にょたでパラレルでレイプなエロ文ですのでご注意くださいませ









































蝶々堕ちた



築三十年ほどになる、和洋折衷気味な瓦屋根の洋館が、俺の住んでいる家だ。
由緒正しい華族であったにしては随分と革新的な人だったという爺様が作らせたという洋館にあわせて、そこに暮らす俺たちも洋装を基本としている。
ひらひらしたスカートや鬱陶しいほどのペチコートは若干邪魔ではあるのだが、和装よりははるかに動きやすいので、洋装はそれほど嫌いじゃない。
嫌いなのは、この洋館に俺を閉じ込める人間関係だ。
父親は実業家として鳴らしており、あまり家にいないが、その代わりに家を守っている母親は割と厳しい人だし、それなりに大勢の使用人たちがいつも目を光らせている。
そんな堅苦しい生活の中で、俺にとって唯一の救いと言えるのが、古泉の存在だった。
俺と古泉の関係を説明するのに、そう大した量の言葉は要らない。
乳兄弟とか主従とか、そんな短い言葉で済んでしまうだろう。
俺はかなりお転婆で、女らしくもないのだが、それでも一応、良家のお嬢様というやつだから、既に婚約者もいるような身だ。
しかし、だからと言って大人しくしていられることもなく、男の格好をしては古泉にあちこち連れ出してもらっていた。
古泉は長年俺につき従ってきたせいでよっぽどそれが身についてしまっているのか、俺に逆らえないらしく、後で自分の親や俺の両親に叱られると分かっていても俺のわがままを優先させてくれた。
だから俺も、そんな風に振舞えたんだろう。
俺にとって古泉は、一緒になんでもしてくれる、大事な共犯者でもあった。
息苦しい生活の中で唯一俺を楽しませ、安らかに過ごさせてくれる、大事な存在。
両親よりも、ずっと大切なはずだったその絆は、俺が思っていた以上に脆く壊れてしまった。

半年後には結婚式を挙げる、と決まったその日、俺はげんなりして部屋に引きこもっていた。
俺が結婚?
そりゃあ、年齢的にはそれでいいんだろうし、婚約者がいるんだからそれも仕方がないだろう。
だが、自分が結婚するなんてことは酷く現実味が薄いことだった。
婚約者も、まあ、嫌いなわけじゃないが、進んで結婚したいと思うほどでもない。
何より嫌なのは、
「……もう、古泉と出かけたり出来ないってことだよな…」
そう呟きながら、俺は深いため息を吐いた。
家の中にいたってつまらない。
行儀作法だのなんだのを教え込まれたところで、息が詰まるだけだ。
俺は自由になりたい。
好きな時に好きなように出かけたい。
こんな家に縛られてなんかいたくない。
逃げ出したいとさえ思っていると、ドアがノックされた。
「誰だ?」
眉を寄せながらそう言うと、
「僕です」
と返事があった。
「なんだ、古泉か。入っていいぞ」
「失礼します」
苦笑混じりに古泉がそう言って部屋に入ってきたのは、他のやつなら俺が追い返していたと分かっているからだろう。
「ご機嫌が麗しくはないようですね、お嬢様」
「当たり前だろ。これから一生軟禁生活が続くことが、これで決定されちまったんだからな」
「そんなに、結婚がお嫌ですか?」
「分かりきったことを聞くな」
俺の性格なんて俺以上によく分かってるくせに。
「ええ、それもそうですね。あなたは、誰の手にも収まらないような人ですから」
「……どう言う意味だ」
「そのまんまの意味ですよ」
と古泉はどこか寂しげに笑った。
「あなたは気高くて、自由で、心までもが美しい人です。あなたに相応しい人がいるとは思えません」
「やめろ、くすぐったい」
ぎゅっと顔をしかめてそう言うと、
「すみません」
と謝ってきたが、その様子がどうにもおかしいように見えた。
「古泉、何かあったのか?」
「何か…とは、なんでしょうか?」
「それを聞いてるんだろ。とにかく、なんかお前、ちょっとおかしいぞ」
「……そう、ですか…?」
困ったように視線をさ迷わせた古泉だったが、
「お嬢様、何か飲物でも持って来ましょうか」
「そうだな。コーヒーでも淹れてきてくれ」
「はい、畏まりました」
恭しく頭を下げて出て行く古泉に、俺は唇を尖らせた。
よっぽど言いたくないようなことでもあったんだろうか。
あいつの立場上、俺に言えないようなことがあっても致し方ないのだろうが、それが面白くないと思った。
古泉が戻ってきたら、これが最後の機会だからと外出をねだってみようか。
そんなことを考えながら、また窓の外を眺める。
塀の外には俺と同じような年恰好の人間が忙しそうに働いているのに、俺はこんなところで閉じ込められたままだ。
つまらないと思うし、それ以上に、俺もああして働きたいと思った。
それは、こうして父親に飼われているような状況が嫌だからだ。
俺だって、もっと出来ることがあるはずなのに、人形のように座っていることしか求められないなんて、そんなのは嫌だ。
もっとも、世間知らずな俺が飛び出したところでどうにかできるほど甘くはないだろうということも分かっているので、そんなことは出来ないのだが。
「失礼します」
再びノックの音が響いたかと思うと、そんな言葉と共にドアが開いた。
入ってきた古泉が、部屋の中におかれた小さなテーブルにコーヒーカップを置いた。
「ご苦労さん」
そう声を掛けてやると、
「いえ、大したことではありませんから」
俺は窓から離れ、テーブルに付く。
俺のために古泉が引いてくれた椅子に座り、俺好みに温度も味も調節された温めのコーヒーを吹き冷ましたりすることもなく口に運ぶ。
俺は与えられるものを受け取るだけでいい。
それでいいようにしてくれていると、信じているから躊躇いなどない。
一口コーヒーを飲んだ後、俺はそっと息を吐き、古泉を見つめた。
「半年後には、お前のコーヒーも飲めなくなるのか」
「…そうですね」
「……なあ、古泉」
「なんでしょうか?」
「これは冗談じゃなくて本気で言うんだが、お前も一緒に来てくれないか?」
真顔で言った俺に、古泉は軽く目を見開くと、すぐに小さく微笑んだ。
「そのお言葉だけでも十分ありがたく思いますよ。ですが、」
「だめなんだな。いい、分かってた」
だが、もうひとつため息が出ることは咎めないでもらいたい。
「一番不安なのは多分、それなんだよな…。これまでずっとお前が一緒だったのに、急に一緒にいられなくなるなんて」
「お嬢様……」
感激しているのかそれとも咎めようとしているのか、古泉がそう言って俺を見つめた。
困惑に揺れる瞳に、俺は苦笑するしかない。
「分かってる。お前を困らせたいんじゃないんだ。いや、これまでにもずっと困らせてきたから今更こんなことを言うのも妙だがな」
「困らせてきただなんて、そんなことはありませんよ」
「本当に?」
「ええ。僕は、お嬢様にお仕え出来て幸せです」
そう古泉は心底嬉しそうに笑った。
「……ありがとな」
俺も思わず笑みを浮かべたものの、なんとなく気恥ずかしくなり、カップに残っていたコーヒーを飲み干した。
「俺も、お前がいてくれて本当に助かってるよ。お前がいるから、逃げ出したりしないでいられるんだ。ありがとう」
「勿体無いですよ」
「何でだよ。それくらい、お前の世話になっているだろう」
「……お嬢様は、僕を知らないからそう言えるんですよ」
「知らない…だと?」
どういう意味だ。
お前とは生まれた時から一緒にいて、あれこれ悪さもしているし、それこそお互いの体のどこにホクロがあるかなんてことも知ってるような仲だろうが。
俺に何か隠し事でもしてると言うつもりか?
仕事上のことでなく、お前自身のことで。
「…してますよ。お嬢様には言えないようなことばかりです」
そう苦しげに顔を歪めた古泉に、何か言ってやろうと思った時だった。
ぐらりと視界が揺らぎ、体が傾ぐ。
「うぁ…っ……?」
「大丈夫ですか?」
古泉に抱きとめられ、床に倒れこむ事態は回避出来たが、体が動かないことに変わりはない。
何かがおかしい。
助けを求めようと見つめた古泉は、唇を笑みの形に歪めていた。
それでもそれは、見慣れた笑みとはあまりにも違い、おもわずぞっとした俺の耳に、とんでもないことが吹き込まれた。
「少し、強い薬ですので、効きすぎたのかも知れませんね。すみません。あなたがコーヒーを飲み干す可能性をもう少しきちんと考慮するべきでした」
「な……」
なんだと、と問うことも出来ない。
口さえ上手く動かなくなっている。
古泉は残忍とでも言うしかない笑みで俺の体を抱え上げると、ベッドに寝かせた。
指先ひとつ動かせない俺に、
「無理はしないでくださいね。動こうとしてもがくほど辛いと思いますから」
「…いっ…な……」
「一体なんで、と仰ったのでしょうか。――男が女に薬を飲ませて、ベッドに運んだのなら、することはひとつでしょう? そうする理由だって、聡明なあなたならお解かりなのでは?」
解りたくない。
本やおぼろげな伝聞でしか知らないような行為をされるのは怖いし、古泉のそんな顔も怖くてならなかった。
嫌だ、と首を振ろうとしてもろくに動かせず、かすかに震えただけだった。
「…ねえ、お嬢様、ご存知ですか?」
俺の服を脱がせながら、古泉が囁いた。
「僕の父があなたの父親によって破産に追い込まれ、ついには自殺したような人間だったなんてこと。それから、あなたの結婚があなたの父親に大きな利益をもたらすということも、あなたはきっとご存じないのでしょうね」
その言葉に、心臓を鷲掴みにされたように感じた。
俺の父親がどんな事業をしているか、どんな人間と関わりがあるのかなんてことは俺の知ることではない。
だが、ありえない話ではないと思った。
それが本当なら古泉に申し訳ないと思うと共に、こいつとこいつの母親――俺の乳母だ――が、どんな思いでうちに仕えて来たのかと考えると、酷く胸が傷んだ。
俺のことを、本当はずっと憎んでいたのだろうか。
俺みたいなわがままな女に振り回されるなんてことが、いやだったのだろうか。
だから、今更になって、こんな最悪の状況で、俺を――。
…それなら、仕方がないのかもしれないと思った。
自業自得、因果応報、親の因果が子に報いってのは見世物小屋の口上だったか。
そんな言葉を思い出しながら目を閉じると、目尻から涙が零れ落ちたのが分かった。
古泉が俺に飲ませた薬は、俺の体の自由は奪うくせにその他の感覚は至って鋭敏にしているらしく、古泉の指が今どこに触れているのかなんてことまで明確に分かった。
俺の小さな胸をまさぐる手つきは慎重で、決まりきった手順を踏もうとしているだけにしか思えなかった。
劣情とか欲望なんてものは少しも見えない。
嫌いな相手を犯そうとするのなら、それで当然なんだろうと思いながらも、無性に悲しかった。
乱暴にでもいい。
もっと明確な欲と共に抱かれるのならまだマシだったかもしれないと思ってはじめて気がついたのは、俺自身が古泉に対してそんな欲を抱いていたと言うことだった。
――ああ、俺は、古泉のことが好きだったのか。
そう悟ると、余計に涙が溢れた。
涙が流れるのは、婚約者のものにされる前に古泉に抱かれることが嬉しいからなのか、それともこんな形で復讐のために抱かれるのが悲しいからなのかすら分からない。
愛情のない行為に快楽など感じられることもなく、俺は突き刺すような痛みに咽び泣く破目になった。
破瓜の痛みよりも、赤い血で汚れたペチコートを引きちぎられた上にそれを目の前に突きつけられ、
「ほら、これで間違いなく処女喪失ですよ。あなたの夫になる人が、あなたが処女でないと知ったら、どんなに怒り狂うでしょうね」
と楽しげに囁かれたことが痛かった。
俺のことをずっと大事にしてくれた古泉が、俺のことを傷つける。
大好きだった瞳が射るように俺を見つめていることが嫌だった。
いつも俺を助けてくれた腕が、今は俺の腰を痛いほど強く、乱暴に掴んでいた。
何度も俺を安心させてくれていたはずの声が、全くトーンを変えないまま、俺を貶める台詞を吐くことも悲しかった。
やがて、薬の効果が薄れてきたのだろう。
少しずつ体が動くようになった。
俺は自由になった手で、自分の顔を押さえながら静かに泣いた。
泣き喚けば誰か来てくれただろう。
部屋のドアに鍵などないし、何か物音でもすれば確実に誰かが聞きつけてくるくらいには、家の中には人がいた。
それでも助けを求めて叫ばなかったのは、古泉が追い出されたり、警察に突き出されたりするのが嫌だったからに他ならない。
「助けを、呼ばないんですか?」
何度目とも知れない律動を繰り返しながら、古泉が俺の耳元でそう言った。
「もう、薬は切れているんでしょう?」
「…っふ、だ、って……」
「気持ちいいんですか?」
そんな訳あるか。
体も心も痛くて痛くて死にそうだ。
いや、もういっそ死んでしまいたい。
このまま、古泉に抱かれたまま死ねたら、どんなにいいか。
「お…前は……?」
「……はい?」
俺は唖然として動きを止めた古泉を見つめた。
「お前は、気持ちいいのか?」
「……そう…ですね……。あなたがきつく締め付けてくださいますし、それ以上にあなたを抱いているわけですから、気持ちよくないなんてことはありえないでしょう」
「そ…か……」
なら、いい。
こんなことで罪滅ぼしになるなら、それで。
「……どうして、そんなことを聞くんです?」
「…どうでも、いいだろ。もう、いいから動けよ。そして、さっさと、終らせてくれ」
「無抵抗主義ですか」
ぐっと古泉が顔をしかめ、乱暴に腰を使い出す。
「…っ、く、ひぅ…!」
「あなたは、そんな人ですよね。僕が、どんな思いで側にいたか、知りもせずに、そうやって、全て諦めて、受け入れて、どうして、どうして……」
――僕と一緒に逃げようとしてはくださらなかったのですか。
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「逃げ…って……」
「何度も機会はあったのに…っ、あなたはいつも躊躇いもせず、大人しくここに帰ることを選びましたね…。ここからあなたを連れ出すたびに、僕がどんな思いでいたかなんてことを、知りもしないで…」
「まっ、て…古泉…っ」
お前なに言い出すんだ。
それじゃあまるでお前が俺のことを、
「好きですよ…。あなたのことが、好きです。ずっと、あなただけを見つめてきました」
泣き出しそうに歪んだ顔でそう言われた。
今度こそ世界が停止したに違いない。
分からない。
古泉が分からない。
こんな乱暴を働いた理由は結局どれなんだ。
俺のことを好きなのか、それとも、それすら嘘なのか。
問い詰めてやろうと思った瞬間、ドアが開き、
「…きっ、……きゃあああぁぁ――…! お嬢様が…!!」
屋敷中に女中の声が響き渡った。
古泉が俺の中から退き、悪人めいた笑みを見せる。
「見つかってしまいましたね」
「待て…っ、古泉…!」
「このペチコートの切れ端はいただいていきますね。綺麗に包装して、あなたの婚約者に贈って差し上げますから、楽しみにしていてください」
そう昏い笑いを浮かべた古泉は、俺の制止を聞きもせず、
「さようなら、お嬢様。もう会うこともないでしょうけれど」
と、悲鳴を上げたきりその場にへたり込んだ女中の横をすり抜けて出て行った。
「待って…古泉……待って…」
立ち上がろうにも腰は立たず、体も上手く動かないままだったため、俺はベッドから転がり落ちた。
助け起こしてくれる優しい手はもうない。
「嫌だ…古泉……置いていかないで……」
――お前だけが俺の救いだったのに。
悲鳴を聞きつけた人間が集まってきてもなお、俺は乱れた姿のまま、床に伏して泣き続けた。
古泉、と繰り返し繰り返し、愛しい男の名を呼びながら。

俺の身に起こった「不幸な事件」のことは、それこそあっという間に噂になったらしい。
婚約は見事に破棄され、俺は今度こそ家の中に閉じ込められる身となった。
両親は俺と顔をあわせようとすらしない。
まだ幼いとはいえ、俺には弟がいるから、一人くらい傷物で使い物にならなくなった娘がいても、家は安泰ということなのだろう。
それならいっそ俺のことを追い出してくれればいいのに。
古泉の行方は杳として知れず、俺は古泉を追いかけることすら出来ない。
ただ、いつか、古泉が迎えにきてくれはしないかと祈るばかりだ。
あの時の、切なげな告白を信じて。