鬼畜になりきれてない感もありますが、とりあえずエロです
ご注意くださいませ
目の前は、比喩的な意味でなく、真っ暗だった。 差し込む光などひとつもなく、辺りがどうなっているのかなんてことは耳から入る情報くらいでしか分からない。 だからと言って別に、俺が突然失明したというわけではない。 単純に、目隠しをされているだけだ。 そして、目隠しなんてものを俺が自ら進んでするはずがなく、わざわざつけた奴がいるわけだが、そいつは目下のところ、俺の下半身を好き放題に弄るのを楽しんでいた。 抵抗のために脚を閉じようにも、手首と足首を短い布で結び付けられていては、それすらままならない。 自由になるのは口ぐらいのもので、 「も…っ……いや、だ、って……」 普段なら情けなくてそのまま言葉を止めたくなるような声で泣きを入れても、古泉は俺の手足の拘束も目隠しも解こうとはせず、小さく鼻を鳴らすように笑ったのが、黒い布を通してでも分かった。 「だめですよ。いつもより、ずっとマシじゃありませんか。あなたが、いつもいつも道具を使われたりするのが嫌だと仰るから、極力排除して差し上げたんですよ?」 拘束具も目隠しも道具のうちだろうが、というツッコミを出来なかったのは、それを言ったが最後、ローターないしバイブなどといった本格的な「道具」の使用を強行されることが、見えない目にもはっきりと見えていたからだ。 「だから…っひ、ぅ……なんで、道具なんて…」 「道具を使う理由は、前にも説明しませんでしたか? 他のことについてもそうですが、あなたがそうして乱れてくださるから、それが見たくて、ですよ」 そう言って古泉はさっきからローションに塗れ、ぐちゃぐちゃと猥らがましい音を立てているそこに入れる指を増やした。 見えないせいで何も予想が出来ず、手足に触れられるだけでさえ過剰に体が反応するというのに、更に直接的な刺激を加えられて、体が跳ねた。 「んぁあ…っ、も、や…だ……」 「素敵ですよ」 俺の抗議など黙殺して、古泉は俺の耳元に唇を寄せた。 それが分かったのはその熱い吐息が耳に触れたからで、それだけでも熱を尚も煽られるのが分かった。 一体どこまでこの熱は上がっていくんだ。 上がりすぎた体温のせいで、そのうち融けてなくなりそうだ。 「あなたには見えないでしょうから、教えてあげますよ」 「ゃだって…!」 小さく抗議の声を上げたところで無駄なことは分かりきっていた。 古泉は例の、普通の単語でさえいやらしく聞こえそうなねちっこい声で、 「今、あなたの胸の二つ並んだ乳首は、艶々光ってて綺麗ですよ。官能小説などにあると失笑物の表現ですが、あなたの場合本当にルビーか何かのように見えますね。見ているだけで触れたくなるような、誘っているとしか思えない乳首ですね。お願いですから、他の人に見せたりしないでくださいよ」 「見せる、わけ、ないだろ…っ」 耳から吹き込まれるとんでもない言葉と、その間も止まりやしない器用な指とに翻弄されながら、俺は苦しい息の下からそう訴えた。 「本当ですか? 夏になれば海やプールに行く機会もあると思いますけど……」 「ひぅ…っ、い、行ける、わけ、ないだろ…! お前が、いっつも、痕つけて、消えない、ん、だから…ぁ…っ」 「それは、もうつけるなと言う意味ですか?」 そう言った古泉が、苛立ちを伝えたいかのように俺の耳を強く噛んだ。 絶対痕が付いただろ、と唸ってやりたいのを堪えながら、 「誰も、んなこと、言って…ねぇ…」 俺が夏場水泳の授業を放棄した結果、体育の単位を落としたら、お前が責任を取れよ、といった内容のことをみっともなくも喘ぎに塗れさせながらも訴えれば、古泉が嬉しそうに笑ったのが分かって、余計に腹立たしくなった。 誰のせいだと思ってんだ畜生。 「すみません。でも、嬉しくて…。いつもは辛辣な言葉も下さるくせに、本質的には僕に甘いですよね、あなたは」 「ぅ、るさい…」 「僕にだけ、ですか? それとも、他の方にも?」 「お前、だけに……っん、決まってる…だろ…」 「嬉しいです」 そう言った古泉の動く気配がして、俺の唇に古泉のそれが触れた。 たとえ見えなくても、また仮に、言葉を与えられなくても、唇を合わせるだけで古泉の唇だと分かってしまうんじゃないかと思えてくるくらい、何度も重ね合わせたそれが、悪戯でも仕掛けるように俺の唇を舐めた。 反射的に緩む唇が、空気や水を求めるように開かれる唇が、憎い。 視界がふさがれている分いつもより鋭敏な聴覚が自分の聞き苦しい呼吸音を捉え、嗅覚は古泉の匂いを捉える。 もう随分とこうして密着していて、お互い興奮してるから体温も高くて、当然汗だってかいてるってのに、なんでこいつはこんないい匂いがするんだ。 ……俺の頭が煮えてるせいじゃないだろうな。 上からも下からもくちゅくちゅと後ろめたい水音が響き、その音にまた背筋がぞくぞくとしてくるのが分かる。 結局俺も、古泉のことを笑ったり非難できないくらい変態だということなんだろうか。 嫌だと言いながら、間違いなく興奮している自分に絶望したくなった。 いっそ殺してくれ。 思っただけでなく、どうやら声に乗せてしまったらしい俺の呟きを、古泉は聞き咎め、 「どうしてそんなことを仰るんです? そんなに嫌ですか?」 「嫌に決まってんだろうが…」 「…本当ですか?」 古泉の声の調子から、古泉が今真剣な顔をしているんだろうということが分かり、俺は初めてこの目隠しに感謝した。 そうでもなければ今頃、あの目でじっと見つめられて、思ってもみないことまで白状させられていたに違いないからな。 「本当だ」 「……」 古泉が黙り込んだ、と思ったら古泉の手が止まった。 「古泉?」 「…なら、もう、止めましょうか」 滑りを帯びたままの指が引き抜かれる。 「お、おい?」 「あなたが嫌なら、止めにしましょう。……あなたがそこまで嫌がってたとは思いませんでした」 「って、お前、何か勘違いしてないか?」 「…勘違い、なんですか? 死ぬほど嫌なんでしょう? こうしていることが」 「――」 さて、俺はどう答えたらいいんだ? 自分の変態性に絶望しての発言だったと説明すればそれで済むのか? それとも、このまま途中で放置される方が酷いと罵ればいいのか? ちくしょう、俺は一体どこまでこいつに情けない姿を見せなきゃならんのだ。 少しくらい尊厳を保ったり、見栄を張ったりさせてもらいたいものだが、それも許されないんだろうか。 俺は間違いなく赤くなっているだろう顔を、古泉がいるはずの方向に向けて言った。 目隠しされててよかった。 そうじゃなかったら全力で顔をそらしたに決まってる。 たとえそうすることで古泉が更に傷つくと分かっていたとしても。 だから今だけは、この悪趣味な目隠しに感謝しながら、古泉をこれ以上傷つけたりしないようにと古泉の方を向いて、 「俺が…っ、嫌なのはだな、」 恥ずかしさに声が震えるが、今更だ。 そう、今更なんだ。 「お前とこういうことをすることじゃなくて、その、…っ、お前に、こんなことされても、気持ちいいとか思っちまうような自分の頭の沸き具合が嫌だって、言ったんだ…!」 情けなくて泣きそうになる俺の顔に、古泉の顔が近づく。 それと分かったのは古泉の吐息が俺の鼻先にかかったからで、お前どこまで顔を近づけてるんだと問いたくなった。 「…本当に?」 「嘘言って、どうすんだ…」 ああもう、ほんといっそのこと殺してくれ。 これ以上生き恥をさらしたくない。 「だめですよ」 笑いを帯びた古泉の声が、唇が、嫌になりそうなほど優しく、俺の唇に触れる。 「あなたに死なれたくなんてありません」 「…だったらもう少しまともなプレイに留めてくれ……」 「却下です」 間違いなくイイ笑顔で言いきりやがったなこの野郎。 「あなたも、楽しんでいるんでしょう?」 そう言った古泉が、指を引き抜かれてもまだ、だらしなく口を開いたままの部位に触れた。 「く…っ」 「洋の東西を問わず、花や蕾に喩えられますけど、あなたの場合本当にそうですよね。あれだけ固く閉じていたのに、少し触れるだけでこんなにも猥らに花開いて、蜜を出すように濡れて」 「だから…っ、い、言うな…!」 お前は官能小説作家にでもなるつもりか。 いい加減その薄ら寒い言い回しを止めてくれ。 「嫌だ嫌だと言いながらも、悦んでるじゃありませんか。そうでしょう? あなた、僕の声も好きですからね」 だから言っていいというもんでもないっ! 「恥ずかしいことを言われるのも、させられるのも、気持ちいいんでしょう? 余計な道具も使わずに、しかも性感を高められるなら、いいじゃありませんか」 元から制御しきれないものを高められたらどうなっちまうんだと言うことも出来ず、俺は意味のない音で喉を震わせた。 「もう、入れて欲しいですか?」 願ってもない言葉に、恥じらいもなく頷き、 「は、やく…」 とねだれば、古泉は嬉しそうな笑い声を立てておきながら、 「まだダメですよ」 「なんで…っ……うぅ…」 「ああ、ほら、泣かないでください。…もう少し焦らされた方が、あなたはもっと気持ちよくなれるでしょう? 焦らされるのも、お好きですよね」 「ちが…」 「ふふっ。今、縛ってある手を解いたら、あなたはどちらに手を伸ばすんでしょうね。前ですか? それとも後ろ?」 「…ど、っちも、い、やだ…っ、なん、で、お前が、いるのに…自分でなんか……」 しゃくり上げそうになりながらそう言うと、古泉が唾を飲み込む音がやけにはっきりと響いた。 「…今のはキますね」 「ふ、あ…?」 「そうやって、無自覚に誘っている辺り、あなたは怖いんですよね。本当に…」 と古泉はわざとらしく俺の耳元に唇を寄せ、 「あなたは、本当に淫奔ではしたない人ですね」 「っ……」 ずきりと胸が痛んだのは確かなことのはずだった。 それなのに、それ以上に古泉にそうして揶揄されて、性感を煽られている俺が確かにいて、紛れもなく変態は俺だなと泣きたくなった。 「…ぅ、っく……」 泣きたくなっただけじゃなく、実際に込み上げてきた衝動に喉が鳴り、目元を覆う布が濡れる。 「泣かなくてもいいんですよ。…そんなあなたも好きですし、どんなあなたでも僕は愛せますから。……愛してます」 古泉の言葉を聞いて俺は、ああ、こうして俺は壊されていくんだな、と悟った。 まず体から。 快楽と苦痛とを絶妙な具合で与えられて、自然と快楽にすがってしまうように、壊される。 次に心を。 他の誰かの顔色も気にせず、ただ古泉の一挙手一投足に青くなったり赤くなったりするように、どんなことがあっても古泉にすがってしまうように、壊される。 そして、身も心もボロボロになって、他の誰もが俺に見向きもしなくなっても、古泉は間違いなく俺の側にいてくれるんだろう。 むしろ、そうなって初めて、古泉は本当の意味で安心出来るかのようにも思えた。 それほどまでに強い執着を、恐ろしく思ってもいいはずなのに、既に壊れようとしているからか、俺の心はそれさえも嬉しく感じる。 他の誰にでもない。 古泉に、愛されているのが嬉しい。 古泉が他の誰でもなく、俺を選んでくれたことが嬉しい。 だから俺は、 「お、れも…、好き、だから……っ、お前、だけ、好きだから……だから…」 欲しい、と強請れば今度こそ古泉が頷いてくれたのが分かった。 きつく結ばれた手足の拘束は、脚を開くほどに手は楽になる。 だが、俺は苦痛を和らげるためにではなく、古泉を迎え入れるために殊更に脚を開き、 「早く…、来て、くれ……」 と精一杯の媚態を作る。 他の誰にも見せられない、見せる必要のない姿を、古泉にだけ見せる。 そこまで俺が余裕を失って、やっと古泉は満足したようで、待ち侘びたものを猥らがましく口を開いた部分に押し当てた。 それだけで腰が揺らぐ。 手足の拘束さえ、目隠しを外したり抵抗したりすることが出来ないのが嫌と言うよりも、古泉を抱きしめられないのが嫌だという、それだけのものにしか思えなくなる。 「入れますよ」 「はや、く…ぅ、んん…っ!」 酷く緩慢に、ゆっくりと入ってきたそれの質量に目眩にも似た感覚を得て、俺は体を震わせる。 焦らされるほど気持ちよくなれると言った古泉の言葉が嘘じゃないかのように、快感ばかりを拾い上げる浅ましい体を。 初めての頃に感じた痛みはどこに消えたんだと本気で聞きたくなる。 それとも、痛みはまだ存在するのに、俺がそうと認識出来ないだけなのだろうか。 古泉に与える何もかもが気持ちよくなってしまっているのだろうか。 今だって、 「ほら、やっぱり、焦らされた方が気持ちがいいんでしょう? こんなゆっくりした動きじゃ物足りないって、凄く締め付けて来てますよ。このまま動かなくても、それだけでイってしまえそうなくらいです」 と貶めるような言葉を吐かれても、それすら快感に変換する。 実際、動きを止められて、それを不満に思うほど、猥らで、どうしようもない体を制御する術など、俺は知らない。 「や…っ、動け、よ…! こんなんじゃ、足りない……!」 羞恥心の欠片もなくそう哀願すれば、古泉はクッと喉を鳴らしながら、 「普段のあなたも好きです。あなたなら、どんなあなたでも好きです。でも、あなたにはそうやって僕に組み敷かれながら快楽に噎び泣いてる姿が一番素敵ですよ」 「ほ、んと…か…?」 そう問い返してしまうのは、呆れられていないかと不安に思う部分がまだ少しばかり残っていたかららしい。 「ええ、」 頷いた古泉は俺の頬に口付けながら、 「いやらしいあなたが、好きですよ」 と囁いた。 「…好きなら、もっと、乱れさせて…くれよ……っ…」 「そうですね。では、」 「ひぅ…っ、あ、あぁ、ん…!」 いきなり腰を使い出した古泉に声を抑えることも出来ないまま、古泉以外には聞き苦しいだけの声を上げる。 それでも古泉には、それが楽しいもののように聞こえるようで、 「存分に、乱れてください…っ」 と嬉しそうに言うのが聞こえた。 弱い部分を突き上げられ、胸の突起を押し潰され、首筋に噛み付かれて、俺は声を上げ続ける。 暗闇に包まれたままのはずの視界が、白く弾けて消えるまで。 |