長門ことゆきりんが
B古キョンの世界に
F古+キョンの二人を
召喚しちゃいました☆
…という話です
どちらも完結済みのシリーズですので、
最後まで読んだ後に読んでもらえると分かりやすいと思います
時系列としても完結後の話ですし
久しぶりに書いたので矛盾とか出てきそうで怖いです
気付いたら拍手などでこっそり教えてやってください(おま
即刻直します
一応下げ
俺は確か、古泉と一緒に古泉の部屋でぐうたらしていたはずだった。 何しろ、古泉の部屋というのは非常に居心地がいい。 黙っていれば茶も菓子も食事も出てくるのみならず、日がな一日ボードゲームなんぞしていても咎められることもない。 おまけに、うっかり日が暮れるまで寝てしまったとしても、俺が寝ている間に古泉が家に連絡してくれ、しかもうちの家族は俺と同じくらいかそれ以上に古泉に対して甘いところがあるので、古泉が「是非泊まっていってもらいたいんです」といえばあっさり許してしまう。 たまに、あまりに古泉を独占しすぎるといって長門に叱られたり、あるいは俺の成績を心配した古泉が勉強会を始めたりすることもあるが、それを除けば快適としか言いようがない環境である。 そんなわけで、俺は今日も古泉の部屋でだらだらと自堕落な生活をしていたのだが、唐突に、ぐらりと世界が揺らいだ。 気絶とはこういうものだろうか、などとおかしなことを思いながら、意識を手放したはずなのだが、目を覚ますとおかしなことになっていた。 おかしなことというのは、まず、古泉の部屋から移動していたこと。 目が覚めたら、古泉のちょっと上等すぎるんじゃないかと皮肉のひとつも言いたくなるような部屋から、普通の学生向けアパートの一室のようなちょっとボロ臭くて生活臭の溢れる部屋にいたということだ。 それから、毎朝毎晩鏡なんかを覗くたびに目にする見慣れた顔が目の前にあったこともおかしい。 最後に――これはちょっと直視したくなかったのだが――、見覚えの悪い黒いマントと帽子を身につけ、どこかのアイドルか魔女っ子の如くきゃるるんとした長門が、いじけた子供よろしくぷくーっと頬を膨らませて、古泉そっくりなんだが古泉じゃない誰かに叱られていたのが、何よりもおかしかった。 そいつらはドアを開け放した向こうの隣りの部屋で正座して向かい合っており、話し声はろくに聞こえてこなかったのだが、長門が叱られていることくらいは分かった。 ちなみに、俺の古泉はというと俺より先に目が覚めたのか、心配そうに俺の顔を覗き込みながら、俺よりよっぽど不安そうな顔をしていた。 「…夢か。夢だな」 思わずそう呟いて目を閉じなおすと、 「ゆ、夢じゃないんです…! お願いですから現実逃避せずに起きてください!」 と俺の古泉――つうかもう面倒だから一樹と呼ぼう――が、俺の肩を掴んで遠慮の欠片もなく揺さぶってきやがるので、俺は仕方なく目を開けた。 「夢じゃないって…じゃあ、一体どうなってんだ?」 「えっと、それは僕もよく分かってないんですが……」 なんだそりゃ。 こいつが頼りにならんのはいつものことだがそれにしてもいつにもまして酷い返事だな。 呆れる俺に、俺じゃない俺が、 「悪い。長門を止めようとしたんだが間に合わなかったんだ」 「……つまり、長門のせいなんだな?」 とりあえずそれは分かったと確認すると、そいつは頷き、 「簡単に言うと、お前らはこことは別の世界の俺たちなんだ。それがこっちに来ちまったのは長門が勝手に呼んだせいだとしか言いようがない。悪いな」 「いや…別にお前に謝られることではないんだが」 「それでも、止められなかったのはこっちの責任だからな。悪かった。出来るだけ早く帰らせるから…」 「いいって、こんなことも珍しいからな」 苦笑した俺に、そいつもこれ以上謝ろうとするのは無駄だと分かってくれたらしい。 「じゃあ、せめて寛いでってくれ。今、お茶でも入れるから」 と立ち上がった。 「悪いな」 そう声を掛けておいて俺は、 「一樹」 と一樹を呼んだ。 それにどういうわけか、こっちの俺が反応した。 ぎょっとした様子でこちらを振り向いたかと思うと、 「お前……今…」 「……何かおかしかったか?」 首を傾げれば、そいつはなんとも言い難い表情をした。 難しそうに眉を寄せて、 「……なんでもない」 分からん奴だ。 「なんですか」 改めて返事をした一樹に、 「お前も似たような説明しか聞いてないのか?」 「そうですね…。僕も似たようなものです」 じゃあ、聞くしかないか。 お茶を入れて戻ってきたこっちの俺と三人、ちゃぶ台につくと、目の前にお茶が配られる。 それを一口すすった俺は、 「まず聞きたいんだが、お前ら二人とそこにいる長門の関係は?」 と聞いてみた。 「いきなりだな」 と苦笑しながらも、やはり俺は俺らしく、その方が分かりやすいとばかりにかすかに雰囲気を和らげた。 「長門は割と親しい友達で……俺と……あー…」 考え込みながらそいつはまだ懇々と長門を諭している古泉の方に目を向けた。 「お前と古泉は?」 「……兄弟、なんだ」 ………。 俺は思わず隣りに座っていた一樹を見た。 これはお前の願望の世界か、と目で問う。 「ち、違いますよ! っていうか、なんでそうなるんですか!」 慌てて否定した一樹に、 「だってそうだろうが。口癖のようにいつもいつも本当の兄弟ならいいのにって言ってんのはどこのどいつだ」 「それは……僕ですけど……」 「あー…、悪い、言葉が足りなかったな」 といったのは俺じゃなくてこっちの俺だ。 「俺が弟で、そっちで説教してるのが兄ちゃん、なんだ」 ……なんだって? 「不思議なものですね」 と一樹はのほほんと感心している。 「道理で、雰囲気が違うわけです」 「お前…楽しんでるだろ」 「……ばれましたか」 ばればれだ。 こつん、と額を叩いてやっても、一樹はまだ嬉しそうに笑っていた。 …このどMめ。 「それにしても、ご兄弟だなんて本当に羨ましいです」 一樹はそう言って弟くんに愛想を振りまいた。 「なんでだよ。兄弟だからっていいことなんて、大してないと思うが…。むしろ、弊害の方が多いんじゃないのか?」 「そうですか? 僕としては血のつながりと言うものは非常に羨ましいものだと思うのですが」 「そうか?」 首を捻るそいつに代わり、俺は一樹に言ってやる。 「大体、お前なんか実質的に俺の弟みたいなもんなんだから、羨む必要なんかないだろうが」 「それでも、弟みたいなものと本当の兄弟では違いますよ」 不貞腐れるように言った一樹に、弟くんの方は半笑いの微妙な表情になっている。 おそらく、こっちの古泉ならしないような表情なんだろうな。 しかし、一樹は不貞腐れても可愛い。 「僕も、本当にお兄さんの弟ならよかったのに…」 そう寂しそうに言って目線を伏せると、長い睫毛が瞼の下に影を落とした。 いかん、可愛い。 そう思ったら勝手に体が動いていた。 「――っ、もう、なんでお前はそんなに可愛いんだ!」 と言いながら一樹を抱きしめ、ほとんど押し倒すような形で頬にキスをすると、 「うわわわわ」 と一樹が声を上げた。 顔も真っ赤だが、これは照れてるだけだな。 弟くんはびっくりして目を見開いているし、長門はと言うと、ぱっと振り向いたかと思うと、 「かっ…カメラカメラ!」 と駆け出そうとして、 「ゆきりん、話はまだ終わってないよ」 と古泉に首根っこを掴まれていた。 …ふむ、こっちの古泉はやっぱり敬語ではしゃべってないのか。 さっきから聞こえてくる話し声がそんな感じではあったが、はっきり聞くと変な感じだ。 「お、お兄さん…離してくださいぃ…」 茹蛸のように真っ赤になっている一樹に頬ずりしつつ――だからなんでこいつの頬っぺたはこんなにつるつるすべすべで気持ちいいんだ――、 「なあ、お前も敬語止めてみないか?」 「い、嫌ですよ…、今更そんなの……」 「今更というのは今更だな。それだけの付き合いが有るんだから。…なのに、ずっと敬語のままってことの方がおかしくないか?」 「もう癖になってるんですってば。お願いですから勘弁してください!」 本気で暴れ始めたので、俺は流石に手を離した。 それから我に返り、まだぽかんと間抜け面を見せている弟くんに、 「…あー……見苦しい真似をしてすまん」 と謝ったのだが、それに対する返事は、 「…お前らも、やっぱり付き合ってんのか?」 というものだった。 と言うか待てよ。 お前ら「も」ってのはなんだ、「も」って。 「よく誤解されますが、あくまでもお友達としてのお付き合いですよ。普通のお友達と比べると親しくさせていただいてますし、お兄さんと呼ばせていただいたりもしてますが、そこから逸脱してはいません」 如才ない風を装って一樹が答えたが、弟くんはまだ眉を寄せている。 「…なあ、まさかとは思うんだが、お前らは付き合ってるのか?」 俺が聞くと、弟くんはぱっと顔を赤くした。 …同じ顔をして何を言うのかと思われるかもしれないが聞いてくれ。 ……正直、可愛かった。 一樹、俺が同年代の男に対して可愛いとか思うようになっちまったのはお前のせいだから本格的に責任取りやがれ。 「何勝手なこと言ってるんですか、お兄さんは。あと、今のは確かに可愛かったですけど、お兄さんも照れてるとあれくらい可愛いですよ」 可愛い言うな。 「かっ、可愛くなんかない!」 真っ赤になりながら弟くんも否定しているが、それがまた可愛いと言うことは気付いていないんだろうし、納得もしてくれないんだろうな。 赤い顔をしたまま、弟くんは俺より扱いやすい一樹に向かって、 「本当に、付き合ってないんだろうな?」 「ええ、そうですよ。お兄さんもお姉さんも、ちょっとスキンシップ過剰なだけなんです」 「……お姉さんってのは誰のことだ?」 「あ、長門さんのことです」 その言葉に、こっちの長門がぐるんと振り向き、 「呼んだー?」 なんて明るいことこの上ない声で言ったが、一樹を引き攣らせただけで、古泉によって引き戻されていた。 「…長門がお姉さん、ってのは姉みたいなものってことだよな。さっきの話からして。……お前も大変そうだな…」 「あ、あの、同情されるところではないはずなんですけど…!」 どうやらこっちの長門はよっぽど物凄いやつらしい。 なんとなく察しは付いていたが。 長門と区別して、こっちの古泉が呼んでいるようにゆきりんと呼んでやるべきだろうか。 呆れながら、俺は弟組のほのぼのとした雰囲気から離れ、説教がそろそろ一段楽しそうな古泉(兄)に近づいた。 その横顔をまじまじと見つめる。 …やっぱり、違うように見える。 勿論、一樹と同じ顔ではあるのだが、雰囲気が違いすぎる。 一樹が年より幼く見えることが増えてきたせいかもしれないが、この古泉は妙に年上に思えた。 実際に年上だったとしても驚かないだろう。 あと、長門の方を極端に見ないのはあれだ、現実逃避とかそういう類の行為ではなく、単純にこの長門を記憶にとどめることのないようにという配慮である。 ここで妙な長門像を植えつけられると、帰ってから有希に申し訳ないからな。 「…分かった? もういきなりこんなことするんじゃないよ」 「はーいっ!」 返事だけは元気よく頷いた長門――つうか、ゆきりん、だな――を解放し、古泉はため息を吐いた。 それから、俺の方に向き直る。 「長門さんが迷惑を掛けてしまってすみません」 「いや、面白がってるから気にしないでくれ。あと、言葉もわざわざ敬語にしなくていいぞ」 「…ありがとう」 そう言って小さく笑った古泉は、その笑みも、一樹よりずっと大人っぽく見えた。 「さっきからじっと見てたけど、何か顔についてたりするかな?」 「いや、全く同じ顔だってのに、全然違うと思って、つい、な。気に障ったんなら謝るが」 「別に気に障ったりはしないけど…くすぐったかったかな」 ふふ、と笑った古泉は、 「僕も、同じようなことを思ったよ。キョンと同じ顔なのに、全然雰囲気が違うな、と」 「弟相手にキョンって呼ぶのか」 うちの妹だって俺のことをキョンくんと呼びやがるが、なんとなく変な気がした。 この顔からキョンなんて間抜けな音が出たからかもしれないが。 「…まあ、それはちょっとした事情があるせいなんだ。気にしないでくれると助かるかな」 「……いいだろう。付き合ってるらしいことも、深くは追及しないでおいてやる」 「ありがとう」 そう言った古泉に、俺はため息を吐き、 「それにしても、同じ造作の顔がこうも違って見えるとすると、あいつが可愛く見えるのは俺の目におかしなフィルターが掛かっているせいだと証明されたような気分になってくるな」 「ははっ、僕も同じようなことを思ったよ。キョンより君の方がずっとしっかりしてて、大人びて見えるなって。でも、誰だってそうなんじゃないかな。弟や妹って、どうしたって可愛いものだからね」 「……妹?」 長門は妹代わりとかじゃないんだろう。 一体どういうことだ? 「キョンの妹は、僕にとっても妹だから」 「……ああ、そういうことか。うちの妹が聞いたら全力で羨ましがりそうだな」 「そうなのかい?」 「おう。今も、『いっちゃんがお兄ちゃんならいいのに』なんて言って俺を盛大に嘆かせてくれてるからな」 「なるほど」 くすくすと笑った古泉と二人、弟たちの方へ目を向けると、二人はどうやら兄自慢とでも言うのだろうか、この前二人で何をしたのどういうところに行ったのといった話をしていた。 半端でなく混じる賛美の言葉がくすぐったくてならん。 「兄ちゃんは、料理がうまいんだ」 と弟くんが嬉しそうに話しているかと思うと、一樹も負けじと、 「お兄さんも、お上手ですよ。時々、お姉さんも交えて三人で料理したりするんです」 などと話している。 何と言うか二人とも、 「可愛いな…」 思わずのほほんと呟くと、古泉も、 「そうだね」 と頷いた。 「弟ってだけで可愛く見えるのはもはや病気としか思えんがな」 「それなら僕も同じ病気だな」 「そうだろうな。俺なんか、血の繋がりもないってのにこうなんだから、実際血縁だったらどうなるか、考えるだに恐ろしい」 「あはは、なるほどね。僕は逆に、血の繋がりがなかったらもっとキョンのこと甘やかしたり、好きに振り回したりしてそうで怖いな」 「そうなのか?」 「うん、ほら、やっぱり兄としては威厳を保ちたいと思わないかな」 そう言われて、俺は少し考える。 さっき一樹が自慢していたが、料理をしてやったり、教えたりするのだって、俺よりずっと優れたところの多い妹分と弟分に対して、何かしら優位に立ちたいという思いのあらわれなのかも知れない、と思いながら、正直に頷く。 「…思うな」 「だろう? そうなると、余り無茶は出来ないし、兄としては労わりたいとか色々思うからね。キョンは時々、血の繋がりがなかったらまだいいのにって愚痴るけど」 「あー……付き合ってるならそうなるのかね」 俺にはよく分からんが。 というか、男同士なんだし、血の繋がりがあろうがなかろうが関係ないんじゃないか? 子供が出来るってんでもないんだろ。 「君たちは付き合ってないんだよね?」 「ああ。俺は一応ノーマルなヘテロタイプのはずだ」 「はず、なんだ?」 意地悪に指摘され、俺は眉を寄せつつ声を潜めた。 「…はず、だ」 「小声になるってことはもう少し聞いてもいいってことかな」 「どうせ言っちまったところであんたとはこれっきりなんだろ。旅の恥は掻き捨てって言うから言っちまってもいいかと思ったんだが、迷惑ならやめる」 「迷惑なんてことはないな。是非、聞かせてもらいたいね。今後の参考に」 参考になんかならんぞ、と思いながら、 「……一度、ぐーぐー寝こけてる一樹にキスしちまってな」 「へぇ…」 特に驚いた様子もなく相槌を打った古泉に、すらすらと心情を白状しちまったのは、こいつが一樹以上に頼れる雰囲気だったからだろうか。 「自分が一樹に対して持ってる感情が、友情なんだか恋愛感情なんだか分からなく思えてきてな。大事なのは確かなんだが、そのどちらなのか、またはその区別自体が凄く曖昧に思えたんだ。だから、はず、と付けさせてもらった」 「なるほどね。複雑だなぁ」 完全に他人事だからだろう。 そんな感想を漏らした古泉を困らせたかったわけではないのだが、 「……あんたはどこで見切りをつけた?」 と聞いてみていた。 「うん?」 首を傾げる古泉に、問い直す。 「弟として好きなのか、それとも違うのかってことをだよ」 「ああ、そういうことか。…そうだなぁ……」 しみじみと考え込んだ古泉は、ややあって小声で答えた。 「……ドンビキされそうな返事になるけど、いい?」 「……まあ、構わんが…即刻記憶を消去したくなったら手を貸してくれ」 「ああ、うん、いいよ。それくらいならゆきりんに頼んでもいいし」 そこまで具体策を講じなくてもいいっつうの。 耳を貸した俺に、古泉は囁いた。 「……キョンの裸に欲情した時」 ……。 そうかい。 「…こりゃまた、即物的で分かりやすい答えをありがとよ」 「でも、それが一番分かりやすいと思うけどね」 と古泉は苦笑している。 ドンビキ云々と自分で言ったことからしても、一応良識を弁えてくれてはいるらしい。 「まあそうなんだろうがな」 とりあえず、それなら俺のはまだ恋愛感情ではないということだろう。 「一樹のことを抱きしめたいとかキスしたいとかは思うが、それ以上は想像するだけで鳥肌が立ちそうなくらいだからな」 「ああ、なら違うんじゃないのかな。ここから変わる可能性もあるんだろうけど」 「そこには触れてくれるな」 何が怖いって、実際そうなったとしても普通に受け入れそうなうちの家族が怖いくらいの環境が既に整ってるんだからな。 「羨ましいけどね」 くすくすと笑った古泉は、 「それにしても、可愛いなぁ」 と再び弟たちのほうに優しげな眼差しを注ぐ。 「全くだな。…お前の弟の方が顔とか赤くして、むきになってんのは確かに可愛いと思う」 同じ顔して言うのも妙だが。 「キョンはあれでもまだ抑えてる方なんだよ」 「…あれでか?」 十分、感情が露骨に出ている気がするのだが。 「本当はあんなもんじゃないよ。今は君たちもゆきりんもいるから抑えてるだけで、本当は結構甘えたがりなんだ。二人きりの時に甘えてくるのなんて、本当に可愛くってさ。見せびらかしてあげたいような、独り占めしておきたいような気分になるね」 「その感じはなんとなく分かるな。俺も、一樹が懐いてくると鬱陶しいと言いながら突き放せないし、相手が長門であっても、他のやつとじゃれてると無性に邪魔したくなる」 「あっは、なかなか独占欲が強いんだね」 分かってるから、 「ほっといてくれ」 「うん、まあ、僕も人のことは言えないし」 「あと、一樹は泣き顔が可愛い」 「泣き顔? 泣かせたりしてるわけ? いけないな」 と年上のようにたしなめる古泉に俺は眉を寄せ、 「あいつがちょっとしたことで勝手に、しかも簡単に泣くんだよ。俺のせいばかりじゃない。…あとは、機関の関係とかだな。俺にはどうしようもないところでストレスとか溜め込んだ挙句、耐えかねて俺に泣きついてきたことが何度かある。そんなになる前に頼ってくりゃいいのにな」 すると古泉は神妙な顔をして同感の意を示した。 「……分かるな。キョンも、僕にはなかなか頼ってきてくれないから」 「それはお前らが付き合ってるせいじゃないのか? そうしたらかえって相談できないことってのもあるだろ」 「うん、それもあるのかもしれないけどね。……だからって朝比奈さんを頼られたりすると複雑なんだよ、こっちも」 力なく笑った古泉の肩を軽く叩いてやり、 「そこは妥協しろよ。仕方ないだろ、友人と恋人ってのは普通両立できんものなんだからな」 兄弟と恋人ってのを両立しているだけで十分だと思え。 「そうだねぇ」 「……となると、もし万が一、俺のこれが恋愛感情になっちまうとしたなら、俺は今のうちに友人としての状態を堪能しておくべきだってことか」 「ああ、そうかもね」 くすくすと笑った古泉は、 「僕は、友人としてすごせたことなんてほとんどないからなぁ。君たちがちょっとだけ羨ましいよ」 「そうかい」 勝手に羨ましがっててくれ。 「…俺もな、少しはお前らが羨ましいんだ」 「そうなのかい? でも、恋愛感情で好きなわけじゃないんだろ?」 羨ましいのはそこじゃねえよ。 「……生憎、一樹は家庭環境に恵まれなくてな。その代わりを俺に求めてる節があるんだ。だが、俺じゃあどうやっても一樹がなくしちまった家庭そのものにはなれん。よくても代わりにしかなれないだろう。代替物はしょせん代替物だからな。……違うか?」 「……どうだろうね。たとえ代替物であっても、本当に代わりになるならそれで十分だと言えなくもないんだろうけど」 「まあ、とにかく俺は血の繋がりがあるお前らがちょっとだが羨ましい。…ちょっとだけどな」 そう強調した俺に、古泉は小さく声を立てて笑った。 その時だ。 「…あのさ、話は一段落した?」 呆れきった声で言ったのはゆきりんだった。 「どうかしたのか?」 俺が聞くと、ゆきりんは唇をへの字に曲げたまま背後のちゃぶ台を指差した。 そこでは耳まで真っ赤になった弟たちが突っ伏している。 屍累々とでも表現したくなるような有様だ。 ちゃぶ台の真ん中に爆弾でも投下され、被爆したのだろうか。 …なんて、ふざけてる場合じゃないな。 もしかして、聞こえてたのか? 「もしかしても何もないよ! 途中からぜーんぶ筒抜け! だだ漏れっ! っていうか声大き過ぎるよ二人とも! あと、周りも見えてなさ過ぎ!! ついでに言うと何!? 今のは惚気ですか!? みたいな感じだったし、一樹くんもキョンくんも小声でだけどいっちゃんたちを呼んで止めようとしてたのに全っ然聞こえてなかったでしょ! もう、弟が可愛いのは分かるけど、回りくらい見てよー!!」 そう叱られた俺は顔を見合わせ、真っ赤な顔をこちらに向けている弟たちに平謝りする破目になったのだった。 |