を跳ね上げたところで、 「…いつだったかの、赤いロープで縛り上げられたあなたの姿は、本当に綺麗でしたから」 と彼の耳に吹き込めば、 「ばっ…かやろ…!」 と怒られてしまったけれど、何もかもあからさまになっている今の姿では、それが照れ隠しであることくらい一目瞭然だ。 むしろ、彼は更に興奮してきているらしい。 触ってもいない中心がヨダレを垂らさんばかりになっているのが、酷く猥らで、見ているこちらもぞくぞくさせられる。 ピンク色をしたテープの封を破り、彼の腕に巻こうとして思い出した。 「そうだ。腕を拘束するなら、前に使ったアレの方がいいですよね」 そう言って立ち上がった僕の服を、彼が慌てて掴む。 「あ、アレってまさかアレか!?」 「アレです」 にっこり笑って言う僕に、彼が若干青褪める。 「あ、アレは勘弁してくれって、前も言っただろ!?」 「聞けませんね。アレなら安全ですし、何よりも、あなたによく似合いますから」 「絶対似合わねー!!」 絶叫する彼の手を解いて、クローゼットから道具類を仕舞ってある箱を引っ張り出す。 その中から目当てのものを取り出せば、彼がげんなりした様子で俯いた。 「そう嫌がらなくてもいいじゃありませんか。これなら、怪我をする心配もありませんよ?」 「怪我しても普通のの方がマシだ!」 と彼は前と同じように主張したけれど、僕としては頷けない。 「ダメです。あくまでもプレイなんですから、そんなことで怪我をするのは馬鹿げているでしょう? 何より、僕が嫌なんですよ。あなたに傷を残したりするなんて、絶対に」 僕が言うと、彼は諦めたようにため息を吐いた。 「分かったよ。…お前、そういうところは本当に頑固だからな」 「当然でしょう」 僕は手に取ったアレ――こと、ピンク色をしてふわふわもこもこの安全手錠を彼の腕に装着した。 後ろ手に拘束された彼は、これでもうほとんど何も隠せやしない。 「やっぱり、可愛いです。よくお似合いですよ」 笑顔で言っても、彼は恥かしいばかりらしい。 「うるさい」 と怒ったように言われてしまった。 「そう照れないでくださいよ」 そう言いながら僕は彼を抱きしめ、そのままボンデージテープで縛る。 と言っても、出来るだけ緩く、痕が残らないようにだ。 「大丈夫ですか? 痛みません?」 確認しながら巻いていく僕に彼は苦笑して、 「大丈夫だって。…つうか、SMだってんなら、もう少し痛くっても平気だぞ?」 「僕が嫌です」 「そうかい」 彼が平気な様子であるのを確かめつつ、僕は彼の胴体を縛り上げる。 胸の突起だけを残して、そこにふくらみを作るように、胸部を全体的に縛ると、ピンクのリボンでぐるぐる巻きにされたようになって、本当に可愛らしくなった。 「可愛いですよ」 もう一度言うと、 「だから、可愛いって言うな」 と照れた顔で怒られてしまったけれど、 「その顔も、可愛いです」 とキスをした。 もう体のバランスも取り辛くなっていたんだろう彼がそのままベッドに横たわる。 更に深く口付けながら、僕は彼に囁いた。 「どこに触って欲しいですか?」 「ど、こって……」 「乳首ですか? それともおへそですか? 耳でもいいですし、脚でもいいですよ」 そんな風に僕が囁くだけでも、彼は興奮を誘われるらしい。 ぞくぞくと体を震わせて、一層汗ばませる様は、いっそ淫靡とでも言いたいほどだ。 言葉を口にしかねてか、彼はしばらく口を開けたり閉めたりしていたものの、やがて諦めたように言った。 「…ち、くび……触って…くれ…」 「分かりました」 答えて、既にぴんと勃っている赤いそれに唇を寄せると、彼の体が跳ねた。 「っや、あ、…っんん…!」 「気持ちいいんですね。それなら、これなんてどうです?」 僕は段ボール箱から届いたばかりの新しいおもちゃを取り出した。 袋を破けば、金属製のそれが冷たい音を立てながら手の中に転がり落ちてくる。 「古泉…それ……」 「ニップルリングというものです。金属製なので少しばかり冷たいかもしれませんが、それは我慢してください」 言いながら、リング状になった部分を開き、挟み加減を指先で確認する。 少しばかり緩めにするのはやっぱり、彼に痛い思いをさせたくないからだ。 それでも、落ちたりしないようにと気をつけながら付けると、 「ちょ…っ、ん、やぁ…」 と彼が身を捩った。 「痛いですか?」 「痛か、ねえ、けど……」 緩い分むず痒い、と小声で呟く彼に僕は笑って、 「そういうのも好きでしょう?」 「…っ、いじ、わる……」 「SMプレイですから」 にっこり笑って返せば、彼は不思議な顔をした。 何か言いたいような、うまく言えないような、そんな顔だ。 「…つうか、SMって言うのか、こんなんで」 「何かおかしいですか?」 道具も使っているし、こうして縛って体の自由を奪ってもいるのにそう聞かれるとは思わなかった。 本気で聞いた僕に、彼は困ったように眉を寄せて、 「だって、痛くしないし」 「痛みを感じさせたくありませんから」 「跡も残らないようにするだろ?」 「いけませんか?」 「……」 「……」 しばらくの沈黙の後、彼はため息を吐いた。 「もう、いい。諦めた。お前に何言っても無駄だろうしな」 「どういう意味ですか」 「お前とSMプレイの定義を語り合っても堂々巡りだと思ってな。…もう、いいから早くしてくれ。……我慢、出来なくなりそうだから…」 そんな言葉を、目を合わせないようにしながら言う彼は本当に愛らしくて、愛おしくて、 「それなら、一度先にイかせてあげますよ」 と言っていた。 こんな大サービスはしないでおきたかったんだけど、彼の可愛さに負けたんだから仕方がない。 「え、い、いや、そんなのは頼んでな…」 何か言おうとした彼をうつ伏せにして、腰を高く上げるような姿勢をとらせる。 顔を枕に埋めた彼が苦しくないように枕の位置などを整えて、僕は彼の熱い中心に手を触れる。 「んんっ…!」 枕越しに、くぐもった声が聞こえてくるのは、歓喜の声か、それとも嫌がっているのか。 思いついて、僕はサイドボードの上に置いたまま忘れていたグラスを手に取る。 透明なガラスのそれは昨日、水を飲んだだけのものだから、大して汚れてはいないだろう。 乾ききったそれを彼の脚の間に置いて、彼のモノを搾るように扱く。 「っ、う、ぁ、やだ、やめ…っ…!」 切羽詰ったような彼の声が、絶頂が近いと教えてくれる。 ひとりでイくのは好きじゃないという、淫奔さに似合わない愛らしさを持っている彼だからこその抵抗だろう。 「後で、一緒にイきましょう。あなたの中で…イかせてくれますよね?」 「ん、んん…!」 頷く、というよりもむしろ枕に顔を擦りつけた彼に笑みを送り、僕は更に刺激を強める。 「も、イく、から…ぁ…!」 体を痙攣させてそう訴える彼に、 「分かりました」 と答えて、僕はグラスを先端に宛がった。 それさえ刺激になったのか、勢いよく白濁が放たれる。 僕はそれを一滴も余さずグラスで受け止めた。 それをどうするかと言えば、ぐったりとした彼を仰向かせて、彼に見せ付けてあげるのだ。 「…悪趣味……」 本日二度目の文句に、僕は余裕の笑みを返して、 「そんな悪趣味な男がお好きなのはどなたでしたっけ?」 「――っ、俺だよ! 悪いか!!」 悔しげに怒鳴る彼が可愛くて愛おしくて、僕はついつい彼に甘くなる。 本当は、中にLEDの入っているディルドを入れて奥まで見たいとか、M字開脚で縛りたいとか、色々思っていたはずなのに、それを実行するだけの余裕を失ってしまう。 今すぐに彼を抱きしめて、彼の中に押し入って、彼に包まれたいと思ってしまう。 でも、もう少しだけ、彼を更に魅力的に見える姿に飾り付けたい。 白濁を体に纏わせて、脚を大きく開かせたい。 だから、あと少しだけ我慢しようと思いながら、僕はグラスの中身を彼の顔へと滴らせた。 |