当然のごとくエロですよ







































フラッシュの向こう



春休みなのをいいことに、平日の昼間っから古泉の部屋に行き、近くのレンタルショップで借りてきた映画のDVDでも観ながら、健全に過ごそうとしていた俺の目論みは、脆くも崩れ去った。
古泉ときたら、俺が来るなり部屋に鍵をかけ、寝室に連れ込みやがったからな。
「少しやってみたいことがあるんです」
俺の服を脱がせ、俺を押さえつけながら楽しげに笑って言った古泉に、俺が抵抗出来るはずがない。
精一杯の渋面を作りながら、
「妙な道具を使ったりするんじゃないだろうな?」
「ええ、大丈夫ですよ。奇抜な体位に挑戦するつもりもありません。ただ、」
「ただ?」
警戒心も露わにそう聞いた俺に、古泉は優しくキスして、続きを口にした。
「写真を撮らせてくださいませんか?」
「……写真、って」
まさかハメ撮りとか言うつもりか。
「察しのいいあなたが大好きですよ」
んなこと言われても、全っ然、嬉しくねぇ!
「だめですか? デジタルカメラが安く手に入ったのでやりたかったんですけど」
こうやって下手に出る辺り、こいつも少しは丸くなったのかも知れん。
以前なら、有無を言わさず犯した挙句、意識が飛び飛びになっている俺をカメラに収めるくらいのことはしていただろうからな。
同時に、俺の方も全力で拒めないくらいにはこいつのことを好きで、かつ、変態プレイにも慣らされちまっているわけで。
俺はため息を吐き、
「…勝手にしろよ」
と言った。
「ありがとうございます」
そう言った古泉が俺の上からいなくなり、ローションのボトルと袋に入ったデジカメを手に戻ってくるのを、俺はぼんやりと見ていた。
…楽しそうだな。
「楽しいですから。それに、あなたがこうして僕を許容してくれるのが、何よりも嬉しいんですよ」
「……お前がそうやって楽しそうにしてくれるなら、俺は別に構わんさ」
俺がため息混じりにそう言うと、古泉はどこか怪訝な顔をした。
「やっぱり、あなたは嫌なんですか?」
「…何がだ?」
「僕と体を繋げることが、です」
ストレートにセックスって言っちまえよ。
変に遠回しな言い方をするのは何なんだ。
気を遣ってるつもりか?
それとも、まさかとは思うが恥らってんのか?
俺は呆れながら、
「嫌だったらとっくに逃げてるだろ。もう何ヶ月の付き合いだと思ってるんだよ」
「3ヶ月、ですね」
そうだ。
その間に俺が何度酷い目に遭わされたか、数え上げたらきりがないくらいだ。
何しろ古泉ときたら、まともなプレイでは物足りない変態らしいからな。
生まれて初めて人と付き合い始めたと思ったら、普通の人間ならそうそう体験しないだろうことを、たった3ヶ月程度で数えきれないほど経験しちまって、俺はこの先一体どうなるんだろうな、おい。
「僕が一生かけて責任を取りますよ」
「…その言葉、忘れるなよ」
古泉を引き寄せて、触れるだけのキスをした。
それから、
「で、何でいきなり嫌かなんて聞いたんだ?」
「……あなたが、」
古泉は子供が不安がるような表情を見せ、
「まるで、罪滅ぼしか何かのためにしているようなことを言うからですよ。僕が楽しそうにしてくれるなら、なんて」
それでか。
俺は苦笑しながら、
「悪いが俺はお前と違ってストレートに好きだの何だのって言えるような精神構造はしてねぇんだよ」
それこそ、ヤってる最中で思考が飛んでるような状況でもなきゃ、極力口にしたくもない。
恥ずかしすぎるからな。
「だから、あんな言い方になっただけで、その、……お前と、するのが嫌ってんじゃ、ない」
ああくそ、顔が赤くなる。
客観的に考えれば、ふたりして素っ裸でベッドの上にいるという今の状況の方がよっぽど恥ずかしいだろうに、言葉の方が俺にはどうしようもなく恥ずかしい。
「嬉しいですよ。それだけ恥ずかしいと思いながら、ちゃんと言ってくれるあなたが、好きです」
ついでに言わせてもらえるなら、好きとか愛してるとか言われるのも恥ずかしくてならん。
「それなら、態度で示しましょうか」
そう薄く笑った古泉の唇が、俺のそれに重ねられる。
触れるだけで離れていくそれが、くすぐったい。
焦らすように、唇が頬に触れ、額に触れる。
「古泉…」
物足りなさに名前を呼ぶと、やっと唇が重ねられる。
自分から唇を開いて、古泉の舌を求める。
俺が自分の浅ましさを嗤う前に、古泉の手が俺の体の上を滑り、俺を煽っていく。
「ん、…あ、はっ……」
唇から漏れる水音に、自分の声が混ざる。
「可愛いですよ」
興奮に滲んだ古泉の声に、
「嘘吐け…」
と毒づきながら、口の端から零れた唾液を手で拭うと、
「本当ですよ」
と言った古泉の手がデジカメを取った。
「って、おい、お前…」
止める間もなく、フラッシュが光る。
眩しいだろ、ってそうじゃない。
「なんで今の段階で撮るんだよ!」
「え? 別に、いいじゃありませんか。いつ撮っても。それより、見てくださいよ」
古泉が嬉々として俺にデジカメの画面を見せる。
そこには、顔を赤らめた俺が映っていた。
……正直これはまずいんじゃないか。
間違っても男がする顔じゃないだろう。
いや、自分がどれだけ男として情けない表情をするかということは先日嫌というほど思い知らされたんだが、それにしたってこれはない。
「消せ! 即刻消せ!!」
思わずそう怒鳴ると、
「嫌ですよ、勿体無い」
「それじゃあ何か、お前はそれをずっと保存しておくとでも言うのか?」
「いけませんか?」
「当たり前だろうが!」
誰かに見られたらどうしてくれる。
「誰にも見せませんよ。あなたの恥ずかしい姿を誰かに見せて、その誰かがあなたに横恋慕なんてしたら、僕はその誰かをどうしてしまうか分かりませんからね」
それに、と言った古泉の指が脚の付け根を滑り下り、更にきわどい場所へと進む。
すっかり弱くなっちまった場所をくすぐられ、
「ひあっ…」
情けなく喉が震えた。
そこへまた、容赦なくフラッシュが光る。
「こ、のやろ…っ」
「撮ったものをどうするかは後で話し合いましょう。とにかく今は、あなたの痴態をこの目とカメラとに焼き付けるので手一杯ですから」
手一杯だというならその指の動きは何だ。
変なところで器用な奴め。
そう毒づくことさえ出来ないほど、翻弄される。
ローションのせいで、くちゅりと淫らがましい音が響く。
苦痛を和らげるためではなく、俺を辱めるためにそうしているんじゃないかと思えてくるほどだ。
「古泉…っ、しつっ、こい…!」
荒い呼吸の下からそう言うと、
「なかなかうまく撮れないんですよね」
「てめ…っ…!」
何度目か分からないが、フラッシュがまた光る。
「ああ、これでいいですね」
いかにも満足げに呟いた古泉に、俺はどういうリアクションをすればよかったんだろうな。
一体どんな変態写真を撮りやがったんだと怒鳴るべきだったのか、それとも蹴りのひとつでも入れてやるべきだったのか。
何にせよ、俺が理性的な反応を示すより前に、古泉が俺の腰を引き寄せ、俺は感情どころか本能のそのままに、
「…早く、入れろっ…!」
と叫んでいたので、検討は無意味だ。
「分かりました」
からかうようにか、それとも単純に嬉しくてか、とにかく小さく笑った古泉が、デジカメを脇に置き、熱く昂ぶったものを押し当てた。
「ん、は、早く…」
焦らされたり煽られたりするのではなく、満たされたい。
感じたい。
体の中の奥で、一番深い場所で。
「行きますよ」
早くしろって言ってんだろうが、と思いながら、息を吐く。
体の中に異物を受け入れる行為がいつまでも痛みを伴うのは、それがあまりにも自然に反した行為だからだろう。
それでも、止められない。
止まらない。
「あ、…ぁあ…っ、古泉…、好き…ぃ」
もしかすると俺は、回らない舌で、うまく働かない頭で、普段は告げられない言葉を告げるために、こうして体を繋げているのかもしれない。
「愛してますよ」
そう言いながら、古泉がさっき置いたはずのデジカメを片手で操り、フラッシュを焚く。
それに驚き、竦む体が古泉を締め付ける。
「困りましたね。すぐにも、イきそうです」
「イ、けば、…っは、いいだろ…」
言いながら俺は古泉の手からデジカメを奪い取った。
「ちょ、どうするつもりですか!」
慌てる古泉に、俺は出来る限りの笑みを向けてやる。
「お前も撮ってやるよ」
「…本気ですか?」
ぽかんとした顔で古泉は言った。
なんだ、抵抗すると思ったのにそういう反応を寄越すのか。
「いえ…あれだけ僕のことを変態変態と仰るので、まさかあなたからそんなことを言うと思わなかったんです」
言われてみればその通りだ。
だが、
「お前と付き合ってるうちに染まったんだろう。…責任を取るって言ったのはお前なんだ。証文代わりに、撮られてろ」
古泉は困ったように笑いながら、
「それって、ずっと保存しておいていいってことですか?」
「さぁ、な…っ」
保存方法その他をちゃんとするなら、検討してやらんでもない。
そんなことを答えた俺に、古泉は面白がるように言った。
「そのカメラ、手ブレを防止する機能がついてるんだそうです」
「それで?」
「どれくらい役に立つか、試してみましょうか」
「は? ……っひぃ、あっ、や、激し…っ!」
いきなり乱暴に体を揺さぶられて、体が跳ねる。
「どうしたん、です? …はっ、シャッター…、切らないんですか?」
「…っ、撮って、やる…!」
ベッドがぎしぎしと軋む中、俺は意地になってカメラを構えた。
画面に映し出される古泉の顔を、そうやって初めて意識した。
なんだかんだ言いながら、こいつも感じてるんじゃねぇか。
「…エロい、顔……っ」
「あなたの方が、よっぽど、ですよ…」
余裕なく歪む顔へ、カメラを向ける。
顔だけなら、ずるいくらいイイ男だ。
その顔で、どれだけ多くの女の子を泣かせてんだろうな。
本性はこれだけ変態で、エロくて、独占欲の強い男なんだと、どれだけの人間が知っているんだろう。
…知っているのは、俺だけで十分だ。
深い部分まで繋がって、女みたいに抱かれて、嬌声を上げて、それでもまだ、好きだなんて戯言を恥ずかしげもなく呟けるくらいには、俺は古泉のことを好きであるらしい。
俺が白濁を吐き出すと、古泉も俺の中に精を放った。
そのまま、俺の上に体を横たえる古泉の重みが心地好くて、思わず目を細めながら、
「古泉…」
「はい…?」
「キス、しろ」
「…喜んで」
目を細めた古泉が俺に顔を近づける。
それが完全に近づききったところで、俺は左手に持っていたカメラの撮影ボタンを押した。
フラッシュの光に驚いた古泉に、俺はニヤリと笑い、
「ちゃんと撮れてるといいな?」
と言ってやった。

その後は、後始末もしないで写真の鑑賞会に雪崩れ込み、ああだこうだと言いながら、ふたりで並んで写真を見た。
古泉はエロ専門の写真家にでもなればいいんじゃないかと思うほど、あれこれ撮りまくっていた。
物欲しげにしている俺の顔くらいならまだ大人しいもので、恥ずかしいほどに勃ち上がり、赤くなった乳首や、中まで見えそうなくらい指で広げられた箇所、淫らがましく古泉のものを飲み込む様を見つけた時には、俺はそれこそ憤死するかと思った。
おまけに、俺の撮った写真は大抵ピントがうまく合っておらず、勿体無い限りだった。
古泉の感じている顔など、そうそう落ち着いて見れたもんじゃないだろうに。
だがまあ、最後に撮った写真がやけに綺麗に、それでいてエロく映っていたのでよしとしよう。
何しろそれは、唇から喉にかけてまでしか映っていないにも関わらず、妙に扇情的なものになっていたからな。
「ねえ」
布団の中で不穏な動きを見せながら、古泉が俺の耳にやたらといい声を吹き込む。
「写真を見ていたら、また興奮してきてしまいました。もう一回くらい、いいですよね?」
こいつも若いなぁと思うあたり、俺もどうかと思わないでもないが、俺も一応若い男である。
返事もその後の展開も、言わなくていいだろ。