自重しないエロです


































黒と白 8



古泉と喧嘩した。
いや、正確に言うと喧嘩ではないな。
あいつのやらかしたことに俺が一方的に怒り、ストライキ的に部屋に籠もっているんだから。
「あの、開けてもらえませんか?」
いくら心細そうな声で言ったところで開けてはやらん。
扉にはしっかりと吸血鬼避けのまじないも施してやった。
吸血鬼になっちまっている俺にそんなまじないが使えるというのも妙な話だが、吸血鬼除けとは即ち黒魔術師避けだから大丈夫なのだろう。
「お願いします」
情けない声でも却下だ。
俺はひとりになりたい。
「そんなこと言って、もう何時間部屋に籠もってると思ってるんですか」
知らんな。
精々2時間ってところだろう。
「もうその倍は過ぎてますよ」
そうか。
それでもまだ腹の虫がおさまらないのだからしょうがないだろう。
「……ごめんなさい」
謝られても許す気にはなれん。
俺が憤然と言い放つと、古泉がため息を吐く音がした。
「あなたが非常に羞恥心の強い人で、人前でいちゃつくなんて言語道断だと考える人だということはよく分かりました。姉の前でキスなんてことも、抱きしめることだって、あなたが嫌なのでしたらもう絶対にしませんから、お願いです。このドアを開けてください」
嫌なこった。
俺がドアから離れようとした時、
「くぅん…」
と聞き覚えのある、その上情けない声がした。
犬の鳴き声。
「……古泉、お前何考えてんだ?」
呆れながら俺は吸血鬼除けを解除し、ドアを開けた。
そこには黒い犬がちょこんと座って尻尾を振っていた。
「確かに俺は犬とか猫とか好きだし、初めて会った時の犬のお前も気に入ってたが、それにしたってその格好でどうするつもりだよ」
そう言いながらも、思わず頭を撫でてしまう。
可愛い犬の姿になるなんて、ずるいだろ。
酷くしたら俺の方がよっぽど酷いやつみたいじゃないか。
ぱたぱたと振られる尻尾は無邪気で、しゃがみこんだ俺の膝に前足を乗せてくるのも可愛い。
「ずるいぞ」
そう言いながら抱きしめる。
ふかふかして気持ちいい。
「しょうがないな」
俺が言うと、古泉の耳がピンと立った。
「今回はその可愛さに免じて許してやるが、次はないぞ」
「わんっ」
おお、いい返事だ。
俺は笑いながら古泉を部屋に入れてやった。
絨毯の上に座って、綺麗な毛並みを撫でてやる。
すると古泉が俺の手をぺろぺろと舐め始めた。
「本当に犬みたいだな」
そう笑うと、気をよくしたのか、俺の体に手をついて顔を舐め始めた。
「こら、くすぐったいだろ」
というか、それはどこか意図が違ってきてないか?
精気の甘ったるさが感じられる。
「ん、…こら……」
床に押し倒され、顔どころか首筋や耳まで、それこそ服で隠れていない部分はどこも舐められる。
くすぐったさと精気の甘さに捕われ、しかも相手が可愛い犬の姿になっているせいで抵抗出来ない。
なんでこんなに精気が甘く感じられるんだ、と考えて気がついた。
さっき吸血鬼避けのまじないを使って、精気を消耗したせいだと。
気がついてしまえばもう止まりやしない。
「古泉…」
犬の真っ黒な瞳に、熱でもあるような顔をした自分が映る。
「…もっと」
そう目を閉じると、ぺろっと唇を舐められた。
服を引っかかれ、
「ああ、邪魔なのか」
それなら手っ取り早く人間の姿に戻ればいいだろうに、と思いながらシャツのボタンを外してやると、露わになった肌をべろんと舐められた。
「んんっ…」
ぞくぞくする。
いつもと違うと思うのは、舌が大きくて、感触も違っているせいなんだろうか。
それともこの異常な状況が悪いんだろうか。
どちらにせよ、古泉のせいだ。
つんと尖った突起を、執拗に舐められる。
甘ったるさに脳まで溶かされたような気持ちになりながら、その甘さを味わう。
「古泉…っ」
切ない感覚に耐えかねてそう呼ぶと、服の上から股間で硬くなり始めているものを舐められ、甘噛みされた。
「ひあ…っ、ん…」
静かな部屋に、いやらしい音が響く。
いっそのこと早く終らせてしまいたくなるのに、もっと味わっていたいとも思う。
俺はズボンのベルトを外し、残っていたシャツも脱ぎ捨て、裸になった。
「絨毯、汚したら、まずいだろ…」
そう言いながら古泉を抱えてベッドに上がる。
今度こそ遠慮は要らないとばかりに、古泉が俺の体を弄び始めた。
好き勝手に舐めて、小さな前足で押し潰して、尻尾でくすぐって。
本当に一体どこでそんなことを覚えてきたんだと小一時間ばかり問い詰めてやりたくなったくらいだ。
…やりたくなっただけでやらなかった理由は聞かないでくれ。
とにかく、俺を散々に弄んだ古泉が犬らしく大変凶暴なブツを押し当てる段になって、俺は本気で慌てた。
「ま、待て古泉、そのままするのはやめろ!」
どうしてですか、とでも言いたげに小さく鳴いた古泉に、
「どうしても何もないだろう。とにかく、犬のままじゃ嫌だ。俺はいつものお前がいい」
と口走ったのは正解だったのか、それとも大きな間違いだったのか。
犬の古泉が体をふるっと揺すったかと思うと、その姿が気色悪いほど嬉しそうな顔をした男に変わった。
「嬉しいことを言ってくださいますね」
俺は別にお前を喜ばせたかったのではなく、ただでさえ神に背く行為を余計に背徳的にすることもないだろうと思っただけだ。
というか、犬に犯されて堪るか。
「それでも、いつもの僕の方がいいと言っていただけて、嬉しいですよ」
さっきまで喋れなかった分を補うように動く唇が、俺の口を塞ぐ。
「ん、…っは…」
「犬の姿ではあなたにキスも出来ませんでしたしね」
そう言いながら、もう一度と口付けられる。
流れ込んでくる精気の甘さに、巧み過ぎる愛撫に、頭の中までおかしくなりそうだ。
「あっ、…んぁ……古泉…」
「あなたはキスされるのがお好きですね」
「からかうな…。お前だって、ん、好きなくせに…」
「ええ、好きですよ。あなたの全てが好きです」
そう言いながら、古泉が手を這わせた。
「犬の舌でも、結構器用でしょう? あなたのここ、もうぐずぐずに融けそうになってるじゃないですか」
「う、るさい…っ、お前のせいだろうが…!」
ぐちゅぐちゅと淫らがましい音が耳に刺さる。
「も、早くしろ…って…」
「ええ、いいですよ。あなたからの誘いを断れるはずがないでしょう?」
「何が、誘い…っ、く、はっ、あぁあ…!」
いきなり最奥を突かれて、意識が飛びそうになった。
甘ったるくて、熱くて、気持ちいい。
「感じてるんですね。嬉しいです」
「や、あぁあ…っ」
「愛してますよ」
乱暴なくらいに中を突き上げながら、言葉と声は優しく響かせるなんて、ずるいだろう。
狙ってやってるなら許せないほどだ。
だが、そんなつもりはないんだろうな。
だから俺は、古泉を抱きしめ、その口を塞いで黙らせてやった。