「ヴァンパイアフィリア」と「ヴァンパイアフィリア2」を読んでいないと訳が分からないかもしれません
リクエスト通りになったかはともかくエロですよ
金曜日の夜、学校帰りに古泉の部屋に上がりこみ、ぐだぐだ話をしたりゲームをしたりして過ごした俺は、勧められるまま晩飯を食い、風呂に入った。 家主に料理させた上、家主の前に風呂に入るなんて、どれだけ自由に振舞ってるんだと自分でも苦笑するしかないが、古泉との間に遠慮なんて存在しないし、古泉がそうしろと言ったんだから構わないだろう。 「古泉、上がったぞ。お前は入らなくていいのか?」 「僕はまだいいです」 ソファに座ってニュースを見ながら古泉はちょっとこちらを振り向いて微笑んだ。 穏やかで優しい笑み。 ――それに物足りなさを感じる俺も、所詮ハルヒの同類ということだろうか。 「冷蔵庫にジュースが入ってますから、よければどうぞ」 「ん…」 風呂上りで喉は渇いてるからそれはありがたいのだが、喉の渇きからは別のことを思いださずにはいられない。 古泉の癖というか、習癖だ。 ――ヴァンパイアフィリアとか吸血病とか呼ばれるそれは、ストレスなどを原因とした精神疾患であるらしいという話を聞かされてから数ヶ月。 その衝動に駆られて古泉が俺に血を舐めさせてくれるよう頼んできたことは十数回に及ぶ。 最初は週に一、二回だったものが、少しずつその間隔が開き、最後に舐められたのはもう二週間以上も前になる。 その代わりのように、二人きりで会う回数や、体を重ねる回数は増しているのだが、また以前のように無理をして吸血衝動を押さえ込んでいるんじゃないだろうか。 グラスに注いだジュースを一息で飲み干した俺は、グラスを流し台に置き、古泉の隣りに腰を下ろした。 「なぁ…」 「はい?」 「最近は、飲まないんだな」 「何のことです?」 と問う古泉は、そらっとぼけているというわけでもないらしい。 俺は小さくため息を吐き、 「血」 と一言で答えた。 それでも古泉の表情は強張りもせず、穏やかなままだ。 「必要ありませんから」 そう微笑んだ古泉が俺を抱き寄せる。 暖かいと思う以上に心臓が落ち着かなくなるくらいには、俺はこいつに参ってるらしい。 我ながらどうかしていると思う。 あの時古泉に血を舐められなければ、こうはならなかったんじゃないか? 「吸血衝動はストレスから来ると言ったでしょう? その原因であるストレスが激減している以上、血を舐める必要もないんですよ」 「そんなにストレスを感じなくなってるのか?」 「ええ」 古泉は俺を抱きしめる腕に力を加えながら、 「涼宮さんも最近は落ち着いてますし、何より、あなたがいてくれますからね」 「俺が役に立ってるとは思えないんだが」 「いいえ、あなたが側にいてくれるだけで、僕は本当に楽になれるんです。あなたが、僕を好きだと言ってくださるだけでも」 その理由を聞いたところでむず痒いことしか言われないんだろうな。 俺は少し考え込んだ後、思ったままを口にした。 「…もう、飲まないのか?」 それに対する古泉の反応は、軽く目を見開くというもので、しかもすぐに笑みに変えられた。 「飲んで欲しいんですか?」 絶対的優位にあるもの特有の笑みだ。 「べ、つに……」 「そうですよね。指先とはいえ切れば当然痛みますし、痕も残りますから、わざわざご自分からそんなことを言い出すはず、ありませんよね?」 「……っ、古泉、お前、分かってて言ってんだろ」 悔しさと恥ずかしさで顔を赤らめながら言えば、古泉は楽しそうに笑いながら俺の頬にキスをした。 「あなたのことですから、分かりますよ。少なくとも、それくらいのことは」 舌先でなぞるように頬から耳元へ唇の位置をずらした古泉は、 「あなたが許してくださるのでしたら、飲ませてください。あなたの、甘くて美味しい血を」 と囁いた。 興奮に震える体で、夢遊病患者か何かのように立ち上がった俺は、ふらふらとキッチンに戻る。 引っ張り出したぺティナイフで指先を軽く撫でれば、一瞬の痛みの後、じわりと血が滲み始める。 血を舐めたがるのがヴァンパイアフィリアなら、そいつに血を舐めて欲しがる俺は一体何中毒なんだろうかと考えながら、滲んだ血がぷくりと起き上がるのを見つめていると、それがぱくりと古泉の唇の中に消えた。 「…まだいいって言ってないぞ」 唇を軽く尖らせながらそう言っても、古泉は軽く目を細めただけで何も答えなかった。 それさえ惜しいというように、俺の指先を嘗め回し、時には強く吸い上げる。 それだけのことに、酷く興奮を煽られた。 ぞくぞくとしたものが体の芯から表面までを満たし、同時に一箇所に熱を集め始める。 丹念に舐める舌先の動きの繊細さを思うと、やっぱり、血を舐める時の方がそうでない時よりもよっぽど熱心に動いていると思う。 そう思うのは、事実その通りだからなのか、それとも俺の方が血を舐められること――あるいは血を舐めさせていること――に興奮しているからなのだろうか。 ぴちゃ、と音を立てて傷をなぞり、ちゅっと恥ずかしい音とともに唇が離れた。 「…うまいか?」 「ええ、とても美味しいです。…痛みませんか?」 「平気だ」 そう言った俺を古泉が抱え上げる。 「ちょ…っ」 「少しだけ、ソファに移動するだけですよ。怪我人なんですから、いいでしょう? これくらい」 指先をほんの少し切っただけだ。 こんなもん、傷の内に入るか。 「それでも、いいじゃありませんか。僕がこうしたいんです」 笑いながら古泉は俺をソファに下ろすと、俺の足元に額づくように膝をつき、恭しく俺の手を取った。 そうして、またうっすらと血を滲ませる傷に舌を這わせる。 「…っ、ん……」 くすぐったさに耐えかねた足先がびくりと震え、妙な声が出る。 それを楽しむように、古泉は指先から更に指全体をぱっくりと口の中に取り込んだ。 「や…っ、ふ……」 ただ指を舐められているだけのはずなのに、どうしようもなく感じる自分の浅ましさには言葉もない。 「素敵ですよ」 指と指の間までねっとりと舐めながら、古泉は言った。 「あなたのそんな艶かしい表情だけで、僕まで興奮させられるくらい」 そう言いながら、古泉は血管を辿るように手首へ、腕へと舐める範囲を広げていく。 じれったいほどにゆっくりした動きに、俺まで酔ったようになりながらソファに体を投げ出すと、 「ベッドに行きますか?」 と問われたが、俺はだらしなく弛緩した体を動かすのも億劫で、 「このままで…いい……」 「畏まりました」 古泉の手が俺の服を脱がせ、なおも血管をなぞっていく。 肩へ、胸へ、それこそ全身余すところなく舐め上げたいかのように。 「焦らすな…」 と唸れば、 「そういうつもりではないんですが…」 嘘吐け。 大体お前、前はもっと性急だったくせに。 「それは、余裕がなかったからですよ。あの時と今じゃ違います」 「どういう意味だ」 むっとして体を起こすと、古泉は困ったように笑って、 「初めてあなたとこういうことをした時は、本当にそうしていいのか迷いながら、でも、あなたに逃げられたくなくて、あなたが欲しくてしょうがなくて、優しく出来なかっただけです。出来るなら、あの時も、優しくしたかったんですよ? そうすれば、あなたに痛い思いもさせずに済んだんですから」 「痛いとか、そんなのはどうでもいい」 俺は古泉を睨みつけながら言った。 「お前、俺のことを好きなんだよな?」 「ええ。愛してます」 「なら、なんでそんな余裕でいられるんだよ…!」 まさかと思うが冷めたとか言わないだろうな。 「ありえませんよ」 そう否定して、古泉は俺の頬に口付ける。 なんで唇じゃないんだ、と文句を言う前に、 「気持ちが落ち着いた、というのでしょうか。焦らなくてもいい、あなたは僕の側にいてくださると、信じられるようになったんです。――ずっと、側にいてくださるんでしょう?」 言いたかったはずの文句を飲み込んで、俺は不貞腐れながら言った。 「……お前が、いなくならないならな」 「いなくなったりしませんよ。もし、どこかへ引っ越すなんてことになったら、あなたをさらっていきます。それが出来ず、遠く離れ離れになったとしても、僕の気持ちは変わりませんし、そうであれば、すぐ側にいるのと同じことだと信じてます」 「…だからって、」 俺は古泉の肩に噛み付いてやりながら言った。 「焦らすな…っ! お前はいいかもしれんが、俺は我慢出来ん…!」 古泉は一瞬目を見開いた後、それからクスクスと声を立てて笑い、 「すみませんでした。こうして欲しいんですよね?」 と言いながら、俺の胸の突起に唇を触れさせたばかりか、軽く歯を立てた。 「ぁっ……ん、」 「あなたって、痛いのもお好きなんですよね」 「、るっさい…!」 鼻にかかった笑い声が肌に触れる。 「否定しないんですか」 それくらいの自覚はある、というか、そうでもなかったら指先とはいえ一々切ってられるか。 それに、 「お前の方こそ、サディストの、くせに…っ、ぃ、…!」 「あなたにだけ、ですよ。だから多分、あなたのせいです」 「ひ、との、せいに、…は、んっ…するな…!」 「実際そうですよ。あなたにだけ、こんなことをしたいと思うんです。それとも、他の人にもそうしたいと思った方がいいですか?」 「くそ…っ、ムカつく…」 ここまで古泉が余裕なのは俺の方に余裕がないからなのか、それとも俺が甘やかすせいで増長した結果なのか。 ……どちらにしろ、俺のせいか。 「ええ。…お願いですから、他の人にはそうしないでくださいね。僕だけに、見せてください。あなたの艶かしい表情も、恥ずかしいところも、全部……」 そんなこと、言われるまでもない。 「俺も、お前だけ、に、決まってんだろが…、」 「ありがとうございます」 「いい、から……下も、触れって……」 「我慢出来ませんか」 「ん…」 「嬉しいですよ」 そう言った古泉の手が、するすると俺の服を脱がせていく。 腰を浮かせて、脚を動かしてそれを手伝いながら、俺は古泉を抱きしめてキスをねだった。 甘ったるいとしか言いようがないが、いつもいつもこうって訳じゃないんだから目を瞑っていただきたい。 血を舐められて、妙に興奮しちまってるのが悪いんだ。 「そうですね。いつものあなただったら、もう少しクールな反応しかくれませんからね」 いつもならへそを曲げるような言葉にも、腹が立たない。 それどころか、 「だったら……珍しい反応を、楽しんでりゃ、いいだろ…」 なんてことを言いながら、目を閉じた。 閉じたまぶたに唇が触れるのと、古泉の指先が入り込んでくるのとはほとんど同時で、俺はびくりと身を震わせた。 「んっ……は、……あ、古泉…っ、」 「……ねえ、これからも、血を舐めさせてもらっていいですか?」 「は…? 今更、何……」 「血を舐めたいと思っていなくても、したくなりそうですよ。それだけで、あなたがこんなに乱れてくれるのなら」 「っ、み、乱れるとか言うな!」 真っ赤になりながら怒鳴ると、古泉は笑って、 「すみません。でも、僕は好きですよ」 と言いながら不意打ちのように指を動かした。 「や、…っ、んん…!」 思わず口を吐いて出た言葉が、本当に否定の意味を持っているわけではないということくらい、古泉にももうすっかり理解されちまっているらしい。 どこか意地悪に、 「嫌じゃないでしょう?」 と聞いてくるのへ、何かに操られるように頷くと、褒美か何かのようにキスされた。 合わせた唇の隙間から、あられもない声が飛び出す。 それを堪えることさえ出来ない。 この部屋がしっかり防音されていなければ、隣室に迷惑を掛けていたに違いない。 部屋を満たすように、猥らがましい水音と嬌声が零れ落ちる。 それに、興奮に荒くなった古泉の呼吸が混ざり、余計に体温が上がっていく。 インフルエンザにかかっていたってこうはならないだろうというくらい、体が熱い。 「も、いい、から…っ、早く、入れろよ…!」 恥ずかしげもなくねだれば、古泉が小さく頷いたのが見えた。 熱くなった俺の体よりも更に熱いものを押し当てられただけでぞくぞくする。 息を吐いて、体の力を抜いて待ちわびるのに、俺を焦らしたいのかなかなか挿入されないそれに、古泉の体へ脚を絡めると、小さく笑われた。 「だ…っ、ん、ぅぁああああ…――……っ!」 誰のせいだと思ってんだ、と文句を言いかけたところで古泉が動き、苦情は嬌声になって消えた。 後はもう、どろどろに融けるだけだ。 血に酔い、古泉の甘ったるい言葉と行為に酔い、明日はきっと二日酔いのように頭も体も痛むだろうよ。 だからと言って止められないあたり重症だが、責任は全て古泉に引っ被らせてやろうと思う。 |